非正規女性と出産・育児の解像度の低さ
プレジデントのオンライン記事で、「統計データが語る「女性の社会進出こそが少子化の元凶」はなぜ真っ赤なウソか」 というものがあり、そこでは以下のグラフを示して「専業主婦よりも共働き女性の方が子どもを多く持つ、という結論になります」と言っているのですが、この結論はおかしい、という話をします。
まず、この記事でいう「共働き家庭」はごく短時間のパートも含みます。なぜなら、ソースとなっている国勢調査の労働力状態の定義は以下の通り「調査週間中に、仕事を少しでもした人」だからです。さらに、育休中の人なども「働いている」に含まれることがわかります。
e-Statで、元データとなる平成27年国勢調査を見てみます。
子供の年齢0〜2歳では「男親のみ就業者」が最も多く、「両親とも就業者」は子の年齢が上がるにつれて増えていき、3歳で「男親のみ」を超えます。先の定義にあったように、会社に所属して産休・育休をとっている人は0歳から「就業者」としてカウントされています。
なので、母親が出産前に仕事を辞めていて、子どもが幼稚園に入ったらパートを始める、というパターンが多いのではないでしょうか?
最近は、短時間パート程度では「共働き」と堂々と名乗れない感じがあるけど、ほとんどの政府統計では、ごく短時間でも働いたら「労働した」という定義となり、それが「共働き」としてカウントされています。そこを取り違えて、「共働き=夫婦とも正社員」であるかのような主張をしている人をよく見かけます。
そもそも専業主婦と共働きを比べて「専業主婦よりも共働き女性の方が子どもを多く持つ」というのはおかしいのではないでしょうか? 一生働かない女性と一生働き続ける女性だけがいるわけではありません。正社員なら産休育休を取り働き続けようとするだろうけど、非正規雇用なら働いたり辞めたりするハードルが低いからです。
非正規雇用の場合、出産前後は無職になり、生みたい人数の子供を産み、子どもの手が離れたらまた働こう、というのは自然な発想であり、この場合「働いている女性の方が子供が多くなる」のは当たり前です。
キャリア女性による言説や分析は、本人が一生働こうと思っているからか、「一生働かない女性と一生働き続ける女性」を前提にしているようで、的外れに感じます。 「一生正社員」なんて望めない女性は、その時の状況に応じて非正規で働いたり働かなかったりしているのが現状です。
それを考えると、既婚子持ち女性を「専業主婦」と「共働き」に分けるよりも、「特に出産前後の間は無職となり、子供が育ったらまた働く(ほぼ非正規)女性」と「一生正規職員の座をキープできる女性」の方が妥当だと思います。
前者を「専業主婦」、後者を「共働き」と呼ぶと、各種統計で「子供が小さい頃は専業で、子供が育った今は短時間パートの女性」は「共働き」に入ってしまい混乱の元です。
先ほどの記事、「統計データが語る「女性の社会進出こそが少子化の元凶」はなぜ真っ赤なウソか」には、以下のようなグラフも引用されています。
こちらのソースである「労働力調査」の仕事の定義は以下のとおりで、国勢調査と同じく短時間のパートを含みます。
こちらは女性の働き方について論じる時によく見かけるグラフですが、グラフの下が切ってあるので実際よりも専業主婦世帯が少なく見えるインチキグラフであるのに加えて、ソースである「労働力調査」の統計では、子供の有無や年齢は問題にしていないので、子供がいないか成人している世帯も含んでいます(なお、最新バージョンのグラフはこちら)。
少子化問題や子育て支援について議論する目的なら、子どものいる世帯のデータを示すべきでしょう。日本の人口は逆ピラミッド型であり、最近はシニア層のパート労働が多くなっているというデータもあるので、子が成人して夫婦ともパートで働いている層も多いはずです。
それでは、正規雇用で働く女性の比率はどうなっているのでしょうか。
こちらは、同じく労働力調査をもとにした正規雇用比率のグラフです。こちらも既婚かどうかや子供の有無は問題にしていません。結婚していたり子供がいると正規雇用から離脱しやすくなるだろうと思います。
このように、50代以下の女性は7割以上が働いていますが、40代以降では正規雇用は全体の半分もいません。
私が問題に感じているのは、出産時〜子供が小さい頃は無職、その後は働いても非正規、というのが今でも女性の人生コースとしては割と多いのですが、いわゆる「子育て支援政策」は、正社員夫婦を主な対象とした産休育休、保育園などであり、非正規層に対しては子育て支援がほとんどない現状です。政策決定者にはぜひこの層のライフスタイルへの解像度を上げてほしいし、正社員への転換支援なども充実させてほしいと思います。
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