猛禽の競技会を見て干し芋スイーツを食った話【後編】
【前編はこちら】
前回のあらすじ
猛禽の競技会を見に来たら、川の向こうにめちゃくちゃ気になるバス停を発見してしまった。
県境を越えて
「干し芋~…?」
何となくピンと来ていない筆者の反応に、同行者がまくし立てる。
「絶対おいしいやつだろ!行くしかないだろ!!」
半ば勢いに押し切られつつ、「干し芋カフェバス停」の位置を改めて確認。
場所は利根川の対岸。今いる千葉県側から、茨城県に渡ったところだ。
ざっくり位置関係を記すとこんな感じ↓
余談だが、利根川と江戸川の境目がキレイに県境になっていないのがちょっと不思議な印象だ。
そんなわけで現在地付近には陸上の県境がある。「水路に囲まれているので千葉は実質島」というミームを否定する貴重な現場だ。
とはいえ今は県を越えたいわけでなく、川の向こうに行きたい。川沿いに南下して橋を渡り、そこから茨城に入ることにした。
フライトフェスタの会場を背に、橋に向けて春の河川敷を歩きはじめる。菜の花が咲き乱れ、うららかという表現が似つかわしい、のどかな様子だ。
土手の上に引かれた道路は、ジョギングやサイクリングの利用者も少なく、ほぼ貸切状態で快適に歩けた。快適に歩け……
同行者「せっかくだし降りてみようぜ!」
言うが早いか、二人してせっかくの舗装道路を放棄し、草むらを突っ切って土手の斜面を下る。いい年して何やってんの。
土手を下りた川のそばにも整備された道は見つかったので、そちらを歩くことに。
草むらに突っ込んだり、行き止まりに遭遇したりしつつ、だらだらと川沿いを往く。
途中、「ゴミを捨てるな」という注意書きがゴミと化している様子を見かけたり……
目的の橋に道が繋がっておらず困惑したりしつつ、どうにか橋のふもとまで到着。
変な家(家ではない)
橋に差し掛かったところで、先ほどから気になっていたことを口にする。視線の先には、目的地である対岸。
筆者「やっぱ……何かあるよね?」
同行者「何あの変な建物……?」
橋の向こうに、煙突とも城郭ともつかない変な建造物が見えるのだ。何らかの像?が収められているようにも見えるけれど何なんだろう……?
行って確かめるしかない、と橋を渡る。
眺めは良いのだが、それなりに高いところであり、川を見下ろすとなかなか怖い。
橋の中間あたりまで来ると、建物の正体が見えてきた。見覚えのあるペンギンのマスコットキャラクターが飾られている。
筆者「え?あの建物って……」
同行者「デデデ大王?」
なんでだよ。茨城はプププランドじゃねえよ。
というわけで、建物の正体はドン・キホーテやパチンコ店・入浴施設などが入った複合商業施設であった。わからんて!
道路の反対側には道の駅もあり、めちゃくちゃ気になる場所ではあったのだが、目的地はここではない。干し芋カフェを目指して歩を進めることに。
干し芋カフェ
巨大な商業施設を除くと、大きな建物も無く、町並みは穏やか。
「いい所だねえ、ゴミゴミしてないけど不便すぎる感じも無くて」などと話しながら、春の日差しの下を歩く。
のんびりした雰囲気に浸っていると、道路には「AIによる自動運転バスが走ってます」的な案内が書かれていた。何それ未来じゃん。
そんな道を歩いていくと……何やらオシャレな雰囲気の建物が!
これが干し芋カフェ……ではなく、粛粲寶(しゅくさんぽう)美術館という美術館だそう。まさかこんな町中に、唐突に美術館が出現するとは。
美術館は気になりつつも、とりあえずは目的地を目指すことに。
と思ったら、どうやらこの美術館の前が「干し芋カフェ」バス停のようだ。
ということは、この近くに……
あった!!
美術館すぐ先の角を曲がったところに現れたのが、干し芋専門店「ほしいもの百貨」さん。先ほどの美術館と似た趣の、何だかオシャレな建造物だ。
美術館・干し芋カフェともに、建築家の隈研吾氏がデザインを手掛けたらしい。
筆者は後から気付いたのだが、同行者は普段の行動圏内でも目にするデザイナーの名前に「マジか~」とつぶやいていた。
何はともあれお店の中へ。
決して広いスペースではないものの、テイクアウト用の干し芋や干し芋グッズ(!?)といった、気になるアイテムが所狭しと並ぶ。
干し芋キーホルダーとか干し芋文具とか、気になりすぎるでしょ……!
店員さんに聞くと空席があるとのことで、休憩も兼ねて今回はイートイン。
筆者は定番メニューらしき干し芋のカフェラテを注文。同行者は一緒にプリンも頼んでいた。
到着を待っている間イートインスペースを見渡すと、実は昨秋、北千住に2号店がオープンしていたそうな。知らんかった、行ってみよう。
間もなく注文したメニューが到着!注文の品の他、小さい干し芋を1切れ添えてくれた。何でも、向かいの加工工場で干し芋にしたばかりらしい。
ここで懺悔。
正直なところ筆者はサツマイモ系のスイーツにあんまり興味がなくて、冒頭の「干し芋~?」もまぁ、そういう感情の表れだった。今日が一人旅だったら、間違いなくここを訪れていない。
が、食べてみてその認識はひっくり返る。
食レポをするつもりは無かったので写真を撮っていなかったのだが、一口食べた途端に表情が変わるのを自覚した。写真があれば間違いなく「この顔である」というキャプションが添えられている。
後から女子中高生連中に話を聞いたところ、「干し芋!絶対おいしいやつじゃんそれ!」「何で買ってきてくんなかったの!?」と口を揃えて叱られたので、どうやら筆者の干し芋への認識が間違っていたらしい。
結局、うまいうまい言いながらあっという間に間食してしまった。ごちそうさまでした。
陸路で沖縄へ?
