見出し画像

客室5号室_IFIF:シマナガサレ

 これはTRPG『Dead or AliCe』の16人参加キャンペーン、『16人の救世主(16AliCes)』に参加していた客室5号室の二人、の二周目IF、のさらにIFとして、AP制ゲーム『シマナガサレv2.0』で行われたなんやかやの話です。
 バッチバチに長いので、諸々の前提をご存じの方は目次にある「*なんやかや」の項目から読み始めていただいて大丈夫です。


*『Dead or AliCe』と、『16人の救世主』

 まず『Dead or AliCe』。これはBOOTHで購入できる、TRPGのシステムです。購入はマテンロウ計画というショップで。
 発売から3年経っていますが、わたしも周囲も擦り倒している大変面白いシステムです。おすすめのポイントなどは、すでにnoteで2本(TRPG「Dead or AliCe」をやってくれ)(TRPG「Dead or AliCe」のサプリを使ってくれ)書いたので、お時間があればそちらを参照してください。

 次。『16人の救世主』。これは2020年末に行われた、プレイヤー8組16人によるトーナメントキャンペーンです。公式サイトはこちら(一部暴力表現及び性暴力表現があるためR18です)。
 わたしはこのイベントに、客室5号室の救世主『エルレンマイヤー卿アレクシア』を参戦させました。ペアには『シャルル・ベルジール』、PLは施音さん。
 リプレイはすべてをあわせると結構長大な分量がありますが、読み応えのあるデスゲーム群像劇です。

*その中で、客室5号室

 これもすでにかなりボリュームのあるnoteを書いたので、詳細はそちらの記事(「16AliCes_客室5号室」)を参照していただくとして、概要だけ。
 客室5号室の二人、エルレンマイヤー卿アレクシアとシャルル・ベルジールは、16AliCesの舞台であるデスゲーム『オールドメイド・ゲーム』を起動したペアとしてイベントに参戦。1回戦で敗退しながらも、すべての記憶を失った状態で生き残り、ただのアレクシア、ただのシャルルとして、二人で新たな人生を始めていきました。

 それはそれで大変に幸せな結末でもありましたが、この記憶喪失に伴い、当然のことながら、一回戦終了後、当初想定されていた二人のキャラクター性というものは大幅に見直されたわけです。
 結果「物語的な納得とキャラクターのファン層は違うから、こうして生き延びた二人にも二周目IFの同人誌は出る」という謎の与太話が生まれ、実際にIF設定でのロールも(結構な回数)行われ、その設定を前提にした151ページ5万9000字に渡る小説が出され、もう(主にわたしの情緒が)めちゃくちゃだよ。ちなみに、当該ロールはこちらのサイトで見ることができ、小説『灰へと至る』はBOOTHで販売しています(書籍版 / PDF版)。

 この二周目IFの他にも、現代アパート同居パロディ、初対面で状況が詰んでるIF、などがいっぱい生まれているのですが、ここでは割愛します。

*シマナガサレv2.0

 今回の舞台です。
 木兎(うでらび)さんというGMのAP制オンラインゲームで、各人がどうやってか流され辿り着いてしまった無人島でサバイバル生活をしつつ、島からの脱出を目指す……というコンセプト。システム的には、島ごとにエリアのサイズや難易度、参加人数などを設定可能で、結構いろんな遊び方ができるゲームです。
 その中で今回は、島サイズスモール、難易度サバイバル(中難易度)、参加者は5号室の二人だけ、という環境で遊ばせていただきました。
 この設定、そもそも生存に結構大きくリソースが必要な難易度になったので、ゲーム的にもピリッとしたものがあってよかったです。途中シャルルのライフが2割切ってたときには、一体どうしてくれようかと思ったりもしましたが……。
 先に申し上げておきますと、ゲーム的な結末としては救助船を呼び止めることに成功して二人で島を脱出しました。
 
以下、ゲームを通してあったなんやかやと、それにまつわるアレクシアのあれこれについて触れていきたいと思います。

*なんやかや

 えー、何はなくともログです。こちらをどうぞ。期間中に行ったロールはすべて掲載されています。中には酒にむせただけの一行などもありますが。

 ひと通り見ていただくとご理解いただけるかと思いますが、中盤から終盤にかけて、とにかくアレクシアが弱気。
 これまでは頑なに見せなかった涙さえ流しつつ、自らの抱えた怖さや苦しみを吐露し続けています。なんか勝手に疵が抉れているな……。

