16AliCes_客室5号室

Dead or AliCeというTRPGシステムで開催された、8ペア16人の参加者によるデスゲーム、『16人の救世主』(16AliCes)。
当該企画と、自PC『エルレンマイヤー卿アレクシア』、ペアを組んだ『シャルル・ベルジール』、またそれらにまつわるさまざまのことについて、とりとめのないお話。
 
マジで思うままにさまざまを書いたからはちゃめちゃに長い。
目次を付けておくから、なんなら最後の『エルレンマイヤー卿アレクシア』のとこだけ読んでくれ。

*デスゲームの始まり

 まずは、2020年7月中旬。16AliCes主催である水面ちゃんとともに、『救世主の箱庭』というDead or AliCe(以下DoA)のチュートリアルシナリオをうたさんに回してもらうことになったわたしがいた。DoA初プレイ! お茶会! 裁判! 心の疵! まあこれについては既にDoA紹介記事として書いたものがあるのでそちらを参照してください。(TRPG「Dead or AliCe」をやってくれ
 そしてこの卓中に、水面ちゃんが「3人バトルロイヤル3卓やって、勝者3人でもう1卓やる疵抉り大会やろうかな」と言い出しました。
 さらにその後、わたしがDoA紹介記事で「対立型2サイクルシナリオとかやったら、もっとバチバチに煽りあい抉りあいが多発したりするわけかな?」などと書いたりした流れの中、「2vs2いいな……ペアだと疵舐めもできるし……」と思い直した水面ちゃん。ならば8人だ! 末広がりで縁起もいいね! 年末年始はデスゲームで決まり! ということに。
 結果。水面ちゃんの集客力により、16人になった。
 すごいな……。16人って16人だぞ。しかもみんな揃って凄まじいロール強者であり、わたしはたいへんにびびっていました。びびるわ。
 とはいえわたし自身、この年末特番デスゲームに参加してほしいんだ! なっ! わたしがチュートリアル回すから死にに来てくれ! と言って初めてTRPGのGMをすることになったりもしたのだがそれはそれとして。

*ヤバい人と組んでしまった

 今回のデスゲーム、わたしとペアを組んでくださったのは、施音さん
 このひとが……ヤバい。ヤバかった。
 わたしが女主人、施音さんが男従者でやろう、ということだけが先に決まったのですが、まず出してきたキャラにのっけから四肢がなかった。マジで? 後天的に自分の意志で切って機械換装したそうです。おう……。この相棒については後述します。
 16AliCesは2020年11月15日に各々の一回戦のキャラシートが公開され、12月28日に全行程が終了、というイベントだったのですが、その期間内、我々は諸々含めて概算100時間のロールを積みました。積んだようだ。計算するとそうなるんだ……(というかむしろ余裕で100時間を突破している気がする)。
 8ペア16人のトーナメント。つまり一回戦は4ホールが並列で開催されたわけですが、我々のペアは日程上開始が最後でした。しかし、11月16日。トップバッターのホールのプロローグが始まって14分。
 なんの前触れもなく、Discordのペアチャンネルでロールが始まった。
 なんの前触れもなく、Discordのペアチャンネルでロールが始まった(二度言う)。なんで?
 しかしながら、そこで「えっ?」とか挟めなかったわたしはついその流れに乗ってしまった。ここで何かのスイッチが入れられた。なんのスイッチかって? フルスクラッチ乙女ゲーだよ。

