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中日ドラゴンズ君 優勝への道しるべ

はじめに

 大谷翔平が高校卒業と同時にMLBへ挑戦することを表明し、北海道日本ハムファイターズがそれに待ったを掛ける形で1巡目指名を敢行したドラフト会議から早12年。当時入団の決め手となったのが「大谷翔平君 夢への道しるべ」と題されたプレゼン資料である。その後の活躍は言うまでもないが、この12年間"優勝"という名の夢を全く叶えられていないチームが名古屋にあるのだった。

 野球を愛する全ての皆さんこんにちは。ざんと申します。普段はTwitter(現x)にて中日ドラゴンズを中心にプロ野球、MLBなど野球関連の話題を中心に呟いています。

 前回、前後編にわたり立浪和義監督が批判される所以を考察したが、12年もの間優勝できていない理由は監督や選手だけでなくもっと複雑で根本的なものだろう。今回はドラゴンズが合理的かつ現実的に、優勝に向けて何が必要なのか考えたい。

 今回も相当の文章量になることが予期されるが、ドラゴンズファンは勿論、他球団のファンの方にも興味を持って頂けるように書く所存である。贔屓チームの試合がない、そんな退屈な時間のお供になれたら筆者としてこれ以上の幸せはない。


 早速だが、結論から申し上げたい。これからのドラゴンズに必要なものは大きく分けて3つ。

  1. 中長期的な視点を持った編成

  2. 若手選手の育成環境

  3. 論理的根拠を元に指揮を執る現場首脳陣

 この3つが必要不可欠だろう。また、言うまでもなく球団全体が共通の認識を持って取り組むことが必須条件である。他球団の取り組みなども参考に、これらの主張に至った過程を述べていく。


編成について

 編成において最も重要なことは何だろうか。筆者としては、

常に最悪の状況を考慮し
リスクヘッジを図ること

と考える。前回投稿した記事でも触れたが、現在のドラゴンズは偏った編成について指摘される事が多い。ここで読者の皆さんには共通の認識を持って頂きたいのだが、現在のドラゴンズに不足しているのは投手力だ。よく言われる得点力不足は当然課題なのだが、細川成也や岡林勇希ら若手野手の台頭により少しずつ克服へ向かっている。20代前半までの有望株も多く、彼等の成長次第ではリーグ屈指の強力打線の構築も期待できるだろう。

 一方で投手陣に関しては先発投手不足の影響が大きく、昨季のウエスタンリーグではチーム防御率ワーストの4.17を記録しているのだ。2024年現在、25歳未満の先発投手の中で1軍戦力として考えられるのは高橋宏斗(2020年1位指名)程度であり、その他の候補は戦力化に時間がかかる又は1軍で通用するか未知数という選手が多い。それに加えて多くの先発候補の投手を中継ぎに回していることも大きな要因だろう。

 また1軍で先発登板していた投手が戦力外通告を受け、スケールは大きいが故障が多く試合で投げられていない投手と契約を続けるといった立ち回りも目立つ。しかしながら自由契約市場から先発投手をピックすることも少ないため、翌年は更に投手が足りないという現状に至っている。

 そして、先発投手の台頭をあまり悠長に待てない事情がある。

年齢は2024年5月現在のもの

 上の表は今季の主な1軍先発である。この8名からローテーションを組んでいるが、ご覧のように主力先発たちにはそれぞれ懸念点がある。もう少し踏み込んで言えば、数年以内にこのローテーションは崩壊すると見込まれる。遅くとも高橋宏斗が25歳でポスティング申請をするであろう2027年までに、次世代の先発ローテーションを構築しなければ優勝は更に遠ざかるだろう。

 長くなってしまったが、これらの実情をご理解頂いた上で下記の編成改革案をお読み頂きたい。

ドラフト戦略

 まずは今後数年のドラフト方針について考察する。近年のドラゴンズは基本的に支配下6名、育成3〜4名と毎年10選手ほど指名している。当然ながらその年のドラフト市場や他球団の動向によって左右されるが、理想的な指名の型とその根拠について論じていく。