*帰りたい、帰るのが怖い

 死ぬまで逃れることができないと思っていた堕落の国の責務から解放されるかもしれない、もしかしたら故郷に帰ることができるかもしれない、それを自分の手で選べるのかもしれない。
 そう思ったとき、かつて『代替品』という名前で刻まれていたアレクシアの疵がぐっとあらわになってしまいました。
 広く選べるものがあるとなったとき、本当に自分のためにそれを選んでもいいのだろうか? 帰還を誰にも望まれていない、どころか、帰れば恨まれ憎まれているのではないだろうか? 堕落の国で生きるためにたくさんの罪を重ねてきたのに、そんな自分がもとの居場所に戻りたいと願ってもいいのだろうか? 自分には、絶対に自分よりも上手くやる、代わりの誰かがいるのに。

 アレクシアはとにかく、「自分のため」に何かを選んだり、何かをすることが本当に苦手というか、そうすることに恐怖心があります。これに関しては、本戦の頃より二周目のほうが明確に悪化しています(本戦、自分が起こした儀式でシャルルを道連れにして殺したと思っていたり、救済の結末を知っていながら今回は儀式を起こさなかったり、など諸々の理由によって)。
 アレクシアは自らの背に負ったものに対して非常に献身的な博愛と責任感を持っている反面、それが自分でなくてはいけない、自分にしかできないという確信はひとつも持てないままです。
 にも拘わらず、まったくの無私でいられるほど強くもないのが難儀なところ。その結果、帰りたいという気持ちと、自分なんて帰らないほうがいいのではないかという気持ちで引き裂けてしまった。
 苦しい場所で頑張って踏みとどまることはできるのに、希望が見えてしまったときのほうが弱い。その希望に自分が相応しいと思うことができない。これまで頑張って生き延びてきてよかった、帰れる! みたいな感じになれないんですね。堕落の国で「頑張って生き延びてきた」ということは、つまり、相応の数の人間を殺し続けてきたということなのですから。

 そして、これをシャルルに言ってしまった……というか結果的に泣きついてしまったのは、自分で全部わかっているのに抱えておけなかったということですから、自己嫌悪も一入。なのに、「笑ってくれ」とさえ言えませんでした。
 このぼろぼろに弱気なアレクシアを受けて、シャルルが「話してくれて、頼ってくれて嬉しいな、愛しいな」になっているの、この男、だいぶ重症だな……と思いますが、とはいえアレクシアにとっては、ここでシャルルが「何があっても隣にいる」と言ってくれたことが、かろうじて「帰る」という選択を捨てずにいられた理由でもあります。
 仮にアレクシアが一人で「帰れるかもしれない」状況に置かれたとして、実際に帰れたかどうかはかなり怪しく、ジレンマに陥ったまま結局は「帰らないほうがいい」を選択した気がします。自分のために帰るよりも、誰かのために帰らずにいる、それで苦しいのが自分一人ならそのほうが良い――アレクシアに否定的なその『誰か』というのは、言ってしまえばアレクシアの中にしかいない概念的な存在ですが、アレクシアはさまざまの理由から基本的に自分では自分を許すことができないので、これは独力で跳ね除けることができない相手でもあります。
 シャルルはその『誰か』の発する「帰ってくるな」という声とは別のところから、「帰った先で何があっても(アレクシアにとっての最後のラインには)自分がいる」と言ってくれたわけです。というか、これまでやってきたロールを見る限り、二周目のシャルルは折に触れアレクシアに対して「甘えていい、甘えてほしい」「一人で頑張らなくていい、頼ってほしい」と言い続けているように思いますから、アレクシアがどれだけ弱気になってもずっと態度を変えずにいてくれている(いや、頼ってもらえて嬉しいな、にはなっているようだが……)。二周目は二度目の出会いからこちら、シャルルが常に意識的にアレクシアを支え続けてくれているので、その支えがここでもしっかり利いて、アレクシアはなんとか倒れずに済みました。
 まあそもそもこの男、甘えてほしいと言いながら、こっちが甘えなくても相当わかりやすくベタベタに甘やかしてくるので、日頃のアレクシアは結構たじたじなんだよ。

