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立浪和義監督は何故叩かれてしまうのか【前編】

はじめに

「今、最も深く最も長い低迷期に陥っているプロ野球チームは?」と問われて中日ドラゴンズを挙げないプロ野球ファンはそういないだろう。筆者はかれこれ15年以上ドラゴンズを応援し続ける生粋のドラゴンズファンと自負しているが、この件に関して否定できるだけの材料を残念ながら持ち合わせていない。

初めまして、ざんと申します。普段はTwitter(現X)にて中日ドラゴンズをはじめとしたプロ野球、MLBなど野球関連の話題について呟いています。

さて、立浪政権下でのシーズンも3年目に突入しようとしているが、依然として立浪監督に対するファンの風当たりは強い。2年連続最下位という球団史上初の不名誉な記録を打ち立てた以上、当然とも言えるが立浪監督への批判はチーム成績以外の面でも多いように見受けられる。ここまで批判が集まる所以について、筆者の結論としては、

「チームを強くするべく奔走するが、

前時代的な思考が故に

非効率な手段ばかり取っているから。

その上、反感を買う言動が目立つから。」

と考える。

はっきり言って監督としては最低の評価であろう。しかしこれだけでは雑音、元い罵詈雑言の域を出ないため順を追ってこの結論に至るまでの過程を説明していきたい。

前置きが随分と長くなってしまったが、ここまでブラウザバックせず付き合ってくださる読者の方々は筆者と同等に中日ドラゴンズを愛している、若しくは筆者と同等に時間的余裕があることと思う。かなりの長文になることが見込まれるが、できるだけ他球団ファンの皆さんにも伝わりやすいように書いていくのでお付き合い頂ければ幸いである。


Q.そもそも立浪監督以前から弱くね?

A.全くもってその通りである。

球団史に残る黄金期を築いた稀代の名将落合博満がチームを去って以降、今に至るまでAクラスに入ったのはたったの2シーズン(2012年2位,2020年3位)のみ。
そして2020年シーズンはご存じの通りコロナ禍元年、短縮日程の上クライマックスシリーズ(以下CS)が中止となった。そのため最後にCSへ進出したのは2012年まで遡る。

2024年現在、NPB全12球団の中で最もCSから遠ざかっているのが中日ドラゴンズなのである。この状況でバトンを受け取った立浪監督はフロントから"チームの再建"を託された。

10年間、優勝はおろかAクラスにすらほとんど縁のないチームが監督の力だけで勝ち上がるのは難しい。それはフロントやファンもある程度理解していただろう。前述の通り、チーム成績が悪いというだけで監督に批判が集まっているわけではないのだ。

采配・選手起用

まずは監督の主たる業務である、試合での采配において特に批判が集まっていたポイントについて振り返りたい。

野手起用

バント多用について

立浪野球の大きな特徴として、"バントや進塁打を意識したスモールベースボール"がある。その象徴とも言えるのが2023年6月15日の千葉ロッテマリーンズ戦だろう。この試合では計6回のバント指示が出たが、得点は内野ゴロの間の1点に留まり延長12回の末ドローとなった。

筆者はこの日現地ライトスタンドより観戦していたが、延長戦に入って以降の場内は特に異様な空気に包まれていたことが印象深い。極め付けは12回の裏、1アウト1塁で迎えた村松開人の打席だ。ロッテ横山投手がセットポジションに付くとともに村松がバントの構えを見せると、ライトスタンドからは遂に怒号が飛び出した。長らくこのチームを応援してきたが、自軍のバントでこのような雰囲気になった試合は他に思いつかない。なおこの試合では村松の2度のバント失敗の他、岡林や福永にもバントのサインが出た。

統計学的観点から選手や戦術を評価するセイバーメトリクス(以下セイバー)において"バントは非効率"と提唱され、日本でも年々その考えが浸透してきた中でのバント攻勢。

バントという戦術はその性質上、相手に自らアウトを献上することとなる。
「いかにアウトになることなく得点を増やせるか」ということに重きを置くセイバーではバントが有効となる局面は極めて限定的であり、バントさせるべき打者とは打率にして.103に満たない選手とされる。 

セイバーそのものについての是非は本旨から逸れかねないので今回は論じないこととする。先の試合をはじめとしたバント攻勢では、
「比較的打力を期待できる選手にバントをさせて後続の打力が劣る選手で勝負に出る」
という局面が多く見られた。