*シャルル・ベルジール

 相棒です。キャラクターシートはこちら
 顔が良い。顔の良い26歳。アレクシアは22歳なので、年上の従者です。
 キャラシの肖像画を見るとスチームパンク(アレクシアの出身世界)的なややクラシカルな空気の服装をしていますが、彼は実はぜんぜん違う世界から来ています。終わらない戦争、枯渇した資源、牧場で資源化する人間、殺人に間引きに人身売買、そしてまた果てもなく戦争、みたいな世界らしいですね。ディストピアです。堕落の国より酷い、端的に言えば終わりの先を這いずっている環境の中、兵士として戦場にいたシャルルは自らの意志で、二の腕半ば、腿半ばから四肢を切断手術、機械換装しているという……なんだかもう設定に慣れて麻痺していましたが、改めて書くとコメントに困るな。ちなみに彼の機械の手足は生身と同じように動くのですが、感覚器は未搭載です。痛みのない手足が戦場で便利だったそうで。
 アレクシアとは、作中時間で半年ほど前、彼の組織したヤクザ団体……もとい、エウリーク商会という(銃器の販売やら、傭兵の斡旋やらを行う)救世主の集団にアレクシアを『顔』として引っ張り込み、自分はその右腕に納まったという関係。主従と言っても、利害関係から発生したものでした。
 シャルルは物腰柔らかに見える敬語の男性ですが、心の疵に『加虐嗜好』を持つ、ヤバを自覚的に取り繕っているタイプの人です。
 そして、彼のもうひとつの心の疵は『代替品』。シャルルは元の世界に慕う女性(元祖エウリーク商会のトップ、年上、重火器が似合うというつよつよの女)がおり、その代替としてアレクシアを商会のトップに据えました。
 しかしながら、こうしてアレクシアを『代替品』にしたことで、彼の自爆が始まったわけだが……。

*フルスクラッチ乙女ゲー、開催

 なんのこっちゃ。
 そう思うでしょう? わたしもそう思う。
 一回戦別ホールのセッション開始日、Discordのペアチャンネルで唐突に始まった観戦ロール。これがですね、自分たちのホールを除く3ホール、全日程に渡ってほぼ完全にオンタイムで続いたんですね。
 具体的に言えば、一回戦が行われた11月16日から11月30日までの間、自分たちの本戦も含めると、15日中14日、一日3時間以上ロールをしていたんですよ。どういうこと?
 上のほうで我々のペアは日程上開始が最後だったと書きましたが、自分たちの本戦開始時点ですでに20時間のロールが積まれており、わたしはその時点でめちゃめちゃでした。めちゃにしたのはパートナーの施音さんですが。
 観戦ロールについてもリプレイサイトに載るそうなので(と思っていたが載らない気もしてきた)(のでココで見れるようにしました)内容の仔細に関してはそれを見てくれとしか言いようがないのですが、とにかく、あの、その、ええと……乙女ゲーが……乙女ゲーで……。こんなに長時間差し向かいで、こんなに心理的距離の近づいていくロールしたことない。なかった。
 施音さん曰く「(アレクシアの心が折れて)戦えなくなると困るので」という理由で、シャルルが急速に距離を詰めてくる。ものすごい詰めてくる。当初の想定、もっとビジネスライクだったはずなんですけど……?
 まずもって、3ホールの観戦を通底して、シャルルはアレクシアに「死なせたくない」、「変わってほしくない」、「壊したくない」、「傷つけたくない」と言い続ける。……お前そんな性格だった? 客室に二人きりの狭い環境で交わされる『価値』の話、『祈り』の話、『信仰』、『信頼』……うーん、お前本当にそんな性格だった? いや、根底は一切変わっていないのだが、対アレクシア感情が何かバグってきている。

