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「え!50分で4人の出会いから求婚までを描く熱い人間ドラマを!?……出来らあっ!」『Parade d'amour』【分析と考察混じりの感想編】

本記事は『Parade d'amour』のネタバレを多大に含むぞ!

 青木明子さん作の大傑作『Parade d'amour』について、本編を辿りつつそのシナリオをできうる限り細かく分析、考察しつつ感想を垂れ流す。
 だいぶわかり切ったことまで書いていくので、本記事を読みながら「いやいやそんなことわかってるしw」と思う部分もあるかもしれないが、自分がこのドラマCDの褒めポイントを全て褒めたいと思っているのでそこは堪忍してほしい。褒め落としがあった時は俺も悲しいから一緒に悲しんでくれ。

『Parade d'amour』

序章・決意……04:12
『Parade d'amour』(曲)
一幕・秘密……10:58
二幕・日々……07:39
三幕・友……16:31
四幕・願い……07:44
『星宙のVoyage』(曲)
終幕・告白……05:15

【序章】04:12

 序章では、主要登場人物のうちアシュリーのみが登場する。緊迫した状況から始まり、観客に対してスムーズに状況説明をし、同時にアシュリーの『家族(特に幼い兄弟)を守る』という並々ならぬ覚悟を見せる。緊迫した状況から始まるというのは、王道だがやはり引き込まれる導入だ。
 息を殺してやり過ごそうとするアシュリーたちや、荒くれものたちからの圧で、非常に息苦しい開幕でもある。そこから───

【Parade d'amour】(曲)

 瞬時に世界が華やぐこのイントロ!
 一瞬前との凄まじいギャップに、思わずクラリと来てしまう。ギャップってのはこう使うんだよなあ!と膝を打ちつつ、「そういえばこれこういう作品だったわ」と曲に聞き惚れてしまう。
 同時にここで各キャラに対する大まかなニュアンスを掴むことが出来るというのも、その後のストーリーを飲み込む際にスムーズになるよう、一役買っているのが何とも上手い。


【一幕・秘密】10:58

 アシュリーの「序章からこの一幕までのあらすじ」みたいなナレーションから始まる一幕、ここのナレーションと開示する設定がマジで青木明子さんつよつよポイント。

「ヘリック商会から屋敷と土地を取り戻す。そう決意した私は、証文を取り戻そうと様々な方法でロバート・ヘリックの懐へ忍び込んだ。(中略)小間使い、馬の世話係、庭師見習い。様々な職業へ化けては屋敷へ忍び込もうとしたけど、そのたびに誰かに追い出されてしまった。そこで私は、ターゲットをロバートではなく、息子のオスカーに変えた。(中略)年度末になると、ヘリック商会は士官学校の成績優秀な生徒たちを招いてパーティーを開くという。ならばオスカーと親しくなるか成績優秀者となって、そこに潜り込めばいい(後略)」
「様々な職業へ化けては屋敷へ忍び込もうとした」 

 まずこの部分。「アシュリーは既に手を尽くした上で、最後の手段として性別を偽ることを選んだ」という図式が成り立ち、隙を一つ潰しに行っている。

「小間使い、馬の世話係、庭師見習い。様々な職業へ化けては屋敷へ忍び込もうとしたけど、そのたびに誰かに追い出されてしまった」 

 ここで「実はオスカーは他の誰よりも早くアシュリーに出会っていた」という事実が生まれるのだが、正直自分は初見では全く気付かなかった。だってオスカー出てこないし、この時点では歌以外ではまだ一言もしゃべっていないのだ。存在感ゼロ。そもそも屋敷にオスカーがいるという情報が無い。オスカーが屋敷でアシュリーを見ているという事実、「言われてみれば確かにそうだなあ!となれる素晴らしい伏線。

