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未来の建設業を考える:「空間ID・不動産ID」(2023年8月30日)

「空間ID」

 「空間ID」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
 「空間ID」とは、われわれが住む3次元空間を「空間ボクセル(三次元グラフィックスで、立体物の表現に用いられる小さな立方体の最小単位。 二次元画像におけるピクセル(画素)に相当する。)」と呼ぶ一定の大きさ、約60cmの直方体に分割し、それぞれに緯度や軽度などの場所情報に加え、地形や建物、植栽の有無などをひも付けしたうえで、統一的なIDで空間をデジタル化しようとするものだ。空間IDの範囲は、空などの「上空空間」だけでなく、建物や自動車などの「地上空間」、それに加えて、地下街や地下埋設物などの「地下空間」までも対象となる。
 これにより、日本郵便日立などが試みるドローンによるレベル4(住宅やビルなど人口が集中しているエリアなどにて、目視できない範囲を自動飛行させること)での荷物輸送も可能となるなど、都市部の物流、警備への活用が一気に進むことが期待されている。
 地上空間における空間IDへのひも付けの一貫で、竹中工務店では人流データの把握に活用しはじめた。また、ビルや地下の防災対応など、施設マネジメントを高度化するような取り組みも見られる。EARTHBRAIN社(東京港区)ではショベルカーに地下の空間IDを認識させ、NTTなどと協力して、埋設通信ケーブルを傷つけることなく、自動で掘削工事が行えるシステムを開発した。空間IDを活用し、AR(拡張現実)ビュワーで地下埋設物の可視化も可能だ。

「不動産ID」

 一方、「不動産ID」は不動産登記簿に特殊記号を付加し、マンション室別の区別ができるよう、すべての不動産総背番号で管理しようとするもの。不動産IDへ様々なデジタルデータをひも付けることで、不動産取引が円滑化したり、空き家を把握したりできるなどの活用が考えられる。
 空間ID、不動産IDは、政府のデジタル化戦略の中心となる施策だ。
 ただ、残念ながら全体で見ると、空間IDや不動産IDへのBIMなど建設データをひも付けようというポジティブな動きが弱い。それは、不動産IDやBIMにおいて、建設生産側やプロバイダー側の規格統一に時間がかかっているためだ。

建設関係のデジタルデータ

 せっかくの建設関係のデジタルデータが他の手段によって代替され、デジタル社会で活用されないデータになる可能性さえ感じる。事実、ソフトバンクは東京23区全域を対象に、小型飛行機と上空から見え隠れとなる場所もレーザー光を活用したセンサのLiDAR(ライダー)を積載したクルマを用いて、現在の衛星画像をベースに作成している現在の誤差数十センチメートルの誤差から、わずかを実物との誤差5cmの高精度詳細な建物・インフラの3Dデジタル地図を作成しはじめた。NTTでも個別のデジタルデータを結び、街全体のデジタル化を図る取り組みが進む。
 電車から車掌という役割が消え、自動運転でタクシー運転手がいらなくなる時代だが、そうならないよう、早々に、生産側、供給側の規格統一を進め、「空間ID」や「不動産ID」へ高精度な3次元データとしての建物やインフラデータが供給できるような体制構築を望みたい。これにより、建設を核にしながらも、デジタルデータプロバイダーとしての大きなビジネスへと広がるはず。
 3次元空間情報の市場規模は、2030年代1兆円、2040年代3兆円まで広がると期待されている。
 「空間ID」は日本が世界の先端を行く分野と言われる。早期に、建設としての基盤を確立したうえで、建設デジタルデータの活用方策へとつなげることに期待したい。

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