適正AV業界で強要って起きるのか?

これまで、AV新法について「問題点」「できるまでの経緯」「なぜ、今問題が起きているのか」という点から考察をしてきました。

ただ、ここまで業界の方に「適正AVの規約」や「その運用」を聞いていく中で「いったい、どこで強要が起きるのだろう?」という点がわからなくなってきました。なぜなら、「強要が起こせるタイミング」、それから「強要を起こす動機」そのものを見出すことができなかったからです。

そこで、そのプロセスを「見える化」し、この疑問を解消しようと思いますが、結果から言うと「強要を起こせるタイミング、動機ともにない」という結論に達しました。
また、「契約を交わしての役務提供」をする、例えば作家、あるいはIT業界のコンサルタント、エンジニアなども、非常に参考になる事例になるのではないかと思いますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

1.契約プロセス

まずはフローチャートの見方から説明します。
左側から外部組織、AVメーカー、AVプロダクション、出演者で枠を構成しています。青いボックスはアクティビティで、その内容が書かれています。

企画から女性選定

企画確定はもちろんAVメーカーでの意思決定になります。
おおよそ、企画内容が決まると女性選定のプロセスになります。女性の氏名もあれば、イメージをプロダクションに伝えてプロダクションで女優選定を行うケースもあるようです。
基本的にすべてオンラインで連絡、やり取りが行われるため、ここで強要が起きることは考えにくいと思います。

面接(対面・オンライン)

ここでメーカー、プロダクション、女優さんはじめ出演者さんで面接があります。企画内容の説明から、メーカーサイドからのギャラの提示、今後の想定段取りを伝達します。このあと、内容の摺合せなどを行うので、ここでは大きなゴールイメージを共有するようなお話になるようです。
対面のケースもありますが、この時点で強要することがないので問題にはならないでしょう。

撮影内容調整/準備(基本オンライン)

面接が終了すると、内容の調整や、準備を開始します。
内容によって用意するスタジオや、小道具などが変わるため、女性の了解の取れた部分から準備していくようですね。
また、合意した内容をシナリオ(台本)に起こす作業もここで始まります。
女優さんを始め、出演者の方は性病検査・問診を受けて、検査証明書をもらってきます。実際、AV業界や風俗業界の性病理解の支援などで動いているお医者さんもいらっしゃるので、そういった方のサポートもあるようです。
この期間は内容や、準備するもの、またスタジオなどは予定の調整もあるので、1~2週間、もっとかかるケースもあるそうです。

この段階でのやり取りも、基本はオンラインでの連絡を取り合う形になるので、強要は考えにくいと思います。

契約書取交し(オンライン可)

「撮影内容調整/準備」で擦り合わせてきたことを、契約書に起こします。
適正AV業界では、標準フォーマットを利用して契約することを推奨しているので、こちらに記載していくようです。フォーマットでは著作権の帰属などについては業界で標準化されているので、あくまでも撮影ごとに確認する事項が記入されていきます。
最終的に、問題ないことを確認されたものが契約書として残ります。
また、この契約書はメーカー、プロダクション、女性の三者に共有されるようにデータが送られますが、AV人権倫理機構のAVANにも送付され保管されます。つまり、第三者組織で三社合意されたものをのちのち確認できるようにしているのです。

ココでのポイントは、民法上の契約成立とは口頭でも成立するので、この時点での契約書は効力を発揮するはずです。

契約書と同意書の確認(撮影当日)

撮影当日です。
ここで、「契約書取交し」で確認した契約書と、同意書の読み合わせ確認をします。一般企業でも厳しいところではお互いが声に出して読みあい、「あってますよね?」と確認したりしますね。
さらに、出演者全員の性病検査結果を確認します。男性、女性双方で、お互いの検査結果を確認します。
そして、全ての内容が「契約書取交し」で交わした内容と同じであれば、双方が署名、捺印を行います。

AV人権倫理機構の規則では、契約について以下のように書いています。

第7条 契 約
団体等間における個別の契約については、AV出演者等の自己決定権に配慮されて作られた本機構が定めた共通契約書を使用し、撮影時より相当期間前に、それをもって契約をすることとする。なお、契約を交わした際には、必ずそれぞれの当事者に締結した契約書を手交し、当事者はその当該契約書を保管する義務を負う。メーカーやプロダクションは、出演者から契約書の写しの交付を求められた場合には、これに応じなくてはならない。

このプロセスでは、オンラインで既に「撮影時より相当期間前に、それをもって契約」されています。また「契約を交わした際には、必ずそれぞれの当事者に締結した契約書を手交し、当事者はその当該契約書を保管」も、「契約書取交し」のプロセスで相互に交換+AVANで保管しているので問題ないでしょう。
つまり、撮影当日に行っているのは、「契約の最終確認」と「同意書」の取交しです。これは一般取引、特にコンテンツ業界ではよくある手法なので問題になることはないはずです。

また、この一連(契約書と同意書の確認)の流れは、全て動画撮影され保管されます。よって、この後に行われる撮影時に強要があった場合、取り交した契約書の書面、AVANに格納された事前の合意契約書、そして動画があるので、本当に強要があったのか、それはどういった問題なのか、トレースができる仕組みになっています。
実によく考えられている、と感じますね。

この後、撮影に入るわけですが、契約書と同意書の署名、捺印から撮影が同日に行われるのは、地方在住のAV女優さんがなんども足を運んで対面する機会を減らすためですね。

撮影(撮影当日)

契約書と同意書の署名、捺印が終わったら、撮影に入ります。
ここまでで、かなりの時間がかかっていることがわかりますね。

編集~販売

撮影した動画を編集し、販売PFで公開します。
この間、カットからパッケージや販促物の作成も行われます。
販売されるPFは、FANZAなどですね。
こちらは「適正AV」でないと販売してもらうことができません。万一、適正AVメーカー、プロダクションから外れた場合、以降販売してくれなくなるようです。
つまり、万一「強要があった」と申請があり、契約プロセスで保管された契約書や動画をトレースしていき、事実が確認されると「今後、販売することができなくなる」というわけです。

結論

整理したプロセスチャートと、販売に載せる一連の流れと業界の規則を考慮していくと、
・強要できるタイミングはほとんどない
・可能性のある場合でも、動画と契約書で確実に検証ができる
・販売PFで売れないというプロセスを守る動機がある

という点から、メーカーやプロダクションの強要はリスクしかなく、メリットがありません。

AV人権倫理機構の方では「強要と呼べるものは、5年間の運用で1件しかない」とのことです。現在、適正AVは年間で約2万~3万くらいの本数になりますから、5年間の推定10万本で1件ということです。
事件はないに越したことはありませんが、車を運転したり、飛行機に乗る方がはるかに危険だ、ということです。
この一件についても、事件経緯をAV人権倫理機構に問い合わせてみる予定です。

さて、ここまで読んできて「適正AV」の取組についての感想はいかがでしょうか?特にAV業界でない方は、どのような感想を持たれたでしょうか?
自分の知り合いにこの説明をしたところ、全員が「思ったよりも厳しい」「ウチの業界より厳しいんじゃね?」といった感想でした。

さて、改めて「AV新法は、適正AV業界に必要ですか?」



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