*わたしたちの一回戦

 いよいよ始まる自分たちの一回戦。
 対戦相手は、堕落の国の救済を宣言した痣まみれの青年『ティモフェイ』と、豚のマスクを被り、パートナーを鎖に繋いだ『トイトロール』。
 詳細はリプレイサイトのログに任せるとして、アレクシアにまつわるダイジェストとしては、トイトロールに一時間に渡る鞭打ちを受けて心の疵を抉られたり、それを傍観していたティモフェイを茶会に招いて「わたしが彼に嬲られている間、暇そうだったな」とにこにこしながら抉りを入れたり、自らの顔に非常なコンプレックスとトラウマを持つトイトロールを晩餐に招いてそのマスクを引っ剥がしたり。シャルルの手番もふたつ揃ってアレクシアの疵舐めに使ってもらったので、出演頻度は結構高かったですね。ありがたく、楽しかったです。
 そして、お茶会2ラウンド目の最後、シャルルの手番。
 シャルルは「自分も含めて誰が死んでも構わないが、アレクシアが死ぬのは嫌だ」と言い、「俺が頑張るから死なないでくれ」と言い。これはマジで乙女ゲーだったのか? いや、ギャラリーからもすでにたびたび、乙女ゲーしてる……って……あの……はい。はい!
 アレクシアはシャルルのその言葉に対し、「(俺、ではなく)俺たち、と言え」と返します。一蓮托生、守ってもらうだけのつもりはない、そういうことですね。
 この手番で、シャルルは能力値『愛』でアレクシアの疵を舐めることに成功します。
 ダイスが通り、PLであるわたしが、よし、と思ったところで。シャルルから「(アナタの名前を)書いていただけませんか?」という発言が飛び出る。これは本戦だけ見るとおそらくなんのこっちゃなのですが……観戦ロール中、シャルルが人間牧場の生まれであること、シャルルの世界で人間を売買するときには左腕に所持者と値段を順次入れ墨していくこと、シャルル自身も何度か転売を繰り返されていること、そしてその左腕は当然、四肢を換装するときに切り落としていること、が明かされており。つまり、なんというか、所有の証……的な……? とはいえ、シャルルにとっての記名とアレクシアにとっての記名にはかなり心理的重さが違うのですが(シャルルにとってはそこまで激重な行為ではないらしい)(まあ経歴としてさもありなんという感じではある)。
 ともあれ、疵を舐められた結果としてアレクシアはそれを了承し、「私のアレクシア」「わたしのシャルル」、と呼び交わします。これ書いててこっ恥ずかしくなってきたんだけど本戦で本当にそういうことしてるんだよなあ……。その上、たちの悪い(?)ことに、この二人、ここに至っても、互いにそれは恋愛ではない。恋愛では……ないんだ……。
 そうしたやりとりを経て、裁判。
 結論から言うと負けました。
 模擬戦でかなり不利だということがわかっていたわりに善戦しましたが、アレクシアが4判決目で免罪符を抱え落ち。ダイスが1足りなくて……。シャルルは告死(判決表に-5補正)を受けつつも死なずに昏倒で踏みとどまりましたが、両者昏倒して敗北した我々を生かすも殺すも対戦相手の手の内。
 トイトロールの巻き起こす冬の風の中で目を覚まし、死を目前に、シャルルから告げられる「愛してるよ」。再び互いが「わたしのシャルル」であり「俺のアレクシア」であることを確かめ、そして。

*記憶喪失

 生き残ってしまった。
 二人の記憶はなにもかもトイトロールの忘却の雪に攫われ、愛してると言ったこと、愛してると言われたこと、すべてが失われて。
 しかし、それでも生きている。
 客室に戻され、館に来てから重ねたものも、堕落の国で共に過ごした半年間の記憶も、自分が誰でどんな人生を辿ってきたのかも喪失して赤の他人となった二人は、儀式の終わりまでの短い時間を共に過ごすことになります。
 えっ、マジか……(当時の率直な感想)。
 デスゲームに参加した以上、戦って死ぬ覚悟はできていた。だが、フルスクラッチ乙女ゲーを喰らいながら戦い、負けて、記憶喪失の追加ディスクをやっていく覚悟はなかった。そんな覚悟があってたまるか。
 部屋付きのメイドさんに連れられて客室に戻り、それぞれの人生二十年以上で築かれたペルソナの消失した、『短気』なシャルルと『臆病』なアレクシア。ちなみに、データをかけひきで使用するために、六ペンス0枚、脅威度0でキャラシを敗北リスペックしたりもしました。
 自分の名前すら他人事のようである中、一回戦を終えた傷だらけの身体のまま、見知らぬ男と同じ部屋。
 シャルルの破損故障した義肢を取り替え、その際に新たな負傷をし、自由に動けるようになったシャルルから、いささか暴力的な扱いをされたりもしつつ。それでもこのあとの試合を見届けるべきだと言い、「そんなことしなくたってアンタも俺も悪くない、それじゃあだめなのか?」を否定し、たとえ目を背けることになっても、それは自分で選ぶからあなたのせいにはしない、と宣言し……。

