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ニューヨークの総合病院で集中治療医として新型コロナウイルス治療にあたる日本人医師、コルビン麻衣さんインタビュー全文

「今の日本は3週間前のニューヨーク」。ニューヨークで集中治療医として働く日本人医師・コルビン麻衣さんがインタビューに応じました。あっという間に患者が増え、人手が足りない・・・。ニューヨークの現状と新型コロナウイルスの怖さを「できるだけ多くの日本の人に伝えて欲しい」と語っています。

Q.実感として「コロナの患者さんが増えている」と思ったのは、いつ頃からか

うちの病院で一番最初のコロナの患者さんの受け入れをしたのは3月11日でした。その日は1人。それがその1週間で、一気に100人くらいまで増えた。ただ最初の週は、できるテストの数がすごく限られていたので、特に最初、1週間くらいか・・・5日か・・・1週間くらいの間は、うちの病院で検査することができなくて、外にテストを出していました。なので、テスト結果が返ってくるまでに、3~5日ぐらいかかって・・・。テストしてもすぐに結果が分からない状態で、患者をER(救急救命室)に止めておかないといけなかったり、病棟に入れたり、一応、ルールアウト(似た病気の可能性を診察や検査で除外すること)ということで「可能性あり」みたいな状態でした。うちの病院が自分の病院で検査できるように、キットを用意して。でも最初は、1日35人ぐらいしかテストができませんでした。それが数日で、75人、100人まで増え、今では何百人とテストできるようになりました。

1週間、10日くらいした時に、もうその増え方が尋常じゃなかった。1人だったのが、あっという間に100人になって、その次には200人になって、という数字を見て、現場でもすごくそれを感じていました。ICU(集中治療室)に入ってくる患者さんでも、コロナの患者さんがいきなり増えてきました。私は最初の週、コンサル棟にいたんです、ICUではなく。集中治療のコンサル棟というのは、病棟に入院されている患者さんの容態が急変した時に、「ちょっと見て下さい」とコンサル棟に電話がかかってきて治療したりとか、病棟で心肺停止になった患者さんのところに行って処置したりとか・・・。あとは、ERに来ている患者さんのなかで、ERにいる医師が「たぶんこの人はICUに入室が必要だ」と診断した時にも、クリティカルケア、集中治療のコンサルとかを受けられる。それで病院中をコンサルタントとして歩き回る時に現状を目の当たりにしたというか、すごい大勢の患者さんが待っていたりだとか、フロアに行っても、コロナの患者さんがどんどん増える様子を見て、「ああ、もうこれは本当やばいんじゃないか」と。1週間くらいして、すごさに気づきました。

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Q.これだけ一つの病気で患者さんが増えるというのは・・・**

ないですね、今まで。見たことないし、それに、私よりもっと経験のある先生方、同僚も、その人たちの様子を見ても、これはもう尋常じゃないというのがわかった。今までのもう、何より・・・。うちの病院には4つ、ICUがあり、私が普段いるICUは、心臓外科のICUを専門としたICU。心臓移植だったり、肺移植だったり、人工心肺で、ECMOという装置があるが、それをつけている患者さんを受け入れる12室あるICUです。普段、私のICUにいる、肺炎の患者さん、外科系じゃない患者さんを受け入れることは、ない。この1週間で、どんどんコロナの患者さんが、私のICUまで来る状態になって、「ああ、これはもう、一気に、きっとICUのベッドがあっという間に足りなくなるな」と思った。

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Q.勤務先の病院の規模**

大きい。ブロンクスのなかでは、一番大きいかは分からないが、大学病院で、総合病院。

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Q.明日以降、来週以降、現場ではどうなると話している**

「まだまだこれから、増えるだろう」という予測なので、「長い闘いになりそうだね」という話はしている。

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Q.病床が満杯になる、受け入れ能力の限界、危機感は**

実際に、現状であるICUは全ていっぱいになって、新しいICUも、うちの病院は3つ作った。普段は、ICUの受け入れをしていない、病室ではないエリアに病室を作ったりだとか、ICUのキャパシティも、普通だと46、全部で46室ICUのベッドがあるが、今それが80まで増えて、それでも足りない状態。まだこれからICUを増やしていかないといけない、というのが現状。普段ならICUに入室させる患者さんが今入れない状態なので、人工呼吸器につながれたまま、病棟に入院されている患者さんも大勢いる。

(写真はNY市内の大型施設に作られた臨時病院)

Q.人工呼吸器は?

