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初めまして、野球

 今年も、ベルーナドームへ通う日々がやってきた。野球って楽しい、ライオンズが好き、そう思うようになったのは、大人になってからで、割と最近のこと。

 人生で初めての野球観戦は、2022年6月7日の埼玉西武ライオンズvs読売ジャイアンツの試合。この日の試合は9-4で勝利、ホームランも2本。今思うと、とても良い試合だけれど、野球のことを何一つ理解していなかった私の感想は「よく分からないけど、楽しかった!」という語彙力に欠けるものだった。

 そもそも、野球は面白いよ!ライオンズを応援しようぜ!と誘われたのではなく、「球場で飲むビールは格別に美味い」という彼氏の言葉に釣られただけ。しかも彼は阪神ファン。所沢市民なのでパリーグなら西武、近場だから年に一回くらいは西武ドームで観戦する程度で、ライオンズのグッズも何一つ持っていなかった。でもそれが、逆によかったのかもしれない。ライオンズファンにしてみせる!みたいな熱意を感じたら私は逆に冷めていただろうな、と思うから。

 はっきり言って、私は壊滅的に運動神経が悪くスポーツを楽しいと思ったことがない。走るのは遅く、何もないところで転び、投げても球は飛ばない、ラケットを持てばラケットまで吹っ飛ばして怒られたりする。子どもの頃、運動会が中止になれば良いのにって思ってたタイプ。通知表の体育の項目では、関心・意欲態度の欄が“もうすこし”だったこともある。絶望的でしょ?

 野球のルールを習ったことはないが、小学校でティーボールの授業があった。あまりにも運動神経が悪くルールを覚えられない私に、クラスメイトの野球少年は「お前はとりあえず打ったら走れ、それだけでいい」と言った。その割に、もう一回打ち直せだとか、走るな!戻れ!と怒鳴られたりする。私はなんて理不尽なんだと思っていた。そんなこんなで、必修のティーボール授業も虚しく、私の知っている野球のルールは『打ったら走る、でもなんか走ったらダメな時もあるらしい』だけ。分かってないにも程がある。

 そんな私の、人生初の野球観戦。西武線沿線に住んでいるのに西武球場に行ったことのなかった私は、家からこんなに近いところにあったのか!と初めて知る。電車なんかでは行けないような山奥あるのかと思っていたので(失礼)、駅を降りたらすぐドームがあって感動。ベルーナドームのベルーナって、あのファッション通販会社のベルーナ?へぇ、けっこう儲かってるんだ、なんてゲスなことを考えていた。

 入場してはじめの感想は、お祭りみたい!
 2022年の夏といえば、まだまだコロナ禍。地元の夏祭りは中止になったりして、私はとにかくお祭りに飢えていた。少し陽の落ちたドームに沢山のグルメが並んでいて、まるで屋台みたい。ワクワクする。あとから獅子まんまという言葉を知った。正直最初は、ネーミングセンス……と思ったけれど、今はしっかり馴染んでいる。

 そして、ベルーナドームが思った以上に綺麗で、明るい雰囲気の場所で驚いた。大変失礼ながら、野球場って世間から見捨てられ、野球を観ながら文句言うしか趣味のないおじさんたちの溜まり場かと思っていたのです。ごめんなさい。

 いざ中に足を踏み入れてみると、老若男女さまざまな世代の方がいるし、若い女の子も沢山いて、可愛い服装だったり、綺麗に巻いた髪だったり、お洒落してる子が多い。キラキラしていて眩しい。私なんて、直前に犬の散歩に行ったりして雨で髪の毛はグシャグシャ、動きやすい服装で行かねば!という謎の使命感から普段は履かない似合わぬジーンズ姿。もうちょっと、ちゃんとした格好でくればよかった、と後悔。

 売っているグッズの量も膨大だった。選手ごとに様々な種類があって、中にはビジュアルを全面に推したような商品もある。もしかして、野球選手ってアイドルなんですか?野球選手のグッズって売り切れたりするんだ、と売り切れの札を見てびっくり。選手考案のメニューを食べるとカードがもらえるらしい。え?それはもう、立派なアイドル商法じゃないですか……。この時点では、特に選手のグッズを買ったりはしなかった。