*お互いしかいないということ

 幕間、勝ち抜いて二回戦に残った女の子たちとも話をして。
 一度は逃げるように離れたシャルルと共に過ごすことを、アレクシアは改めて自分で選びました。
 楽しい時間を共有した女の子たちは、自分の手の届かないところ、自分にはどうしようもない時と場所で死んでしまうかもしれない。その可能性のほうが高い。けれども、シャルルだけはそうではない。儀式が終われば死んでしまうのだろう自分と同じ部屋で、短いながらに、同じだけの時間を生きていてくれる相手。
 そういう相手である、ということを認めて、ちゃんと選んだわけですね。
 ここから儀式の終わりまで、「最後まで一緒にいる」ということを、二人で何度も何度も確かめあうことになります。観戦中のログを見ると、お互い本当にずっとそう言い続けていてちょっとびっくりする。
 一人きりではだめ。
 二人で一緒にいる。
 以後、部屋の中で二回戦の様子を見つめながら、再び会話が交わされてゆくわけですが。『過去』の話、『罪』の話、『主観』、『信頼』、『愛』。『シャルル』と『アレクシア』。この二人、記憶を失う前と似たようなことを、違う人間として繰り返す繰り返す。いや、そういう意図のもとでやってるんですが、一回戦の観戦ロール見返すのが気恥ずかしくて、わたしはぐねぐねしていました。
 そしてこの二回戦の観戦中にもまた、シャルルが距離をぐんぐん詰めてくる……。
 
乙女ゲーゼリフがめちゃめちゃな速度で飛んでくるのでわたしは死にそうだった。「まもりたい」とか。「俺はアンタがいればいい」とか。「怖いときは俺だけ見てればいい」とか。
 中でも一番、ウグッ、となったのは、あるペアの心中に際して二人で涙を流すことになった結果、「届くところにいてほしい」からの「一緒に寝てくれる?」がすっ飛んできたときですかね……。まあ、なんでもないとごまかそうとしたシャルルに追撃をかけたのはアレクシアなのだが……。
 しかし結局のところ、たった二人しかいない狭い世界。一緒にいると繰り返し確かめあう中で、相手を一人にすることは、自分も一人になるということ。どちらも相手を一人にしたくないし、自分を一人にしてほしくない。だから、いいよ。
 ……と、そういうことになるんだが、うーん、乙女ゲーが止まらない。
 しかもシャルルって手足の結構な割合が機械換装されていて触覚もないから、一緒に寝て安心感を得ようと思うと、まあ、そういう距離なんだよな。そういう距離です。
 日数にすれば、新しく出会ってから一週間足らず。
 けれども、目の前の相手と、最後まで一緒。
 それしかないからではなく、このひとならそうしても良いと選んだから。

*6号室の二人

 一回戦でシャルルとアレクシアに勝利し、二人の記憶を奪い、二人の所有者であるところの6号室。
 この二人の噛み合わなさ、絶望的だったな……。
 二回戦終わってからの幕間で、シャルルとアレクシアはこの二人ともそれぞれ話をしたんですが。
 トイトロールを救いたい、と言うティモフェイ。ティモフェイによって救われるべき世界のその中に、自分はいないと断言するトイトロール。
 すれ違ってんなあ~!
 
