見出し画像

劇団にしかできないことを問い続ける。「ヨーロッパ企画」上田誠さんはやっぱり偏人だった。【よなよなビアファンド】

笑顔を生み出す多様性人材“よなよな人(びと)”へビールで投資するプログラム「よなよなビアファンド」。様々な分野で活躍する人をよなよなエールで支援するこの取り組みのキャッチコピーは「出る杭に心打たれる」です。

よなよなビアファンド公式Twitter(@yona2_beerfund)
よなよなエール/ヤッホーブルーイングのよなよなビアファンド公式アカウントです🍺知性と偏愛を持った愛すべき変わり者(=よなよな人)をビア投資で応援しています。よなよな人との活動や、ビアファンドプロジェクトの様子などを発信。
「出る杭に心打たれる。」愛すべき変わり者であふれた世界をつくりたい。

...そう、よなよな人の共通項は心を奪われるほどに突出していること。自分の興味を探求する「知性」と、それに情熱を傾ける「偏愛」とを併せ持つ、愛すべき変わり者です。
今回お話をお聞きするのは、この度「よなよなビアファンド」の仲間に加わってくださることになった劇作家で演出家の上田誠さん。上田さんから生み出される作品は、緻密に設計され、思いもよらなかった奇天烈な展開でいつも私たちを振り回してくれます。「へんじん」は「変人」と書くのが一般的ですが、ひときわ飛び抜けた人のことを「偏人」とも言います。上田さんはいったいどんな「偏人」なのか? 知性と偏愛に満ちた上田さんの世界へ旅してみましょう!

<聞き手=ライス、ヤッホーブルーイング・よなよなビアファンドスタッフ>

[プロフィール]上田 誠(うえだ・まこと)さん
劇作家/演出家/構成作家/ヨーロッパ企画代表
1979年京都府生まれ。1998年、同志社大学の演劇サークル内で結成され、SF、ファンタジー、非日常的な設定で繰り広げられる群像劇など、仕掛けに富んだ「企画性コメディ」を繰り出すヨーロッパ企画の代表としてすべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も数多く手がける。構成と脚本を担当したテレビアニメ「四畳半神話大系」が第14回(2010年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞を、ヨーロッパ企画第35回公演「来てけつかるべき新世界」が第61回岸田國士戯曲賞を受賞するなど、受賞も多数。

自分以外の誰かが書けることは書かない

▼いきなりですが、ご自分で「偏人」だと感じることはありますか?

作家として劇団で表現をしているので、せっかくならこの世にないもの、この世ではまだあまり語られていないもの、この世にはまだない面白いものを表現していきたいというのは自覚的に思っていることです。

テレビドラマなどの表現においては、一般的な多くの方々に楽しんでいただけるようなものを求められます。とはいえ作家としては、普通のことは書いてはいけないという自戒があります。もっと言うと「人がすでに書いている言葉は一言も書いてはいけない」とさえ。これはもうほとんど命に関わる問題ともいえますから、なるべく代わりのいない書き手でありたい。誰も発したことのない言葉を放つ人でなければ劇作家として面白みのない人になってしまうわけなので、それはつねづね心がけています。でも、それを伝えるためにはバランスというか、一般常識を意識しなければならない。

……難しいことなんですけどね。でも、普通のことを表現してもつまらないので、偏ったことをなるべく表現していきたいなとは思っていますね。

ゲームオタクで理系

中学高校のときはテレビゲームをパソコンで自分でつくるのが好きだったんですよ。当時は世の中がファミコンとかスーパーファミコンで盛り上がってましたけど、MSXというパソコンをテレビにつないでプログラミングして、チープだけど独特なアイデアのゲームをつくったりしていました。例えば当時は参勤交代をテーマにしたゲームだったり、「地震・雷・火事・親父」というタイトルのジャンケンを複雑にしたような対戦ゲームをつくってみたりとか。プログラムの腕は未熟なんですが、アイデアで勝負するような感じでした。

そんなことの延長線上で、大学は理系に進み、知識工学科という分野を専攻し、将来はテレビゲームをつくろうと思っていました。わりと作家のなかでも、理系っぽい要素が強いほうだと思うので、謎解きのようなことや、伏線を張るとか、パズルのように整合性を合わせて書いていくというのは得意なんですよ。その意味では偏っていると思うし、扱う題材もSF的なモチーフが多かったりするので、いわゆる劇作家的なイメージとは少しズレているとは思います。例えば、だまし絵で演劇を一本つくろうかとか、九龍城の中身を覗き見するような劇をつくろうかとか、あまり誰もやらなそうな着想を大事にします。劇作家としてできるだけ珍しい立ち位置にいたいな、と。

風景や世界観にまずはのめり込む

▼お仕事をされる中で「ついつい無条件でのめり込んでしまうテーマ」はありますか?