 初めての座席はライオンズ内野指定席Cだった。椅子がフワフワで喜んでいる私の後ろで、カップルが喧嘩を始めた。どうやら二人は巨人ファンで、彼女が誤ってライオンズ側のチケットを取ってしまったらしい。彼氏が「マジお前最悪だわ」とキレている。シュンとなる彼女。つられて私もシュンとなる。なんだか気まずい中、そうか野球は右と左でファンが分かれてるのか、と学ぶ。

 前方には巨人ユニ彼女と西武ユニ彼氏のカップル。色々と有名な坂本選手のユニフォームだった。揉めないのかしら、と心配になる私。まぁ交流戦だから、と言われても、よく分からない。「普段は敵じゃないんだ、なんで?」「リーグが違うからね」「リーグって何?」「……まぁ色々あるんだよ」

 試合開始を待っていると、ハッピーバースデーのメロディーが流れた。今日がお誕生日の選手がいるらしい。優しい世界。その日初めて知った呉念庭選手の誕生日を私も祝った。

 この日は源田選手がお休みで、西武だと源田推しの彼氏はちょっとガッカリしていた。乃木坂46が好きな私は「知ってる!みさ先輩の旦那さんでしょ。みさ先輩と結婚できるなんてラッキーだね!」と言って「何言ってんの?!源田と結婚できるなんて、乃木坂の子がラッキーなんだよ?!」と怒られた。源田選手がすごいということは後々、理解する。何せこの時の私は“守備”なんて言葉も知らないのだから。

 獅子まんまを食べ、念願の売り子さんから買ったビールを飲んでいると、どうやら試合が始まるらしい。周りの人が手に何かを持ち出す。なんだろう?と不思議に思っていると、音楽に合わせてみんながそれを振り出した。旗だ!みんな旗を振っている!

 こういう応援の仕方があるという前知識もない私は動揺した。周りの人はみんな持っているのに、私は持っていない。当然、阪神ファンの彼氏も持っていない。やばい、なんだコイツ旗も持ってないのに来たのかよ?って周りの人達は絶対に思っている!怖い!怒られる!(そんなことはない)

「旗を、旗を買わなくちゃ……!」

 怯えまくる私の横で、別に大丈夫だよと彼氏はゲラゲラ笑っていたが、あとでレオとライナの旗を買ってきてくれた。そうか、これ旗じゃなくてフラッグって呼ぶんだ。なんかオシャレな文化。

 声出し応援はコロナ禍でできないので、トランペットと太鼓の音がよく聞こえた。みんなの手拍子を真似してみる。フラッグを振るタイミングが難しい。奪三振がなんなのかも分かっていない私、たまに流れるタンタンタンタン♪タタタタン♪が面白くて気に入った。(これがスポンサーの近藤建設さんの広告だと理解したのも割と最近です)

 しばらくして、近くにいたおじさんの酔いが回ってきたらしい。西武の攻撃になると元気に叫ぶ、歌い出す。何度も警備の人が「声を出しての応援は……」と止めにきていた。おじさんは怒られるとちょっとの間は大人しい、でもまたすぐ歌い出す。声出し応援NGだったが、この時のおじさんのおかげで、ラ ラーラ ラ ラーラ とのさきしゅうたー!の歌詞は覚えて帰りました。ちょっと感謝。でもお酒はほどほどにね。

 途中、彼氏が喫煙所に行っている間、近くにボールが飛んできた。内野席に座っていたのでファウルボールなのだが、アホな私は嬉々として「さっきね!近くにホームランが飛んできたんだよ!」と報告。多分、客席に飛んでくるボールはぜんぶホームランだと思っていた疑惑。否定された覚えもないので、彼氏も説明しても理解できないだろうな、と諦めてたのかもしれない。

