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2021年メディア領域振り返り

Z Venture Capitalの山下です。
メディア・エンターテイメントの領域でスタートアップへの投資を行なっています。

年の瀬ということで、2021年のメディア領域を振り返って、各トレンドでどんな注目プレイヤーがいたのかや、一年を通じてマクロトレンドで何が起こっていたかを考察していきたいと思います。

1-3月:NFT

まず1-3月の話題として欠かせないのはNFTですよね。

NFTの流通総額はNonFugibleのQ3のレポートによるとQ3のNFTの取引総額は、昨年対比で268倍(Q3だけで6,700億円ほど)にまで急成長しました。

NFT作品が75億円で落札されたり、最近でもデジタルシューズ制作スタジオの「RTFKT」がNIKEに買収されたりと、一年中話題に事欠きませんでした。

NFT普及によるメディア領域のマクロな変化は大きく二つが挙げられ、今後もその流れは加速すると考えられます。

クリエイターやIPホルダーにとって新しい収益源が生まれる

デジタルコンテンツを作ってもデジタルデータはコピー可能かつ、唯一性が証明できず、結果として電子書籍業界は海賊版の流通などで苦しめられ続けた過去があります。

コンテンツの中身・内容に価値はあってもデータそのものに価値を持たせられなかったので、売り手は非常に不利でした。

ところが、商品に唯一性が認められるようになればコピー品はオリジナルの商品と価値に差異が生まれ、売り手の自由度が圧倒的に高まりました。

日本国内でも、スクウェア・エニックスやクオン、メディア・ドゥなど様々な企業がNFT参入の名乗りを上げています

NFTのコンテンツフォーマットも、今後さらに増えていきそうですね。

個人が趣味としてオルタナティブ資産を持つ動きの本格化

今まで、推しを応援したり、好きなブランドの商品を購入しても買った個人への商品くらいで、経済的なメリットはほとんどありませんでした。

NFTにおけるOpenSeaだけでなく、メルカリのような二次流通市場が盛り上がることでこうした現状は一変しました。

ユーザーは、好きな商品を購入するだけで、需要が増えた時にそのアセットを売却すれば利益を得られるケースが増加しました(購入後、すぐ利益確定する人たちを転売ヤーとも呼ぶと思います)

コロナで「巣ごもり投資」が増加したといったニュースもありましたが、二次流通価値のある商品をオルタナティブ資産として収集するトレンドは、こうした個人の資産運用の加熱とも近いトレンドなのかもしれません。

4-6月:クリエイターエコノミー

個人で活動するクリエイターをエンパワーメントする動きも、2021年でより活発になりました。

教育系が大型調達し、スキルシェア2.0の時代に突入

高付加価値/高単価でストック型のコンテンツを販売できる時代になり、KajabiやMasterClassなどクリエイターが高付加価値の学習コースを提供するプラットフォームの調達額がこの領域では群を抜いています。特に、Kajabiは累計で約630億円も調達しています。

Udemyに代表されるような、販売機能をマーケットプレイスが担うビジネスモデルから、SNS等を通じたクリエイターの集客力が重要視され、「どれだけ販売力のあるクリエイターを抱えられるか」が重要な局面になりました。
マーケットプレイスとクリエイターの立場が逆転したことで、スキルシェア2.0とも言える転換期を迎えた一年でした。

クリエイター向けツールと収益源を提供し、一気通貫でクリエイターを支援するプレイヤーも大型調達

教育系の大型調達が目立つ一方、バーティカル領域でクリエイターを支援するプレイヤーも大型調達に成功しています。音楽レーベル機能をプラットフォームで代替する「United Masters」がAppleをリードに、フォローでAlphabetとa16zから大型の資金調達を完了。Twitchなどの配信者に配信画面のカスタマイズツールを提供する「StreamElements」、アーティストのライブのチケット販売・予約を提供する「Dice」もソフトバンク・ビジョンファンドから大型調達を行いました。

共通している点はフリーミアムでツールを提供する点に加えて、広告主の紹介やマージンの増加など収益源まで一気通貫で提供する点です。

フリーミアムモデルでツールを提供してクリエイターを囲い込み、広告主やECのマージンなど、クリエイティブ活動以外からマネタイズしていくプレイヤーは今後も増加していきそうです。

9月-11月:メタバース

Facebook→Metaの社名変更とメタバース領域への巨額の投資の発表は大きな話題になりましたが、メタバース経済圏の先駆者であるROBLOXの上場も今年の3月だったりしました。

メタバース経済圏の勃興

ROBLOXは「ゲーム版Youtube」とも呼べるビジネスモデルでメタバース経済圏を構築し、上場時4兆円ほどだった時価総額も順調に業績を伸ばし6.7兆円まで伸ばしています

ROBLOXのビジネスモデル

日本でもHIKKYがdocomoから大型の資金調達を行いましたが、クリエイターをエンパワーメントする経済圏がすでに実現できている点は、特に大きく評価されたポイントだったのではないでしょうか。

XRデバイス本格普及の兆し

XRデバイスの本格普及もGAFAがより本格的に乗り出しています。

Metaは決算報告からVR/AR部門へ1.1兆円以上の投資を年間で行い、そのペースをさらに加速させていく、と公表しています。MetaのOculus Quest2の売上も昨年対比で3倍の出荷量と、更なる急成長を見せました。

