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じゃあキスとかしなくても手を繋ぐだけの関係でもいいから

 くだらないことが書きたいと思ってつくったアカウントだからくだらない記事を思う存分書いてやろうと思って、何を書こうか悩んだ結果、初恋の話を書こうかと思いたった。だから初恋の話を書くことにします。

 初めて人を本気で好きになったのは高校二年生のときだった。相手は同じクラスの仲良しだったAさんという女の子だった。Aさんと私は高校二年生になってから話すようになったのだけど、実はわたしは一年生のときから隣のクラスにいたAさんのことを見かけるたびにあの子と友達になりたいと密かに思っていた。でもそれはただ単に友達になりたいというだけで深い関係になりたいとかそういう訳ではなかった。

 二年生になってAさんと同じクラスになり夏休みの直前辺りから互いに話すようになって、それからはあっという間に仲良くなった。一年生のときに隣のクラスだったAさんを見かけるたびに仲良くなりたいと思っていたのはこうなるという予感があったからだと思ったし、Aさんも同じようなことを言ってくれていたのでわたしはとても嬉しかった。

 これと云って変わり映えのしない日々が続く中、高二の夏休みがやってきた。そして一週間が経ったころにわたしは自分の身に起きつつある異変に気付いた。わたしは毎日毎日朝から晩まで一日中ずっとAさんのことばかりを考えていることに気づいたのだ。

 そして、これは変だと思った。Aさんのことが特別な感情で好きなんだという風にはまさか思わなかったし、もしそうだとしてもそれを認めてしまったら自分自身が大変なことになると思った。だってLGBTなんて自分とは遠くかけ離れた世界の話だと思っていたからだ。同性を好きになるなんてあまり良いことではないと思ってしまったわたしはAさんのことは考えないようにした。

 わたしは男子を好きになったことだってあったし、男子相手に初体験も済ませていた。ただ言われてみればたしかに女子も好きだった。女子同士で身体を寄せあったり抱きついてじゃれ合ったりということは頻繁にあったし、同級生や上級生に憧れを抱くこともあった。アイドルも好きだった。

 でもこういったことは女子の間でもそれほど珍しいことではなかったし、周りには後輩の女子から告白されるようなオトコマエな女子もいた。でもわたし自身は女子と恋愛感情を伴なう特別な関係になりたいと思ったことは一度もなかったから、Aさんのことは自分でも訳が分からなくて戸惑った。

 それでも、その頃になるとわたしは食欲が落ちたり眠れなくなったりしていた。こんな風に体調がおかしくなるくらいに誰かに惹かれるなんていうことは男子相手にもなくて初めてだったから、これはもう恋愛感情間違いなしであった。

 そんな夏休みのある日、Aさんから通っていた小学校の校庭で開かれる盆踊り大会に一緒に行こうとのお誘いがあってそれが転機となった。盆踊り大会でAさんの浴衣姿を見てしまってから、Aさんに対するわたしの恋愛感情というか欲望が爆発してしまった。

 それからは毎日毎日寝ても覚めてもAさんのことばかりを考えてしまい、わたしの頭の中はAさんのことでいっぱいになってしまった。とにかくもうAさんのことが好きで好きでたまらない。Aさんのくちびるや見たこともない裸を想像したりしてはそれに触れるところを想像してひとりで欲情した。そんなふうにAさんを性欲の対象としても見るようになっていた。

 でもこの気持ちをAさんに悟られたらまずい。嫌われるかもしれない。少なくとも今の関係ではいられなくなるような気がする。そう思った。わたしの周りはまだLGBTについて開けっぴろげに語り合えるような雰囲気ではなかった。

 そして秋の文化祭に出るバンドの練習もしなければならないのに練習にも身が入らない。そんな具合にAさんのことしか考えられずに悶々とした学校生活をおくっていたある日、わたしはとうとうAさんに対する気持ちを抑えられなくなってしまった。

 学園祭が終わり秋も深まってきた頃、学校帰りにわたしの部屋に遊びに来たAさんにわたしは告白した。うつ伏せになってベッドに寝そべってマンガを読んでいたAさんの上に覆いかぶさると、わたしはそのままAさんの華奢な身体を抱きしめた。わたしの頬にAさんの髪の毛が触れて、鼻先にAさんの耳たぶを感じた。そしてAさんの首元に顔をうずめる様にしながらAさんの耳元で好きだと言った。

 そしてわたしはとても冷静にフラれた。

 「思春期はホルモンバランスのせいで同性を好きになってしまうこともあるらしいよ。だから優希もそのせいじゃないかな」

 Aさんはそんな意味のことをわたしに淡々と、そして真面目な顔をして言った。この後のことはあまり思い出したくないのだけれど、わたしは往生際が悪くてしつこく食い下がった。じゃあキスとかしなくても手をつなぐだけでもいいからとか、ほっぺた同士をすりすりさせるぐらいはさせて欲しいとか、わたしだけ特別扱いして欲しいとか、そういうようなことを必死にお願いした。でもAさんの首が縦に振られることはなかった。

 わたしはしばらくの間は食事も摂れないぐらいひどく落ち込んだけれど、Aさん会いたさに学校だけは休まずに通った。そんなAさんはモテたから二年生の三学期には彼氏が出来てしまい、そこでわたしの初恋は完全に終わった。

 その後もAさんとは友人関係が続き、高校卒業後はAさんは関東の大学に進学したので一時期疎遠になった。でも大学を卒業してから再び関西に戻ってきて、いまは大阪で働いている。そしてわたしとAさんは今も仲良しである。いまAさんのことをどう思っているのかというと、わからない。昔の様には恋はしていないと思うけれど、Aさんから好きだと告白されたら付き合うかもしれない。

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