テーマはあとから付いてくることが自分としては多いです。「九十九龍城」はもともと香港にかつてあった違法雑居ビル「九龍城」にのめり込んだのですが、なんで香港やアジアにいま魅力を感じるんだろう、と考えたときに、見上げると看板が建物からニョキニョキ生えていたり、洗濯物が道路の上に干されていたり、トラックやバスが過積載だったり、無理だろうという人数が1台の自転車に乗っていたり、人や物があふれて空中にハングしたようなその風景にエネルギーを感じる。この満ち満ちた感じを舞台でやりたいと思って。そこから作劇が始まって、そのうち政治的なテーマにつながったり、集団の営みに関するテーマをはらんだり、善と悪とは何か?みたいなテーマにもなっていく。最終的にはどんなテーマに落ち着いてもいいんです。テーマってそれくらいどうにでもなるもので、後から付いてくるものだと思っています。それよりは面白い「空間」を作りたい。それは予算にも関係するし、ちゃんと計画しないと実現できないものだから。のめり込む風景や世界観がまずあって、それを調べ込んで読み込んで…というところから始まりますね。僕は。演劇は空間から考えるんです。

ヨーロッパ企画第40回公演「九十九龍城」(2021年)
2021年12月の京都公演から始まり、2022年2月26日に神奈川公演で千秋楽となった作品。「なんでもネットで見れると思ったら大間違いで、アジアの知られざる魔境、九十九龍城のことを描きます」と上田さんが言う通り、九十九龍城を捜査することになった2人の刑事が、特殊な遠隔監視システムを使って住人たちの生活を覗き見していく、かつて香港にあった違法集合住宅「九龍城砦」モデルにした「魔窟コメディ」。

ゲームに近いつくり方

▼「空間から考える演劇」ってどのような演劇ですか?

空間から考える演劇の反対側にあるのはセリフから考える演劇。ふつう演劇はそうして立ち上がります。映画は活動写真といわれるようにビジュアル由来の表現。でも演劇は文字から始まる文芸、言葉による産物といった部分が大きく、セリフとか戯曲が大切にされる。テキスト情報を拠りどころにしながらつくられることが多いんです。でも、空間から演劇を考えたっていいはずで。僕の中では、テレビゲームに近い考え方になります。たとえば「スーパーマリオブラザーズ」は、マリオが最初、画面の左側にいて右を向いてるから、右に進めばいいんだな、とか、トゲトゲした見た目のキャラが出てきたら、踏むのは難しそうだなとか、ゴールに旗が立っていたらそれに飛びつけば良さそうだなとか。言葉がなくてもグラフィカルなデザインだけで情報が伝わるじゃないですか。演劇も同じで、空間やビジュアルをうまく設計することで、言葉がなくても伝わる。たとえば肌の色が異なるだけで「宇宙人っぽい」という情報が観客に伝わるから「俺は宇宙人だ」というセリフは不要ですよね。そうなるとセリフは他の自由なことに使えるし、セリフというものの優先順位が変わっていくんです。セリフですべてを表現すれば、舞台美術や小道具がなくたって劇がやれます。そうやってセリフから立ち上がる情景というのは、演劇の大きな魅力です。でも自分は飾り込んだ空間を具体的につくりたい。予算がかかったりして大変ですけど、自分が観客として観たいのはそういう劇なので、空間は大事ですね。

次は「名古屋」か?(笑)

▼次につくりたい空間はどんな空間ですか?

大草原の中にモアイやストーンヘンジがある…みたいな抜けのある空間もかっこいいだろうなとか思いますが、実は名古屋にも興味があって。ごちゃごちゃしていて、いろんなものが金色で。フィンランドなどとは真逆の「もりもりのアジア系」。名古屋のあのギラギラした感じにはちょっと圧倒されるものがあるので、それを極端にして演劇にしたいですね。笑いになるくらい突き抜けたものにするには、相当盛らないといけなそうですけど。

▼大切にされている言葉はありますか?

