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種苗法改正ファクトチェック:KADOKAWA・山田正彦さんインタビュー


行き過ぎたグローバル化に警鐘。日本の食の安心安全を守ってきた法律はなぜ改正されてしまうのか? 『売り渡される食の安全』山田正彦さん緊急インタビュー

※5/28追記:元記事が削除されているようです。ウェブアーカイブはこちらから参照していただけます。


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2020年4月28日に「カドブン KADOKAWA文芸ウェブマガジン」上で公開された記事中で、種苗法改正に関する記述について、先日のイベント参加者よりご要望をいただいたので、個人的に可能な範囲で検証をおこないました。

種苗法についてよくわからないという方は、末尾の「そもそも種苗法改正とは何かを知りたい方へ」から見てくださいね。

①種苗法改正は多国籍アグロバイオ企業の要望?


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●山田:大変重いと思います。アメリカなど多国籍アグロバイオ企業からの要望ではないかと、私は考えています。

根拠が示されていないため個人的な推測の域を出ない。

●この法律がだれを守るかといえば、開発者です。開発者とはどういった人でしょうか。種子の開発には非常に長い時間がかかりますから、巨大な資本が必要です。一部の巨大企業が利益を独占できるようになってしまうのです。

同じく、根拠が示されていないため個人的な推測の域を出ない。また種苗法が改正されたことで種子開発は一部の巨大企業だけがおこなうようになるという主張は論理が飛躍しており、破綻している。種苗法が改正されることで種苗開発のコストが現状より増大する理由がない。少なくとも記事中には示されていない。

(編集者は校正時になにも疑問に思わなかったのだろうか・・)


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②農家は一切の自家増殖ができなくなる?


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●山田:はい。農家はすべての種や苗を新たに購入し続けるか、もしくは育成者権者に対価を払って自家採種の許諾を得なくてはなりません。

記事冒頭で登録品種について説明しておきながら、ここでは「すべての種や苗」と書かれているのは説明不足で不正確。改正により自家採種・自家増殖に許諾が必要になるのは「登録品種」のみ。

しかもF1種は、種とりすると次世代は性質を保持できないため、元から許諾の対象外であり、同じ理由で生産者は以前から毎年種を購入しているので、法改正によって新たに許諾を得る理由がない。

こうした様々な前提条件を無視して、すべての種苗に影響が及ぶかのような記述を度々各所で繰り返しているのは、恣意的なミスリードとも取られかねず改善してほしいところ。


許諾を得ていなかったらどうなるでしょうか。カナダでは、無断で種子を使った、とある農家さんが種子企業から訴えられ、20万ドルの賠償金を請求されました。

これは遺伝子組み換え作物の交雑に関わる訴訟の事例を引用している。種苗法に基づく品種判定の際は、そもそも遺伝子は対象にならない。種苗法の改正によって同種の訴訟リスクが上がる理由はなく、関連づけて語るのは飛躍しており不正確。


種苗法が改正されれば、日本でもこのような不可避な理由で農家さんが訴えられ、何億円もの賠償金を請求されるかもしれません。現在、日本では毎年800種類もの品種が新たに登録されています。

毎年800種類とは、おそらく不正確に大きな数字と思われる。同じく種苗法改正に反対する ジャーナリストの印鑰智哉さんが挙げたのが下記の数字。では「毎年800種類」という数字は一体どこから? (5/22追記:毎年800種類の根拠は農林水産省の「登録件数の推移」では、とご指摘いただきました。ありがとうございます。これによるとH30年度は登録数652:ただし草花類や観賞樹など食用ではない品種を除くと86のみ。)

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また、記事中で説明されていないが既に流通している品種を遡って「登録品種」として登録することはできないため、登録されていているのは新しく開発された品種のみ。また実質的に登録がない空白の品種カテゴリも、この増加分には含まれている。(その辺の判別が紛らわしくわかりにくいという問題は確かにあり、改善が求められる)

例えば、ほうれんそうや人参が登録品種リストに追加されたので今後は自由に自家採種できないという誤解があるが、それは「ほうれんそう」「人参」の新品種開発を促す意味でカテゴリが用意されただけのことで、実際に登録された品種は今のところないし、既存のほうれんそうや人参を登録して権利を行使することもできない。


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③農水省の説明は「はっきり虚偽」?


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山田:これははっきり虚偽の説明といってよいでしょう。 種苗法を改正することで海外への流出が規制できるかといえばまったくそんなことはありません。

(農水省担当者の説明より引用すると)国内で登録品種を自家増殖によって増殖した種苗を海外に持ち出すのは現在でも違法だが、 いつどこで増殖したのかを把握する手段がないので、実効性が弱い。今回の改正のポイントは、登録品種の自家増殖については育成者権者の許諾を得ておこなってもらうようにすることで、どこで誰が増殖しているかを把握しやすくなるという点。

また、育成者権者が種苗を販売する際に、栽培範囲などの利用条件を定める表示をしておくと、それに反した行為には差し止め請求ができるようになる。これまで、登録品種であることの表示は努力義務だったが、法改正後は義務表示になるので、利用条件についてもあわせて表示してもらうことで、知らずに利用条件に反してしまったという「うっかり」を防げる。これらの表示は販売されている袋に書かれるほか、広告やインターネットでも表示を義務化する。

中国で栽培をやめさせるには確かに中国での品種登録が必要だが、それ以前に海外持ち出しを止めることができなかったのが現行法。農水省としてもまず予算を使って海外での品種登録は行っていくが、そもそも蛇口をあけっぱなしの現行法下の状態から、蛇口自体をしっかり閉めていくのが今回の改正。この両方があわさって「海外への品種流出を止めていく」という目的につながっていく。(引用おわり)

改正の意図は別のところにあるのです。

根拠が示されていないため個人的な推測の域を出ない。


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④自家採種禁止は「陰謀」の総仕上げ?