バントを絶対させるな、とまで言い切るつもりはないが指示を出す局面や選手については再考の余地があるのではないか。

余談にはなるがこの日、立浪監督の現代野球への理解に疑問を抱くとともに、かつてない疲労感とやるせなさのなか筆者は帰路に就いた。ある意味貴重な瞬間を見られた。そう考えることで精一杯であった。

左右病について

選手の実力や対戦相手との相性を度外視して右投手には左打者、左投手には右打者を当てるといった起用は左右病と揶揄されることがある。

立浪野球においてもこの傾向は顕著であった。先程のロッテ戦はこの左右病に関してもサンプルとして適している。9回裏の攻撃である。ロッテ岩下投手(右投げ)からヒットと敬遠でノーアウト1,2塁のチャンスを作ると、打席にはこの日2ベースヒットを放ち打率.300と好調の福永。バントを決めて1アウト2,3塁とした。ここまではまだ、ギリギリ理解できる。(それでも3割打者にバントをさせるなと言う話ではあるが)

次の打者は前の打席で内野安打の石橋康太、に代わり高橋周平。だがしかし、あっけなく敬遠となる。ロッテサイドとしては当然の判断であった。満塁にしてホームでもフォースプレーになる状況の方が守りやすい。まして打撃実績のある高橋周平と勝負をする理由は全くない。問題はこの後である。8番9番打者に立浪監督は2人の代打を送った。

加藤翔平(.498)と溝脇隼人(.377)である。
※カッコ内はOPS

お世辞にも打撃が良いとは言えない両者だが、案の定凡退となりこの回は無得点。先発柳裕也は9回1失点ながら勝ち投手の可能性が消滅した。勿論ベンチの野手が他にいないのであれば致し方ないのだが、9回裏の時点でまだ福田永将を残していた。外野フライでも勝てる状況なだけに、長打が持ち味の福田を出し惜しんだことが悔やまれた攻撃だった。

現在、ドラゴンズには左の巧打者が少ない。
大島洋平や岡林勇希といった優秀なヒットメーカーはいるが、その他大勢の左打者とこの二選手の打撃能力には依然として大きな差がある。

左右のバランスが取れた打線は見栄えが良いが、現状そこまで考慮する余裕はない。得点力を高めるのであれば、打てる選手から順にオーダーに入れる。重要な局面で登場する代打であれば尚更、左右の前に打力を重視してほしいところだ。

見栄えや固定観念に囚われて、この本質が疎かにされていたことは批判の一因と言えるだろう。

投手運用

中継ぎ投手について

ここからは積年の課題である攻撃面から離れ、
ドラゴンズの強みと言える投手力の活用について考察する。ここでキーワードとなるのが、

「中継ぎ投手の登板過多」

である。例を挙げて説明していく。
祖父江大輔と勝野昌慶という投手がいる。
この両投手は昨季祖父江45試合、勝野50試合に登板し中継ぎ陣を支えてくれた。この数字だけを見れば決して酷使や登板過多と言われるほど多くはないのだが、問題はその内訳にある。

上記の表はNTT docomo dmenuスポーツにて公開されている月別個人成績のデータを元に、筆者が登板数と防御率に絞ってまとめたものだ。

昨季のドラゴンズは5月終了時点で48試合を消化したが、この期間両投手はともに21試合に登板した。143試合に換算すると62.5試合ペースである。これを酷使と判断するのは迷うところだが、疑問に思うのは彼等の役割が不明瞭だったことだ。

ここまでの試合ではリード時、ビハインド時、同点時、場面を選ばず良い投手を注ぎ込む傾向にあり、当時のリーグ全体での登板数上位も彼等が占めていた。フルマラソンで例えるならばスタートから全力疾走するようなものだろうか。疲労による故障や不調を危惧する声も少なくなかったが、やはり6月以降に救援失敗や故障により戦列を離れることとなり、ペナントの正念場である後半戦は更に苦境を強いられることとなった。

これらの起用は祖父江や勝野に限った話ではない。TJ明けの田島慎二やルーキーの松山晋也、シーズン途中に加入した齋藤綱記らにも同様の傾向が見られた。田島と松山は夏場に故障離脱があり、ブルペンは更に火の車と化した。

ところがどっこい。

これだけに飽き足らず常軌を逸する起用が続くのが立浪野球だ。

8月25日の横浜DeNAベイスターズ戦ではとある事件が起きた。2-8と6点ビハインドで迎えた9回表、マウンドにはこの日2年ぶりの1軍昇格を果たした近藤廉が送られた。優秀な読者の皆さんであれば、もうこの先の展開が浮かんでいることだろう。

