見出し画像

ワクワクリベンジ読書のすすめ~『タテ社会の人間関係』中根千枝著~

ゼミの必読書だった。そこまでは覚えているが恥ずかしい話、内容についてはまったく記憶がない。
 
日本を取り巻くタテ社会。企業、学校、地域社会、最近では裏金問題に端を発した政治の世界にも関係しているようである。報道からもわかるように、「タテ型」の話題はイメージが悪い。
そんなことから「閉塞的な日本社会の諸悪の根源はここにある」と短絡的に結論をだしがちである。ただ一概にそうは言い切れないということを、この著書から学んだ。社会人類学的に見た場合、日本のタテ型の社会構造からは優位性を見いだすこともできる。
その一つが「モビリティ(可動性)」である。モビリティは変化を生み出す源泉であり、成長のための要諦であるともいえる。
タテ社会という仕組みは努力してきた個人に対して、またとない上昇するための梯子を提供する。
古くは階層、また諸々の条件や環境がタテ社会の名の下、個人の可能性を制限しているように感じていたが、「下積み」という言葉が意味するように上向きのタテ構造・ルートは存在する。つまり、刻苦勉励型が出世するという社会的イメージは、日本人の常識の底流となっていることをあらわしている。
 
著書にある階層間のモビリティの指摘もおもしろい。
「魚屋の子だろうが、水飲み百姓の子だろうが、実業家の子だろうが、大学教授の子だろうが、東大というものを通過することによって、同列にたちうる。教育機関というものが、社会層の差をなくすか、ミニマムにするほどの機能を日本では持ちうる」。
一方、イギリスでは「ジェントルマンの子弟はだいたいオックスフォードに行くから、オックスフォードの特色が出るのであって、労働者の息子はオックスフォードに行っても、下層出身者ということは一生ついてまわる。すなわち、教育機関というものは、社会層の差に対して、さして機能を発揮しないのである」としている。
せめて子供だけは大学を出て(今日ではこれが是であるとは言い難いが。選択肢の一つとして)成功させてあげたい。そんな親の悲願が、上へのモビリティの背景としてあることもうなずける。
 
もっとも同書は、集団、序列、リーダーシップ、人間関係などについても、タテ社会という視点から深く示唆に富んだ指摘がなされている。日本の社会構造を鋭く分析したものである。
ただ「タテ社会=日本社会の恥部」という安易な発想をしていた自分の反省も含めて、今回はタテ社会におけるモビリティについてレポートしたことを最後に記しておきたい。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?