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ブライトンによるカイセド移籍交渉について思うこと

2023年8月15日、ブライトンに所属するモイセス・カイセドが、英国史上最高額となる£115m(出来高含む最高額として)の移籍金をもってチェルシーに完全移籍することが決定しました。

ブライトンによるカイセドにまつわる移籍交渉については、昨冬からただただ驚嘆させられるばかりです。

驚嘆ポイント1:アーセナル移籍を断っておきながら、選手との契約延長を果たしたこと

2023年1月30日、アーセナルからブライトンに対して、カイセドへの移籍金£70mが提示されましたが、ブライトンはそれを拒否。選手本人はアーセナル移籍を希望しながら、約1ヶ月後の3月3日、ブライトンとの2027年6月までの契約延長が発表されました。

カイセドがブライトンに加入した2021年2月時点からの契約更新がなければ、両者の契約期間は2025年6月まで。個人的な感覚から言うと、野心ある選手がビッグクラブ移籍を阻まれた所属クラブと契約延長をする選択肢は考えにくい。また、残り2年間の契約期間があるならば、仮にアーセナルからのオファーがなかったとしても、選手としてはすでに2年間を残す契約をさらに2年間も延長する必要性は希薄であるというのが率直な感覚です。

それなのに、なぜブライトンはカイセドとの契約延長を取りまとめることができたのか。どのような魔法を使ったのか。大変に興味深いです。以下の2点の仮説が考えられますが、それ以上に私の限られた思考からは全く予想もし得ないスキームがあるようにも思えてしまいます。

ブライトンがカイセドに対して、

①天文学的な年俸アップを提示した。
②2023夏の移籍ウィンドーにおいて、移籍を考慮することを約束したorそのような契約内容に変更した。
※ただし、今夏のブライトンの強行姿勢を見る限り、相場上妥当な違約金が定額で設定されたようには見受けられません。

選手としては、報酬が天文学的に増額し、かつ、契約更新していなかった場合は2025年6月まで契約が残存していた中で、2023夏に移籍を考慮してもらえるクラブの姿勢を感じ取ったのであれば、契約延長を受諾するのは不自然ではありません。

ブライトンとしては、仮に契約延長をしていなかったとしたら、カイセドとの契約は2025夏までのため、2024冬もしくは2024夏まで引っ張ってしまうと、契約残存期間が1.5年もしくは1年を切ってしまうため、希望額よりも安く買われてしまう懸念があったはずです。さらに、2025冬まで引っ張ると契約は残り半年を切るため、他クラブとの選手契約の締結がFIFAルール上可能となってしまう。そのため、仮に契約延長をしていなかったとしたら、今夏の移籍ウィンドーはまさに最高値(=それ以降は値崩れの懸念あり)での移籍放出のタイミングでした。そのような状況であったら、まるで「£100m以下は門前払い」とでも言うような超強気な交渉は、2023夏時点からしづらくなるはずでした。

だからこそ余計に、ビッグクラブ移籍を希望するカイセドに契約延長を決断させたことはミラクルな成果ですし、余裕のある残存期間が今夏のブライトンによる強行姿勢のベースになっていたと考えられます。

驚嘆ポイント2:チェルシーに£80mで移籍放出しても合格点なのに、何があっても妥協せずに、最終的には£115mを獲得したこと

当事者ではないので真相は定かではないですが、仮定として、契約延長の代わりに2023夏での移籍を考慮する条件になっていたとすると、ブライトンがチェルシーからの最大£80mまで増額した第1次オファー群を断り続けた勇気にも驚かされます。

普通は「約束が違う」と選手及び代理人が激怒します。実際にカイセドは練習をボイコットしたという報道もありました。それでも、£80mでは放出しなかったことを考えると、ブライトンとしては£100mという金額が、今夏の基準額になっていたのかもしれません。そしてその旨は、2023年3月の契約更新時にはカイセド本人には明かしていないはずです。なぜなら、£100mが提示されない限り移籍を許可されないことを選手が知っていたならば、契約更新という判断を下すことは不自然です。

アーセナルからのオファーがシーズン途中に£70mだったことを考慮しても、チェルシーからの提示はオフシーズンであり、かつ、仮にブライトンが選手との契約更新時に2023夏の移籍を考慮する約束をしていたとしたら、£80mは十分に合格点でした。

それを安売りせずに(※本来、移籍金£80mは決して安売りではない)、強固な姿勢を貫き通し、最終的にチェルシーには第2次オファーとして£100mを出させ、さらにリバプールには+£10mの£110mを提示させ、しまいにはそれを上回る£115mを3次オファーとしてチェルシーに出させ、英国市場最高額のディールを実現した交渉手腕は、ただただ驚くばかりです。

あくまで仮説ですが、チェルシーが第2次オファーを+£20mの£100mで提示したこと、また、リバプールがそれを先読みしてチェルシーを£10mだけ上回る£110m£を提示したことの2つが、一夜にして突如同時に発生した不自然さからも、ブライトンは以下2つの方針をオフシーズン突入前から決めており、今夏戦略的に移籍市場へ情報を流布したのではないかと推理します。

①2023夏の移籍を許容する基準として、当初(=カイセドとの契約更新時)から£100mに設定
②他クラブからのオファーを許容する期限をプレミアリーグ開幕直前の8/10や8/11に設定

これならば、ブライトンがチェルシーからの最大£80mのオファー群を断り続けたのは不思議ではありません。ブライトンが自らオークションの場を作り出し、他クラブも含めたチキンレースを展開したのではないか。チェルシーはチキンレースに折れ基準額である£100mを提示し、リバプールがそれを見越して、わずか+£10mだけ高額な金額をオークションの終了間際に提示し、移籍金は大幅な増額を達成。リバプールで決まりかけたはずのディールでしたが、最大の肝は、ブライトンが設定した②の期限が実態としてあってないようなものだったこと。リバプールの持つ予算枠が明るみになり、カイセドをいくら積んでも欲しいチェルシーが、最終的にリバプールを+£5mだけ上回る金額を提示し、最終落札者となりました。ちなみに、これまでのブライトンの狡猾さから鑑みるに、カイセド本人が家族の事情もあってかリバプールよりもロンドンでのプレーを望んでいたこともクラブが実は把握していた上で、上記のようなオークションのビットの流れを予想していたのではないかとすら勘繰ってしまいます。

真相は定かではありませんが、このように引き抜かれる側のクラブの姿勢をあれこれ妄想してみると、さすが世界最高峰のプレミアリーグ、移籍市場における立ち振る舞いについても学ぶところは多いものです。

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