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「ライトでえっちなノベル的な何か」


 面倒な部分は、この手記を読んでいる誰かにとって、おそらく重要じゃないので、手っ取り早く済ませようと思う。
 ボクの名前は桐生斎斗(キリウサイト)で、現在高校2年。帰宅部。AB型。勉強は最近ハマり気味のネトゲの所為で何とか「中の中」に残留してる感じかな。スポーツは小学校の頃にサッカーをやってたぐらいで、最近はずっと運動不足。
 小3ぐらいまではエースストライカーだったんだけど、やたらとチームプレイを強調する監督とソリが合わなくて、小学校を卒業する時に辞めちゃった。
 またフィールドを走り回りたい気持ちはあるけど、その一件でスポーツ、とりわけ団体競技に嫌気がさしたから、それ以降、スポーツはほとんどやってない。運動不足が過ぎるから、勘を取り戻すまでには少し時間が掛かりそうだけど、なにぶんブランクが長いからなあ。
 おっと。手っ取り早く済ませなきゃ。
 そんな訳でボクは、割と平凡で退屈な高校生活を送っていた。
 ある日の朝、登校途中に、青信号を渡ろうとしたら、突然、軽自動車に轢かれたんだ。
 子猫とか、クラスのマドンナ(笑)が轢かれそうな所を助けようとして、とかではなく、突如突っ込んで来た軽車両に、そう、トラックでもなくて、単に、轢かれた。
 相手は電気自動車だったのか、コレという接近音も少なく、猛スピードって訳でもない。トラックに撥ねられる、とかなら、まだドラマティックで絵にもなったんだろうけど。
 ボクの身体は、軽自動車に吸い込まれるみたいにして車両の下へと飲み込まれた。
 相手の車が何だったのか、どういう事故だったのか、そして、ボクの怪我はどんな具合なのか、それはわからない。
 何故ならボクは、『異世界転生』していたからだ。

 ボクは気が付くと、石畳の暗い部屋の中にいた。その瞬間にボクは察した。異世界転生したのだと。
 「貴方はここで死ぬ運命ではなかった」と告げる女神様の中継地点がなかったのは残念だし、ボクの異世界転生が予定調和になかった「お詫び」として特別なスキルを与えられるなんて場面もなかったけど、とにかくボクは異世界に転生してしまったのだ。
 いや、転生というのは正しくないかも知れない。別に、異世界に赤ん坊として生まれた訳ではないし、別の誰かの肉体に魂が入り込んだ訳でもない。
 桐生斎斗は桐生斎斗として、そのまま異世界に召喚されたのだ。
 実際、元いた世界でボクの身体がどうなったのかわからない。自動車が身体を飲み込むような感覚はあった。痛みは特に感じていなかったと思うけど、手足が変な方向に曲がったような感覚はあった気もする。
 けれど、それが異世界へ召喚された時の感覚なのか、事故の感覚なのかはわからないし、今となっては確かめようもない。
 正直なところ、あっちの世界は退屈だった。つまらない話で盛り上がるクラスメイト。つまらない社会のルール。
 ハマり気味だったネトゲの続きはやりたい気もするけど、今はそれ以上の冒険がリアルに体験できる。強いて言うなら、そのネトゲで仲の良かったリリちゃん(来月にアップデート予定だった「結婚」が実装されてれば、即結婚するぐらいの間柄だった)とか、図書室の司書係を務めていた隣のクラスの迫水さん(こっちはボクの一方的な憧れ…かな?)にもう会えないのは残念かも知れない。
 母さんに会えないと思うと親不孝な気もするけれど、未練という程のものでもない気はする。もし、元いた世界でのボクが事故死しているとするなら、悲しませて申し訳ないとは思う。けれど、死んでいるとするなら、それはそれでお互いに諦めはつくし、それでいいんじゃないか、と考えている。
 それにまぁ、母親からすれば息子が異世界で世界を救う活躍をしているとするなら、それはきっと親孝行なんじゃないかとも思うのだ。

