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008:精度200%の人工知能アルゴリズム、ついに完成|クレイジーで行こう!第2章

「彼はフラクタに来ないと思いますよ」

現在のフラクタには、会社の命運を握る、新たな天才エンジニアがいる。

創業期のフラクタが人工知能の会社として走り出したのは、スタンフォード大学で修行した天才プログラマーの吉川君がいたからだった。創業から昨年までの数年間、彼は24時間365日、フラクタのためにプログラムを書いてくれた。

彼は本当に優秀で、天才肌ゆえ、誰も彼の話していることが分からない。そんな人だった。そんな吉川君にも悩みがあった。自分がかつて書いた人工知能アルゴリズムを超えられないのだ。吉川君が退職するまでの半年から1年くらい、彼は迷路にハマったように見えた。

エンジニアリングでは、たまにこういうことが起こる。ある方向性を信じて突き進み、どんどん、どんどん進んでいく。気づけば未踏の領域に入り込んでいる。誰もここまで来られない。誰の声も聞こえない。しかし、時々、何か間違いを冒しているような気に苛まれる。

修正や変更をしようにも、あまりにも独特な道のりを辿ってきてしまったがゆえ、もし自分が作ったものを修正しようと思えば、自分が積み上げてきたほとんど全てを書き直さなければいけない。振り返るのが怖いから、自分が作ったものを信じて眠る。

マラソンで、ぶっちぎりのスピードを見せつけ、独走体制に入る。後続集団はだいぶ後を走っており、気配さえ感じない。しかし、30キロ地点を過ぎた頃に、もしかして、走行経路を間違えたかも知れないと焦る。42.195キロ地点に、ゴールテープが見つからない。

吉川君には相棒が必要だったと思う。本来は超えられる人工知能の精度の壁、それを超えられない苦しさに耐えきれず、彼は去った。すべて僕の責任だし、もっと早く、彼の孤独を、彼の独特の立ち位置を分かってやればよかったと反省している。

吉川君が昨年秋にフラクタを去ってから、僕はフラクタの人工知能アルゴリズムに関し、全面刷新を可能にする新たな天才エンジニアを探していた。吉川君が書いたものを全部ひっくり返し、全く新しいやり方で問題を解かなければ、革命は起こらないと知っていた。

僕は折に触れ、周囲に「吉川君に変わるような本物のエンジニアはいないだろうか」と聞いて回っていた。するとあるとき、メンバーの一人が「実は友人に人工知能分野ですごい奴がいまして……」と口を開いた。どんな人物なのかと聞くと、言いにくそうに答える。

「たぶん、来てくれないと思いますよ。今、大手企業で大切にされていて、このあと、たぶんGoogleに行きます。あと、結婚したばかりですし……」

いろいろな事情があるようだが、とにかく話をさせてほしいと連絡先を聞いた。僕がロサンジェルスに出張中に彼と電話で話すと、すぐにメンバーが言っていたことの意味が分かった。フラクタの事情を話すと、すぐに理解して次々と的を得た言葉を発してくる。

問いが正しければ、すでに半分終わっている

彼の名は蓑田(みのだ)君という。結論から言うと、彼はフラクタへ入社してくれた。フラクタの現状を話したところ、彼の見立ては次のようなものだった。

「AIの研究はあまたありますが、解くべき問題が適切に設定されていることが何より重要なんです。フラクタの場合、問題設定の仕方、つまり選んだテーマが正しいですよね。普通の人が、AIの研究室で『水道管の腐食スピードを予測する』という問いを思いつくことはまずないでしょう。加藤さんは配管点検ロボットからこの世界に入り、独特の勘の良さからソフトウェアで腐食のスピードを予測できるはずだと課題設定した。人工知能の進む道として、正しい課題を設定できれば、その時点で問題解決の半分は終了しているようなものなんです」

とても淡々と話す蓑田君は、吉川君とはまた違うタイプだ。彼にソフトウェアを見てもらうと、「もっとよくなります」と断言するのだ。

「このコードを書いた吉川さんは、人工知能ではなく、別の業界が専門だったのではないですか?」

その通り。吉川君はもともとスタンフォード大学で研究員をしていたが、元々の専門はロボット工学だった。

「えーと、吉川さんはすごく頭がいいですね。でも、イチローがサッカーをしているような感じがします。サッカーにはサッカーのやり方があるのに、野球のやり方で無理している部分がある。人工知能的なアプローチでまったく違う解き方をすれば、間違いなく、もっとよくなりますよ」

その話を聞いて、とても喜ばしく興奮したと共に、吉川君の気持ちを考えずにはいられなかった。蓑田君曰く、人工知能という慣れない世界に入り、試行錯誤して苦しんだ形跡がコードにありありと残っているというのだ。僕は自分でプログラムを書くわけではないから、本当の意味で助け舟を出してやることができなかった。どれだけ孤独だったことだろうと、胸が痛んだ。

たった数か月で2倍の精度向上を実現

蓑田君という天才は、入社して数か月でソフトウェアをどんどん改善させていった。水道配管の破損を予測する精度でいったら、吉川アルゴリズムの2倍(=200%)ほどの精度が出た。吉川君が初期のアルゴリズムを完成させてから2年半の月日が経っていた。

会社にとっては、何年も懸案とされていた問題が解けたのだから、素晴らしい成果だ。蓑田君の能力の高さ、視点の正しさを心から尊敬する。しかし、解けるはずだった問題が解けたことを確認すると、同時に複雑な気持ちがこみ上げてきた。

ソフトウェアの精度が上がらないのはおかしいとずっと思っていたが、僕は僕で、吉川君の留まることを知らないパッションで少しずつでも改善していけば、なんとか切り抜けられるだろうと高をくくっていた。

毎日明るく振る舞い、「もっと頑張ろう」と吉川君を焚きつけることにより、結果として彼を袋小路に閉じ込めてしまったのかも知れない。もっと違う形で天才吉川を、彼を助けてやることができただろうと思えば思うほど、やるせない気持ちになった。

吉川君はまだ若い。フラクタで活躍し、最終的にある種の挫折を経験したとしても、これからの人生で、それをいくらでもプラスに昇華していくことができる。僕は僕で、今回の件からは本当に多くのことを学ぶことができた。それで良しとするしかない。

僕たちは、壮大なチーム戦を戦っている。たとえるなら、自転車レースのツールドフランスのようなものだ。最初に先頭を走るメンバーは空気抵抗を受けるため先に体力を消耗し、そのすぐ後ろ、風をよけて体力を温存していた後方のメンバーが、最後にゴールテープを切る。

ただし、最初に空気抵抗を受けながら先頭を走っていた人も、同じようにチームとして勝利する。僕は先頭を走ってきた吉川君と、颯爽と走り抜ける蓑田君を頭に思い浮かべた。どちらがいいというわけではなく、それも含めてチームなのだ。

経営者として学ばなくてはいけないのは、新陳代謝がもたらす大きな効果だ。寂しさが伴うからといって、人が辞めること、人を解雇することは、悪いことではない。一見悪そうに見えることの裏側には、必ずと言っていいほど良いことがある。タフにならなければならない。

蓑田君のチームが作ったプログラムが塗り替えたのは、人工知能アルゴリズムだけでなく、僕たちの居心地の良い過去だった。辛くとも、手放さなければならなかったのだ。従業員が辞めるのは悪いことではない。それが強い会社なのだから。

(記事終わり)

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