1回62球10失点である。

1イニングに62球を費やしたのはNPB史上2位タイの記録になるらしい。それはさておき、この試合で近藤に求められたのは敗戦処理だが、DeNA打線に捕まりゾーン内に投げれば痛打、ゾーン外は見逃すといった状況だった。もはやなす術なしという具合だが、晒し者の如く投げ続ける近藤の姿にはドラゴンズファンでなくとも心が痛んだのではないだろうか。

日本では時折、マナー講師による珍妙なマナーが物議を醸すが野球界にもこの風潮はある。「たとえ大量ビハインドでも野手に投げさせるのは無礼である」という言説だ。
海の向こうMLBでは野手登板はそれほど珍しいものでなく、件の試合の相手先発T.バウアーも自身のYouTubeチャンネルでこのことに触れて近藤にコメントを送っている。一方の立浪監督は「勝ちパターンの投手しか残っていなかった」と説明しており、日米の野球観の違いを感じる一戦となった。

真剣勝負の相手に礼節を欠いてはいけないというのはごもっともだが、それであれば敗戦処理という役割にむず痒さを覚える。ルールブックに抵触しない暗黙の了解よりも選手個人を守って欲しかった、という点からも批判が集まったのではないだろうか。

もうひとつ紹介しておこう。
9月18日の広島東洋カープ戦では先発根尾昂が6回無失点の好投。ただ、7回に四球やエラーでピンチを作り1点を返され2アウト満塁とされると、

3つ目のアウトを取るために藤嶋健人、齋藤綱記、清水達也、福敬登の4名が登板し、同点に追いつかれた。

当然ながらこれは優勝決定戦やCSではない。もっと言えばこの時点で既にドラゴンズは消化試合モードであった。

根尾のプロ初勝利が掛かっていたとはいえ、矢継ぎ早に送られる投手達は些か準備不足に感じられた。根尾の降板時で5点のリードがあったことを鑑みると、誰か1人で腹を括っておけなかったものかと思わずにはいられない。

投手の肩を温めるには時間を要する。本件のようなマシンガン継投とも揶揄される起用はベンチが動けば動くほど、準備不足の投手で勢いに乗る相手打線に挑むという悪循環しか生まれない。采配における割り切りと辛抱強さの重要性について考える良い教材ではないだろうか。

先発投手について

前述の中継ぎ投手の起用と違い、ローテーションの組まれた先発投手では監督の采配が問われる場面は限られてくる。中継ぎ投手への交代のタイミングである。

現状、そこまで目くじらを立てる起用は多くないものの強いて言うのであれば2023年開幕戦の小笠原だろうか。7回終了時で球数は120を超えていたが、8回も続投し逆転を許した場面だ。

ただ、この試合に関してはそれまで被安打2、失点1の快投だったことや小笠原本人が志願したことから立浪監督だけの責任にはし難い。結果として9回に再度逆転し勝利を収めたが、それでも危ない橋を渡ったことには変わりない。試合前のプランもあったのだろうが、思い通りに試合が進むことはそうそうない。この場合では、状況に応じて選手にブレーキをかけさせる柔軟さがあっても良かったのではないだろうか。


采配総括

ここまで立浪監督の采配にフォーカスして批判が多い原因を考察してきたが、現代野球において非効率な戦術や先の試合まで考慮できていない継投が目立った。

優勝を目指すための采配としても、来季への育成のための采配としても疑問符がつくのがこの2年間の采配である。

昨今は素人でも統計学や指標を元に批評考察する層は多く、これらで否定されるような采配には批判の声が大きくなる傾向にある。2年連続最下位という結果は勿論のこと、そこに辿り着く過程に批判が集まっているのだ。

仮にリーグ優勝が現実的に可能な戦力になったとしても、使い方によって一戦必勝の局面を落としかねない。そのような懸念から采配に対する批判が集まっているのではないだろうか。立浪監督は「批判は気にせず思い切ってやりたい。」という趣旨の発言をしているが、今季は采配面に変化があるか注目してドラゴンズを応援していきたい。


初投稿の割に既に5000字超の大作となってしまった。筆者としてはこの他に編成面や言動について言及したいが、読者の皆さんをこれ以上付き合わせるのも気が引けるので、一旦ここで区切りととする。反響次第で続きを書こうと思う。是非感想や意見を聞かせて頂けると嬉しい。それでは、

今日もあなたがドラゴンズで満たされますように

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