足りない。うちの病院は76台くらい人工呼吸器があるが、普段、大体30台、使っても40台くらいのキャパシティでやっているので、人工呼吸器がなくなるというのは、まずありえない。それで、もうそれが足りなくなったので、先週新たに35台入れて、また今週末、25台入った。それでも足りなくなりそうなので、もう入れても入れても、という状態。

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Q.人工呼吸器がないと、コロナの患者さんはどうなる?なぜ人工呼吸器が必要なのか、改めて伺っても良いですか**

最初、ERに来る方とかは、酸素2~3リットルで何とかなる方もいるが、それで病棟に入院されて、容態が悪くなって、どんどん酸素が落ちると、鼻からの酸素吸入だけでは、5、6、7リットルと増やしても、どんどん酸素、血中酸素が落ちていく状態。もうそうなった時にできることは、挿管して、管を気管支に入れて、人工呼吸器につないで、自分で呼吸をするのではなくて、人工呼吸器に呼気を任せることになる。それはすごい重症患者さんにしか普段はやらない処置というか、もう本当に、命の危険があっても、人工呼吸器をつけないともう助からない、という時にしか使わないもの。なので、ちょっと呼吸が調子が悪いから人工呼吸器、とか、そういうレベルの話ではないので、もう本当に、みんなクリティカルな状態。

(写真はセントラルパークで設営中の“野営病院”)

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Q.これだけ大きな病院で、(人工呼吸器)70台以上がフル稼働。経験したことない事態**

経験したことないですね。人工呼吸器がなくなることは想像もたぶん・・・なくなるかもしれないとは言われていたが、実際に、こんなに早くその日が来るとは。本当に、10日間、1週間でもう実際にその状態なので、この先あと2週間後、3週間後がどうなるか、もうすごく心配。

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Q.コロナに感染してしまった同僚はいますか**

何人もいる。毎日のように一緒に働いている同僚もかかって、自宅療養している人がいるし、実際に私が今担当しているICUでも、うちの病院で働く看護師さん1人と、うちの病院で働く医師が1人、人工呼吸器につながれている状態。他のICUでも、うちの病院で働いている人が人工呼吸器につながれている状態なので、怖いですね。

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Q.これから日本でも増えていくのではと言われていて、若い方は健康だから、持病がないから大丈夫と思っている方もいる。特徴であったり、症状など、今わかっている範囲で参考になることは**

ニュースでも報道されているとおり、コロナにかかった人の8割は、家で自宅療養すれば大丈夫。たぶんその数は、合っていると思う。マイルドなケースも多い。ただ、かかる全体量が多いので、20%の人だけがひどくなっても、N(感染者数)が多いと、20%の量がすごく増える。そのなかの、例えば一握りの人が、重症化してICUになると言っても、その数がすごく想像もつかなかったような数になってきている。
最初の症状としては、たとえばインフルエンザなんかにかかったら、わりと、発熱したり、体調が悪くなったり、身体の節々が痛いとか、調子がみんな悪くなるんです。ただ、コロナの人は、無症状の人も中には居て、知らずに周りに移しているというのがまず一つ。
発熱もすぐする人ばかりではなくて、かかってから、5日間とか、7日間とか経って、やっと症状が出る人もなかには多いので、その無症状の間に、知らない間に周りの人に広めてしまっているというのも一つ。
症状としては、発熱、咳、喉の痛み。最近言われているのは、嗅覚と味覚が変わるという人、あと、下痢をする人も割といる。

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Q.「若いから大丈夫」と思っている人もいるが患者の年齢は**

私も最初、中国、イタリア、イランのレポートを読んでいて「高齢者の方と、持病のある方が重症化しやすい」というのは読んでいた。たしかに、重症化しやすいのはそうだが、この2週間だけでも、私のICUには、40代、50代の方、すごく多く見える。一番若い方で30代の方もいる。だから、自分が高齢じゃないから、自分が持病がないから油断できるものでもない。あと、突然容態が変わるのが、コロナの怖いところだなっていうのを最近すごい気付かされている。ERに来た時は大丈夫。それで、酸素2~3リットルで病棟に行って。それで、いきなり・・・いきなり心肺停止の方とかも、何人もこの2週間で見てきた
まだ分かっていないことがすごく多いので、なんとも言えないが、心筋梗塞になったり、心臓への負担もあるみたいです。私も2日前、こっちのICUで経験したが、109度(※華氏。摂氏42.8度)まで発熱された患者さんがいたが、109度の熱って、見たことがないレベルの熱。いきなりバイタル(血圧や心拍など)が落ちて、亡くなってしまったんですが、予期していなかった、容態が変わるのが速くて。怖い。

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Q.感染が怖いから、看取ることもできない状況**

それがすごく、一番・・・一番ではないが、一つの辛いこと。普通ICUに入院されている患者さんは、ビジティング・アワーズと言って、お見舞い、お友だちやご家族、ベッドサイドに誰かいるという状態が普通なんです。でも、今は、もう街中の誰がかかっていてもおかしくない状態なので、またそのビジターを許してしまうと、もっと感染が、院内感染が広まるのではないか、あと、ビジターの方に、移してしまうリスクもあるし、ということで、いま誰もビジターを入れない状態。それで、もし患者さんの容態が急変して「この患者さんは、もうあと数時間で亡くなるだろう」と医師が判断した時のみ、1人、ご家族1人との面会が5分間だけ許される。
だから、本当に、コロナと闘っている患者さんは、みんな本当にすごく孤独に闘っていて、それを見ていると私も心が痛むし、せめて最期だけでも、家族に看取ってもらいたい、というのはある。