 ちなみに、ボクが元いた世界を「元いた世界」と呼んで達観してしまっているには、理由がある。
 ボクはもう既に、今のこの世界を救ってしまっているのだ。
 簡単に言えば、もう魔王を成敗してしまった、ってコト。
 魔王を倒せば、あるいは「元いた世界」に戻れるかも知れない、って思っていた時期もある。しかし、魔王を倒しても異世界に通じる扉は見つからなかったし、ボクを召喚したゲートはボクの召喚とともに沈黙してしまった。
 だから、ほとんど諦めている。諦めていると言うか、あまり気にしない事にした。
 実のところ、まだ元の世界に戻る方法が完全に失われた訳ではない。
 魔王を成敗した事が切っ掛けで、この世界は力のバランスを失い、また別の世界と繋がってしまったのだ。
 この世界、人間界「アモルファウスト」と、魔界「エンシュロン」 そして、鬼界「ニビイロカネ」
 今現在、ボクたちは新たな脅威である、鬼界との戦いの最中だ。魔界よりも強敵で、世界を救うにはもう少し時間が掛かるだろう。どれぐらい強敵かと言うと、そもそも魔王は鬼界から来た異邦人であり、魔界を統べて、より弱い人間界を征服し、力をつけて鬼界に復讐しようとしていたのだ。弱さゆえに自分を切り捨てた鬼界に。
 だから、鬼界はまた別の世界に繋がっている可能性があり、それはいずれ「元いた世界」にも繋がっているかも知れない。けれど、変に希望を持てば余計に落胆するかも知れないし、今の世界には退屈してない。しばらくは退屈しそうもない。目下は鬼界の敵を退ける事に集中したいのだ。

 さて。母に「ボクは、異世界で世界を救う大活躍をしているよ!」と報告したいところだが、これを報告するには少しばかり抵抗がある。
 ボクはこの世界に「聖者」として召喚された。正確に言って「勇者」ではない。「聖者」だ。
 色んな教典に出てくる「聖人」的な「聖者」とは少し違う。
 聖者は聖なる存在そのもので、邪を祓う力を持つ。
 簡単に言えば、勇者ではなく、勇者に力を与える存在なのだ。
 ボクが選んで力を与えたものは、人間離れした力に覚醒する。アモルファウストの住人たちは、ボクたち人間よりも相当に強い。体力も相当なもので疲れ知らずだし、傷の治りも早い。それに、魔法の才能がある者は魔法まで使えるのだから、デフォルトで漫画じみた強さを持っている。
 だが、それよりも魔界の怪物たちは強い。鬼界は尚更だ。
 それでも、ボクが力を与える事により、飛躍的に強くなる。数人がかりでようやく倒せるような魔物でさえ、一刀のもとに斬り伏せるレベルまで強くなるのだ。
 そう。ボクは「勇者」を量産できる「聖者」なのである。

 問題は、この「力」の供給方法なのだ。
 これを説明するには些か抵抗があるけど、避けては通れないから説明しよう。
 アモルファウストの住人は、ボクの体液に触れるだけで、力に覚醒する。
 ええ? いや、本当の話。
 アモルファウストの住人は、ボクの体液に触れると強くなるのだ。
 冗談みたいだけど、これが現実。
 そう。わかるだろう。体液の最も効率の良い摂取方法は、えっちすること。
 母親に報告しづらい理由はわかってもらえただろうか。
 そりゃ、ボクだって驚いた。けれども、ボクをこの世界に召喚した女神官のチユキが教えてくれたのだ。
 チユキ? うん。何だか日本人っぽい名前だろ。そう。彼女は「聖者」の末裔だ。かつてこの世界を救った勇者と聖者の末裔。
 その彼女がしっかりレクチャーしてくれた。実技指導付きで。
 血が相当薄いとは言え、もともと魔法で暗闇を照らすことぐらい出来る。召喚された石畳の部屋の灯りは彼女の魔法によるものだ。それが、ボクと軽くキスしただけで、暗い部屋が深夜の牛丼屋かコンビニみたいな明るさになった。
 この例じゃわかりにくいかも知れないから、ゲーム的な表現をする。
 「メラを唱えたら、メラゾーマの威力だった」って言えばいいのかな。キスだけでこれは言い過ぎかも知れないけど、濃厚接触ならそれぐらいの力がある。
 もっとわかりやすくゲームのステータスっぽく言えば、ボクの唾液に少し接触するだけで、レベルが上がるのだ。
 汗でも唾液でも精液でもいい。得られる力は、汗0.1→唾液1→精液10ぐらいだろうか。
 つまり、汗ばんだ手で握手するだけで、誰もが超人的な強さになる。これは男女や種族は問わない模様で、大きな戦さの前には何人もの兵士達がボクに握手を求めてきたぐらいだ。
 ただ、残念ながらボクはノンケ、つまり、ヘテロな訳で、魔王討伐のためのパーティは女の子だけで構成された。
 ボクのために催された討伐隊厳選会では、実力だけじゃなく、ボクの好みがかなり反映されたって事は皆には内緒だよ。
 長身巨乳で頼れるお姉さん戦士、アティカ。
 身体は小さくて平べったいけど俊敏さならピカイチの武闘家、シャオ。
 寡黙を通り越してコミュ障だけど、魔力と知識は本物の魔法使い、ユーリ。
 170歳の経験は伊達じゃない、美貌のエルフの賢者、エルヴァイラ。
 機転とサバイバル知識、弓から剣と、武器も料理も何でもこなすレンジャー、リディア。
 聖者の末裔でボクを召喚した、そしてボクの初えっちの相手、チユキ。
 最後に、チユキの双子のツンデレ妹で、一撃必殺のサムライ、サユキ。
 ちなみに、ユーリが迫水さんと、リディアがリリ(と言ってもコッチはアバターだけど)に似ていたのが決定打になったのも秘密。
 以上が魔王討伐のメンバーだ。綺麗なお姉さんからロリ可愛いまで色とりどりで、冒険は少しも飽きない。

