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「私は貴方が書いた小説の主人公です」と名乗る男と、それを信じた作者の対談


前置き

最近、『少女革命ウテナ』の幾原監督に関するニュースがありました。

自称・イラストレーターの女性が「自分の絵がトレースされている」と幾原監督にDM。
「全く一致していない」と取り合わなかった幾原監督に、女性は「名誉毀損」と主張して、仕事先や関係各所にメール。
幾原監督はライブを中止することになり、同業者への迷惑行為を防ぎたいという思いから訴訟。判決は12月13日に予定されています。

それを受けて、同じような経験があるという話もいくつか出てきました。

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今日の話題

そういう系の古い事件では、1986年に、平井和正先生の小説(ウルフガイシリーズ)の主人公「犬神明」を名乗る人物が現れたことがありました。

その自称「犬神明」は、作者の平井和正先生と対談をしています。

『SFアドベンチャー』1986年8月号

夢か幻か! 特別対談 平井和正vs.犬神明」

たぶん有名な出来事なのですが、最近はあまり話題になっていないようなので、その話をさせてください。

 

犬神明登場まで

予兆の手紙

1976年、平井和正先生のところに「自分の友人にウルフガイみたいな男がいる」という手紙が届きました。

『SFアドベンチャー』1986年8月号で紹介された写真

書き出しはこんな感じで、

平井和正様
残暑厳しき折り、創作もにぶりがちの事と存じます。
唐突に以下の内容を、あなたにお知らせする事は、私にとって、少なからず勇気のいる事でありました。

それから、差出人の友人が『ウルフガイ』そのままの男であるということが、延々つづられています。

あなたには、ただの小説好きの何者かが、作家であるあなたを、からかっているのだという、ばかばかしさが生じているかもしれませんね。
フィクション風邪をこじらせた患者のたわごと、ポイとクズカゴにほうり込む事を、私は60%以上の確率で予想しています。さあ、あとの40%のあなたの持ちあわせている探究心と既成概念への挑戦です。
(中略)
あなたの小説をつらぬく人間のみにくさと、あわれ、そして自然の持つあまりにも強大な気高さ、その相剋にゆらぐ狼人間。私の友人Kも、きっとそうなのかもしれません。
ずば抜けた視力、するどい嗅覚、感覚のいい耳も、そして発達した犬歯、びんしょうな身ごなし、ダイナマイトのようなパンチ。あなたのウルフシリーズそのままの男K。
(中略)
もし、この内容に、いくばくかの興味を憶えたら、次刊発行のあと書きの中にでも、何かしらのコンタクトを願いたいと存じます。

しかし、この手紙は2通だけで途絶えてしまったそうです。

 

呼びかけ

この手紙について、平井和正先生は「空想癖のある人間が書くという感じではなく、非常にリアリティのある内容」とコメント。

「ずっと心に引っ掛かっていたので、去年(1985年)の9月、『ウルフガイ』のハードカバー版を出したときに、もしかすると犬神明は実在するかもしれない。もし読者のなかで犬神明をご存知の方は、どうか作者までご一報ください、ということをあとがきに書きました」

と、作者の側から呼びかけたのでした。

それからまもなくして、犬神明を名乗る男(47歳・引きこもり歴6年・体重100kg)が現れることになります。

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