*シャルルのお守り

 ともかく、二周目のシャルルはこの島に流される以前からずっと、アレクシアに「アナタには私がいる」「私はアナタを愛していて、大切だと思っているし、実際に大切にしたい」ということをひたすら手を変え品を変え示し続けており、アレクシアもそれはわかっています。さまざまを見返すと本当にずっとそうなので、改めて恥ずかしくなってしまうな。

 神様を信じていないのに、お守りをくれるのもその一環なんですよね。
 それをお守りにしようと思うくらい『いいもの』だと感じたものを、スッとアレクシアに回してくる。
 アレクシアも神を信じてはいませんが、シャルルがそうして自分を案じてくれること、それを形にしてくれることに対しては喜びを感じるとともに、強く感謝しています。

 ただこれは、実はこの時点でのアレクシアにとってある一面で『思い出のよすが』をひとつ手に入れたというところでもあり、ただ素直に嬉しいというだけでなく、もう一枚レイヤーがあります。
 二周目のアレクシアは自分のことをシャルルにとって『前科のある危険』だとも思っているので、シャルルがどこか他のところ、自分のそばではないところで別の愛を拾えるのならそうしたほうがいいし、そうなったら自分は手を離さなければならないという意識がありました。それが辛くないわけではないし、堕落の国で実際にそんなことになったら商会を引き継いで消えた先で亡者化待ったなしコースだと思われますが、本人はごく真剣です。
 二周目においてアレクシアはシャルルを愛していますし、自分がシャルルに愛されていることもわかってはいるのに、どこかで常に別れを見つめ続けています。
 だから、たとえそれが気休めでも、なんの効果もなくとも、そうして思ってくれる気持ちが本物であること――そして、いつか来るかもしれない別離の後にも、「確かに本物だった」と信じられるものができたこと。アレクシアは、それが心から嬉しかったと思います。今ここにあるものが終わってしまった後にも、残るものがあることが。

 ところでこのお守り、データ的には所持者のライフの減るようなアクシデントを確率で無効化してくれるパッシブ効果を持っていたので、PLには一時期のお前のライフを見ろ、という気持ちが湧いたことは……否めない。

*この島を去る前に

 その後、灯台を建てたり花火を打ち上げたりして七日目。二人は救助船を呼び止めることに成功し、まもなく沈みゆくであろう島の浜辺には乗船フラグが立ちました。

 PLのわたしは、さて、まだ何も解決していないしもうひとクダ巻くか……と腕まくり。やらずに済ますわけにもいかないんだなこれが。
 ということで、さすがにもう泣かないぞ! と思いながら、先よりも穏当に「(側にいてくれることは)ちゃんとわかっているけれど、勇気を出すためにもう一度言葉にしてほしい」という旨を伝えることに。これを伝えるだけで、アレクシアはかなり頑張って勇気を出していましたよ。そんなことはないとわかっていても、万が一ここで梯子を外されたら、なんというか、終わりですからね。怖かったと思います。でも、それを確かめないと、違う意味で怖くて進めない。
 二周目のアレクシア、これまでもシャルルが自分を相当甘やかしていることはわかっていましたし、それを強く拒否できないので結果的にかなり甘え倒すことになってはいたのですが、おそらくこのシーンが一番はっきりと自分から甘えに行ったところだと思います。
 だって、どうしてもそう言ってほしかったので。
 だってじゃないよ。でも実際そういうことなので、なんともかんとも。
 泣くほど故郷に帰りたいにも拘わらず、帰るという選択肢を前にどうしても自分を信じられなくて、それを選んでもいいという支えが必要で、支えますよと示し続けてくれているシャルルに改めて確かめてしまいました。
 疑っているわけではないとわかってくれるシャルルだということも含め、要するに「どうしても怖いからたすけてくれ」という明らかに甘ったれたムーブメントをしたのですが、思った以上にぐっと懐の深いところまで受け入れられてしまいました。こんなんほぼプロポーズじゃん……。至ってしまっているじゃん……。
 自分を信じられないアレクシアも、シャルルを信じたい、とは思っています。どれだけ怖くてもシャルルのことを諦めたくない、と本人が言った通りに、怖くても手を伸ばす相手はシャルルだけです。伸ばした手を振り払われないと信じたいし、振り払われないことを祈っています。
 一方で、諦めたくない、と言うからには「諦める」という選択肢を見据えてもいます。まだ。なにせ、この期に及んでまだ言っていないこと、言えずに隠していることがあるので。

