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新澄輝廃炉迷宮

【新澄輝廃炉迷宮(しんちょうきはいろめいきゅう)地下1階】

皮の鎧に革の靴、背負い袋にランタン短剣、。西暦20XX年にあるまじき風防の青年が、廃墟と化した地下通路を歩く。

『今日は何が見つかるか、楽しみですね、八色寺(やしきでら)』
「ああ。だが、第一は死なないことだ」

八色寺と呼ばれたのは、地下通路を歩く青年。一方、脳内に直接届く声で八色寺に話しかけるのは、エリと名乗る女性の声だ。

『そろそろ私を見つけてくれると嬉しいのですが』
「お前が地下何階にいるのか分かればいいんだがな」
『申し訳ありません……』
「謝るんじゃねえよ。分からねえもんは分からねえんだからよ」

八色寺はエリと話しながら、足元の亀裂を飛び越える。ゆうに5mはあろうかという穴を。軽々と。何事もなかったかのように。

「……新澄輝ってのは訳わかんねえぜ」
八色寺は、自分が軽々と飛び越えた穴を振り返り、ゾッとする心を落ち着かせるように呟いた。

数十年前、富士樹海から謎の物体が湧き出した。それは、素晴らしいエネルギー資源だった。核エネルギーよりも高出力、核エネルギーよりも環境に優しい、そして何より、核エネルギーよりも安全で扱いやすい。
ニュークリア(nuclear)よりも新しく輝かしいニュークリア(new clear)と言われたそれは、新澄輝(しんちょうき)と名付けられた。

5年前、新澄輝炉が爆発した。その爆発は原子炉の融解を遥かに超えた範囲に、新澄輝汚染を撒き散らした。生物はほぼ死に絶え、人間の踏み入る余地もなくなった。……ごく一部、爆発を受けて生き残った人間を除いては。

八色寺は階段にたどり着く。今回はわかりやすい道だった。それに、まだ怪物に出会っていない。運が良い方だ。
「次の階層に進むぞ」
『いつも通り、落ち着いていきましょう』
「言われなくても分かってんだよ」
八色寺はエリの声に答え、階段を下る。

【新澄輝廃炉迷宮地下2階へ続く】


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