支配下指名

  • 1位 大卒即戦力先発投手

  • 2位 高卒素材型外野手

  • 3位 大,社,独 即戦力先発投手

  • 4位 高卒素材型一,三塁手

  • 5位 大,社,独先発投手

  • 6位 大,社,独先発投手


 今後数年間の1位は大卒の特に本格派の先発投手が妥当と考える。目的としてはエース候補の確保であり、競合も覚悟の上で最も評価の高い先発投手に入札するべきだろう。敢えて大卒に絞った理由としてはチーム事情を鑑み、遅くとも入団3年目までに戦力化を図りたいためだ。プロ入り後の伸び代を考慮しても社会人<大卒が望ましい。高卒→社会人の投手で特に別格の存在がいる場合は社会人投手指名を検討しても良いだろう。大社の投手が不作の年の場合は、天井の高い高校生投手も選択肢になる。兎にも角にも、その年1番の先発投手を指名したい。

 2位指名は高卒外野手とした。正直ここは他球団の動向次第で先発投手をもう1人指名する選択肢もあるだろう。しかしブライトら2021年大卒外野手が現状1軍定着に至っていないため、次世代の有望株をピックしたい。センター若しくはライトの候補として5ツールプレイヤーを期待できる好素材を指名するため、この順位としている。それほど急を要する補強ポイントではないため、スケールを重視した高卒の選手を獲得したい。

 3位指名では社会人、独立リーガーも候補に入れて即戦力の先発投手を確保したい。勝野昌慶(2018年3位指名)や岡野祐一郎(2019年3位指名)のような指名ができると良いだろう。エース級の候補は大概ここまでに売り切れてしまうが、ローテーションの一角を担える投手を指名したい。数字にして防御率3点台半ば程度をマークできる投手になれば大成功と言えるだろう。

 4位指名では高卒のコーナー候補を確保したい。特に一塁手は本職とする若手が不足し、二遊間が本職のユーティリティプレイヤーが2軍で守ることもしばしばあった。このポジションは鈍足又は守備に課題がある選手も多く、特に高卒の選手は下位指名となることも珍しくない。筆者が調べたところ、直近5年で3順目までに指名されたコーナー専任の高卒選手は2019年中日・石川昂弥(1位指名)、2022年オリックス・内藤鵬(2位指名)、広島・内田湘大(2位指名)のみだった。昨年のドラフト会議で広陵・真鍋慧が3位指名までの順位縛りの結果、指名から漏れたことなどを考慮するとこの指名順でもそれなりの素材の確保は可能と考える。

 5,6位指名では残っている選手の中から一番評価する先発投手を取るのが良いだろう。この指名順まで来ると「当たれば儲けもの」の域になるため、最低でもファームである程度イニングを消化できる投手の指名が望ましい。

育成指名

 育成ドラフトにおいては支配下指名で不足した部分を補うことができれば良いのだが、ここでひとつ紹介しておきたい事例がある。

 北海道日本ハムファイターズでは、近頃若手先発投手の台頭が目覚ましい。その一因として長身痩躯の投手を積極的に指名していることが考えられる。一般的に長身の人は骨や筋肉が長く、筋肉量を増やした際の体積が大きくなることで競技パフォーマンスが飛躍的に上昇するとされる。長身選手はそのポテンシャルの価値が高いのだ。

 また、小山田拓夢2軍S&Cコーチの存在も大きいだろう。聞き慣れない役職かもしれないが、これはStrength & Conditioningの略であり、アスリートの筋力向上及び傷害予防を目的としたトレーニングを指導するコーチを指す。彼が昨年からこのチームで指導を始めると、投手陣の球速が格段に向上した。中でも2021年育成1位指名の福島蓮投手(身長190㎝)は、入団から今年の支配下登録時までに最高球速が144㌔から153㌔と10㌔近くの球速アップに成功している。こうした取り組みによりファイターズは下位指名や育成指名からでも有望株の投手を量産できているのだ。

 ドラゴンズにおいては、本拠地ナゴヤドームのマウンドが高いことや、角度を付けやすいことからこうした長身の投手が有利と言われる。
(※厳密には高く感じるのみ。公認規則でマウンドの高さは一律254㎜。屋外球場では水捌けの為にマウンドを中心に緩やかに傾斜がある場合が多く、ドーム球場と感覚的な錯覚を生むとされる。詳しくはこちら。)

 現在ドラゴンズで最も長身の日本人選手は岩嵜翔投手(189㎝)である。次いで、昨季育成出身ルーキーながら目覚ましい活躍をした松山晋也投手が188㎝、高橋宏斗は186㎝だ。一般人の我々からするとかなりの高身長だが、プロ選手の中では群を抜いて高いというほどでもない。

 角度のある直球として読者の皆さんも真っ先に思い浮かべるであろうライデル・マルティネスは193㎝である。勿論身長が全てではないが、こうした観点からスカウティングを行うことは推奨したい。


