実際にあった某フォロワーの話〜インドダイブインマイヘッド〜

「どうしてあんな事をしてしまったんだろう?」

それは、ほんの些細な事だった。
時間にすれば数秒も経っていない些細な事。
その些細な事がなければ、今とは違った人生を歩んでいたかもしれない。
時間にしてみれば、数秒もないだろう。
その数秒もない時間が、自分の人生に大きな影響を与えるなんて、その時は思ってもいなかった。


都内某所、とある大学の講堂。
興味なさそうにしている学生や、緊張した面持ちで机の資料を凝視する学生、とりあえず一線は超えたとばかりに安堵した表情を浮かべる学生。
様々な学生達が集まる中、俺は「早く終わんねぇかな」と頭の中で何十回も繰り返していた。

今日は単位がかかった発表の日。
今まで遊びまくった分のツケの精算を現在進行形で行っている所である。
単位はギリギリで、常に背後霊の如く「留年」の2文字がピッタリと背中に貼り付いている状態だ。

そんな状況にも関わらず、「まぁなんとかなるやろ」と楽観視しつつ、こっそりスマホでTwitterを開いている。
当然ながら退屈な講義より、仲のいいフォロワー達とくだらない話をしてた方が楽しい。
TL(タイムライン)には、可愛いイラストやゲームの最新情報、美味そうなご飯の写真、どうでも良さそうな一言まで流れてくる。
それを眺めながら、今日はなんのゲームをするか、終わったらメシは何食うかとか、発表と関係ない事ばかり考えていた。

しばらくして、そろそろ自分の発表の番が近づいてきた。
今まで見ていたTwitterに一旦別れを告げ、スマホをサレイントモードにする。
時計を着けていないので、スマホの待機画面の時計で時間を確認する必要があるからだ。
発表の内容自体は問題はないはずだし、教授から文句を言われる様な悲惨な出来栄えではない…と思いたい。
単位が切羽詰まる事態にまでなる人間である。
当然ながら発表の内容や資料も直前になって作り上げた物である。

「大丈夫、なんとかなるやろ」
いつ落下してもおかしくない鉄柱の上でも同じ事を言いそうな位の楽観視である。
いよいよ順番が回ってくるので、必要な物をまとめて持ち、移動する準備を整えておく。
発表が終わったら久しぶりに肉でも食おう、そう思いながら。


発表は今のところ問題なく進んでいた。
後どのくらい時間があるのか気になったのでスマホに触れる。
万が一、時間内に終わらなかったら教授の心象を悪くしていまうからだ。
時間を確認する。どうやらまだ大丈夫そうだ。
やはり発表は緊張するもので、終わりも見えて安堵したのか、そのままスマホを開いてしまう。

発表する前に見ていたTwitterが開いたままで、止まっていたTLが動き出す。
過去から今現在に一瞬でタイムスリップするタイムマシンの様に、TLも過去のものから一気に今現在のものに差し変わる。
差し変わるのはほんの一瞬で、パッと映し出される。



画像1


目の前にインド人が映し出されていた。
そして大きく「インド人若奥様Rani28歳」の文字。
緊張と安堵が入混ざる脳内に急にインド人がダイブしてきた。

「なんでインド人?しかも若奥様?」「28歳の顔じゃねぇだろ」「マ○コもア○ルも両対応とか無駄に経験積んでるやん」「しかもオナホ?」
脳内は洪水を起こし大氾濫したガンジス川の如く、インド人奥様Rani28歳の衝撃が駆け巡っていた。
あまりのインパクトの大きさに、素で吹き出し笑いだしてしまう程に。

インド人若妻が俺の脳内に巻き起こした大洪水は、現実でも俺の単位を遠く彼方まで流してしまった。
当然、発表の最中に吹き出しながら笑う生徒の事を教授は良く思わないだろう。
予想通り、こっぴどく怒られる。
流石のインド人若奥様のパワーをもってしても、教授の怒りまでは洗い流せなかったようだ。

単位を失ったら留年がいよいよヤバくなる俺vs怒り狂った教授の単位をかけたバトルが始まる。
戦況的には圧倒的不利で、こちらの味方?は自分自身と突如現れたインド人奥様のみ。
対する教授は生殺与奪の権利を持ち合わせる強キャラで、まともに戦っても負けるのは目に見えている。
ここは謝って慈悲を乞うしかない。
教授だって人の子。どうにか謝り倒せば許してくれるはず。

数分後。

駄目だった。聴く耳も持ってくれない。
もちろんこちらの言い訳も苦しい。
「昨日見た番組を思い出しちゃって、思い出し笑いしてしまいました…」
と無理矢理思いついた言い訳をしてみるも、あえなく玉砕。

しかし諦めの悪いのが俺。
この単位を落としたらいよいよ「死(留年)」に片足を突っ込む事になる。
背水の陣の俺は覚悟を決めて教授に頼み込む。
ダメ元だけど、可能性はゼロじゃない。このままインド人若奥様と心中するよりマシだ。
少しでも可能性があるのなら、一縷の可能性を信じて教授に一言聞いてみる。


「今日、単位出ますか?」


出る訳がなかった。
どこを間違ったというのか?
真剣な顔だったし、トーンを本気だった。
ふざけた様子は一切なかったはずだ。
しかし、単位は俺の元には舞い降り無かった。

さようなら単位。グッバイマイ単位。もう二度と君と会うことはないんだね。一回も会ったことないけど。

その日、単位を失った代わりに得たものは、インド人奥様だけだった。
今日の夕飯はインドカレーにした。