Appleも来年〜再来年に待望のARグラスを発売すると特許申請等をソースとして噂されており(永遠に言われ続けてもいますが・・・)、Appleの参入でXRソフトのレイヤーの市場自体も急拡大しそうです。

12月:web3

12月のトレンドはやっぱりweb3です。

web3のインフラが相次いで資金調達

海外ではweb3のインフラであるAlchemy、Third Web、FigmentやMysten Labsなどが資金調達し、NFT、ソーシャルトークンやマーケットプレイスを構築してweb3のプロジェクトを立ち上げられる素地が整いつつあります。

Web3をベースにサービスが構築されると、トークンと呼ばれる暗号資産でコミュニティに帰属することになり、トークンを介してユーザーがサービスの方向性を投票などで決定(DAO)したり、分散型金融(DeFi)によって、ユーザー間で直接的に金銭のやり取りが行われ銀行も介在せず、NFTのようにアセットも唯一性を持って個人が所有することができます。トークン自体も二次流通価値を持ち、需要が供給を上回ると価値が向上します。

プラットフォーマーが介在しないことで個人にあらゆる権利が帰属するのがweb2との違いですが、トークンがコミュニティ参加者へのインセンティブとしての側面も持ちます。

ソーシャルトークンが新しいビジネスモデルを作る

クリエイターエコノミー的な文脈では、ソーシャルトークンを活用したファンコミュニティの形成は注目です。

海外ではSocios、国内ではフィナンシェなどがすでに先行して展開しており、Sociosは海外のサッカーチームがすでにファン向けのプログラムとして展開を始めるなど、事例も生まれてきており、今後も様々な事業者の導入が進んでいきそうな予感です。

注目しているマクロトレンド

1.脱プラットフォーマーの動きが加速

Web3の勃興による脱プラットフォーマーの流れがさらに加速しました。

例えば、メタバースの事例で取り上げたROBLOXは売上の75.5%がtakerateとしてプラットフォームに徴収される驚愕のビジネスモデルで、プラットフォーマーの強みを存分に発揮しています。

メタバース×web3の領域で成長するSANDBOXは、基本的にマーケットプレイスでの手数料をほとんど徴収せず、マージン収益のビジネスモデルそのものを否定しています。さらに売上の50%をクリエイターへの基金として還元されるというクリエイターへの優遇ぶりです。

SANDBOXの収益分配モデル

プラットフォーマーが圧倒的に優位だった頃から、クリエイターがファンを抱えてプラットフォームを選べる時代になったことで、教育ならUdemyからKajabi、動画クリエイターならYoutubeに加えてPatreonのような収益プラットフォームへの転換など、クリエイターへの収益還元を武器にして、巨大なプラットフォーマーからのリプレイスを行うスタートアップがシェアを高める契機になりました。

Web3/NFT、クリエイターエコノミーといった潮流は、脱プラットフォーマーの動きの最たる例です。

ここに、個人情報を誰が管理するか?プラットフォーマーの独占をどのように回避するか?といった議論もなされていますが、こちらはメリット・デメリットそれぞれあり、結論が出るまで時間がかかりそうです。

2.コミュニティの力

上述の脱プラットフォーマーの流れを牽引したのが、クリエイターを中核としたコミュニティの力でした。

NFTやweb3、クリエイターエコノミーはクリエイターを起点にしたコミュニティが、小さな経済圏が無数にを構築されることで成立しています。

クリエイターがソーシャルで影響力を持った後、Discordなどでコミュニティを形成し、ファンをエンゲージメントする形がより強固になったことが証明された1年で、今後web3が普及していけばコミュニティ運営をソーシャルトークンを活用するケースもさらに増加していきそうです。

ソーシャルトークンが普及したときに注意したいのは、トークンホルダーに愛想を尽かされてコミュニティから離脱する人が増えてしまうことです。

トークンホルダー達の資産価値自体が下がるので、負のスパイラルに陥ってしまうのでコミュニティ運営の重要性は非常に高まります。そうしたコミュニティマネジメントができるインフルエンサー的立ち位置のクリエイターは、今後も重宝されていきそうです。

3.趣味としての「資産保有」

NFTやトレーディングカードなど、資産価値を持つ商品需要が急激に増加しました。

例えば、NFTだけでなくトレーディングカードのebayのGMV推移は、2020年から2021年にかけて2倍(推定ベースで2,000億円以上増加)になっています。

ebayのTCGカテゴリGMVの推移(推定値ベース)

これらには、

・C2Cのマーケットプレイスの普及
・株式等の少額小口投資という概念のコンシュマーへの普及
・ヒットコンテンツの増加

といった背景があると考えられます。

NFTは絵画やデジタルシューズなど、質の高いコンテンツが流通数が絞られていることで価値が生まれ、コンテンツと非常に相性が良く普及しました。

一方、ソーシャルトークンもコミュニティに所属する権利自体が売買可能な資産になります。

今までのコンテンツの売り切り型が減少し、これからは好きなものの権利をサブスクリプションのようにトークンで保有して「好きなものをオルタナティブ資産として扱い資産運用する」という価値観も、徐々に当たり前になっていくのではないでしょうか。

最後に

2021年メディア領域トレンドのまとめでした!

昨年と比べて、今年はメディア領域の動きが本当に多い一年でした。来年がどんな年になるか楽しみです。

来年に入っても気になったトレンドはどんどんTwitterで発信していきますので、興味を持っていただいた方はぜひTwitterのフォローやDMをお待ちしています!

それでは皆さん、良いお年を!

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