「年度末になると、ヘリック商会は士官学校の成績優秀な生徒たちを招いてパーティーを開くという」

 ここで物語の一つの目標が提示される。これがあるのとないのでは物語の面白さと緊張感が断然変わってくる。

「ならばオスカーと親しくなるか成績優秀者となって、そこに潜り込めばいい」

 アリエルくんのオタクとしてはこの一文だけで最高にブチ上がれる。
 この設定がほんと上手い。アリエルくんとアシュリーを結びつける、大事な設定だ。詳しくは後述する。

【入学式】
 ここで、アシュリーはオスカー、アリエルと出会う。
 ハーヴェイとオスカーのスピーチでそれぞれの性格が引き立ってるのも良いよね。
 実は最初に出会いのシーンが描かれるのはアリエルだったりする。二言目には「お兄様」って口にするアリエルくん、可愛いよね……
 そして遂に露呈するアシュリーのキレッキレの毒舌。俺は口の悪いアシュリーが好きだ。


 そしてオスカーがアリエルを嗜めるが、ここではアシュリーとの会話はない。アシュリーとハーヴェイの会話でアリエルの背景もさらりと提示して見せつつ、同時に二人の性格をするりと飲み込める。「ハーヴェイ、君お人好しだって言われない?」というセリフをここで出せるようにするスマートさよ!
 あとアシュリーが首席であることが多くの線を引き、ドラマの進行をスムーズにしている。このあたりの設定の詰め方は、本当に絶妙だ。

オスカーのパーティーに参加するためには成績優秀である必要がある。
→首席になり、アシュリーの能力が高いことが示される。
→学費が免除される。アシュリーの家には金がないのでこうでもないと学園にはいられない。
→同時に、それが要因でアリエルにライバル視される。これでアリエルにとってアシュリーは「お兄様に近づく不届き者」であると同時に、「超えるべきライバル」という存在でもあることとなり、関係性に深みが出る。そしてこのドラマはそれを存分に生かし切っている。
→さらに言うとアリエルは能力が高いことがキャラ要素の一つとして大きいので、アリエルがライバル視するためにはアシュリーが一番であるのが理想的。

 設定の連鎖コンボやあ……
 そして、そのまま舞台はハーヴェイの回想へ移る───

【回想:ラッキースケベ】
  次に、回想内でのハーヴェイとの衝撃的な出会い。ここで、裸を見られても毅然としてハーヴェイを恫喝、協力を強要する。強い女性とか以前に覚悟が決まりすぎでは?好きだなあ(しみじみ)
 さてここでもシナリオの妙が光る。このハーヴェイの出会いを既に起こったこととして回想にし、その後ハーヴェイとの間に起きたであろうすったもんだを省略していることが、この物語を50分に収めるということに大きく貢献している。

【再び入学式】
 回想が開けると、ここで一幕の最後としてオスカーとアシュリーの出会いが描かれる。
 ここではアシュリーの凄まじい毒舌と、それを余裕で躱すオスカーの対比が印象的だ。(それはそれとしてアリエルくんは終始可愛いんだなあ……)
「ふーんおもしれー女」を地で行くスタイル、嫌いじゃないわ!


【二幕・日々】07:39

【庭:4人の交流】
 取り巻きたちにも高貴に振舞うオスカー。個人的にはここで(あ、こいつ普通に人当たり良いんだな……)と意表を突かれた。
 心配症の保護者、ハーヴェイ。アシュリーにツンツンされてあわあわするの可愛いよね。
 そして!!!マイスイートエンジェルアリエルくん!!
「なんだ、オスカーの犬か」という凄まじい暴言をアシュリーに吐かれ、「は!?」と激高するアリエルくん。可愛い……いやこれはアシュリーもだいぶ酷くない??ハーヴェイも「言い過ぎだよぉ……」って言ってるし。でもそんなアシュリーが好き。

 実はここで一つ大きなポイントがある。アリエルくんを演じている「徳川まつり」、まつり姫は絶っっ対に「は!?」とは言わない。こういう時は「ほ?」っていう子だ。それが彼女のアイデンティティでもある。そう彼女の口から「は!?」は絶対に出ない。ということはつまり……初めて聞いた時、自分の中でここで理屈を超えた理解が発動した。

