しりとりを最後にやったのはいつだったか

小さい頃、しりとりをやるのが好きだった気がする。
おぼえたての言葉を使う機会というのはそうそうないので、ここぞとばかりに使っていた。

この世には沢山の言葉があって、未だに知らない言葉が山のようにあり、広辞苑の厚みは増していくばかりである。
それと同時に死んでしまった言葉もあり、誰も使っていた時のことを思い出せなくなっていく。

なにか常に大事なことを忘れていくような感覚がある。
自分が何を思って生きているのか、それを記していきたい。
だから最初の言葉は『りんご』にしようと思った。

【たわ言】りんご

私の目の前の、長方形のテーブルの上に、赤いリンゴが置いてある。
それはこの部屋には似つかわしくないほどの色彩をまとっていて、一種の幻覚のように存在が揺らいでいた。
私はそれを手に取ってみた。

それはとてもよく磨かれていて、私の顔がぼんやりと映るほどである。
それはとてもいい匂いがして、私の食をそそる。
だらだらと私の口内に唾液が溜まる。
一口、ソレを齧った。

赤い皮膚は私の歯に貫かれ、白い肉体を現す。
ボトボトと薄い琥珀色の液体が、床に滴り落ちた。
ほどよい酸味が私の口に広がっていく。
無残な死体をテーブルに広げた

私はそれを見る
もう戻ることはない

天井が瞬きをする。
見るな。

日々、何かしらの病魔に蝕まれているかのような感覚がある。
この世界に自分だけが存在していて、そのほかの存在は自分の妄想なのではないだろうかという、感覚。

自分と他人の境界線が分からず、この世界そのものを自分の頭の中の産物としてしまう感覚。
全ての存在に自分の意思が介入する感覚。

私が見たのなら、ソレも私を見ていて、
私が食したのなら、ソレも私を食べているのだ。
私が瞬きをしたのなら、きっとソレも瞬きを返してくれるだろう。

テーブルの上にあった完璧なリンゴは私の手で完璧ではなくなってしまった。
あとは腐っていくだけである。

私がここにいてこの世界を見ているから、この世界もここにいて私を監視している、そう感じるときがあるのだ。


チャンネル登録シテネ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?