 チユキから教わったり、実践してみて色々わかったけれど、どうやらボクの与える「力」には2種類の効果がある。ひとつは、制限時間付の爆発力だ。
 ボクの体液に接触すると、彼女達は飛躍的にパワーアップする。RPG的に言うとBuff効果とでも言うのだろうか。摂取量や摂取方法、体液の種類にもよるが、効果時間は約3日。触れた瞬間が最も強く、精液なら、およそ10倍近いパワーを得るみたいだ。
 力は半日は横ばいに近く、半日目から緩やかに下落し、2日目を過ぎた辺りで急落する。3日を過ぎる頃には、ほぼ失われる感じだ。ただ、この力は時間とともに失われるだけではなく、体力や魔力を酷使しても弱まる。つまり、連戦激戦となると、パワーは2日目に尽きたりする訳だ。
 そして、もうひとつの効果は、実力の底上げである。
 それが底上げなのか、それともバフの残留なのかは未だにわからない。しかし、ボクの体液を摂取した相手は、確実に強くなるのだ。ひとつめが掛け算だとするなら、こちらは足し算である。
 しかも、こちらは精液よりも唾液。唾液よりも汗の方が効果がある模様で、夜は裸で抱き合って眠るし、移動は常に両手を二人と繋いでいる状態だ。こうすれば、寝てる間も歩いている間もわずかながら強くなり続ける。
 ゲーム的に言えば、経験値を得て、レベルが上がる感じだろうか。これもRPGっぽくなるが、最初は目覚ましく強くなるけれど、繰り返してえっちしても、能力の上昇値は減るようだ。とは言え、確実に強くはなってるみたいなので、あくまで高レベルになると経験値を稼いでも、なかなか次のレベルに上がらない感じだろう。
 それにもう、彼女らの基礎的な能力は常人からは逸脱した強さだ。当然だろう。

 それでも、彼女たちは毎夜の如く、いや、昼夜を問わずボクを求めてくる。
 恥ずかしながら、この世界に来てすぐに、チユキとえっちするまで、ボクは童貞だった訳だが、今ではそこいらの陽キャなんかじゃ太刀打ちできない経験人数と回数に達していた。
 もともとオナニー回数は自分でも多いんじゃないかと、下手したらセックス依存症的な何かの心配をしてしまうぐらいだったので、求められるのは悪くない生活だ。
 正直、精子の量は射精回数にまったく追いついていない状態(笑)だけど、チユキの回復魔法やユーリのエルヴァイラの増幅魔法のお陰で体力的には何とかなっている。
 それでも毎日となれば飽きが来そうなものだが、7人もいるので毎日違う味わいが楽しめるハーレム状態。
 それに「何だか今日は調子が悪いなぁ」なんて聞こえよがしに呟いたら、あの手この手でボクを奮い立たせるために頑張ってくれる。
 そんな状態だから、毎日ヤリまくりで、えっちを義務に感じても、ちょっとお願いすればどんなアブノーマルなプレイでも、彼女達は健気に応じてくれた。口でも胸でもお尻でも、SMでも放置でも羞恥でも、3Pでも4Pでも8Pでも、だ。
 それに、浮気は事実上の公認である。ボクが「聖者」である以上、何かと理由をつければ、気に入った女の子とは大概すぐにえっちできた。それが色香のすごい王妃であっても、年端もいかぬ族長の娘でも、だ。パーティの7人だって、やきもきはしながらも、その日のえっちを頑張ってボクの気を引くしかないからね。
 それに、旅の始まりは7人だったけど、今では10人の大所帯だ。
 刺客として送り込まれて来た、魔族と人間のハーフの暗殺者、メア。ボクに浄化されて、今ではパーティのメンバーだ。
 実は聖者の血を引くものの、影の一族として育てられたストーカー忍者、ツララ。彼女は元々、王家の御庭番だった。「聖者」の力を恐れた王が、いざと言う時にボクを暗殺しようと彼女をスパイとして送り込んでいたのだけど、今ではすっかり仲間だ。
 ちなみに、サユキ、メア、ツララの3人は別行動を取ることが多い。いつものパーティに飽きない為の程よい「味変」だ。
 そして最後の仲間は、今ではパーティの主力、魔王スクネ。サユキ以上のツンデレ具合だけど、圧巻のセクシーボディであり、頼りになる仲間でもある。