 「アリエルくんとまつり姫は全く別の、断絶した存在だ」と。もっと言うとここで初めてイメージ上のアリエルくん像に男根が生えたのである。
 こうなるともうだめだ。狂いゲージは最高潮に達し、ここからは例え担当アイドルのまつり姫であろうと今この瞬間だけは一旦頭の隅に置いて、全力でこいつを推しながらドラマCDを聴くぞ!と心に決めてしまった瞬間だった。

閑話休題。

 アリエルを嗜め、帰り際に「タルボット」を名乗るオスカー。ここで、オスカーと母親の件が一瞬だけ見え隠れする。
 あと帰り道でアリエルを揶揄うオスカーの二人が本当に可愛い。

【アシュリーに噛みつくアリエル】
 ここで、アリエルが日々アシュリーに噛みつき、ハーヴェイがおろおろしつつ、オスカーが見守るという構図が日常化していることがわかる。
 ここでようやく一息ついて、ドラマにゆとりが入る。ここのアリエルくんが本当に可愛いんだなあ…… 

【三幕・友】16:31

 さて、ここまでのドラマ運びが余りにもスマートで18分ちょいしか経っていない。そしてここからは、その丁寧な最適化によって創り出した残り尺をフル活用してかなりストレートに物語が紡がれていく。
 その都合で、ここからは生真面目な話より本編の内容とその感想の比重が圧倒的に多くなっている。ご了承願いたい。


3幕も、アシュリーのナレーションから始まる。彼女は、士官学校の日々の中で、今までの自分の環境になかった新鮮な刺激に満ちた勉学と鍛錬の日々に夢中になっていた。そう、当初の目的が揺らいでしまう程に。


【廊下・アリエルとアシュリーのシーン】

 アリエルとアシュリーの一対一のシーン。
 この出会い頭で二人が「おい」「なんだアリエルか、何の用だ?」とやりとりする部分で、あの「なんだオスカーの犬か」の時に比べると……仲良くなったなあ!と少し感動してしまうと同時に、時間の経過を実感できるようになっている。

 そこで偶然アシュリーが、日々剣の鍛錬を独りで行っていることを知ったアリエルは、「何故だ」と問う。他の男子と比べて余りにも体が小さく華奢なアシュリーは、どれだけ鍛えようとも勝てる見込みが無いからだ。「無駄だとわかっているのに何故練習するんだ?」
 これに対しアシュリーは即座に「無駄なんかじゃない」と断じる(ここのアシュリーが本当にかっこいい)。
 そのままキレ気味のアシュリーに速攻で論破されてしまうアリエル(可愛い)。それでもなお食い下がる彼に、アシュリーは本音を吐露する。
 今まで碌に勉強することすら叶わなかったアシュリーの境遇を漠然と知ったアリエルは、ここでアシュリーに対して初めて歩み寄りを見せる。
 個人的に、ここでアリエルの中でアシュリーに対する印象がどう変わったのかは、考えれば考える程解釈が自分の中で変形する部分だ。だが一つだけ確かなのは、彼の中でアシュリーに大して何らかの形で「尊敬」が生まれたということだろう。
 同時にここは、生まれた環境が違うお互いが、正に無意識的に……アリエルは理解をしようと、アシュリーが理解されようとする、本作において本格的かつ大きなコミュニケーションを初めて行う重要な部分でもある。相手の全てがわからなくても、コミュニケーションをすれば尊敬し尊重することは出来る。
 結果として、アリエルは正にアシュリーが鍛えているその剣技での正々堂々とした勝負を挑んだ。それは彼に出来る、最上級の尊敬と尊重の提示だ。

 更にこのシーンは、本作における最大のテーマ「自分の未来を自分で決める意思」を象徴している。アシュリーは、性別上致し方ない体格差という運命に屈することなく自らを鍛え上げているのだ。

 (この一連のシーン本当に好きなんだよな……)