干し芋カフェを去り、元来た道を戻る。
隈研吾氏の建物と自動運転バスが近未来のような雰囲気を放つが、やはりその他の町並みは昭和の残り香を感じさせてノスタルジックだ。
戻るついでに、先ほど気になっていた道の駅に立ち寄ってみよう。
道の駅ということで地域の農産物を売っているのかと思いきや、何故か沖縄物産店と一体化している。売り場の境界には県境のように線が引かれており、ややシュール。
沖縄物産店は、デパートの催事で見かけるそれを想定していたら少し印象が違った。
より身近な感覚とでも言おうか、普段使いしそうな食材や100円前後の安価な菓子といった品物も数多く並んでいるのだ。
せっかくなので低価格なアイテムを何か買っていこう、と思い立ったところで気付く。
「あ、ATM行かないと現金ないわ」
「そこのドンキにあるんじゃない?」
確かに大型商業施設ならばATMくらいあるだろう。何が哀しくて旅先でドンキに行かねばならないのか……という感じではあるが、道路を渡り件の商業施設へ。
駐車場には多くの車が停まり、地元民と思しき家族連れや若者がそこかしこに見られた。多くの地方都市でイオンモールが担う役目を、ここではドンキが果たしているのかもしれない。
などと地元の生活に思いを馳せつつATMを探し当て、現金を下ろす。
筆者がATMに向き合っている間、同行者はドンキで化粧品を見繕っていた。落ち着け、地元にあるだろドンキ。
猛禽の帰還
思いがけず時間をかけてしまったが、主目的はフライトフェスタの観戦である。
橋を渡り直し、再び会場へと向かう。
千葉県側に戻って改めて風景を見渡すと、対岸より住宅が少なく農地が目立つことに気付かされた。
穏やかな風景の中、打ち捨てられたドンキのレジ袋と飲食物のゴミが趣を損ねているのが残念だ。
「……やはり対岸のデデデ大王が侵略を試みているのでは?」
「なんてこと言うの」
そんな侵略に立ち向かう前線基地のように(?)、関宿城博物館が向こうに聳える。意外と歩いてきたんだな……
会場に戻ると、どうやら猛禽アジリティ競技の最中のようだ。
猛禽アジリティとは、いわゆる障害物レース。フィールド内に設置された穴くぐりなどを攻略していく競技だそうだ。
我々がちょうど良い観戦スポットを探してうろうろしている間に、種目は進みファンアジリティが始まる。こちらはスコアを競わない、お試し参加的な側面の強い種目のようだ。ミニ四駆レースであるよね、そういう区分け。
鷹やハヤブサだけでなく、フクロウも登場し、なんともバラエティ豊かなイベントとなっていた。
ファンアジリティを終えると表彰式。
午前に大活躍を見せていた小中学生の3姉兄弟が複数の種目で入賞を果たしており、MCを務めるだっくす小峰さんから「猛禽界の未来は明るい」とのコメントが寄せられた。
いやほんと、素人目に見ても凄かったもんね……!
表彰式が終わり、出場者・出展者の方々が談笑しつつ引き揚げ準備を始める。
我々もせっかくなので、何人かの方と記念撮影させていただくことに。
ファルコナーの皆さんもとてもフレンドリーで、撮影をお願いしたら快諾くださった。このタイミングに限らず、フライトフェスタ全体が競技会でありながら温かく優しい雰囲気だったことは書き添えておこう。
余談だが、小学生時代『ハリー・ポッター』『ガフールの勇者たち』にドハマりしていた同行者は、猛禽に囲まれる夢を実に10年越しに叶えたことになる。
そういう経験ができたこと、ちょっと羨ましい。
なお、バスのダイヤが改正されていたことは、この帰り道で気付くことになる。一歩間違うとバス停で2時間待ちになったっぽくてめっちゃ焦った。
行ってみて
「猛禽界隈あったけえ……」
同行者が何度も口にしていたセリフだが、これに尽きる。
趣味の世界に生きていると、SNSでのいわゆるお気持ち表明や学級会だったり、嘲笑やマウントの取り合いだったり、どうにも醜いやりとりが目に付いてウンザリすることがある。
一方、フライトフェスタで出会った人たちは、初心者である我々にも親切かつ、出展者・出場者同士でも仲の良い様子が見て取れた。
もちろん、見えないところでトラブルはあるのかもしれない。
けれど、少なくともトップ競技の場が温かいコミュニティであり、かつ閉鎖的な内輪ノリにもなっていないことは、本当に素晴らしいことではないだろうか。
残念ながら自宅で猛禽を飼育することはできないけれど、この素晴らしいコミュニティの一ファンとして、来年もまたフライトフェスタを見届けたい。
(ネタバレ:来年を待てずに鷹の庵さん&猛禽3姉兄弟さんによるフライトショーを見に行った。だいたい月イチでやってるそうなので是非)
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