すれ違ってるっていうか……隙間が……隙間風がスゴイ。彼らの抱える物語についてはここで語るべきことではないので割愛しますが、まあとにかく、次は決勝だというのに、双方がともに救われるビジョンがまるで見えない。
 ティモフェイはトイトロールを救いたいと言いながらも、実際にどうしたら、どういう状況なら、トイトロールが救われたと言えるのかわかっていない。トイトロールはトイトロールで、自分の好きな色さえ答えられず、彼にとっての世界とは『赤の他人』のことだと言う。
 アレクシアからすれば、彼らのどちらか一方であれ『トイトロール自身にとっての救い』を見出だせないままでは、そしてそれが共有できないままではこの二人は救われないだろう、と思うほかない。そんな状態。
 トイトロールはシャルルとアレクシアに下僕として彼の身繕いをするように命じ、「優勝するように」祈って服を縫え、あるいは花冠を編め、と申し付けました。しかし、今のあなたはおそらく優勝しても救われないよ……としか思えなかったので、アレクシアは「彼が救われますように」と祈りながら服を縫いました。彼らの国にある『儀式』の、生贄の衣装を。
 印象的だったのは、「『さみしい』から、オレはお前より強かったんだ」というトイトロールの言葉ですね。翻って、『シャルル』と『アレクシア』はさみしくなかったんだな、ということが、アレクシアの胸中に無理のないかたちで収まりました。『シャルル』と『アレクシア』が二人でいたことを後悔していなかったのなら、今の自分がシャルルに救われていることも後ろめたく思わなくていい、という、小さな安堵を得たかんじ。

*恋

 ところで、シャルルのもともと持っていた『加虐嗜好』ですが。これは疵でありつつも、単にそうであるというよりは「生まれ持ったかたち」なんだと思います。だから、記憶を失ってからも、そういう衝動をやはり持っている。というかむしろ、心得ていたはずの発散の仕方を見失って、シャルルはかなりシビアに苦しんでいたと思います。
 一緒にいるアレクシアに嫌われたくない。だから傷つけたくない、壊したくないと言いながら、正反対のことを考えてもいる。記憶がないことも死ぬことも怖くないけれど、そんな自分が怖い。自己嫌悪めいたものも見て取れました。
 かわいそうに、一生エラー吐いてるんだよな。
 ただ、シャルルがエラーを吐かない状態、つまり暴力衝動が素直に発露すると、アレクシアとの関係はおそらく破綻して終わりです。ちなみに施音さん曰く、記憶を失って新たに出会ったばかり、シャルルの義肢を取り替えたとき(シャルルの義肢の取り替えには激痛が伴い、おかげでアレクシアは戦闘用の義足で蹴り飛ばされて負傷)に泣いたり弱々しいムーブをしてシャルルを逆撫でしていたらまずそこで終わっていただろうとのこと。綱渡りだったな……。
 まあ、そうはならなかったのでそれは良いとして。
 儀式の決勝を控え、二人の時間にも終わりが見え、すなわち死が目前に迫りながらの、客室5号室。シャルルは「未来が怖くなった」と言います。
 アレクシアに嫌われたくない。傷つけたくない。壊したくない。一緒にいてほしい。アレクシアを失いたくない。もしもこの先があったとしても、ずっと。
 つまり、シャルルは恋に辿り着いてしまった。
 ああ~。あああ~。お前……そっか~!
 記憶を失う前のシャルルもアレクシアへの愛を持つに至りましたが、それはどこまで行っても恋にはなり得ないものだったと思います。恋をするのって、そのための隙間、近すぎず遠すぎない距離が必要だと思うのですが、もともとの二人は恋の前に客室で距離を詰めすぎました。けれど、記憶を失い、他人からやり直したとき、そこには恋が生まれるだけの隙間があった。あったようだ。あってしまった。
 デスゲームのさなかに愛に辿り着き、記憶ごとそれを奪われて、今度は同じ相手と恋をする。
 そんなことある? あったが。