 【その夜・アシュリーとハーヴェイ】
 アリエルの挑戦を受けたことに驚くハーヴェイ。それもそのはずアリエルはあれでも学年ではアシュリーに次いで2番の存在だ。その彼とフィジカルでの勝負をするのは、危険極まりない。しかもこの後に出てくる「僕の人生で唯一敗北を味合わせた人だ」というセリフから見ても恐らく彼はそれまでそういった試合において生涯無敗のバケモノであった可能性が高く、剣技においても、少なくともそんじょそこらの軍人候補生を優に凌ぐ腕は持っているはずだ。そりゃ危ねえよ。

 当然止めるハーヴェイ。だがアシュリーは、「試験を受けなければ学校にはいられなくなるからしょうがない」と言い、突っぱねる。なるほどそれは確かに……

 いやいやそれにしてもわざわざアリエルと試合する必要はないのでは?

 そう、これまで一貫して目的遂行の為だけに動いていたアシュリーが遂に人間味を見せる。目的遂行とは関係ない部分で、ハーヴェイを詭弁で誤魔化すのだ。
 それほどまでにアリエルの挑戦を受けたいと思ったのか。情が沸いてしまったのかアシュリー。いや無理もない、あのアリエルが尊重と尊敬の証として出して来た挑戦を突っぱねるなんて出来るはずもない……それはお前の中のプライドが許さないんだよなアシュリー……(浸るオタク)

 だが、それは詭弁であっても彼女の意思そのものであることに違いはなかった。引きさがってしまうハーヴェイ。いざという時の治療も約束してくれる。

 そこから始まる、ハーヴェイとアシュリーの対話。ここで、一気に情報が加速する。

・ハーヴェイの母を失った過去。そこから来る医者の道という夢。だが、家族にそれを阻まれている。
・家族の言いなりになっている、「自分の未来も自分で決められない」ハーヴェイを「弱虫」と言いつつ、「私も人のことは言えないんだけど……」と、今までの環境のままでは道を選ぶことはしなかったと語る。彼女は窮地に追いやられ、士官学校へ苦肉の策として入学するまで学ぶ楽しさという外の世界のことを知らなかった。
・そしてオスカーの背景が再び見え隠れする。オスカーは、ロバートと仲が良くないらしい。だが、ロバートはオスカーに事業を継がせるつもりで、オスカーはそれが嫌で士官学校に入学、意図的に留年をしているらしい。

 ここでアシュリーは再び、今度はハーヴェイに対して「自分の未来を自分で決める意思」を示して見せている。
(ここでオスカーの話を入れていくのもスマートだなあ)

 ここで一つ区切りをつけて、再びアシュリーのナレーションが入り……


【アリエルとの試合】
 アシュリーとアリエルの試合当日。まさかまさかのアシュリー大勝利。「見事だアシュリー、僕の完敗だ」と、潔く負けを認め相手を称えるアリエルからは、アシュリーというライバルの存在によって得られた精神的成長が垣間見える。
 などと思っていると、アシュリーが突然過呼吸を起こして倒れてしまう。動揺するアリエルを他所に、その場にいたハーヴェイが素早くアシュリーを回収して医務室へ運んだ。
 ここのアリエルくんの、責任感を感じつつアシュリーに激重感情を抱いているのがわかるところ、めっちゃすこなんだ。


【医務室・正体の露見】
 ハーヴェイによって医務室に運ばれたアシュリー。大事に至ることはなかったものの、ストレスによる体の限界を痛感する二人。
 ここで、「士官学校に男装して潜入」という無茶な計画の皺寄せが一気に来るようになっているのが、また上手い。ハイテンポなので時間の経過をしっかりと実感できているから、「あ、アシュリーは自分も気づかない内にボロボロになっていたのか……」と納得出来る。

 そこに、アシュリーを追いかけてきたアリエルが。偶然聴いてしまった「アシュリーが女である」という事実に驚き、激昂。

「絶対に許さない……!」

 この「絶対に許さない」って言い回し最高じゃないですか?俺は最高だと思う。いやアリエルからしたらそりゃあそうだよ。それまでの生涯で唯一対等の関係で、遠慮なしで全直で競い合えると思ってた相手が実は(少なくとも剣技においては間違いなく影響が出る部分で)対等じゃなくて、それをひた隠しにされてたら裏切られたって気分になるし舐められてたとも思うし何より隠し事をされてるっていうのはそれだけで腹立たしいよな……