*そして、すべての端緒と解答

 七日を過ごした島を離れ、海上。どこでも望む世界の海へ連れて行ってくれるという船の上。
 本当に帰ることができる、となってアレクシアが覚えるのは、安堵と喜びと、恐怖と不安と、そして罪悪感でした。
 アレクシアはかつて堕落の国に堕ちたことによって、故郷で信任されていたすべてを置き去りにしてしまい、間違いなく故郷に多大な迷惑をかけています。その失踪で迷惑がかかったからといってアレクシアの築いてきた信頼や寄せられていた親愛が無に帰したわけではない(という話もこういう掌編にした)のですが、アレクシア本人はそんなことを知る由もありませんし、自分が悪いわけではないのにかなり罪の意識に苛まれてきました。
 アレクシアは今、同じように、堕落の国にエウリーク商会を置き去りにしようとしているわけです。今度は自分のために、そうと選んで。
 それについて、アレクシアは「許されるとも、許されようとも思わない」と言います。アレクシアが心底そのように思っていることは間違いなく、だからこそ罪悪感がある……の、です、が。
 さてここで、シャルルから極めてクリティカルな問いが発されます。

 曰く、「アナタは……一体誰に、赦されたいんですか」

 アッ……(終わり)。
 あまりにもあまりなクリティカルヒットに、PLのほうが思わず絶句してしまいました。つい。
 実際のところ、「神は信じていない」と言うアレクシアが、(主に小説の中で)それと並行して「許されない」だとか「許されるとは思っていない」だとか言うのは何故なのか、アレクシアを許さない主体は一体誰なのかということにはこれまでのさまざまなロールプレイの中でも触れずにいました。
 その答えは、『おとうさんとおかあさん』、です。
 何もかもが始まる前にはもっと不敵なヴィラン主従をやるつもりだったので、これは当初からあった設定というわけではないのですが、PLのわたしが途中、アレクシアのバックボーンが固まった頃から「そうなんだろうな」と思いながらも、具体的なことは言わずに隠していた答えです。
 まあプレイヤーレベルで隠せていたかどうかはさだかでありませんが、アレクシアはシャルルにずっとそれを黙っていましたし、言うつもりもなかったし、むしろ絶対に言いたくなかったでしょう。言ったら終わりだとも思っていました……というか、半ば信じていました。

 アレクシアが十一歳のころ、アレクシアの故郷の工房街は一度、ほとんど息絶えようとしていました。他所にできた大工場に需要を軒並み掻っ攫われて、たくさんの職人やその家族が首を括り、アレクシアの両親もその死者の列に並びました。アレクシアを置いて。
 両親は「ごめんね」という短い走り書きしか残してくれず、アレクシアがどうして遺されたのか、理由は永遠に知ることができません。やがてアレクシアは、自分が死出の旅に連れて行ってもらえなかった理由を、『二人には自分が要らなかったから』だと結論します。
 自分は『悪い』子で、だから二人は自分を連れて行ってくれなかった。
 だから、アレクシアは必死で『良いアレクシア』であろうとし続けてきました。
 アレクシアが努力して築いてきた『エルレンマイヤー卿』の在り方も功績も、根本的にはその傷つきに端を発しています。今となってはそれだけでないものが積み重なってもいますが、すべての端緒はそこにあります。

 自分は親にすら必要とされない人間だった。要らない人間だった。
 アレクシアは、それをシャルルに知られることによって、シャルルが「本当は自分にもアレクシアなど要らない」と気づくのを心底恐れていました。
 
そう気づかれれば、もうどうしたって諦めるしかありません。血を分けた親ですらそのように思う人間を、どうして他の誰かに心から受け入れてくれだとか、愛してくれだとか言えるでしょう。
 ……と、アレクシアはそう思っていましたから、これについては、もう本当に言いたくなかった。それまでに故郷の過去や両親が死んだ話はしていても、「置いていかれた」「連れて行ってもらえなかった」というような表現は絶対にしなかったはずです。

 しかしながら、これから二人でアレクシアの故郷に帰ろう、というこの瞬間にそれを聞かれたら、言うしかない。適当な嘘をつくことも、ごまかすことも、黙ることもできませんでした。
 この無人島で過ごした七日間、特にあの泣きからこちらで、もはや完全にシャルルに対して心を閉ざせなくなっています。本来ならばそんなことを望める自分ではないのだけれど、それでも愛していてほしい、受け入れてほしい、と願わずにいられない。だからごまかせない。本当のことを言う以外に選択肢はなくなり、しかし同時に、言えば拒絶されることを半ば確信している。本人の主観としては完全に詰みです。
 アイコンの表情自体は最終的にやや苦笑、といったところですが、これはかなり諦めが入っています。ああ、終わったな、終わってしまったな、という気持ち。

