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いちばんじゃないといや【10/4 対スワローズ戦●】

タイガースで毎年恒例となったゴールデンウィークのこどもまつり。スコアボードの名前がひらがな表記になるほか、選手の子ども時代にまつわるエピソードが紹介される。今年のテーマは子どもの頃の口癖だ。「パパ、ママ」や「キャッチボールしよう」のような微笑ましい言葉にほっこりさせられたが、ひとつだけ印象に残る口癖があった。

「いちばんじゃないといや」。

タイトルにも使ったこの口癖は、中野拓夢が幼少期に発していた言葉だ。本人はあくまで昔の口癖として取り上げたつもりなのだろう。だがこの言葉が含む欲求や願望のようなものは、今の中野にも宿っているような気がしてならない。
こどもまつりの試合以降、僕は中野の「いちばんじゃないといや」という言葉を心の中で何度も繰り返した。

昨年までとは違う、セカンドとしての出場。アマチュア時代に経験したポジションといえ、プロでは初となるセカンドでの通年出場。飛んでくる打球の質も違ければ、体の動きも違う。打席では送りバントや近本光司の盗塁のアシストなどを求められた。ガンガン振り回す選手が増えているとはいえ、2番は制約の多い打順だ。
去年までと違うのに、なぜ中野は淡々とプレーできるのだろう。そう思ったとき「いちばんじゃないといや」が頭の中に浮かんできた。
いちばんになりたい、いちばんになれるならチームが求めることなんでもやってやる。
去年までに感じていたものとはまた違う、中野のすごさを感じた。

タイガースがセリーグのいちばんになっても中野の挑戦は続いた。自身初のフルイニング出場と最多安打がかかっている。チーム内に調整や戦力見極めの空気が漂うなか、中野を囲む雰囲気だけはピリッとしたままだった。
すべてはいちばんになるために。

ペナントレース最終戦、最終回に逆転を許しあっけない形で試合は終わった。だがこの瞬間、中野のフルイニング出場は達成された。中野にヒットは出なかったが、同数で並んでいたベイスターズ・牧秀悟も無安打だったため、2人がヒット164本でトップを分け合った。
さぞホッとしているかと思ったが、ヒットを打てなかったことについて「情けない」とコメントした。
1年通して164本も打ったのに厳しすぎやしないか。


いちばんじゃないといや。
「情けない」のコメントを読んだとき、あの言葉が脳裏によぎった。

シーズン開幕前、侍ジャパンの日本代表に選ばれた中野はWBCで世界の頂点に立った。そして「2番セカンド」で試合に出続けて、18年ぶりの優勝をもたらした。自身初となる最多安打のタイトルも手にした。
それでもまだ、中野は満足していないかもしれない。
あと1つ、いちばんを目指す戦いが残っている。クライマックスシリーズ、そしてその先の日本シリーズだ。
高みを目指してストイックに戦う中野の姿を見ていると、なんだかこちらまで熱くなってくる。大人になって薄れていった負けず嫌いの感情がふつふつと蘇ってくる。

「いちばんじゃないといや」。
僕も同じ気持ちだ。


【あとがき】
なんとなーく続けたり休んだりして書いていた2023年の試合noteも、なんとかシーズン最終戦まで到達できました。中野選手のように全試合更新とはいきませんでしたが、野球好きのみなさんに「タイガースの選手いいな」って少しでも思ってもらえるきっかけになっていたら嬉しいです。

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