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史上最高のコト起こし 糸原健斗【11/2 対バファローズ戦○】

11月1日に行われた日本シリーズ第4戦、まだ湯浅京己の名前が呼ばれる前の回だ。打順の兼ね合いで佐藤輝がベンチに下がる中、背番号33が急ぎ目でキャッチボールをしているのが見えた。7回表の途中、ボール回しを終えた糸原健斗が阪神甲子園球場のグラウンドに現れた。最後に守備に就いたのがいつだったか思い出せないくらい、シーズン中では見なかった光景だ。
テレビ中継で観戦していた友人から聞いて後から知ったのだが、佐藤輝明がベンチに下がるシーンはCMの放送中で映っていなかったらしい。

8回表、試合は3対3の同点。1アウト2,3塁で守備陣は前進守備。糸原の前にボールが飛んだ。3塁ランナーはすでにスタートを切っている。糸原は両手で大事にボールを掴み、バックホームする。坂本誠志郎が待つ所へ送球が寸分違いなく送られ、ランナーはアウトになった。

終わってみればピッチャーの島本浩也がバファローズベンチに何もさせずに抑えたシーンにすぎない。けれどもそのアウトを奪ったのはこの日最初の守備機会、しかも何ヶ月も実戦で守っていない糸原だった。

あのバックホーム、控えめに言って最高だった。

甲子園の歓声がこれだけ試合の雰囲気を変えてしまうこと、タイガースファンの僕が1番驚いている。でもお客さんだっていつどんなタイミングでも盛り上がるわけじゃない。あの大衆を一気に引き込み、逆転への口火を切ったのは8回裏の「代打糸原のヒット」だったと思っている。

先頭の木浪聖也が相手守備のミスを誘い、2塁まで進塁した。甲子園が湧くなか、FREAKの「誓いの歌」が流れる。

どんな時でもあきらめたりはしない―

この場面で1番背中を押してくれる曲が甲子園球場に響き、糸原が打席に入った。

山崎颯一郎の初球は高めに外れてボールになった。2球目は糸原が見送ってストライク。3球目は高めに大きく抜けた。4球目。糸原が初めてスイングをかけてこれはファウルになる。続く5球目も真ん中付近に行った球を当ててファウルにした。山崎は6球目に変化球を投じたが糸原はこれも当てた。しぶとい。簡単には終わらない。それが糸原だから。

7球目。高めのストレートがこれまでより少しだけ内寄りに行った。必死の形相でスイングした糸原の打球は緩やかに上がって、レフトの前に落ちた。白球が弾んだ瞬間、歓声がまたひときわ大きくなった。決してきれいな当たりではなかった。こういう当たりを狙っていたのかどうかは分からないが、結果的に相手が1番嫌がるであろう当たりになった。

8回の攻撃の時点で点差は2点。走者の木浪を進塁させるゴロではこのムードは作れなかっただろう。木浪のホームインだけでは逆転はできないから、バファローズからしたらこの走者が進塁する分には大きな問題にならないはず。だがランナーが進んで同点の走者まで出塁するとなったら話は変わってくる。
そういった意味でも、あの糸原のヒットが反撃のきっかけになったことは間違いない。近本光司のタイムリーで1点を返し、森下翔太の3塁打で逆転。最後は坂本が右中間を破ってこの回一気に6点を奪った。全ては糸原のヒットで動いたのだ。

今のタイガースはレギュラーが固定されているから控え選手は気持ちの持って行きかたが難しい― 確かにその通りなのかもしれないけれど、糸原はそんなことでくじける人じゃない。糸原が試合前のノックでレギュラー組に混じって声を出していたことも、早めに球場に来ていた人なら知っているはず。だからこの最高の舞台で力を発揮したのも、決して偶然じゃない。

今年はどちらかというとベンチで味方を盛り上げるシーンのほうが記憶に残っている。シーズン中に撮った写真もベンチ前で仲間を出迎えるところが多かった。
でもここまでの5試合で思い出した。糸原のかっこよさはベンチじゃなくて甲子園のグラウンドで1番輝くってことを。グラウンドでしぶとくプレーする糸原が1番かっこいいってことを。

最高のコト起こし請負人、ありがとう。


(おまけ)
近本光司がフライを捕球してゲームセットになった瞬間、ライトスタンドのファンに向かって指を差した。近本たちと一緒に掴んだ勝利な気がして、嬉しかった。

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