見出し画像

アイドル愛で大検からストレートで東大合格。そして……

自己啓発について書いていて疲れたのと、校了まっただなかでnoteどころじゃないので、本日はアイドル話。懐かしの鉄板ネタ、後藤真希と結婚するために大検から東大ストレート合格した勇者の話です。この話何度もしすぎて、本人が見たら「またかよ……」ってうんざりしそうですね……。

アイドル愛で大検からストレートで東大合格。そして……

 「会いにいけるアイドル」なるキャッチコピーが有名なのはAKB48だが、地方民やマニア以外がアイドルに触れるのはやはりテレビなどの公共電波や、漫画雑誌のグラビア経由がメイン。AKB48でも、実質「会いにいけない」テレビ選抜組の人気が群を抜いており、アイドルオタク以外の一般人がアイドルに触れる最初のきっかけとしてやはりマスメディアは最大のチャンネルだ。そこでは、アイドルたちは手に届かない高嶺の花として画面や紙面を飾り、思春期の青少年の擬似恋愛対象として受け入れられる。高校入学したものの、イジメにあい、本人も「こんなバカばかりの学校になんて通えるか!」と登校拒否をこじらせた青少年の、引きこもっている部屋のブラウン管にも彼女たちは平等に現れるというワケだ。

 この熊本に住んでいた登校拒否のひきこもり青年本田は、01年頃にテレビで後藤真希を見てから完全に人生が変わった人間だ。それまで、深夜にコンビニにジャンプを買いに行くか、インターネットでホームページ閲覧する以外にすることがなかった彼が、「後藤真希と結婚する」という大いなる天啓をうけたのである。


 とはいえ、最初に彼がやったのは後藤真希を応援するホームページを立ち上げ、そこに毎日のテレビの感想や、「ごっちんはこんなに頑張っているのに、俺ときたら」だの、後藤真希と恋人になったら……? の妄想。そして、他のファンとお互いの後藤真希観を戦わせ、「お前らは全然わかってない!」と癇癪を起こして、ホームページに自身の悩みを延々と書き綴るという、後藤真希応援ホームページが自身の鬱屈を晒すページかわからない一種異様な長文サイトを運営することになった。その当時、後藤真希から一番遠い場所にいた中の一人であることは間違いない。

 ある日も本田は、そのホームページを根城に、最終的に後藤真希が世界を救うという独特の宗教観にまで高められた己の考えを書き綴り、そして後藤真希と付き合うのは自分だ。つまり世の中は、後藤真希と自分以外の存在は要らない。などと書き綴っていたわけだが、個性的なホームページはファンの中でもそれなりに有名になっており、「お前なんかが後藤真希と結婚するとか無理だよ」とコメントで煽られるようになっていた。

 例によって癇癪を起こし、二週間ほどホームページを閉鎖するという恒例行事のあと、布団の中で瞑想をした成果が出たのか、彼はなぜか生まれ変わっていた。

 「後藤真希と結婚する気持ちが本当だということを証明する!」そう高らかに宣言した彼は、コンビニバイトを開始し、さらにそのお金を元に大検の教材を購入。猛然と勉強を始めたのだ。志望大学は、東京大学。ハッキリいって端から見て完全に無謀な挑戦に思われたが、東京大学を目標にしたのには理由があった。


「ごっちんと結婚するのは、前提として彼女の生活する圏内、つまり東京に出なきゃいけないじゃないですか。それで、親に東京に行かせてくれと頼んだら、『国立大学、いや、東京大学に合格したら上京していい』と言われたんです。で、東京大学にはいることは決定しました。あとは、スタッフとして近づくか、社会的に成功するかバンドメンバーなんかで業界仲間になってファンじゃない形でごっちんと触れ合えば、きっとボクの気持ちに気づいて結婚できると思うんです。だから、東大では、音楽系サークルにはいってレコード会社とプレイヤーの道を模索します」


 彼の立てた綿密な後藤真希結婚計画は以上の通り。本人の思い込みの激しい性格と、現状置かれている登校拒否という立場を考慮しなければ、完璧な計画だと言っていいだろう。


 本田はその後、周りのファンの冷ややかな煽りによく爆発してサイトを閉鎖させながらも、模試の判定がEからC、CからBに上がっていくたびに復活。「やっぱりボクはごっちんと結婚できる」と毎日睡眠4時間、バイト4時間、その他はすべて勉強に費やす日々を邁進していった。もちろん塾には通わず独学である。

 果たして、翌年の3月。彼は見事に東大に合格! しかも、大検からのストレートだ。この報を聞いた時の周囲の反応はまさに青天の霹靂といった趣きで、いつも自分のホームページで鬱屈した文章を書いてはかんしゃくを起こして閉鎖し、すぐに復活する熊本の引きこもり登校拒否高校生が、来春から東大生としてピカピカのエリートコースを歩むという現実をうまく受け入れられないものが続出。着々と上京の準備を整えていく彼の近況をホームページで確認しながら、とりあえず歓迎会をしようということになった。

 3月半ばに初めてあった彼は、ネットでの威勢の良さはどこにもない、「はい」と「いいえ」を伏し目がちに返事するばかりで、「東大に行っても、これはなかなか厳しいのではないか……?」と思っていると、見事にその予想は的中した。

東京の奴らはヤルことしか考えてないんですよ!