 その場を去るアリエルを追いかけることもせず、「アリエルがバラすなら仕方ない」と諦観するアシュリー。彼女としても、やはり騙して傷つけたことには罪悪感があったのだろう。そして、個人的にはそれ以上にそこまで疲れていたのかアシュリー!と驚いてしまった。豪胆無比だと思っていた彼女も、既に限界に達していたのだ。

 ここの折れ方が本当に生々しい。「あいつがそうするなら、あれがそうなるならしょうがない」と全てを投げ出し、良しも悪しも身を投げてしまう諦め。個人的にはとても身に覚えがあります。 

「……それは逃避だよ、アシュリー」

 ハーヴェイは強くアシュリーを責める。「自分の未来を決められないのは弱虫だ」とアシュリーに投げかけられた言葉を、そのまま送り返す。
 それはアシュリーの言葉によってハーヴェイが得た、「自分の未来を自分で決める意思」そのものだった。アシュリーに救われたハーヴェイが今度はアシュリーを助け返す、美しい友情だ。
 アリエルにとってアシュリー自身がどういう存在だったか、この件をアリエルに背負わせるのは違うんじゃないか、と発破をかけられ、アシュリーは再び立ち上がることが出来た。アリエルを追いかける二人……


ハ、ハーヴェイ~~~~~~~~!!!!!!

良い男っていうのはこういうヤツのことを言うんだろうなあ。このシーンのハーヴェイが本当に好きだ。普段は優しく、いざという時に他人を愛を持って叱れる人が人間として最高峰の存在だと思ってる。ハーヴェイ・バーティはそんなヤツだ……


【オスカーとアリエル、そしてアシュリー】
 泣きじゃくってるアリエル(!?、可愛い過ぎる)の元にオスカーがやってきて、対話を始める。
  オスカーはアリエルの言葉を一つ一つ聞きながら、彼の中の考えを整理させる。良い兄貴だよホント……
 追いかけて来たアシュリーたちを見て、ハーヴェイと共に立ち去るオスカー。去り際に、アリエルに語り掛ける。
「お前は一人前の男になるのだろう?何事も、独りで判断できるようにならなくてはね」

 お”に”い”さ”ま”……


 3幕はアリエルとアシュリーをメインとしたかなりストレートな物語だが、やはりここもこの濃密な起承転結を一つの章に、16分半の尺に収めている。かなりの推敲と研磨を重ねていることは間違いないだろう。


【四幕・願い】07:44

 4幕はオスカーの物語だ。これまで全く内面を描かれなかった彼が初めて感情を露わにし、アシュリーと本作を実質的に締めくくる最後の対話をする。
 この4幕も、3幕と同じくかなり直球勝負だ。本作のテーマを最も力強く訴えかけるこの幕に、小細工は野暮なのかもしれない。

【ヘリックのパーティー】
 努力の甲斐あって、目的のパーティーへ参加することが叶ったアシュリー。成績はやはりアリエルを破り、首席らしい。
 屋敷の装飾にケチをつけるアシュリーに対して、声を張るもののあくまでアシュリーに対しては噛みつかずヘリック家についての文句を言うアリエル。明らかに成長している……

 念願のヘリックの屋敷に忍び込めたアシュリーは、さっそく行動を起こしにその場を抜け出した。追いかけるオスカー。このシーンでも、アリエルの大きな精神的成長を垣間見ることができる。本作を通して最も成長したのはアリエルだと自分は思う。


【対決・オスカーとアシュリー】
 アシュリーはロバートの部屋を漁るが、証文が見つからず焦る。だがそこにオスカーが颯爽と現れ、証文をアシュリーにすんなり渡してしまう。
 アシュリーの正体を看破していたオスカー。彼は、アシュリーの父を陥れた自分の父、ロバートに対して強い嫌悪感を抱いていた。オスカーが初めて感情的になるシーンだ。初めて感情的になるシーンって良いよね……