*決勝戦

 まずもって、決勝のココフォリア会場に『5号室』という専用観戦タブが作成されていたときの気持ち、プライスレス。それまで、一回戦と二回戦の観戦ロールはDiscordのペアチャンネルで行われていましたが、決勝では本戦メインタブと並行で、同会場内で観戦ロールをすることに。
 この決勝の間、トイトロールが振るう心の疵のちからによって、館じゅうに刻まれた『記憶』が立ち現れては消え、立ち現れては消え。それはつまり5号室に於いても、『シャルル』と『アレクシア』の記憶がいくつもいくつも再演されるということ。過去の観戦ロールを引きながら今の二人の話をするのは、まさしく総決算という趣。
 そしてお茶会1ラウンド目の最後、トイトロールの手番。
 突如メインタブに呼ばれる。
 ……えっ?
 決勝を戦う救世主たち、彼らの部屋付きのメイドさん。儀式の外の存在となった5号室のメイドさんと、シャルルとアレクシア。計9人で、トイトロール主催の『春誕節』というパーティーを……して……。ごちそうの並ぶテーブル……ツリーの飾りつけ……プレゼント交換……。メインタブでしっかりロールをさせていただき、嬉しいと同時にびびりまくりました。あと、この手番で行われた疵抉りの手法があまりにも鮮やかで、それにもめちゃめちゃびびった。
 その後、シーンが終わって我々は再び5号室タブに戻り、お茶会は進み、いざ裁判が始まる、というところで。
 GMから、裁判中のメインタブへの発言挿入が認められる。
 ……えっ!?
 ちょうどそこで休憩が挟まったこともあって、Discordに飛び交う大量の疑問符。動揺著しい我々。
 何を挟んだかはリプレイを見てもらうとして、二回挟みました。
 でも、いざ実際にメインタブに発言挟むときの手の冷えと震えがほんとうにやばくて……。
 そんなふうにわたしがぷるぷるしていたことはともかく。
 決勝のさなか、ペアの女の子を殺されそうな瞬間、「彼女を信じろ、飛び出すな」と思いながらも迷っている男の子に、シャルルが「後悔だけは残すな」と叫んだのが……なんとも言えず……こう、わたしに刺さる。なにせ一回戦の『シャルル』は彼と同じことを思って、倒れたアレクシアを振り返らずに戦い続けたわけで……。
 一回戦以前の二人の記憶が再演され続けたことによって、シャルルもアレクシアも、彼らがもはや『シャルル』でも『アレクシア』でもない彼ら自身であるということがはっきりしたような。そんな気がします。
 そして決勝の裁判が終わり、儀式が終わり。堕落の国の『救済』が奇跡に願われて。
 生き残った。
 マジか~……いや~マジか~。えっ、ほんとに?

*再び、シャルル・ベルジール

 もう一回必要なんだよこの項目が。
 記憶を失う前、「アレクシアにだけは死んでほしくない」という結論に達した『シャルル』の記憶を横目に見ながら、「そうじゃない、一緒でなければだめだ」と言う……そういうシャルルの話を……。
 記憶がないことは怖くない。死ぬことも怖くない。そこからスタートし、ほどなく、アレクシアに嫌われること、アレクシアを傷つけることが怖くなり。アレクシアを失うかもしれない未来が怖くなり。そしてやがて、愛から恋へと至る。
 びっくりするほどアレクシアのことばかりなんだよな、シャルル。
 アレクシアもやはりシャルルのことをずっと見てはいるのですが、一方でアレクシアの視界には、幕間で話した女の子たちの姿が目を逸らしようもなくあったりする。
 ある意味では、アレクシアは自分のこと、自分の見る世界を大切にしていて、シャルルはその中の一番大きなピースであると言うべきでしょうか。
 でも、シャルルの世界はアレクシア優先なんですね。
 死ぬことは怖くないが、アレクシアを残してはいけないので、死ねない。自分の暴力的な衝動でアレクシアを傷つけて、嫌われるのがいやだから、頑張る。そういうことを本気で、しかもまっすぐに言う。一途すぎる……。
 シャルルとアレクシアの二人は儀式に敗北したにも関わらず(もともとの記憶を失いながらも)生き残ったわけですが、それはシャルルが『救済』を宣言した優勝者に二人の処遇をきちんと問うてくれたからです。主催は敗者について、すっぱりと「特に何も言及がなければ死ですね」と言っておられましたので……。そしてアレクシアは、おそらく自分から優勝者にそれを問うことはできなかったろうと思うので……。
 二人は儀式が終わるまで、ひいては死ぬまでの短い間、最後まで一緒にいる、と確かめあい続けていて。儀式が終わったその瞬間に、もしかしたら一緒に生きていけるかもしれない可能性があって。アレクシアがそれを望んだとき、躊躇いなくそこに賭けてくれるシャルルがいて。
 なんか……いや、施音さんに確認したわけではないんですけど、記憶をなくす前のシャルルだったら、もしも同じように優勝者に処遇を問うにしたって、「アレクシアを助けていただけませんか?」って言いそうな気がするんですよね……。でも、決勝が終わってそこにいるシャルルは、「俺たち」と言ってくれる。わたしはそこに、かつての『シャルル』が失われた一抹の寂しさと、二人の未来のために頑張ってくれるシャルルへの喜びを感じます。
 寂しくないわけじゃないんですよ。記憶を失う前のシャルルのことも大好きだし。
 けれども、『シャルル』と『アレクシア』が築き、残してきたものが、新しい二人を迎えに来てくれたので。そういうところに、彼らは残っているんだな、と思っています。そこにある記憶はもう変わらない。かつての二人が愛に辿り着いたことそれ自体は、失われることなく永遠になりました。