 なのに、それが……あの……ああなって……こうだよ。

 泣きは一回だけだと思っていたのにまた泣いちゃったし、ほぼプロポーズじゃん、とか言っていたら本当に「結婚」というワードが出てきてどうしようかと思いました。
 まあ実際のところ、アレクシアにとって人生で一番辛かったのは両親に連れて行ってもらえなかったこと、自分が二人に必要なかったと突きつけられたこと、という前提の上で、愛しているし愛されていたいと願う相手にそこから一人で頑張ってきたことを認めてもらい、結婚を持ち出されて家族になりましょうって言われたら、もう解答なんだわ。それが。完全に。
 最終的にアレクシアの口から「ずっと、一緒にいて。わたしを、もう、ひとりにしないで」という言葉が出て、しかもそれを「お願い」したのは、完敗ですわ……という気持ちです。PLが。

*エルレンマイヤー卿ではないアレクシア

 今回実際に起きたことはここまででザッと触れてきましたので、少しばかりそことは離れたものも含め、主にアレクシアにまつわる話をします。

 アレクシア・エルレンマイヤーという少女は十一歳の冬に両親を喪い、その翌年から以後十年以上に渡って、いずれかの段階から『エルレンマイヤー卿』と呼ばれることになる交渉人をしてきました。当然、当初十二歳の子どもが交渉のテーブルについたところで状況が劇的に改善したりはしませんでしたが、アレクシアは自ら交渉の最前に立つことによってまず象徴になり、そこから徐々に経験と勝利を重ねて実務家となり、やがて工房街から『エルレンマイヤー卿』の尊称を得る辣腕家に至りました。
 これは一面では喜ばしいことでありながら、前述した通り、すべてがアレクシアの傷つきによって生まれた流れでもあります。
 アレクシアは両親に置いていかれたことによって、主観として『そのままの自分』『ただのアレクシア』を完全に否定されました。自分が何か特別悪いことをしていたつもりもありませんでしたが、連れて行ってもらえなかった以上はそうではなかった、要らないと思われるような子だった、と思いましたし、アレクシアの中で、それはつまり自己評価がまったく間違っていたのだ、ということになりました。
 アレクシアの不幸は、その出発点から『良いアレクシア』になろう、ならなくてはいけない、そのようにしよう、すべきだ、と思ったとき、『エルレンマイヤー卿』まで辿り着けてしまう能力があったことだと思われます。適当なところで諦めて、仕方なかったのだと思えたら、自分をこうまで縛り上げずに済んだでしょう。
 その上、アレクシアは交渉人としての自分をスタートさせたときから作り上げていった『エルレンマイヤー卿』のカバーで『アレクシア』を覆い隠してしまったので、その間十年以上、『アレクシア』を他人に許されたことがありませんでした。

 それだけの年月の後、そのカバーをばりばりに剥いでいったのが本戦の観戦ロールの際のシャルルでした。しかも結果それが「愛してる」に至ったことで、カバーを剥がされ深く越境されたアレクシアにもその楔が打たれたわけです。なんで剥いだんですか?
 アレクシアは両親に置いて行かれてから、個人間の、とりわけ自分自身に関わる愛というものがまったくわからなくなっていました。親にさえ不要と思われた自分にそんなものが手に入るとは思えませんでしたし、自分には常により良い代わりがいて、自分はいつかまた不要になるという確信が心の一角をずっと占めていました。二周目においてシャルルがいくら「私が愛したのも愛しているのもアナタだけだし、アナタでなければ駄目」と言ってくれても、置いていかれた、連れて行ってもらえなかったということを隠している以上その確信は消し去ることができず、いつか手を離さなければならなくなる、という不安が付きまとい続けていました。愛している、愛されていると思えば思うほど、それが嬉しく手放し難いのと同時に、前述の通りシャルルに「本当は要らない」と気づかれるのが本当に怖かった。
 アレクシアの自己評価は常に過剰に低く、個別の案件を見れば非常に優秀で成果を残しているにも拘わらず「できていない」「足りていない」と感じるのも、実際に不足しているのは能力ではなくキャパシティであり、強迫的にやろうとしていることのサイズが大きすぎるだけです。
 堕落の国で、シャルルは優秀な右腕としてその一部を担い、二周目ではそれに加えて「もっと甘えていい、頼っていい」と言い、自ら甘えることが苦手すぎるアレクシアを積極的に甘やかしまくり、アレクシアの自縄自縛をほどこうとしていました。具体的にそういうつもりだったかはともかく、ずっと。本当にずーっと。
 二周目……というか観戦ロールでカバーを引っ剥がされつつあった頃を境に、アレクシアはシャルルに対してだけは『エルレンマイヤー卿』の顔をし続けることができなくなっていましたし、それはつまり、ひたすらに隠されていた『アレクシア』が表に出始めていたということに他ならず、さらに言うならアレクシアが自分の手で止めていた『アレクシア』の時間が動きだしたということでした。