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種子法の廃止と農業競争力強化支援法の施行、そして種苗法の改正がセットになれば、農家は多国籍アグロバイオ企業から種子を買わざるを得ません。多国籍アグロバイオ企業にとっては、むしろ種苗法の改正こそが本丸だったのではないか、と私は考えています。

根拠が示されていないため個人的な推測の域を出ない。

総仕上げとして自家採種を原則禁止にする、というわけです。

なりません。ここまでくると、もはや意図的に説明を省いているのではと勘ぐりたくなるレベル。

・法改正で自家採種・自家増殖に「許諾が必要になる(※禁止ではない)」のは、限られた「登録品種」のみ。

・登録品種以外は「一般品種」と呼ばれ、一般品種は従来通り自家採種・自家増殖 OK。そして米の流通量の 84%、野菜の品目数の 91%が一般品種。

・一般品種とは ①在来種 ②品種登録されたことがない品種 ③品種登録期間が切れた品種。そして、既に流通している①②をさかのぼって品種登録することはできない。また登録品種でも最⻑ 25 年(果樹等 の木本性の品種は 30 年)を過ぎると育成者権が切れて「一般品種」になる。


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⑤全ての種苗が多国籍企業に独占される?


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農林水産省側は「育成権利者の許諾を得ればそのまま種子を使える」という説明を、ひたすら繰り返しています。育成者権が農業試験場などにあれば許諾交渉は成立するでしょうが、多国籍アグロバイオ企業に移っていれば利益を得るために無償で許諾とはならないでしょう。

・この懸念は「多国籍アグロバイオ企業が日本の種苗を独占しており、他に種苗を入手する選択肢がない」という状態が実現されることが前提になっている。

この前提が成立するためには、少なくとも「生産者が新たに多国籍アグロバイオ企業が開発した登録品種しか使わない」と決めているか、もしくは「登録品種のみならず、一般品種が全て(or殆ど)多国籍アグロバイオ企業に独占されている」という条件のいずれかが満たされている必要がある。

これまでの言動から、おそらく山田さんは後者を想定していて、「一般品種と判別のつかない登録品種を多国籍アグロバイオ企業が開発して登録をおこない、それを基に権利を主張して訴訟をちらつかせ、農家が許諾無しに使えないようにしてしまうだろう」という仮定を前提にしている。

しかし、もし新たに登録された登録品種について、在来種と同じものがあったと後からわかれば、品種登録の方が取り消される。栽培試験をおこない比較する際に、育成の経緯も合わせて確認する(親品種として何と何を掛け合わせたか等)。それで確かに明確に在来種と違うことを確認して登録する。また、それを知りながら品種登録をおこなえば懲役刑を含めて罰則がある。

なお栽培試験等を通じて類似性を判断するのは農水省だが、権利侵害であるかを判断するのは裁判所。

つまり「登録品種のみならず、一般品種が全て(or殆ど)多国籍アグロバイオ企業に独占されている」状況が成立するには、政治家や官僚のみならず、日本の司法までもが多国籍アグロバイオ企業の支配下に置かれることが条件となる。

多国籍アグロバイオ企業が、なぜ日本の立法行政司法の全てを言いなりにできるほどの力を有しているのかについて、合理的な説明が求められるが、少なくとも記事中にはそのような記述はない。


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ひとまず以上です。種子法に関しては不勉強な点も多いため、今回は言及していません。


そもそも種苗法改正とは何かを知りたい方へ

(5/8一部追記)


そもそも種苗法問題を知らない人には僕のnote自体、前提の説明がなくて不親切だと思います。

本来、改正の最大の当事者である育種家の方が、丁寧なnoteを書いてくださったので、入り口としては僕なんかの記事を読むより、こちらから入っていただくのが、きっとわかりやすくて良いと思います。

(5/8追記)農畜産物流通コンサルタント&農と食ジャーナリストの山本謙治さんの記事も明快です。ぜひあわせて。

種苗法改正の問題がややこしいのは、ほとんどの人にとって本来の立法趣旨や改正内容を理解する前に、最初に「強い反対」の声から情報が入ってきてしまう点にあります。

それに加えて農水省もとにかく説明不足で火消しができていないこと。先日のトークライブでも「最初からこういう話を聞けてたら不安になることもなかったのに・・」という声がいくつもありました。

農水省の公式ページはこちらですが、いちど不安から入ってしまうと、この公式説明だけ読んでも疑心暗鬼になってしまう心情は、よくわかります。(まして政権への不信感があれば、尚のこと)

今回のnoteは個人として考え、書いていますが、一般社団法人 次代の農と食をつくる会 で2020年4月17日におこなったイベント「今こそ知ろう 種苗法改正ファクトチェック」の企画制作を通じて得た情報がベースになっています。映像アーカイブでの視聴も可能なので、詳しくはこちらからどうぞ。

使用したスライド① 農水省 法案参考資料

使用したスライド② ファクトチェックと論点整理

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(5/8追記)トークライブでは参加者からの質問も受け付けた。改正に不安を感じている方も多く参加していたが、終了後は「わかりやすかった・不安が解消された・すっきりした」という声を多く頂き、参加者からの反論やクレームはその後も一つも寄せられていない。


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