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『ChatGPT「超」勉強法』 全文公開:                          はじめに

『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)が3月15日に刊行されました。
これは、はじめに全文公開です。

はじめに

ChatGPTが勉強に革命を起こす

ChatGPTの「幻覚現象」を避けながら、勉強に活用するには?

 これまでの教育は、学校での教師の授業を中心になされてきた。ところが、生成AIであるChatGPT が2022年の秋に登場し、勉強の方法に革命的な影響を与えようとしている。科目によっては、人間の教師よりもChatGPTのほうが知識伝達を効率的に行なえるからだ。この大変化に対応して、勉強の方法や教育の仕組みを、根底から変える必要がある。
 では、ChatGPT 時代にはどのような勉強法が必要になるのか? 本書の目的は、この問いに答えを与えることだ。
 ChatGPT をうまく利用すれば、勉強の成果に著しい効果がある。ただし、現在の技術では、ChatGPT に全面的に依存することはできない。なぜなら、ChatGPT の答えには、誤りがありうるからだ。これは「ハルシネーション」(幻覚)と呼ばれる現象だ。これをいかに避けながら勉強に活用するかが、重要な課題となる。本書は、これについて、いくつかの具体的な方法を示している。

ChatGPTは外国語に強く、数学で弱い

 ChatGPT をどう利用できるか、人間の教師をどの程度代替できるかは、教科によって異なる。その詳細は本書の第Ⅱ部で科目ごとに論じるが、概略を示せばつぎのとおりだ(表参照)。

ChatGPT がきわめて有能なのは、言葉の勉強、とくに英語など外国語の勉強だ。ここで、ChatGPT は、人間の教師が及びもつかないほど絶大な力を発揮する。国語の勉強にも有用だ。正しい表現や適切な表現などを教えてもらうことができる。
 一方で、慎重な利用が必要とされる分野もある。その代表が、算数・数学だ。なぜなら、ChatGPT の数学的能力は低いからだ。数学だけでなく、形式論理で間違うこともしばしばある。うかつに使えば、有益な結果が得られないだけでなく、誤った知識を学習してしまう危険がある。
 ChatGPT は言葉を扱う仕組みであり、そのため、数学的推論では能力に欠けるところがあるのだ。これは、多くの人にとって意外なことだろう。実際、ChatGPT の学習への利用に関するアンケート調査の結果を見ると、数学の勉強に利用するとの回答が多い。しかし、こうした利用法は間違いなのだ。
 以上で述べた外国語と数学が両極端だ。社会科や理科は、これらの中間になる。うまく使えば、ChatGPT は理想的な家庭教師になる。そして、興味を維持しつつ、楽しく勉強を進めていくことができる。
 このように、ChatGPT がどの科目で有用であり、どの科目でそうでないかを正しく知ることが重要だ。

『超「超」勉強法』の基本原則は変わらない

 本書は、2023年3月に刊行した『超「超」勉強法』の続編となっている。この本を執筆したとき、私はすでにChatGPT を使い始めていたが、『超「超」勉強法』では、その影響について、十分に論じることができなかった。第4章でChatGPT の登場を紹介し、第6章でChatGPT について簡単な評価を行なうにとどまった。
 本書は、『超「超」勉強法』の考えを基本としつつ、ChatGPT が勉強法をどのように変えるか(あるいは、変えないか)を、中心的な課題として考察している。
 英語などの外国語の勉強については、『超「超」勉強法』で強調した「丸暗記法」が、ChatGPT の利用によって容易になる。これは、ぜひとも活用すべき大変化だ。
 数学の勉強について、『超「超」勉強法』では、問題の解き方を自分で考え出す必要はなく、解き方を暗記し、それを実際の問題に応用する訓練が重要だと述べた。この考えは、ChatGPT の時代においても変わらない。国語、社会・理科については、ChatGPT が新しい勉強の方法を提供する。
 なお、『超「超」勉強法』と同じく、本書は学齢期の勉強(小学校から大学まで)を念頭に置いている。ただし、ここで述べる方法は、社会に出てからの独学やリスキリングにおいても等しく有効だ。

◆◆◆

 本書は3部から成る。第Ⅰ部では、ChatGPT 利用の基本について述べる。ここで強調しているのは、ハルシネーションへの対処だ。第Ⅱ部では、ChatGPT をどのように使えるかを、教科ごとに具体的に示す。第Ⅲ部では、教育制度にどのような影響が及ぶかを述べる。

