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【日記】写真の裏側

(994文字)
ゴールデンウィーク中、ハワイから帰省していた妹夫婦と母を連れて、春の花を見に行こうと、国営武蔵丘陵森林公園に出かけた。
この日はルピナスが満開だということで、車椅子を借りて母を乗せ、道の脇に咲く花を眺めながら、のんびりと歩いて行った。

ルピナスの花畑に着くと、とうもろこしのような、藤の花を逆さにしたような特徴的な花が色とりどりに咲いていた。
早速ボクたちはスマホで花の写真や、母を挟んだ記念写真などを撮った。
周りには一眼レフを持った人たちも多く、鳥のさえずりをBGMに撮影を楽しんでいた。

そんな中、一際大きな声が聞こえてきた。
声の主は30歳前後の女性。低い位置からカメラを構えてなにやら叫んでいる。
「ホラ!こっち向いて!」
カメラには大きな望遠レンズが付いている。カメラの狙う先を見ると、花畑の中の切り株に3歳くらいの男の子が座っている。
「そんなのいじってないで!こっち向いて!ホラ!何してんの!」
それはもう怒号に近く、身体中から苛立ちを発していて、周りにいる人たちの気持ちを沈めていく。
「もう!なにやってんのよ!」
その後も、時に優しく諭すように、しかし再び怒号を飛ばしながら、母親は苛立ちを隠さない。
たまたま子供の近くにいた老夫婦が、それを見かねて子供に声をかける。
優しく、お母さんの方を向くように促していたのだと思う。
そして母親はファインダーをのぞいて夢中でシャッターを切っていた。

おそらく、ポスターなどで使われるような、満面の笑の子供と花の写真を狙っていたのだろう。それが思うように撮れたかどうかはわからない。
ここからは、ボクの勝手な想像だけど、撮れていたとしたら、それはSNSにアップされるのだろう。
そしてその写真はあたかも幸せそうに見えて、たくさんの人が「いいね」を押す。

あの母親はなにが目的なのだろうかと考えてしまった。
子供の可愛い姿を写真に残すことか、それともたくさんの人たちの「いいね」を集めることか、その両方か。
ただ、子供に楽しい思い出を残してあげたいと思っているようには見えなかった。
自分の目的のために、子供を道具として使っているようにすら見えた。
母親は、あの場にいた周りの人たちの多くが、いたたまれない気持ちになっていたことも気にしていないだろう。
これが、キラキラしたSNSの写真の裏側なのかと、なんだか重い気持ちになった。
もちろん、みんながみんなそうじゃないだろうけど。

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