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【ぶんぶくちゃいな】ポッドキャスト「不明白播客」:「白紙運動は終わりじゃない、始まりなんだ」(前編)

1年前の今頃、いったいどんなふうに過ごしていたか、覚えているだろうか。

1年前の中国ではちょうど、11月末に新疆ウイグル自治区ウルムチ市のマンション火災で、消火活動が路上のコロナ対策の柵によって阻まれて遅れ、幼い子どもを含む住民が焼死するという悲惨な事件をきっかけに、厳しいコロナゼロ政策に対する抗議活動が起き、それが「白紙運動」となって全国へと飛び火したところだった。

その運動に「白紙」と名付けられたのは、最初に南京の大学キャンパスで抗議に立ち上がった学生が、プラカードの代わりに白いコピー用紙を手にしていたからだ。もちろん、それは典型的なデモとして要求を書き込んだプラカードを持つと、中国的には大変危険であることを察した上での行動で、また「白い紙」がそのままさまざまな人たちのさまざまな要求を包括できることもあり、あっという間に全国で賛同を引き起こした。

その結果、中国政府は12月初めにそれまで鉄壁のような厳しさで行われていたコロナゼロ政策を撤廃して(しかし、政府は「撤回」「撤廃」とは絶対に口にせず)、世界を驚かせた。

あの白紙運動は、その規模と運動が持つ熱量、さらにはデモ隊が破壊活動も行わない一方で一般市民が無言で次々とそこへ加わるという動きから、1989年の天安門広場で起きた抗議活動以来のデモと言われた。

もちろん、そうした行動を引き起こした根底に人々のコロナゼロ政策への不満があったことは大前提だが、それに加えて、いったい全国でどんなことが起きているのかについての情報提供が大きな引き金になった。

そんな中、最も人々の注目を集めたのが、ツイッター上にこつ然と出現したアカウント「李老師不是ニー老師」だった。海外で拾い集めた、中国のさまざまなSNS上で流れる各地の市民の叫び声を、ツイッターに流し続けるというこのアカウントは、ニュース機関ですら追えない貴重な庶民の視点を提供し続けた。さらには、注目が増すに従い、直接ツイッターを使ってアカウント主に現場で起きていることを伝えて、代わりに配信してもらう人たちも続出。

「天安門事件以来のデモ抗議」現場での緊張が高まる中、「李老師不是ニー老師」は中国で起きている事件に注目する人たちが見つめ続けるアカウントとなった。

その白紙運動から1年。あのツイッターアカウントの主はこの1年間をいかに振り返るのか。本メルマガではすでにおなじみとなった、米「ニューヨーク・タイムズ」記者の袁莉さんが、自身のポッドキャスト「不明白播客」でインタビューした内容を、2回に分けてご紹介する。

中国で起きる大事件や抗議、そして中国人社会とはどんな社会なのか。中国社会が変わっていくことは可能なのか。

自らの成長過程で目にしてきたこと、外国にでてから振り返ったその過程について、袁莉さんとアカウント主の李穎さんのやりとりをぜひご覧いただきたい。そして、そのやり取りの中で、我われ日本人が中国で起こる事件のたびに期待しつつも、見誤っている現実についてもここで確認できるはずである。

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