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観客はストレスフリー、オプティマスは胃薬飲んで早く寝て。『トランスフォーマー/ビースト覚醒』

 ビーストウォーズ世代である。

 より正しく言うのであれば、「日本語吹替版のビーストウォーズ超生命体トランスフォーマーが放送された時代に幼少期を過ごし、生まれて初めて聴いたラップが下町兄弟」世代である。恐竜好きの少年としてはコンボイよりもメガトロン様派であり、当時のおもちゃを買ってもらった記憶がある。おかげで、『ジュラシック・パーク』を観るまでティラノサウルスの色は紫だと思いこんでいた時期があるほどだ。

 そんなわけで、メガトロン様のおもちゃ、再販されないものかと思い調べたら、大人向け高級モデルが発売されておりました。お値段は税込 38,500円と高級なおもちゃだが、千葉繁ボイスがたくさん収録されているとなるとお買い得に感じてしまうくらい、あの声とキャラクターとが密接に紐づいている。ほしい。ナビ子ちゃんを困らせたい。

 というわけで『ビースト覚醒』、個人的には千葉トロン様がお出になられない寂しさを抱えながら劇場に向かったわけだが、なかなかこれがどうして、『トランスフォーマー』実写映画シリーズの中では最も「疲れない」し「見易かった」ので、結果として最高傑作だったのでは……という気がしてくる。そもそも疲れにくいが評価軸になる映画シリーズって何だよという話だが、事実このシリーズとは常に脳と視神経の耐久テストであり続けてきたわけだ。

 ご存知マイケル・ベイが手掛けた初代から続く5作は、VFXの限界に挑戦するかの如く数万個のパーツがガチャガチャと組み合わさってトランスフォームする画のワンダーを勝算とし、そこにベイの実写へのこだわりが足されることで、アクションシーンではしょっちゅう車が炎上し、複数のメカがくんずほぐれつの大暴れを繰り広げ、アポロ計画や円卓の騎士にご迷惑をおかけする、実に負荷のかかる映画シリーズであった。その上でコカインネタに下ネタも繰り出されるせいで、なぜハズブロはこれにGOサインをしたのか、疑問符が頭をよぎることも一度や二度ではなかった。

 それはそれでトランスフォーマー味、マイケル・ベイ味として、好き好んで食べに行ったわけだから、文句を言うのは筋違いかもしれない。ただ、もう、頼むから、もう30分短くしてくれと願っていたことも事実なわけで私にとって実写トランスフォーマーとは「疲れるけれど面白い」「面白いけれど疲れる」のイメージが固定化されてしまっていた。

※以下、本作のネタバレを含む。

 本作のメガホンを任されたのはあのドラ泣きの大傑作『クリード 炎の宿敵』のスティーブン・ケイプル・Jr.で、ケレン味溢れるボクシングシーンを撮ったあの人のトランスフォーマーならば面白いだろう、という期待があったのだが、その期待は見事大当たりだった。

 忙しなくカットを割るのではなく、アクションごとにメインとなるトランスフォーマーの動きを追うようにとらえ、数えきれないような軍勢相手のシーンでも主役を見失うことなく、激しく動く彼らを追いかけても決して酔わないカメラワーク。オプティマス・プライムは剣や斧を大きく振るい、プライマルはその剛腕で大地を震わせ、ミラージュは仮面ライダーウィザードよろしく宙をクルリと舞う。彼らの個性に合わせたアクションを、寄りすぎず離れすぎないアングルで捉えた撮影とVFXの塩梅も素晴らしく、実にストレスフリーなのだ。

 加えて、メカ相手なのでわりと容赦ない“FATALITY”な決着が多いのもシリーズのお約束なれど、若き監督はそこも外していない。妙にエグめの攻撃が印象的なプライムVSスカージは、吹替版なら玄田哲章補正も相まってどこか『コマンドー』のクライマックスを彷彿とさせる。作り手がヤンチャで暴力的という一点を残している意味でも、実はマイケル・ベイへのオマージュが感じられる、敬意ある一作と言えるのかもしれない。

 さらなる加点要素は、日本語吹替版。最初のモノローグでやけに神妙な子安武人氏の声色が笑いを誘い、チータスはちゃんと高木さんの声で「〜じゃん」が語尾につく。懐かしい。強烈なノスタルジーに誘われる、思い出の日本語吹き替え版。