 本戦では動きだした時がはっきりと進む前にアレクシアの人生は途絶えてしまいましたが、二周目では軋む時計の針とともに堕落の国での人生が再び始まりました。
 アレクシアは正直、シャルルに会いたい気持ちと会いたくない気持ちでかなり引き裂けましたが、結局は「会わないほうが良い」と結論してシャルルとの二度目の出会いを避けました。逃げたと言ってもいいです。結局は捕まってしまいましたし、シャルルから逃げたアレクシアが何をしていたかといえば、シャルルと同じ色の瞳の青年を拾って二ヶ月に渡る旅をするという、お前……みたいな状態だったことになったのですが……(気になったら小説を読んでください)。
 ともあれ、以後二周目のロールで、アレクシアはシャルルから本当にベタベタに甘やかされまくり、それに戸惑い、エルレンマイヤー卿ではないただの女、ただのアレクシアでいることが怖いのだとはっきり自覚して、だからこそエルレンマイヤー卿として働き続け、また甘やかされ……そのようにしてシャルルと二人でやってきた先がこのシマナガサレで結実したわけです。

 最後にアレクシアが「普通の少女のように」笑ったのは、文字通り、十二歳で隠され、時を止めてしまった『少女としてのアレクシア』が、ようやく本当に表に出てきた瞬間でした。
 シャルルはアレクシア自身が『赦されること』を許せるようになるまでいつまででも待つと言ってくれましたが、最初の一歩はもうそこに踏み出されたようです。まあ、この後にも長い時間が掛かるとは思いますが、アレクシアの十一年は、これからようやくほどけていくのでしょう。きっと。

*総括

 ……というようなことを、まあ、全部わかってやっていたわけでもないんですが。
 事後的にPLが「こういうことだったんだな」と把握したこともそれなりにありますし、とはいえ「これはこう」と決めてやっていたことも当然あります。その塩梅について詳しく書いても文量が増えるだけなので語りはしませんが、いずれにせよ結果として残ったものはこの記事の通りです。

 PLであるわたしは、アレクシアのことを基本的には「愚かで自罰的なワーカホリック」だと思ってやってきました。
 アレクシアはどうしようもなく愚かな女で、本人もそれを知っています。知っていながら、その場を離れられない二重に愚かな女です。
 かつてアレクシアは常に「自分のためだ」「自分の選んだことだ」と言いながら、実際的には他者のことばかり選び、身を削り、それでようやくひと欠片許されたような気持ちになっては再び同じことを繰り返し、けれど決して自分のすべてを許すことはできずに苦しんでいたのだと思います。
 シャルルはそんなアレクシアに、『何か』を見出してくれました。
 シャルルがそうして『エルレンマイヤー卿』だけではないアレクシアを見出し、外側から手を差し伸べ続けてくれたこと、支えてくれたこと、肯定してくれたことのすべてで今回の結末が生まれました。
 アレクシアに救われる道を作ってくれて本当に感謝しています。

 まあ、そもそもアレクシアがこんなキャラクター性になったのは、不敵ヴィラン主従をやるぞという当初のコンセプトにも拘わらず何故かシャルルがフルスクラッチ乙女ゲーをぶちかましてきたからではあるんですが……なんか、今回で責任を取ってもらった感があってもういまさら何も言えなくなっちゃったな……。

 とにかく、何はともあれ、結婚です! ありがとうございました!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?