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わたしがずっと言いたかったこと

戸棚の中にいつ買っておいたのか、鯖缶があります。急にお腹がごろごろなりだして、私は頭の中で真っ白いご飯の上に柔らかいお魚をのせました。


たまに、鯖のみそ煮がどうしても食べたくなります。


鯖が残すどろりとした油が缶の底に溜まっているのをご飯にかけて食べるのが好きなのです。


みそは、甘ければ甘いほどいいと思ってしまいます。甘いみそこそがご飯に合う、と信じているのはやはり愛知県の出であるなと思います。


私の両親は、愛知県の人ではありません。だから、家では愛知県のものを好んでつくったり食べたりはしませんでした。家で甘いみそは出たことがなかったのです。


小学3年生の時、向かいで給食を食べている女の子を見てぎょっとしたことがありました。彼女はおかずとして出されたおでんについている甘いみそだれを、おでんにはかけずご飯にかけて食べるのです。


何の疑問も持たずそのようにしているのを見て、ご飯にジャムをかけているようなものだ、と思いました。


あとで、他の生徒に

「あの子は甘いみそをご飯にかけていた。少し変だ。」

と言って回りました。陰口を叩くつもりは全くありませんでしたが、その子にはそのように認識されたようで、卒業するまで口を利いてくれませんでした。


その女の子とは別の中学に上がりました。私はいじめにあい転校をしたので、公立中学でも電車で通っていました。教育委員の人に、もとの中学と関わりのない遠くの場所にいくよう言われたからでした。


ある日の帰り道、市内の大きな駅でみちくさをしていると、向こうからいかにも不良らしい集団が来ました。そのうち、金髪の女性が私に近づいてきたので身構えると


あんた、微熱じゃない?


というのです。よく見ると顔に見覚えがありました。目の下に白いラインを入れるのが流行りだったようで、一瞬だれなのかさっぱりわかりませんでした。


連れの不良たちがぞろぞろ続き、私を取り囲むようにしました。この時間でも制服を着ていないということと、年齢が上の人たちと一緒にいることから、どうやらその子はもう学校には通っていないのだと思いました。


その子は私に、なんでいんの、といいました。
地元の中学に自転車で通っているはずが、なぜこの時間に知らない制服を着てここをあるいているのか、という意味です。


いじめられて不登校になり、学校を変えた、とそのままを話しました。遠くの学校に通うためこの駅を通るのだ、と。いろいろと聞かれるので全て答えました。だれにいじめられたか、どういじめられたか、などです。


ひと通り聞き出し、その子はヤンキーたちと顔を見合わせました。そして一言


そいつら、クソムカつくね。


と吐き捨てて行ってしまいました。


私はしばらくそこに立ちすくんでいましたが、なぜかだんだん、すべて許せる気がしてきました。
私がずっとそれが言ってやりたかったことを代わりに言ってもらった。そんな気持ちでした。


いまはおでんを食べるとき、からしだけつけます。チューブより粉がらしの方がパンチがあって好きです。でも、鼻がつんとするたびにやっぱり甘いみそにしておけばよかったと後悔して、ふと、向かいにいた女の子を思い出すのでした。




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