 ラッキーセブンも楽しかった。試合前にステージにいた可愛いホワイトライオン、ライナがお姉さんたちと踊っている。遠目に見てもキレキレのダンスだった。レオのバック転も凄かった。本人(本獅子?)たちもドヤ顔するわけでもなく、球団側も「どうです?すごいでしょ?」みたいな押し付けがましい紹介も特にしない。当たり前のように、さらっとやってのける姿は、まさにプロ。だからこの時の私は、他の球団マスコットもみんな、ああいうアクロバットやダンスをするのが普通だと勘違いしていた。

 そして、相手チームのラッキーセブンにはノッたらダメだということを学ぶ。そりゃそうか、勝負の世界だもんね。巨人の歌が流れたら阪神ファンの彼氏は横で怖い顔してるし。帰ってから、12球団分の球団オフィシャルソングを聴いた。私は今も相手のラッキーセブンは心の中で歌う。なんなら家では声に出して歌っている。許されるでしょうか。

 雰囲気を楽しみつつも、試合内容は理解できず、選手も分からないので、途中ライオンズ焼きを買いに行ったり散歩した。餡子の入ったライオンは美味しい。4番って言ってるのに背番号は3番なの?みたいなことを思ってるアホな子は、あの空間で私だけだったんだろうな。

 そんなこんなで(?)試合は進み、「9点も取ってるから今日は勝つだろうね」と言われても、よく分からない。でも、まだ決まりじゃないんでしょ?あと5点取られる可能性もあるんでしょ?と分からないなりに、心配する私。だって聞いたことあるよ、野球は9回ツーアウトからって。意味はよく知らんけど。

 最後の方になると、周りでチラホラ帰る人がいた。家が遠いとか電車が混まないうちに、とか色々あるらしい。後ろの巨人カップルも負けを察して帰り、酔っ払いラララおじさんも「やだ!俺は最後まで観るんだ!」と叫んでいたけど、知り合いに引きずられていなくなった。

 少し静かになった客席で、SBOの意味を教えてもらった私はボールが投げられるたびに、Sが光りますようにと祈った。試合は9-4で終わった。ライオンズビクトリー!私の初観戦は勝利で幕を閉じた。

 『地平を駈ける獅子を見た』が流れる。松崎しげるの映像が映し出されるのには、ちょっとびっくりした。野球もライオンズも知らないけれど、所沢に住む祖父母宅に年中遊びに行っていた私は、この歌をプロぺ通り商店街や西武百貨店でよく耳にしていた。そうか、この曲ってライオンズの勝利の歌だったんだ。当たり前にいつも聞いていた曲が、ちょっと特別に感じられて嬉しかった。

 最後は、フィールドウォークでグラウンドに降りた。芝生、ふかふか。巨人を倒したので隣の阪神ファンも上機嫌。途中、寒さ対策に買ってもらった、たれおのタオルを持って記念撮影。“ゆるっとおうえんしていきます”の文言がお気に入り。この時の私は、まさか自分が野球を好きになって、ライオンズを応援するようになるとは、思っていなかった。

 正直、試合で何が起こっていたのか分からず、今思い返しても内容を文章に起こすのは難しい。でも漠然と楽しかった記憶は残っている。

 この試合の後、すぐに野球に夢中になったのかと言うと、もう少し時間はかかるのだけど、やっぱり勝利の力は大きかったと思う。初めて行った試合が無得点だったりしたら、「また行きたい!」と私は言わなかったかもしれない。

 それからの私は、野球のある日は結果をチェックするようになった。内容は分からないので、勝敗と点数だけ。ライオンズが勝ったら嬉しい、負けたら残念、そう思うだけでも、野球という文化に触れてこなかった私には、大きな変化だった。

 その後、7月にまたベルーナドームへ連れて行ってもらった。この日もライオンズは勝利。はじめて見た犠牲フライが理解できず、フライなのになぜみんな喜んでいるの……?!と宇宙猫みたいな顔をしたりして(打った球が地面につかずに獲られたらアウトだってことはようやくわかっていた頃)。でも、よく分からないけど、やっぱり楽しい!と思った。そして、私はライオンズのファンクラブに加入することを決める。