FA・トレード・外国人

 と、言いつつもこの中で活用したいのは外国人補強のみである。FAは最短で優勝する為には最も効果的だが、相当の資金力を要する上に人的補償制度を考慮すると再建には不向きだろう。トレードは相手球団と損益が一致する必要があり、多くの場合持ち掛ける側が損をしやすい。慎重な判断を要するが、近年トレードで出血しがちなドラゴンズにはハイリスクと考える。

 外国人選手は1軍出場登録4名まで、かつ投手又は野手として同時に登録できるのはそれぞれ3人までと規定されている。今期は主に投手としてライデル・マルティネス、ウンベルト・メヒア、マイケル・フェリスの3名に加え野手としてオルランド・カリステが登録されている。基本的にはこの投手3名野手1名の配分が妥当だろう。近年は大型契約の外国人打者であっても、日本の投手に苦しむケースが多いからだ。再三述べている投手不足を鑑みても、野手はカリステのようなユーティリティ型の選手と数千万単位で契約し、投手補強に資金を振るのが合理的だろう。懐事情と貢献度を考慮するとローテーション格の投手を1〜2億程度で獲得しつつリリーフ投手を2名をそれぞれ1億以内で確保できると理想だろうか。

 勿論活躍次第で外国人選手の年俸に圧迫されることもあるだろう。これにはリリーフ投手の入れ替えで対応したい。肩肘の消耗が激しく劣化しやすいため、大型契約になる前に新規選手へ乗り換えて資金の節約と質の担保を図りたい。

 獲得ルートも熟慮すべきだろう。以前はキューバルートが主軸だったが、現在はキューバ国内の有望株の亡命が相次ぎ1番手の市場にはし難い。当然、来日後も亡命のリスクは常にある。ドミニカ共和国やメキシコリーグ、北米など範囲を広げておきたい。


戦力外について

 ここまでは入団させる選手について述べたが、本項では退団させる選手について考察する。耳の痛い話にはなってしまうが、健全な球団運営の為には避けられない。

 第一に故障の多い選手だ。先ほど少し触れたが、このチームは故障は多いがスケールが大きいタイプの選手に温情をかける傾向にある。それ自体は良いのだが、あまりにも戦力化の見通しが立たない選手は整理すべきだろう。育成契約にする手もあるが、選手寮のスペースの都合などもあり際限なく育成契約にはできない。TJ等長期離脱を余儀なくされる故障は仕方ない部分もあるが、何度も故障を繰り返す所謂"スペランカー"と呼ばれるような選手は放出するべきだろう。

 続いて成績不振のベテラン選手だ。こうした選手は長年の功労者である場合が多く、ファンの愛も深い為批判も集まるだろう。しかしながら"切り時"というのも確かにあるのだ。阪神タイガースはこの点において"必要な非情さ"を持っていた。

 鳥谷敬や能見篤史は長年阪神で活躍した功労者であるが、鳥谷は2019年,能見は2020年に戦力外通告を受け同チームを退団した。両者共に成績はピークアウトしており、1軍戦力とするには厳しいため決断したと思われる。当時の阪神ファンの心中は察するに余り有るが、こうして世代交代を進めたことが昨季のリーグ優勝や日本一達成に作用しただろう。

 とは言え筆者も、今日までの長い低迷期の中で多くの感動や興奮を与えてくれたベテラン選手達への思い入れは非常に大きい。出来ることならば、こうした功労者たちと共に優勝したい。それが本心である。


育成について

 続いて本項では、主に若手選手の育成について目を向けていく。昨今のNPBはリーグ全体で競技レベルが向上し、生まれ持った才能に加えて科学的に適切なトレーニングを重ねなければ1軍で活躍することは難しい。現状の環境に加えてどのような取り組みが必要になるのか考察していく。


投手育成

 まずは急務である投手の育成についてだ。先程育成ドラフトの中でも触れたが、小山田S&Cコーチのような出力向上に長けたスタッフの招聘は必要だろう。近年投手のウエイトトレーニングは広く波及しているが、ドラゴンズに浸透し始めたのは最近のことである。2022年にトレードで入団した後藤駿太が、清水達也からオリックス投手陣の球速の秘訣を訊かれた際にウエイトについて伝えたことがきっかけとなったのだ。

 球速の高速化が進む現代野球では、出力向上の為にウエイトは必須とされる。選手によって取り組みに差異はあったかもしれないが、こうしたトレーニングの文化が根付いていないように感じられるエピソードだった。

