見出し画像

ファイナルの感想+特級を振り返って

ピティナ特級公式レポーターの森山です。

ファイナルが終了してから1週間以上経過しての記事です。かなり時間が経ってしまっていますが、むしろ時間経過があったからこそ!みたいなものがあるのではないか?と書くことにしました。

今回、公式レポーターという立場で前日のオーケストラとのリハーサル(1時間程度)と、当日のゲネプロ(30分程度)の見学という大変に貴重な体験をさせていただきました。特にゲネプロの時、ガラガラのサントリーホールで協奏曲を聴くってなんてレアすぎる体験なのかと感動しました。このおかげで本番の演奏を聴いている際の解像度が上がったと感じているので、そのことについても出来るだけご紹介したいと思います。

演奏順に紹介します。

森永 冬香さん

今回の特級ファイナルでは、最初にチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が連続しましたが、1番目に演奏していたのが森永 冬香さんでした。導入を聴いて真っ先に感じたのが、「あれ?リハーサルやゲネプロよりも大胆で力強いな?」ということでした。それまでは、指揮者の飯森範親先生と細かい確認を行いつつも、かなり堅実で真面目な演奏だなというのが強く印象に残っていたので、本番だとこうも変わるのかという驚きがありました。

リハーサルの時点から、ロシアの自然の厳しさ、文化的な多彩さ豊かさがよく味わうことが出来て充分に満足感が得られたと感じていたのですが、本番ではさらに音が伸びやかになり、ゴーゴリやドストエフスキーの小説を読んでいる時に出てきた、ロシアの様々な都市や農村についてなどの描写や、映画『ひまわり』に出てきたひまわり畑や猛吹雪の様子などをとても久しぶりに思い出すことが出来ました。いつか実際にその街並みや風景を自分の目で見てみたいと思いました。

神宮司 悠翔さん

神宮司さんは前日のリハーサル、当日のゲネプロ、そして本番の3つで演奏が一番変わっていった演奏者だと感じました。最初のリハーサルでは、真剣だけれども溌剌とした演奏といった印象だったのが、当日のゲネプロでは、ホールが違うというのもあるのかもしれませんが一転して最初の一音からしっとりとしていて、これは本番ではどう大化けするのか!と期待が高まっていました。

本番の演奏は、とにかく豪快で、勢いがあって、途轍もない気迫の伝わってきて、こんなふうに弾きたい!という強い意志にオーケストラがピッタリとついていく、そんな演奏でした。

柚子と蜜柑さんの、神宮司さんの指揮者合わせのレポートによれば、飯森先生が「ここの部分はどんなに早く弾いてくれても僕は合わせられるから、自信をもって表現して!」とおっしゃっていた箇所があるようで、ひょっとして3楽章の後半の部分だったのかな?と思ったりもしました。

北村 明日人さん

ベートーヴェンのピアノ協奏曲 第4番を演奏した北村 明日人さんは、指揮者合わせの段階から、カイネ♪あのんさんのレポートを読むと、飯森先生との間でこの曲をどう弾くかについて、かなり深く共有されていたのではないかと想像出来ますが、リハーサルを見てもそれがよく伝わってきました。

リハーサルやゲネプロでの飯森先生は、オーケストラとピアノというよりも、どちらかというとオーケストラの楽器ごとの表現の仕方やバランスについて細かく調整していき、確認のためにピアノと通すという雰囲気を感じました。先生と北村さんの間では、もう演奏についてほとんど話し合いが必要なさそうな雰囲気すら感じました。

本番では終始、自分達はこう弾く!という安定した演奏で、オーケストラともピッタリ息が合い、しかも今までリハーサルから聴いてきた中で本番が一番伸びやかで豊かな音で最高の演奏!といった感じで、とにかく充実した時間を共有させていただけました。

鶴原 壮一郎さん

最後に、この明るく華やかなラヴェルのピアノ協奏曲を演奏したのが鶴原 壮一郎さんで、とにかく活気あふれる楽しい演奏(1楽章と3楽章)でした。

この曲は、むち(実際には木の板らしきもので音を出していました。)や太鼓、ハープ、ピッコロなどの楽器が所々で入れ替わり立ち替わり現れるとても賑やかな曲です。リハーサルでの飯森先生は、この曲の一風変わった雰囲気を演出するために、他の弦楽器や木管楽器も随所で弾き方を変えたり、ピアノとのタイミングを繰り返し練習したりしていて、曲に対するアプローチの仕方が独特に感じたことを覚えています。また、少し弾き方を調整するだけでガラッと全体の雰囲気が変わっていく様子を魔法のように感じながら聴いていました。

わたしが一番記憶に残っているのは実は2楽章で、本番ではゲネプロまでとは段違いに伸びやかで繊細な音色が聴こえてきて、こんなにも美しい曲だったのか!というのを鶴原さんの演奏で発見した気持ちでした。

まとめ

二次予選から、ファイナルまでほとんど現地で演奏を聴かせていただきましたが、ファイナリスト4人となるともうこれまでに何曲も演奏を聴いていて、リハーサルも聴いているということになります。するともうなんとなくどんな曲が好きで、どんなふうに演奏する人かというイメージが頭の中に出来上がってきます。

その上で本番を聴くと、最初から最後まで貫いたところや、どんどん変わっていったところを沢山見つけることが出来て、コンクールで沢山の良い演奏を聴けたという体験ももちろん出来ましたが、それ以上に短い期間だったはずなのに人一人一人の成長のようなものを見ていく経験をすることが出来ました。

レポーターという立場上、聴いた上で何かを書く必要がある。その分普段よりより真剣に聴かなければという意識がありました。すると、今まで、なんとなくで聴き流していたのであろう細かな箇所もだんだん耳が拾い上げていくようになり、特級が始まる前とは、普段CDを聴いていても全く違う姿勢で曲を聴いているような気がします。

最後になりますが、わたしをピティナ特級の公式レポーターとして採用してくださり、サポートをして下さったピティナの皆様、レポートについての具体的なアドバイスや、チェックをして下さった飯田有抄さん、そして一緒に活動していて、実際の所いつもわたしのお手本になって下さっていたピティナ特級公式レポーターの皆様、他にもこのコンクールに関わっていた全ての方々の支えあってこそ、特に難しいことを考えずにレポーターの役割に集中して、面白く、楽しい体験とすることが出来ました。本当にありがとうございました。

写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎
ピティナ特級Webサイト https://compe.piano.or.jp/event/tokkyu/index.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?