 彼への抵抗として留年し続けているオスカーに、アシュリーは強く叱責する。再び、今度はハーヴェイに返してもらったその「自分の未来を自分で決める意思」をオスカーに示した。
 オスカーは母の言葉を想起し、感極まってアシュリーを抱きしめながら前に進むことを決意する。



 この円環……意思を繋いでいく人の輪……アシュリーとハーヴェイとアリエルとオスカーの誰か一人が欠けてもこのハッピーエンドにはたどり着かなかった。
 特にオスカーはこのクライマックスまで本質的には誰にも何も与えられず、色んなものを奪われて、それでもただ相手に必要なものを与えるだけの人だったから、ここでアシュリーに救われてくれたのは本当に嬉しかった。

 『Parade d'amour』は、他者から色々なものを奪われてきた彼らが、再び他人と未来に希望を持ち、立ち上がることが出来るようになるまでの物語だ。




 そして4幕の最後のセリフから、10秒程の静かな時間を経て……

【星宙のVoyage】(曲)

 エンディングテーマ。10秒かけた静かなフェードアウトから、この曲の静かなイントロに入る様は何とも雅だ。ゆったりとした旋律に、4人の歌声が安らかな幸福を感じさせてくれる。

「運命なんかじゃないわ、これは、きっと───」 アシュリーのこの後に続く言葉には、様々な解釈が出来るだろう。聞く度に思いを馳せてしまう。

 そして何より、この後の4人の「愛してる」。
 
これは自分の独自解釈だが、この「愛してる」は特定の誰かへ向けた言葉でないと思う。
 4人は今回の件を通して、ようやく他者を愛することが出来るようになったのではないだろうか。

 父をだまし続ける他者に家族を踏みにじられ、家族を守るため本当の自分を隠し続けていたアシュリー。
 母を失った無念をずっと抱えながらも、家族に自分の思いを封殺されてしまっていたハーヴェイ。
 家柄故に努力しても正当な評価を受けず、周りからは影ながら疎まれ、孤独を抱えてオスカーに一方的に縋っていたアリエル。
 父に絶望し、母を失い、誰にも心を許さず、アリエルにすら本音を見せず、それでいて他者に望まれる振る舞いをし続けていたオスカー。

 彼らが紆余曲折を経てようやく胸の内に根源的な愛を宿せるようになり、それを言葉にして噛みしめている……そんなシーンだと、個人的には解釈している。


 星宙のVoyageのミリシタMV実装とイベントでの劇中劇スピンオフコミュまってます!!!!!!!!!!


 【終幕:告白】(05:15)

 ここ入れたのが本当に偉い。凡百の作品ならここを入れずに有耶無耶で終わる。これを入れているかどうかで天と地ほどの差があるありがとう青木明子さんあなたこそがナンバーワンだ!!!!!!!!!!

 少し時間が経った4人が描かれる。
 アシュリーは正体を隠す必要が無くなり元の口調で話し、ハーヴェイは相変わらず真面目だ。アリエルは相変わらず元気だが、お兄様にも食って掛かれるようになっていた。オスカーは……お前だいぶ浮かれてるだろ!元気になったなあ!嬉しいよ俺は!(謎目線)
 
そしてここで、オスカーが実はアシュリーと最も早く合っていたという最初の伏線を最後の最後で回収する。ニクいねえ!

 そして、本作のいっっっっちばんオイシイ場面。三人同時の求婚。それもお為ごかしではくガチ求婚である。この時のそれぞれの文句が、また個性がよく出ていてたまらない。自分はアリエルくんの、「そんなひどいこと、君はしないだろ?」で気が狂いそうになり狂ってしまい今こんな記事を書いているわけだ。人を狂わせるのが上手い男だよ全く……

 これを受けたアシュリーの反応も非常に可愛らしい。ここまで可愛らしい場面を一切見せずに凛々しく強く振舞っていただけに、ここのギャップの破壊力も相当のものだ。描写されてないけど多分3人も萌え死んだと思う。俺にはわかる。
 そして、開幕と同じくアシュリーのナレーションで閉幕。
 ここに『Parade d'amour』は、本当に幕を引いた。



終わらないでくれ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!







