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キクラゲをみたら思い出す


先週の日曜日、身内3家族で珉王にいった。

珉王とはそのネーミングから安易に想像がつく通りバリバリの中華だ。
引っ越す前の義実家の近くにあった中華屋さん。

3年前に義両親が我が家から徒歩圏内に越してきてからは、コロナも重なりとんとご無沙汰のお店。

時より無性に恋しくなるコテコテの中華。
記憶の片隅にある珉王の味。

中華熱が高まったとある日
「The 中華が食べたい」とボソッと放った独り言を見事にキャッチしてくれたお姑さん。

「ほないこ。来週なー。」
その来週がこの前の日曜日。
3年越しの珉王にみんなでやっぱこの味やわーと大満足。

お舅さんが最後にオーダーした五目焼きそばにキクラゲが沢山入っていた。

あぁぁぁ…キクラゲよ…

キクラゲを見るといつも17歳の夏休みを思い出す。

夏休みに親友に誘われて選んだのはラーメン屋さんのバイト。

今ならなぜに?もっと他あるやん…。やけど、せっかくアシストしてれたんで2人で行くことになった。

が…まあ、そこは想像を絶する過酷な店だった。
まず、そもそも親友と一緒に働こうとなったのに、とりあえず新人はベテランと組んで欲しいからどちらか一人でいいからとオール別日のシフト。

夏休み、どちらかがバイトならずっと永遠に遊べない…。

そして、バイトのベテランさんは日本語のできない中国のご婦人。
ラーメン屋さんに中国のお方だなんて、ベテラン過ぎるやろ。

色々モヤモヤが残りつつもバイトの初日を迎えた。
メンバーは店長夫婦と、中国のご婦人と、新人の私。
教えてもらう暇もないぐらい店が忙しいお店だった。

あれこれ習ってないけどとにかく
「やって、やって、やって、ちがうー!それじゃない、それやって、あれやってやってーーー」の繰り返し。

唯一のバイト仲間はベテランとはいえ、言葉が通じないので聞きたいことは顔の表情と大袈裟なジェスチャーのみ。
細かいことがさっぱりわからない。あまりにも伝わらず…お互いに見合わせてはずっと下がり眉。
ジェスチャーなので、意思の疎通に時間もかかる。


厨房では店長夫婦がこれでもかってぐらいピリピリしながらラーメンゆでたり、餃子焼いたりしている。

きっと中華は時間との闘いなのでいつも戦闘モードだったんだろう。
そこにきてスタッフはジェスチャーでやり合う新人だもの…。辛いよね。

オーダーが次々に入るもんだから見よう見まねで麺が茹で上がるまでに素早くラーメン鉢を厨房台に並べてみる。

要領を得た気になってせっせと並べていたら、
「味噌ラーメンのラーメン鉢にはキクラゲ一枚が合図でしょーがっ!!もう!」
と、キレられた。

知らんがなそのルール。
それ以降キクラゲに出会うたびほら味噌ラーメンの合図でしょうーが!の罵声がいつも蘇る。

結局そんな調子で店内の誰とも心が通うことなく過酷な一夏が終わった。

親友と夜中の電話中ふと冷静な判断がよぎる。
ラーメン屋のバイト辛いない? てか辛いねん。の話しから、親友の辞めようの一言で、あっさりラーメン屋でのバイトに終わりをつげることになった。

わたし何かをはじめるのは割と得意だけど、自分から何かを辞めたことが無いような気がする。
辞める勇気がないだけだろうか…。

久々の珉王で20年以上たっても消えないキクラゲの目印の苦い思い出からそんなことを考えて美味しい夜を過ごした。

家族のみんなは美味しく頬ぼる笑みの影にキクラゲにまつわる思い出をはせているとは知らない…。だろう。

人っておなじ空間にいて、同じものを囲みながらも案外1人の世界に浸っているのかも?なんて思った。
笑顔の裏にある自分だけの物語をこっそり読んでる時間…わたし結構あるかも。

ちなみにその過酷なラーメン屋さん。
一夏で辞める事に散々文句を言われて給料やらんからーと最後までキレらた。

とか、いいながら給料払わんとかうそだろーと思っていたら本当に振り込みがなかった。

ただただ汗にまみれて怒られ、親友とは遊べず、味噌ラーメンにはキクラゲを覚えただけのひと夏。

今なら未払いとか絶対有り得ないけど、17歳の娘には泣き寝入りするしかなかった…。

ちなみにそのお店
高校生の2人分のバイト代を踏み倒すような店だもの数年後…跡形もなく更地になっていた。フーーンだ。

んんーーでも、それはそれでちょっと切ない…。

おばあちゃんになってもキクラゲをみたら何度でもあの夏を思いだすだろう。

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