*エルレンマイヤー卿アレクシア

 エルレンマイヤー卿アレクシア。キャラクターシートはこちら
 スチームパンク世界出身の22歳。卿を名乗りつつ、本当に貴族だったのか、そもそも元の世界に貴族制があったのかどうかは不明。元の世界では十年も前から機械技師たちの間で各種の折衝や金策に飛び回っており、堕落の国に落ちても、数ヶ月で『公爵家』と救世主たちとの間に首を突っ込んで利害調整に乗り出すようになる。やがてその手腕を買ったシャルルの誘いによって、彼の作り上げたエウリーク商会の『顔』に納まる。
 ……一番最初にあった設定はこんな感じですね。
 ご覧の通り、内面に関しての情報がぜんぜんない。ので、当初はもっと利己的な女だと思っていました。ほとんど子供と言って良いような年齢から交渉事に乗り出しているのだから、傲慢であったり、利益追求を第一に置くような性格だと思っていたのです、が。
 あっ、これ違うな、と思ったのは、一回戦の観戦ロールでシャルルの放った「アナタは優しいので」に対して皮肉の応酬ができなかったときですね。しかしそれが具体的にいつだったかと言うと、観戦ロールが始まった初日です。いくらなんでも誤算の発生が速すぎる……。
 とはいえアレクシアは結局のところ自分の望むものしか望めない、そこにしか手を伸ばせない女ではありました。ただ、それを選ぶこと、選べなかったものを切り捨てることに発生する責任からは逃げない、と言う……そういう女になりました。
 心の疵は『代替品』と『自罰思考』。
 これは先出しされたシャルルの疵にぶつけていったもので、「アレクシアは(元の世界のあのひとの)代替品」と思っているシャルルに対し、「(元の世界のあそこにいたのは)自分でなくても良かった」という『代替品』。また、「人が苦痛を感じているさまが娯楽」というシャルルに対して、「至らない自分が苦痛」という『自罰思考』。
 一回戦時、この『代替品』という疵が二人になかったら、たぶん愛には至らなかった気がしますね。データとして癒えたのはアレクシアの疵ですが、ロール上では明らかに、シャルルのほうこそが先に立って、アレクシアを代替不可能なものとして自分の中に据えています。アレクシアの疵が癒えたのはその反響であり、シャルルがそう言ってくれるから自分を認めてやれる、という機序です。
 データ的にも、愛を持っているのはアレクシアではなくてシャルルなんですよね……。ビジネスライクなロールでいくつもりなら、少なくともああいう疵のシャルルの側に愛のステータスを持たせるのは失敗だったのでは? はい。
 ともあれ『代替品』の疵は裁判のさなかに逆転を使ったことによって無色に戻りました。アレクシアがシャルルに愛を感じたことには変わりありませんが、敗退時にシャルルから告げられた「愛してるよ」にも、アレクシアは「今この瞬間にこいつがそう言いたいのなら、それでいい」と思うに留まった気がします。シャルルを受け入れる、という方向性の愛ですね。観戦ロールの最中から一貫して、アレクシアはシャルルを「仕方のないやつ」「どうしようもないやつ」と評しており、最終的にはそれを愛でもってまるごと受け入れる、ということになるのでしょうか。
 お互いに抱いた感情は恋ではなかったので、それでよかったわけです。
 翻って、記憶喪失。
 敗北リスペック、脅威度0のキャラクターシートはこちら
 こちらのアレクシアもやはり、基本的にはシャルルを受容する、という方向を見ていました。
 一回戦後の幕間で部屋の外へ出ていったアレクシアを探しに来て、「アレクシアが生きていて安心した」「まだ一緒にいてくれるなら帰ろう」「死んでほしくないから探しに来た」「自分のこと、もうちょっと大事にしてくれ」と言う、そういうシャルルと、儀式の最後まで一緒にいることを選択して。嫌いになりたくない。信じていたい。そうしたい。
 シャルルに対するファーストインプレッションは完全に「怖い」だったのですが、それを忘れられないままでも、そうしたいと思ったからそうする。たとえそれで失敗しても、選んだことをシャルルのせいにはしない。
 変わらないですね。自分の責任で選ぶ。そういう根っこがあるようです。
 できれば後悔はしたくない、とも言ったのですが。
 後悔は、せずに済んだようですね。
 上述の通り、記憶喪失後のアレクシアもやはり、シャルルを受容する、というかたちの愛を先に得たような気がします。恋のほうはあとからついてきました。
 どちらかといえば自分のことが二の次になりがちなアレクシアを、アレクシア自身よりも大切に取り扱ってくれたのがシャルルであり、だからこそ、それを受け入れることで自分を大切にできるようになる。結果として、シャルルとずっと一緒にいたい、という自分の中の求めに目を向け、手に取ることができた、というような。
 ずっと一緒。最後まで一緒。
 儀式が終わるまで、というリミットのもとで繰り返された言葉は、堕落の国の救済によってその終点をひとまず取り払われました。
 エルレンマイヤー卿アレクシアとシャルル・ベルジールは、記憶として永遠になり。ただのアレクシアとただのシャルルは、これから、未来を生きていくでしょう。
 二人で。一緒に。