 勿論、ただ筋肉を付ければ速い球が投げられるという簡単なものではない。筋肉を付けた上で、その力を最大限に発揮する身体の使い方というものが重要になるのだ。これをスポーツ・バイオメカニクスというのだが、こうした力学に長けたスタッフを招聘できると良いだろう。

「そんなの投手コーチがやれば良いじゃないか」

 そうお考えの方もいらっしゃるのではないか。
しかし筆者としてはここにも確固たる理由を持っている。プロ野球のコーチは基本的にNPBのOBが殆どであるが、その組閣は監督の人脈に左右される部分も大きい。監督の任期は3年から長くても5年程度であり、その際にコーチも退団となるケースは珍しくない。

 入団から3年以内でブレイクする選手が稀有であることを考えれば、様々なコーチにより指導方針がブレてしまうことは避けたい。また、当然ながらOBコーチの力量というものも差が出るものであり、特に現代野球への理解が深いOBはそこまで多くないように見受けられる。

 早い話が、こうした固定観念から脱して優秀な人材を揃えようということだ。


野手育成

 野手育成に関して第一に見直したいのは、打撃アプローチである。「そらそうよ」という声が聞こえてきそうだが、ここが最重要課題なのである。

単打と走塁に主眼を置いた若手育成プログラム

 通称"単プロ"は他球団ファンの皆さんも聞いたことがあるのではないか。勿論この話の情報ソースは週刊誌である為、信憑性は薄い。しかしながら、「逆方向への流し打ち」や「強いゴロやライナー」といったワードがここ数年間のインタビュー記事でも散見されていることは無視できない。

 こうした打撃アプローチを全て悪としたい訳ではないのだが、積年の課題である得点力不足を改善する為には非効率な手段なのだ。もっと言えば

得点力を増やす為には
引っ張ったフライで長打を増やせ

という結論になる。日本では昔から広角打法が好まれるきらいがあり、その対極に位置するプルヒッターは強引と称されることも多い。しかし近年では、この考えが否定されつつある。

 昨今、投手技術の向上や低反発球により打率3割や30本塁打といった成績を残す打者の希少性は平成の時代よりはるかに増している。こうした打低の環境で得点を増やすには、長打力をつけてヒットを打った際のリターンを大きくする必要があるのだ。その為長打を稼げるアプローチが昔以上に求められるのだが、それがプルヒッティングなのである。

出典:BASEBALL GATE

 少しデータが古いが、過去10年間の統計として信憑性には足りるだろう。出典元の記事では、こうしたデータからプルヒッティングの利点について論じているので是非ご一読頂きたい。簡潔に言えば引っ張った打球の方が強い打球になりやすい。そして強い打球は長打になりやすいのだ。当たり前のことを捏ねくり回しているようだが、これが事実なのである。

 勿論、例外的に逆方向への打球の方が強い選手はいる。また、かつての落合博満のような球界屈指の打者は流し打ちの技術も卓越している為、広角に強い打球を飛ばせる。しかしこれらの技術は簡単に身につくものではなく、実際に現在のドラゴンズではその域に達する選手はごく僅かだろう。先ずは甘いコースを引っ張って強い打球を生む、こうしたアプローチから取り組む必要があるだろう。

 次にフライを打つということについて。フライボール革命という言葉がある。しかし、この言葉の真意をご存知でない方も多いように見受けられるため、一度解説したい。この理論は打球の速度と角度について説いているのだ。更に言えばバレルゾーンを意識したアプローチを目指す、という理論である。

バレルゾーン図解 出典:Hiro's LAB

 バレルゾーンは「得点に繋がりやすい打球速度と打球角度の組み合わせの分類」です。

 2016年のMLBでは、このバレルゾーン内だった打球は「打率.822、長打率2.386」となっていました。バレルゾーン内の打球を打つことで、平均すると二塁打以上になる、という驚異的な数値であることがわかります。

 得点はOPS(出塁率+長打率)と強い相関があります。バレルソーン内の打球が増えることで得点が増え、勝利に繋がりやすくなるというわけです。(中略)

 バレルゾーンの分類は簡単で、「打球速度(初速)」と「打球角度」の組み合わせで分類できます。図の濃い赤色で塗りつぶされている部分がバレルゾーンとなっています。

 打球速度が158km/hからバレルゾーンが現れ、その時の打球角度は26~30°です。そして打球速度が上がるにつれ、打球角度の幅が大きくなり、打球速度186.7km/h(116mph)時に打球角度は8~50°となっています。