 そんなこんなで、今は鬼界の敵と戦っているところだが、流石にこれでは「聖者」じゃなくて「精者」だ。
 それに、割と性豪なんじゃないかと心配だったボクでさえ、連戦に次ぐ連戦でバテ気味なのは間違いない。
 回復魔法やら増幅魔法でも追いつかないぐらいに憔悴している気がする。みんな心配して精が付くものを作ってくれたり、マッサージで慰労してくれたりはするんだけど、結局そのままえっちに雪崩れ込んじゃうから、参ったもんだ。

 そこで、みんなと相談して、鬼界で入手したとあるアイテムの使用方法について話し合った。
 それが、この手紙だ。
 鬼界との戦いはまだまだ終わりが見えない。ここでの生活は悪くないと言うよりも最高だ。金玉が枯れてしまいそうって以外にはね。
 今、ボクはキミに向けて、この手紙を送った。
 ボクは不意の事故というトリガーがあって、この異世界に来た訳だ。
 チユキがボクを呼び寄せたゲートは失われたが、新たに得たアイテムと、強くなったボクたちの力で、どうにかこの手紙を転移させられた筈だろう。
 だから、どうかボクに、ボクたちに力を貸して欲しい。
 ちゃんと元いた世界に届いているのか、そして、ボクと同じ「聖者」がこれを見つけて読んでくれているのか、それはわからない。
 けれどきっと、これを読んでくれているキミは「聖者」なんだと信じている。
 だから、キミも、この異世界のことを信じて欲しい。
 疑いが残っているなら、手紙の最後に書かれている住所を訪ねて欲しい。そこには桐生斎斗という人間の痕跡がある筈だから。
 だから、信じて、この異世界に来て欲しい。
 この手紙を持って強く願えば、キミも必ず、ここに来られる筈だ。
 必ず来て欲しい。
 この世界を救うために。


 P.S. かなり色んなプレイをしたけど、流石に男2での3Pとかはまだやってないんだよね。十代でそこまでの壁は破れなくて(笑) 倫理的にも性格的にもNTRとか趣味じゃないし。でも、キミとなら、ボクと同じ「聖者」であるキミとなら、そーゆープレイも出来ると思うんだ。楽しみに待ってるよ。



 暗い病室の中で、看護師がその手紙を読み終わり、

 そして、その手紙を、指先で弾くようにして、

 消した。


 「何ともお粗末な餌だが、新たな糧の元に届く事を願おう」


 看護師が、溜息交じりにそう呟き、ベッドの患者を見下ろす。


 「貴様の言う通り、異世界はある。ただ、そんな稚拙な夢物語の世界ではない」


 看護師の眼が、紅く光る。


 「貴様らの夢と精を糧にして生きる、夢魔の世界だ」


 この肉体の精は、けっして美味ではなかったが、長持ちした。次第に滅亡への一途を辿るインキュバスの一族にとって、それは充分な糧だった。
 だが、この肉体もそろそろ朽ちる。新たな贄を探さなければならない。

 あの手紙は果たして、夢魔の望む鬱屈した欲望の持ち主に届くのだろうか。


 ※ この短編小説はすべて無料で読めますが、いい感じに痛々しさが出てたぞ! と思った方は、投げ銭(¥100)をお願いします。なお、この先には特に何も書かれていませんが、投げ銭とサポートが計¥500円毎に、お好きなキャラクタの濡れ場なり絵なりを追加します。

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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。