*総括

 まず、ここまでで12000字以上ある。
 短く行きます。
 エルレンマイヤー卿アレクシア、あるいはただのアレクシアという女は、自分の望みを自分の責任で選び、それから逃げない女でした。
 エルレンマイヤー卿アレクシアはデスゲームに敗北しましたが、代替の利かない愛を得て永遠になりました。「自分でなくても良い」と思い続けていた彼女にとって、それはある意味では幸福なことだったと思います。
 そして、その後のアレクシアは、自分の選んだものとしてのシャルルと一緒に生きていくために努力を惜しまないでしょう。また、そこにはエルレンマイヤー卿たちの残したエウリーク商会があります。記憶がなくても、過去のすべてが消えて失せたわけではないということ。過去の自分が確かにそこに息づいていること。だからこそ自分とシャルルが出会い、これからも生きていくこと。それをアレクシアは抱えていきます。

 改めて、プレイヤーとしてたいへんに幸せな経験をさせてもらったと思います。
 創作やロール遊びをしていると、「これは自分史に残るな」というものが時折生まれますが、この16AliCesはそういうイベントでした。
 データとして一回戦負けしたのはもちろん悔しいのですが、その後……その後こんなに噛み噛みさせてもらえるとは……。するめより噛んでる……。
 16人も集まって盛大に遊んで、その中で全力投球できるというのは本当に稀有なことですし、混ぜていただけて光栄でした。
 ありがとうございました!

 ところで本戦が12月に終わって今は2月も後半なわけですが、何故今公開なのかというと、「もう少し熱が冷めたら出そう……」と思っていたのにいつまでも峠攻めてるからです。

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