 打球速度が上がれば上がるほど、バレルゾーンに入る打球角度の幅が増えるので、長打になりやすくなるという事がわかります。

出典:Hiro's LAB

 上記がバレルゾーンについての解説となる。出典元でも触れているがこれはあくまでMLB球によるデータであり、NPB球で同一の数値になるとは限らない。しかしながらこの打球の速度と角度は、打者の得点力向上において大きな鍵となっていることは明らかだろう。こうした背景からフライボール革命という理論が提唱された訳であり、ただフライを打てば良いと言うものではないのだ。

「それって一部のスラッガーでなければ
効果を成さないのでは?」

 こうした疑問も出るだろう。しかしこれは、決してスラッガーのみに向けた理論ではない。

 日本選手はパワーや体格が理由で本塁打が出にくいとよく言われる。ただ、ラプソードジャパンの山同建氏によると、打球速度158キロを計測するのに必要なスイング速度は128キロ。これは除脂肪体重が65キロあれば可能な数字だという。打球速度を上げるトレーニングと同時に、打球角度も意識すると長打の確率は上がるかもしれない。

出典:First-Pitch

 この山同建氏の発言を更に掘り下げてみる。除脂肪体重65㎏とは実現可能なのだろうか。城西大学の論文ではプロ野球選手の体脂肪率は平均13.8%とされる。

 勿論NPBには多種多様な体型の選手がいる為、一概にこの平均値がそのまま中央値になるとは言い難い。しかしこれを基に計算すると、先の打球速度158㌔やスイング速度128㌔を実現するには75.4㎏が必要となる。

 これをドラゴンズの野手に当てはめてみる。中日ドラゴンズオフィシャルサイトにて公表されている全野手の体重を見ると、この75㎏に満たない野手は田中幹也(66㎏)、辻本倫太郎(73㎏)、クリスチャン・ロドリゲス(74㎏)、尾田剛樹(74㎏)の4名のみであった。田中と辻本は身長170㎝未満と小柄であり、尾田は走塁面で期待されていることから、体重が軽いことが悪い訳ではない。また、ロドリゲスに関してはまだ走攻守全てが素材の段階の選手である。184㎝とショートの選手としてはかなりの長身である為、今後のトレーニング次第で十分このラインは到達できるだろう。

 少し話が逸れたが理論上ドラゴンズの殆どの野手がこのバレルゾーンに到達可能であり、こうしたアプローチによって打撃成績を向上させる可能性があるといえよう。そして、このバレルゾーンを意識した打撃を会得するには、ラプソードやホークアイといった映像解析システムが必須だ。幸いドラゴンズには2020年にラプソード、2023年にはホークアイがそれぞれ導入されている為是非活用していきたい。(既に活用されているかもしれないが)

 以上の理由から、筆者としては引っ張ったフライを狙うという方針を推したいのだ。

 また、前述のシステムは投手の動作解析にも有用である。現に今年の春季キャンプでは、ブルペン入りした投手がコーチらとタブレットを見ながら投球を振り返るシーンも多く見られた。おそらくこれらの解析データについてだと思われるが、投打問わず感覚を数値化して練習させるというのが今後の野球界のスタンダードになるだろう。有効に活用して選手の育成に役立てたい。


首脳陣について

 はっきり言えば「データに明るい首脳陣」が理想である。現在のNPBはデータ野球への過渡期を迎えており、セイバーメトリクス(以下セイバー)を重視する首脳陣も増えつつある。こうしたデータ野球への移行について、野手・投手それぞれの起用を考えたい。

野手起用

 「燃えよドラゴンズ」という歌がある。その歌詞は年代毎に異なるが、基本的には強竜打線が止まらないパートと他球団のマスコットをひたすら蹂躙するパートの2部構成である。時折この蹂躙パートが他球団ファンから不適切と言われることもあるが、初期に比べればかなりマイルドな表現になったのでどうかご容赦頂きたい。(近年は基本的にこちらが蹂躙される側ですし)

 そんな話はさておき、現在のドラゴンズではこの歌詞をなぞったような昔ながらの打順構築が目立つ。これをセイバー重視の構築に変えるということだ。

出典:Full-Count

 聡明な読者の皆さんには既にお馴染みかもしれないが、上の図はセイバーにおいて理想とされる打順の構築である。従来クリーンアップと称されチーム屈指の強打者を配置した3〜5番はさほど重要ではなく、1,2番と4番に強打者を配置すべきとされている。