 「東京の奴らはヤルことしか考えてないんですよ!」5月に、アイドルオタ飲み会で再会した本田は、伏し目がちなのはそのままながらハッキリとした口調で吐き捨てるようにそういった。「だから、ボク大学に行ってないです」


 まだ、入学して一ヶ月も経っていないのに、もう登校拒否。しかも、本田は大検受験者のため、もし退学になれば東大卒が一気に中卒になる。他人ごとながら危機感をもった筆者が事情を聞いたところ、ボツボツと話し始めたのが以下の内容だ。

 東大に入学した本田は、ひとまず東京での生活と、後藤真希のそばで生活できる権利を4年間獲得した。その次のミッションは、後藤真希の生活圏でファンとしてではなく仕事仲間、友人として認識されることだ。そのためには、東京でミュージシャンとして注目されなくてはいけない。本田は軽音楽系のサークルに入部することに決めた。入部後、初めての活動は、同期の一年生たちとバンドを組むことである。本田は、自分の他に男二人、女二人の計五人でバンドを組もうということになり、結成式がわりの飲み会に繰り出した。


「楽器はボクが一番うまいんですよ! でも最初から、ボクは要らない担当、空気担当だったんです! まあ、飲み会の最初はこれからの音楽生活を考えて意気揚々だったんですけど」

 概略は以下のとおりである。本田は飲み会後、二次会はどこに行くなど言い出さないメンバーに、「どうする? 好きな音楽とか聞かせあって方向性でも決めようか」などとリーダーシップを発揮し、メンバーの男の家に全員で行く事にした。そこで、最初は音楽の話をしていたのだが、12時になったため当時テレビ東京で放送されていたモーニング娘。の10分番組を毎日見る習慣があった本田は、メンバーからヘッドフォンとテレビを借りて床に寝転びながら一人でモーニング娘。の番組を鑑賞。「じゃあちょっとそのまま寝ようかということになって明かりを落としたんです」 薄暗い他人の部屋の中、番組を堪能したあと、態勢はそのままにヘッドフォンを外すと、なぜか衣擦れの音が聞こえてきたという。


「やつら、ボクがモーニング娘。の番組見ていた後ろで、暗いのをいいことに二組にわかれてイチャイチャし始めたんです! なんか、シーツをかぶって、明らかにキスとか始めてるんですよ。最初からおかしいと思ってたんですよ。『やるからには絶対プロになろうぜ!』って言っても、薄ら笑いしてましたし。最初からボクが邪魔だったんですよ。二次会でどこ行くか聞いても曖昧な返事だったのも最初から二手にわかれてヤる気だったに決まってます」

最初からボクが邪魔だったんですよ


 すでにカップルになっていた二組の男女に、やたら空気を読まないヤル気いっぱいの童貞大学生が混じり、ハロプロの番組を見ている後ろで睦言を交わし合うカップル。なんというか、モテる男女とモテない男の人生の縮図がそこにある。激情型の本田は、そんな状況に陥ってどのような行動にでたのか。言葉を待つと、本田は続けた。


「……あわてて、ヘッドフォンをつけなおして、寝たふりしましたよ! だって、振り向いてキスとか、下手したらセックスとか始まってたらどうするんですか。ヘッドフォン越しに『ん……もう』とか聞こえて来てるんですよ。ボクにできることなんて何もないですよ!


 その後、本田は始発が動き始める時間までたっぷり4時間以上、冷たい床の上に横たわり、後ろでおっぱじまっている尋常ではない甘い雰囲気から逃げるようにテレビ画面を薄めで凝視しながら寝たふりを敢行。朝方になり、一回もメンバーたちの方を振り向くことなく黙って部屋を出た。当然、サークルには顔を出しづらくなりバンド参加は自然消滅した。しかし、選択した授業でも彼らの姿をみるのに耐えられず、大学に登校することもやめたという。

 結果的に、数回復学を試みて通学するものの、友人もできないままに数年在籍した後、除籍になった。現在は、プログラマーとして都内の企業に勤めている。後藤真希は芸能活動休止期間を経てYoutuberとして元気にモンスターハンターをしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?