【華の3人を巡るバランス感覚】

 時に、一から「4人の登場人物」の「魅力」と「絆が繋がるエピソード」を50分で作ることになったらどうするか、と想像してみて欲しい……主人公のアシュリーは、入れ込まねば。主人公だから。オスカーも、大筋の人物だし、ストーリーと同時進行で入れ込むだろう。あとはアシュリーと協力関係にあるハーヴェイにエピソードを当てて、ギリギリ50分と言ったところだろうか。なるほどなるほど……いやこれだと俺の最推しアリエルくんがいねえじゃねえか!!!

 本作のシナリオで特筆すべき点はこのテーマ(というか課題)に対する柔軟かつ的確なシナリオ構造上での対応だろう。上記した順番では、描写の優先順位をアシュリー>オスカー>ハーヴェイ>アリエルとしているが、実際のシナリオのキャラクターとしての描写の濃さは「アシュリー>アリエル≒ハーヴェイ>オスカー」だ。そう、オスカーの描写が最も薄い。本編においてアシュリーと双璧を成す重要人物なのに。

 ではオスカーが蔑ろにされているのか?いいやそんなことは決してない。

 むしろオスカーは、多くの一番を得ているキャラクターだ。彼はまず、一番オイシイ、終盤の山場を受け持っている。その山場まで、彼のミステリアスさが損なわれないという点と、その凝り固まった印象を覆すクライマックスでのカタルシスがオスカーの魅力を引き立たせているという点で、この采配は的確だったと言えるだろう。
 更に、実はアシュリーと最も早く出会っていたのはオスカーだった、という事実をこっそり伏線として仕込み最後に明かしているのも上手い。
 そして、劇中ラストの告白シーンを除けば一番直接的にアシュリーに対して愛情表現をしているのは彼だ(本当に最後の最後のハグだけだがそれがとても大きい)。

 でもこの後のオスカーも見てみたかったな~!ここからまだまだオスカーという人物の掘り下げの余地があると思えてしまうのは、それだけ彼に魅力があるからだろう。


 逆に、アリエル……最も軽く描かれそうな「オスカーの信奉者(もっといえば腰巾着)」というポジションにいる彼は、その内面を大きなエピソード、3幕で繊細に描写される。彼を中心としたエピソードがじっくり描かれているのは、正直なところ驚いた。これ以上書くと狂うのでここまでにとどめておく。

 一番、「なるほどな~!」と思ったのはハーヴェイに関する塩梅だ。先述のアリエルとオスカーは、それぞれ主人公であるアシュリーと、『エピソードの山場に一対一で相対するシーン(3幕、4幕のラスト)』が用意されている。だがハーヴェイにはそれがない。だがその代わり、主人公、山場以外でアシュリーと一対一で話している場面は一番多い。そして、アシュリーに掛けられた叱咤の言葉を、形を変えて彼女に送り返すという場面まである。本編を通してアシュリーにとって物理的にはもちろん、心理的に最も距離が近かったのは、間違いなく彼だと断言できる。

 3人がアシュリーとの関係性においてそれぞれのアドバンテージを持つことによって、最後の3人同時の「僕と、結婚してください!」により深い味わいが出てくる。
 3人のうち誰がその「アシュリーの隣」という座を射止めてもおかしくないから、なんともハラハラしてしまう。
 更に言えば、相手との関係に何を求めるかで観客個人個人でそのプロポーズに対する答えを考えることが出来るわけで……もちろん、アシュリーの性格を考慮して考察するのも楽しい。
 いい意味で、多くの余白を残したエンディングだ。


【最後に】

 長々と書いて改めて思ったが、本当にこの作品が好きだ。もしこれを読んでいる方が、この記事によって本作について何らかの新しい解釈を生み出したり、より深く飲み込むことが出来たりしたら、とても嬉しい。

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