 本作は実のところビーストウォーズの実写映画化というよりは「トランスフォーマー episode 0 feat. ビースト戦士」という塩梅で、相変わらず物語の中心にいるのはオプティマス・プライムであり、そこに物足りなさを覚えたことも否めないのだが、CV:子安武人のゴリラがいるだけで嬉しくなってしまうのも事実。日本公開にあたり、このあたりの勘所を外さなかっただけでも嬉しいし、Sexy Zone の日本語吹替版主題歌「Try This One More Time」なんて歌詞を耳で拾うだけでニコニコだ。

 車から巨大ロボへ、野生から巨大ロボへ。トランスフォーマーが変形する格好良さを真正面から描き、オートボットとはまた異なる個性、すなわち“ビースト”性に振り切ったアクションを見せてくれるマクシマルの活躍は、シリーズに新たな広がりを届けてくれた。個人的には、現代の道路をオートボットの車とマクシマルのビーストが並走するシーンを観たいし、何ならトランスフォーマー版エンドゲームのような、世代を超えた大盤振る舞いの共演作も観たくなったりして、映像面に関してはかなり満足度の高い一作であったことは間違いない。

 反面、人間ドラマにはそれほどノレなかったこともまた事実。ノアは弟の治療費が払えず、エレーナは上司との関係が上手く行かず思い通りの仕事に就けないという事情を抱え、そんな両者が地球の存亡をかけた闘いの最前線に向かう動機が、いささか弱いのである。考古学の知識を活用するという役割を持つエレーナはまだしも、お金が手に入る条件がない以上、ノアはペルーに着いていくだけの理屈が本編中には存在していないのだ

 強引に考えるとすれば、地球が滅べば弟や母も亡き者となってしまうため、それを防ぐために同行したとも受け取れるが、それにしても彼にしか果たせない使命のようなものがなくて、弟を置き去りにするだけの強烈な動機になるかと言われれば怪しい。クライマックスのミラージュとの合体はアツかったしサプライズではあったものの、逆に言えばそれが無いと際立ったヒーロー的活躍に乏しいノアという主人公。調べてみたら、監督も“あまりやることが与えられていなくて”と公言していて、苦肉の策だったのね、と。

──(ネタバレ)最後のバトルシーンで、ノアがミラージュと合体します。あの展開を知った時、どう思いましたか?

実は、あの展開を提案したのは僕なんです。元々、脚本にはないものでした。最初に脚本を読んだ時、最後の戦いでノアはあまりやることが与えられていなくて、もっと活躍が必要だと思ったんです。だから、まずはノアとミラージュの関係性を築いておいて、最後の戦いで2人は目と目を合わせて、一緒に戦わなければならない、その時彼はトランスフォーマーにならなくてはいけないと思ったんです。

そこで、ミラージュは死んだと思わせる瞬間を作り、それから彼は自らをエクソスーツとして捧げる。そうして戦いが続いていくんです。そういう流れを、スタジオに提案しました。そうしたら気に入ってもらえて、じゃあやろうという話になった。トランスフォーマーのアニメではあったことですが、実写映画で合体をやるのは初です。

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 作中では明言されてはいないが、ノアは病気の弟と母だけが登場しており、家族に父親の存在は見られず、母子家庭の可能性が高い。ということは、ノアは『THE FIRST SLAM DUNKの宮城ソータよろしく、長男=家族のリーダーである、という立ち位置が見て取れる。

 そしてそれは、作中でも言及されていた通りノアとオプティマス・プライムは、実は似ているのである。完成した作品ではオプティマスのリーダーとしての責務や責任を問う展開が設けられ、仲間のバンブルビーを一度は喪いつつも人間との絆を深め奮起する、という決着が用意されている。そこに巧いことノアの葛藤を絡めたら、よりドラマも深まったのではないだろうか。弟と母親の経済的な面倒を見なければならない現実と就活が上手くいかない重圧に悩むとか、若くして大黒柱になることを科せられたプレッシャーだとか、要は「人の上に立つ者の重圧」というテーマで両者を繋ぐことも出来たのではと、ないものねだりをしてしまう。

 一方でオプティマスさんは伝統芸能よろしく「全ての責任を背負い込んで融通が利かなくなる」をわりと早い段階で発動させてしまうので、彼に必要なのはアンガーマネジメントだとか、部下を信じ委ねるためのリーダー研修とか、その類を受けてみるのはいかがだろうか。ブロックバスター超大作で、日本人のサラリーマンのストレス要因ベスト3みたいな案件を観せられたら、興行収入にも笑えない影響が出そうなものだけれど……。

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