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モンスター視聴者作ったFOXニュース

ドミニオン対FOXニュースの民事訴訟の件についての名誉毀損訴訟の専門家、ユタ大法学教授のインタビュー。とても勉強になった。

ドミニオンとは米国大統領選挙で使われた投票集計機。選挙に敗れたトランプが「不正選挙だ」と言う理由の1つとして、この集計機が操作されている不良品だというデマをFOXニュースがまことしやかに散々流布していた事に対し、名誉毀損でドミニオンが訴訟を起こしている。

当時日本でも右翼派の陰謀論者「ご意見番」達がこぞってこの「ドミニオン疑惑」を信じたものだから、FOXニュースの実害は相当だ。

まず、名誉毀損訴訟と言うのは立件が非常に難しく、示談に落ち着くことが多い。特に報道機関を相手取る場合は有名なタイムズ対サリバン("MLK支持/警察の批判"広告に事実の誤りがあったとアラバマ州モントゴメリー警察署所長が名誉毀損で起訴)以降、報道機関は言論の自由の観点から、”Actual Malice(悪意の存在)”の証明無ければ、名誉毀損の訴えからは守られるのがスタンダードとなっている。


これは名誉毀損裁判のジレンマの中核。

言論の自由の武器化 VS 名誉毀損裁判の武器化

言論の自由を盾に報道が嘘を流すのは問題だし、企業や政府機関が市民の批判を「名誉毀損だ!」とスラップ訴訟で黙らすのも問題。どちらに振れても社会における健全な議論が損なわれる。

今現在進行中のこの裁判では先日FOXニュース内のアンカー達のやりとりが明るみになり大騒ぎになった。「シドニーパウエル、嘘ついてる。」「誰も信じないだろあんなの」「でもうちらの視聴者はああいうのが観たいんだ。」「ドミニオン潔白だとリポートしたやつは首にしろ」などと言い合っている。

Actual Malice(悪意の存在)、ドミニオン不正が嘘だと完全に知っていたことの決定的な証明だ。ユタ大教授は「Actual Maliceを証明する力を見るための自分の生徒へのテストとしてもここまで簡単なのは出せません。相当稀なケースです。」と言っていた。

長年FOXニュースの酷さをレポートしてきたホストのスチュワート氏は更に大きな視点を提示する。大体、オーナー、マードックは「なんとしてでも共和党の力になるんだ」と言っちゃってる訳で、彼らは報道機関を名乗って言い訳がない。

バイデンのアリゾナ州での勝利や議事堂襲撃事件の後、一瞬「トランプもう無理だろ」と捨てそうになったが、トランプの指示であっという間に視聴者がNewsmaxなど更に報道倫理の低いニュースチャンネルに移ってしまい、慌てふためいて態度を豹変させた経緯がある。

FOXは自分の視聴者を「真実よりも心地よい嘘」を消費する「ヤク中」にしてしまったのだ。その罪は重い。FOXがネットワークで最初にバイデンのアリゾナ州での勝利を流した当時、視聴者から秒で裏切られた様子は、フランケンシュタインがくるっと向きを変えて持ち主を襲ってきたようなものだと形容する。

名誉毀損裁判は、流布された嘘による被害者(この場合ドミニオン)があって初めて成立する訴訟で、そのスコープは限られている。しかしそれには損害の金銭的補償の役割ともう1つ、広まってしまった嘘のリセットの役割がある。

FOXはこの訴訟の行方を自らの番組で全く報じていない。この訴訟で負ければもちろん控訴するだろう。そして最高裁まで行く可能性がある。 現在最高裁の保守派判事達(ゴーサッチ、トマス)は近年名誉毀損裁判のハードルを下げる動きをしてきた。

建前はどうあれ(トマスの建前なんていつものoriginalist的なもので建前としてもそれはお粗末なものであるのだが)、それはリベラル紙の活動を制限しようという保守派の動きなのだろうが、それが逆に今回はFOXに不利に働くようになっている。彼らが「誰が訴えられているか」によって自分らの大義名分をヒラヒラと変えるのかは見ものである。トマスなら十分あり得る話だ。

で、この訴訟がそこまで行って決着ついて、「不正選挙なんて嘘でした」という事実が司法の場で確立されたとして、FOXニュースの視聴者は自分の認識を改めることができるかというと、疑問だ、というのがスチュワート氏の見解。



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