 第1章では、ChatGPT と「超」勉強法の基本的なつながりを考える。「超」勉強法の原則の一つは、全体を捉えることによって部分を理解することだ。そして、そのために、できるだけ早く先に進むことだ。これによって、興味を維持しながら勉強することができる。
 私は、これまで様々な機会に、「勉強は楽しい」と強調してきた。そして、そのための具体的な方法を提案してきた。ChatGPT は、「超」勉強法を実行するための理想的な手段だ。

 第2章では、ハルシネーションとそれへの対処について述べる。ChatGPT が出力する結果は、常に正しいとは限らない。ChatGPT は、数学的推論や形式論理の応用で、しばしば誤る。また、社会科や理科でも間違った答えを出す場合がある。
 学生が誤った知識を身につけてしまわないよう警告を発することが、喫緊の課題だ。ハルシネーションが生じる原因の一つは、生成AIが数学の法則や論理法則を理解する際の仕組みにある。ChatGPT は、これらを言葉(あるいは数字)と言葉(数字)の関係として捉えている。数学的推論能力が低い基本的な原因は、ここにあると考えられる。これは、「シンボル・グラウンディング問題」と呼ばれる難問だ。
 ハルシネーションに対処する一つの方法は、使い途を限定化することだ。また、ChatGPT
の答えを書籍や検索エンジンでチェックすることも必要だ。

 第3章では、ChatGPT の基本的な役割について論じる。ChatGPT を用いれば、検索語が分からなくても調べることができるし、適切な検索語を知ることもできる。また、長い文献のどこを読めばよいかも分かる。つまり、ChatGPT は、最終的な知識を教えるというよりは、そこに至る手助けをするのだ。最終的な知識は、書籍や文献にある。
 ChatGPT から有益な答えを引き出すためには、質問力が重要だ。

 第4章では、ChatGPT が英語(外国語)の勉強にきわめて大きな影響を与えることを述べる。丸暗記法のための教材をいくらでも教えてくれるし、その助けを借りて文章を書き、それを丸暗記するという利用法もある。なお、英語の勉強で話す訓練は必要ない。正しく聞くことができれば、自動的に話せるようになる。
 日本の英語教育では専門用語の訓練がきわめて不十分だったが、これをChatGPT が大きく変えてくれることが期待される。
 ただし、言葉は文化であるので、外国語を勉強する必要性はなくならない。

 第5章のテーマは、国語の勉強だ。ChatGPT は、文章の校正で非常に高い能力を持っている。この能力を活用して、自分が書いた文章を直してもらう。とくに敬語の使い方については、この方法が有用だ。また、例や比喩などで適切なものを教えてもらうこともできる。
 日本語には適切な類語辞典がないのだが、ChatGPT がそれを補ってくれる。ただし、ChatGPT の書く文章が適切なものである保証はない。また、形式論理を間違えることもある。

 第6章では、算数・数学の勉強について述べる。ChatGPT の数学能力は低いので、慎重な利用が必要だ。『超「超」勉強法』で強調した「丸暗記法」を行なうのがよい。ただし、現在勉強していることが実際にどのように応用できるのか、数学全体の中でどのような位置づけなのかなどは、ChatGPT に教えてもらうことができる。

 第7章のテーマは、社会科と理科だ。ここでは、とくに歴史、経済学、物理学の勉強について述べる。ChatGPT を使えば、知りたいこと、疑問に思っていることに直ちに答えが得られるので、社会科や理科の勉強が楽しくなる。読み尽くせないほど巨大で、面白い本を読んでいるような楽しさを覚える。

 第8章では、まず、人間の教師とChatGPT の役割がどう変化するかを考える。外国語では、ChatGPT への代替が進むだろう。他方、数学では、人間の教師の役割が依然として大きい。国語や理科・社会科はこれらの中間だ。どの学科でも、「何を学ぶべきか」を指導するのは、人間の教師の重要な役割だ。
 文部科学省のガイドラインなどでは、課題論文をChatGPT だけで書くことを禁じているが、これを実行しようとすれば、現場では様々な問題が発生するだろう。ChatGPT を積極的に取り入れる方向に転換すべきだ。
 なお、就職活動でのエントリーシートをChatGPT で書ける時代になっている。この機会に、エントリーシートはやめにすべきだ。

 第9章では、様々な技術革新が知の独占を破壊してきたことを見る。生成AIは、この傾向をさらに進める。その中で、大学が生き延びることができるか否かを考える。

 第10章では、社会的な共同生活を行なう訓練の場としての学校の役割を考える。これは、
ChatGPT によっては代替できないものだ。イギリスのパブリックスクールや大学のカレッジ制での教育がこうした面を重視していることを指摘する。また、社会に出た後の勉強も重要な課題だ。

2023年12月野口悠紀雄


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