見出し画像

総額表示の一律義務化に反対し、消費税法の改正を提言します

 私たちは出版業界の一員として、総額表示の一律義務化に反対し、価格表示の自由化を求めて、下記のとおり消費税法の改正を提言します。
 出版に関わる諸団体はもちろん、総額表示の義務化による困難を抱えるあらゆる業界・団体からも、同様のアクションが生まれることを期待します。

【提言】
消費税法第63条の立法趣旨である消費者に対する誠実な販売価格表示を守りつつ、より適正な消費社会のため、消費税転嫁対策特別措置法第10条の恒常化が必要です。
よって、私たちは消費税転嫁対策特別措置法第10条の趣旨を消費税法第63条第二項とする法改正を提案いたします。

画像1

●消費税特措法の失効で本の価格表示が「違法」に

 私たちは、出版を通して社会との関わりをもってきた事業者(法人または個人事業主)の集まりです。
 いま私たちが危惧していることは、消費税法第63条(*1)に定められている総額表示が一律に義務化されることで、私たちが作り、商っている本が「違法」とされてしまう可能性です。
 消費税法は税率変更にも柔軟に対応すべく、2013年に施行された消費税転嫁対策特別措置法(以下「特措法」)とともに一体として運用されてきました。特措法の第10条(*2)では、税別であることを明確にして価格を表示すれば、消費者や取引業者への不当な転嫁にあたらないとされてきました。
 出版業界でも1997年以降、「税別」を明記して本体価格を表示することを慣行としてきました。それが20数年にわたって、読者と業界に受けいれられてきたのは、税別価格表示の妥当性と合理性を証すものと考えます。
 しかし、この特措法が2021年3月31日で失効します。
 これにより、あらゆる商品・サービスについて総額表示が義務づけられます。その立法趣旨には一定の合理性があると思いますが、現在すでに流通している数億冊ともいわれる本が「違法」状態におかれるだけでなく、数年から数十年の単位で流通する本は税率変更のたびにカバー等の交換を迫られることが容易に想定されます。
 合理的な指針を示してきた特措法の失効で、このような大きな影響を被るのは、私たち出版業界のみではないと考えます。そこで、私たちは十分に想定される不合理に対して異議を申し立てると同時に、合理的な解決策を提案したいと思います。

●法律と税制がもたらす不合理と不利益

 十分に想定される不合理とは、以下のようなことです。
 まず、第一には前述のとおり、特措法の失効とともにある日を境に商品が「違法」扱いされ、「違法」商品を販売する小売店等が社会から指弾されるという事態です。あるいは、一律に総額表示を義務化することで、同一商品に複数の価格表示が求められる事態です(イートインとテイクアウト両方のサービスを提供するカフェやコンビニ、定食屋などが該当します)。
 第二には、今後の税率変更のたびに膨大なコストと労力が必要となる事態です(出版やタクシーなどが該当します)。たとえば、商品に価格が印刷されている本の場合は、税率が変更されるたびに価格を表示しているカバー等の刷り直しや交換といった多大なコストをメーカー側が負担しなければなりません。小売店は本をいったん返品し再び入荷するといった手間を強いられるだけでなく、その間は販売機会を失うことになりかねません。あるいは古書(古本)のようにおなじ本でさえ一冊ごとに販売価格が異なる場合は、すべての在庫を手作業で表示変更するという労力が小売店に求められることになります。このような負担に見合わないとされた本は、市場から消えていくことになります。
 こうした事態は消費者に不利益をもたらすだけでなく、不合理な法律や税制によって、事業者や特定の商品が淘汰されるとするなら、それは公正さを欠くものと私たちは考えます。

●消費税法改正で価格表示の自由化を

 これらの懸念を払拭するためには、消費税法の改正、具体的には特措法第10条の趣旨を消費税法に取り込むことが急務だと考えます。このことによって、価格表示の方法を事業者が選択できるようになることは、消費者・取引業者への不当な転嫁を許さず、なおかつ市場の健全化と正当な競争を促すことになるのは明らかです。
 出版業界が抱える問題=具体的には本の価格表示については、特例としてスリップと呼ばれる本の付随物への総額表示も有効である、という財務省の発言が報じられています(*3)。
 しかし、私たちは特定の業界のみに通用する、行政による弾力的な運用を望むものではありません。私たちが望むのは、公明正大で、誰からも後ろ指をさされることなく市場に貢献できる消費社会です。
 そのためには、消費税法を改正して価格表示の方法を自由化することが必要です。
 立法府をはじめ関係官庁、諸団体に対し、上記のとおり消費税法の改正を提言いたします。

2020年11月
総額表示を考える出版事業者の会(賛同事業者一覧はこちら)

画像2

●賛同事業者を募集しています

本提言に賛同する事業者(出版社、取次、書店等を営む法人、個人事業主)を募集しています。
賛同くださる事業者は以下のフォームより必要事項を送信してください。
※事業者名は諸団体への要望時、またはWeb上などで公開いたします。

提言賛同フォーム

画像3

*1 消費税法第63条
事業者(第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等(第7条第1項、第8条第1項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この条において同じ。)を行う場合(専ら他の事業者に課税資産の譲渡等を行う場合を除く。)において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。
*2 特措法第10条
事業者(消費税法(昭和63年法律第108号)第63条に規定する事業者をいう。以下この条において同じ。)は、自己の供給する商品又は役務の価格を表示する場合において、今次の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、現に表示する価格が税込価格(消費税を含めた価格をいう。以下この章において同じ。)であると誤認されないための措置を講じているときに限り、同法第63条の規定にかかわらず、税込価格を表示することを要しない。(以下略)
*3 業界紙『文化通信』の報道では、財務省主税局税制二課の小田真史課長補佐は、「書籍などに挟み込まれているスリップのボウズへの総額表示は「引き続き有効」とした。また、スリップへの表示が唯一の対応策ではなく、書籍自体またはカバーへの表示を税込価格に変更すること、そのほか「何らかの形で価格が表示されていれば認められる」と話した」という。
https://www.bunkanews.jp/article/222020/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?