 しかし、出典元でも言及されているが打順の細かな変化でチームの総得点が劇的に変わる訳ではない。MLBの環境でこの打順改善を図った場合に見込まれる効果は、年間の総得点にして1,2点程度とのことである。それでも現状のドラゴンズでは「2番だとバントの場面もある。」との監督談話もある上、度々上位打線に関してバントができるか否かで構築した旨の発言がある。この位置に強打者を配置し、バントを控えることでMLBでの効果以上の得点を見込めるのではないだろうか。


投手起用

 続いて投手起用についてだが、基本的には酷使を避けながらより良いパフォーマンスを維持させる役割が求められるだろう。MLBでは主に先発投手の酷使度の指標としてPAP(Pitcher Abuse Point)が使用されているが、中4日が主流のMLBと中6日を主流とするNPBでは同様に評価できるかは定かではない。

 また、中継ぎの酷使度についてはRAP(Reliver Abuse Point)を考慮するファンも多いが、実はこの指標はMLBなどの公式指標ではない。筆者としては決して無視できる指標ではないと考えるが、あくまで参考程度とするのが良いだろう。

 一方でdelta アナリストの市川博久氏は救援投手の登板間隔と投球への影響について分析・考察している。同記事では連投の有無より過密な登板間隔になることでパフォーマンスが悪化しやすいと結論付けられている。ただ連投を避けていれば良いというものでもないようだ。

 この分野については今後も議論する余地があると考えるが、首脳陣として頭に入れる必要はあるだろう。勿論プロのアナリストレベルまで指標に詳しい必要はないが、大まかにでも指標群を理解していることが今後の首脳陣には求められるだろう。

 そしてドラフト指名の項目でも触れたが、ドラゴンズは先発候補だった投手の多くを中継ぎ投手に転向させている。これにより中継ぎ陣が非常に強力になっているのだが、これは過剰戦力とも言える。勝野昌慶は最近ビハインド時の登板が主になっている上、橋本侑樹もロングリリーフには勿体無い程の投球が続いている。

 中継ぎ投手は投手の中でも特に選手寿命が短く、それでいて勝利貢献度を示す指標WAR(Wins Above Replacement)では先発投手の数値に及ばないという損な役割である。このポジションに一線級の投手ばかり配置するのは、得策ではないのだ。前述の両者をはじめとした中継ぎ投手の配置転換で、再三述べている先発投手不足を補えるだろう。


 この手の話になると「数字ばかりではなく、現場にしか分からないことがある」という趣旨の意見を持つファンも見られる。しかしながらこれは"膨大なサンプルを基に算出された統計"であり、単に数字だけを見るものではない。勿論、完全な指標など存在はしないが、その中でより正確性を求めるべく様々な指標を用いて複合的に選手や戦術を評価する、というのがデータ野球の真髄である。

 そしてこうした統計よりも現場の感覚を優先した結果、負け続けているのが事実なのだ。データを活用すれば劇的に強くなるという保証はないが、これだけ長い間勝てないチームの業務改善案として取り組む価値は十二分にあると考える。


まとめ

 いかがだっただろうか。今回の提言を全て実現できたら、ドラゴンズに限らず他のどんな球団でも優勝できるのではないだろうか。更に言えば、かつて川上哲治氏が率いた読売ジャイアンツのV9すら達成できるように思える。勿論現実は想像通りに行くことの方が少ないが、相当強いチームになることは間違い無いだろう。

 当然ながら全ての課題を解決することは困難である。それでも、何かひとつでも変えていくことが優勝への近道になるだろう。但しいずれの改革案も優秀な人材が必要になるため、相応の出資が球団には求められる。ここには非常に厄介な問題がある。

 実はドラゴンズは昔から親会社内の派閥争いによってチームが左右されるという、何とも特異な球団体質をしている。片一方の派閥ではチームの勝利よりも企業としての利益を重視しており、現在の低迷期を長引かせている大きな要因だろう。フロントを含めて、球団全体が団結しない事には何も始まらないのだ。

我々の夢への道のりは、長く果てしない。

おわりに

 この"道しるべ"は、あくまでもひとつの考えに過ぎない。今回の記事が理想のチーム作りを考察する契機となれば幸いである。ここまでお付き合い頂いた全ての読者の皆さんに感謝申し上げる。それでは。

あなたの毎日がドラゴンズで満たされますように

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