「ラディカルに物事を考える」。この言葉はクリエイティブ・ディレクターの佐藤雅彦さんの言葉で、根っこから考えるという意味ですけど、なるべく本質的なところから考えてつくるということはかなり心がけていると自分でも思います。でも、それってひどく地味な戦い方でもあるので、本質的に新しくありつつ、表層的にもポップで賑やかな、たくさんの人が楽しめるものをつくらないと。その両輪は心がけていますが難しいところですね。根っこのところは、「今までになかった答えだけどこれ以外に正解はない」というところまで突き詰めて考えたいです。

ラディカルに物事を考える

たとえば「文房具」をモチーフにした劇をやろうと思ったときに、文房具のよさってなんだろう、どこがグッとくるんだろう、というところをラディカルに考える。そうしたときに「文房具って手元の楽しさが本質なのかな」みたいなことが見えてきます。それまで文房具の劇がなかった理由は、文房具ってやっぱり小さいんで、客席からは見えづらく、それって演劇にしにくいんですよ。そこまで分かってきたら、じゃあ文房具を「拡大」するにはどうすればいいか、というふうに考えを進めていく。セリフにして表現するとか、音を増幅して聞かせるとか。最終的には小人の宇宙人たちが地球に飛来してきて、デスクの上の文房具たちを「観光」する、という劇にしていったんです。巨大なホッチキスをつくって、それを開けて中の仕組みを見学する、といったシーンを連ねていって。演劇って大きなものは描けるけど、小さなものを描く方法はあまり発明されてこなかった。だったら「拡大」が今回の演出のテーマだな、と。そうやって筋道立てて考えるというか、文房具をどうデザインすると演劇になるのか? というふうに突き詰めていくのが僕の方法です。アートというよりはデザインしている感覚に近い。

ヨーロッパ企画第34回公演「遊星ブンボーグの接近」(2015年)
2015年の作品。数十年に一度、地球に接近する小惑星から、コンクリートブロック型の飛行物体に乗ってやってきた身長数センチの宇宙人が、机の上の文房具を訪ねる観光旅行を描いた。「カッター折りますんで、足で押さえててください」「消しゴムのソファー、弾力いい感じですねえ!」。手元の楽しさという切り口で文房具を捉えた上田さんならではの文房具コメディ。

劇団にしかできない面白さとは何か?という問い

▼最近考えていらっしゃる問いは、どのような問いですか?

敢えて集団で創作するからこそできることは何か? ということを考えていますね。自分はひとりの作家ではあるんですけど「劇団でやっている作家」だという認識のほうが強い。ひとりでやっていたほうが身軽だというのはあるだろうし、劇団でやっていくほうが苦労は多いという側面もきっとあるんですけど、チームで表現するということをちゃんと徹底してやっていくと、絶対にひとりではできないことがあるんですね。くだらない思いつきを一人でやるより30人でやるほうがすごいことになる。劇団という単位で表現できることはまだまだあると思うんですけど、そのことについては、まだあまり考えられていないようにも思うんですよ。

小説の執筆のお誘いをいただくこともあります。すごい魅力的だしやってみた気持ちもあるんですが、それは劇団がなくてもできること。劇団があるうちは劇団のためにものを書いたり劇団に向けてものづくりをし続けたい。がんばってないとなくなっちゃうものなので。劇団をやり抜いたことでしかできない面白さが絶対にあるはずだと思うんです。挑戦する人が少ないのでやる価値はあるなぁと思いますね。

▼よなよなビアファンドでやりたいことはありますか?

集まりたくて劇団をやっているので、集まったときの媒介になってくれるビールには助けられています。「よなよなエール」にも日頃から楽しませていただいてまして、ファンドいただけるのはとても嬉しいです。僕の実家の焼き菓子工場だった場所を劇団の事務所にしているんですけど、そこに集まってみんなで飲ませていただきたいです。ビールやお酒って物語と相性がいいというか、文芸が入る余地があるというか。名コピーはお酒の広告が多いし、お酒と物語を絡めたような演目を、何かいつかやりたいですね。

ひとりではできないことの大切さを思い知る

世の中を沸かせる作品を連発する上田さんは、確かに“逸品”を生み出すために想像を超えたレベルで尽力されているんだろう。そんな感覚を味わいながらお話をお聞きしていました。同時に「劇団はがんばり続けなければなくなってしまうもの。そのために自分は何ができるのか?」という問いかけを常にご自身に投げている上田さんに激しく同意&心打たれました。表に出る作品のために心血を注ぐのは「つくり手」なら当然のこと。しかし、人々の心を打つ作品をつくるためのしくみづくりのほうにこそ、上田さんは偏っていそうでした。“チームワーク”という言葉の重みを上田さんは教えてくださったように思います。

「よなよなビアファンド」では、これからも新しい“よなよな人”の発掘や、“よなよな人”への支援を行っていきます。これからの「よなよなビアファンド」も、お楽しみに!

よなよなビアファンド公式Twitter(@yona2_beerfund)
よなよなエール/ヤッホーブルーイングのよなよなビアファンド公式アカウントです🍺知性と偏愛を持った愛すべき変わり者(=よなよな人)をビア投資で応援しています。よなよな人との活動や、ビアファンドプロジェクトの様子などを発信。
「出る杭に心打たれる。」愛すべき変わり者であふれた世界をつくりたい。

(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?