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Q.現場から見ていて日本の方にメッセージは**

ここ3週間前、ニューヨークでは誰もこんなことになるなんて予想していなかったと思う。中国やイタリアのレポート見ても「どこか遠いところの話」みたいな感覚があった。ロックダウン(都市封鎖)になった後でも、天気が良い日は公園に行けば人がたくさん遊んでいるし、子どもも公園にたくさん遊んでいるような状態だったんですけど、本当にここ5日間くらいで、いきなり家にこもり始めた感覚。5日、1週間で変わった感じがある。本当に、今の日本を見ていると、3週間前のニューヨークを見ているような気がして、それがすごく怖い。ニューヨーカーも、ここまでなるとは思っていなかったのに、もう本当に、あっという間に、2週間、3週間でこの状況なので、それがコロナの怖いところで、爆発的に、増えるとなったら増える。日本の方は、1月くらいからずっとコロナと闘っているので、もうすごく長期戦になってきて辛いと思うが、今が踏ん張り時というか、あと数週間、本当に家にいるだけで助かっている命があると思うので・・・そこを伝えたい。

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Q.「家に居て欲しい」というのが基本か**

症状がなくても、自分、もっと自分よりリスクが高い人に広めている可能性も十分ある。外に出ることで、自分が他からもらってしまう可能性もあるので、家にこもって、こっちではソーシャル・ディスタンシングと言って、人混みを避けて、人と6フィート、2メートルくらいの間隔を空けるというのをやろうということになった。でも、ちょっと、手遅れだったですね、ニューヨークは。だからニューヨークから学んで欲しい。

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Q.病院船が来たり、仮設病院を作っているが、足りない**

まだまだこれから増えると言われているので、2日、3日ごとくらいに倍増ぐらいしているので、そうなると、これだけベッドがあっても、足りなくなると思う。人工呼吸器も、増やしても増やしても足りない状態。病院が今困っているというか・・・難しいのは、人工呼吸器を増やすのはいいが、今度は「じゃあ、誰が、患者さんをケアするのか?」となった時に、集中治療医の数は限られている。普段、(一般)病棟で、挿管されて、人工呼吸器につながれた患者さんを診るということは殆どないし、一般内科の先生方も、人工呼吸器のマネジメントは普段する仕事ではない。ICUの看護師も特別なトレーニングを受けている人たち。ICUやベッドの数を増やしても、人手が今度は追いつかない状態。
うちのICUも、普段、12人の患者に対して、7人か8人の看護師さんがいる。月曜に、それが3人まで減る。というのも、新しく開けたICUのお手伝いをしたり、フロアで呼吸器につながれている人のケアをしたりしなければいけない。どんどん、看護師も医師も、休み返上で働いても、それでも足りない状態。それが今後どうなるか、怖い。外来の先生とかにも頼んで、入院患者さんのケアをしてもらうように、頼んでいる状況。

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Q.機材も足りないし、人手不足も深刻**

NYはリタイアされた医師、看護師さんまで戻ってきて、現場で働いて欲しいとお願いしている状態。あと、医学部の卒業は普通5月だが、もう3月に卒業させて、フロントラインで働いてもらうという学校もたくさんある。厳しい状態。

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Q.ご自身の体調は**

体力はまあ・・・普段から12時間半のシフトなので、そのシフト自体は別に苦にならないが、精神的に・・・どれだけ死を見慣れていたり、こういう、エンド・オブ・ライフケアみたいのに慣れていても、これだけのボリュームが、これだけの速さで来て、それで、自分の手の尽くせない患者さんの数の多さに、もう気が滅入るというか、精神的に、悲しくなる。まだ1週間、2週間、ピークまでかかると言われ、終息するにはそれよりもかなり長い時間がかかると言われているので、それまでみんな、みんな頑張って働いていて、みんな余分に働いて、みんなできるだけのことをしているので、自分も力になれればと思って頑張っている。

注) インタビューは現地3月29日に実施しました。その時の最新の情報に基づきます。

コルビン麻衣 医師
16歳で単身渡米。カーネギーメロン大学を卒業後、2012年に南フロリダ大学の医学部を卒業し医師に。2015年から集中治療と呼吸器専門の専門研修(フェローシップ)を受け2018年8月から指導医として勤務開始。現在は、ニューヨーク・ブロンクスにある総合病院「モンテフィオーレ病院」のICUで集中治療医として勤務。