 正確には、球場で可愛いユニフォームを着ている人を見かけて、それが獅子女ユニという配布物であり、9月にもファンクラブ会員限定に配布日があるということ、ファンクラブに入ればチケットが安く買えることを知り、決意した。私は物に釣られるタイプ。

 ライオンズのことを知ろうと、片っ端から公式YouTubeの動画を見た。そこで選手の名前と顔を覚える。野球を知らない私でも分かりやすい内容で楽しく学べた。(ライオンズの広報さん、いつも素敵な動画を、ありがとうございます)

 そして一番に思ったのが、選手たちの雰囲気、めちゃめちゃ良くない?!だった。まぁもちろん、公式動画にファンに見せられない姿なんて、載せないのは当たり前なのかもしれないけど、それにしてもみんな人柄も良さそうで、穏やかな雰囲気。

 申し訳ないけれど、スポーツの世界って体罰!暴力!いじめ!みたいなイメージが私にはあった。選手同士はライバルだし、裏でギスギスしてるんだろうな……靴下隠されたりとか……と怯えていたので、そういう印象が覆された。なんとなくライオンズというチームを楽しく応援できる気がして、安心したのを覚えている。

 辻監督にも惹かれた。劇団獅子だったり滝澤選手とのコラボグッズだったり、野球の監督って鬼怖そう……と思っていたので、きっと厳しい面もあるのだろうけど、ちょっとお茶目で優しい監督の人柄が、チームの雰囲気を良くしているのかな、と思った。辻さんが監督だったから、ライオンズを好きになったって言っても過言じゃないくらい。今も大好きです。

 そして何より、私を夢中にさせたのは、埼玉西武ライオンズの球団マスコット、ライナの存在。レオも勿論カッコいいのだけど、とにかくライナが可愛い。辻監督との絡みが尊い。これまた素敵な動画が沢山配信されている『らいなちゃんねる』を見漁った。チャンネルの説明欄に、“このチャンネルでは、ライナが人気アイドルになるため様々な企画に挑戦していきます!”とある。野球とは無縁な人生を送ってきたけれど、昔からアイドルが大好きな私は、アイドル・ライナに心からときめいた。人気アイドルになる夢、私に応援させてほしい。私の生きる希望になってほしい。(ヲタクの愛はいつだって重い)


 私は、試合のある日はハイライト動画も見るようになった。ちゃんと試合を追いたいと思って、パテレにも加入。解説を聞いて、分からない言葉はメモしてあとから調べた。ヒットと安打、意味は同じなのに違う言い方するのやめてほしい!とかモウダショウ?って何?賞なの?何かもらえるの?とか、サブマリンってことはメインマリンは誰なんだろう、とアホな勘違いをしたりしながら、野球のある生活を楽しんだ。新しい遊びを覚えて喜ぶ子どもみたいに。

 この後、せっかくファンクラブに入ったのだから、獅子女ユニの配布日以外にも行ってみよう!と思い、3回目にして無謀にも一人観戦デビューを果たす。グッズを買うのは浮気になる…なんて言っていた阪神ファンの彼氏がレオのタオルやグッズを買ったり、最初は乗り気じゃなかった母までライオンズファンになったり。私の日常はライオンズでいっぱいになった。

 行けるだけベルーナドームに足を運び、家では配信を見ながら青炎を送る。シーズンが開幕した時は野球のことも、ライオンズのことも全く知らなかったのに、10月2日のホーム最終戦では、現地で辻監督の挨拶にちょっと涙が出たりした。

 大人になってから、こんなにも楽しくて大好きなものに出会えて、幸せだなと思う。まさか超インドアな私に、野球観戦というアクティブな趣味ができるなんて、人生って不思議な物ですね。

 ありがとう、埼玉西武ライオンズ。
 ありがとう、あれも、これも、かなう。西武鉄道。

 長くなってしまったが、「よく分からないけど、なんか楽しい」と漠然と思った、2年前のキラキラした純粋な気持ちを忘れずに、2024シーズンも前向きに楽しく、ライオンズを応援したい。

 選手の皆さんが怪我なく健康に、悔いのないシーズンを送れますように。

 今年は優勝する獅かない!



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