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いのちと向き合う朝

「ただいま、〇〇市駅に入る踏切に置きまして、人身事故が発生致しました。そのことにより、当駅から運転を見合わせます。」

出勤予定時刻15分前。あと一駅で勤務先の最寄り駅にたどり着くというところに流れた車内アナウンス。

読書に没頭していた私は、車内からぞろぞろと降り立つ人々の動きを肌で感じて、三度目ほどのアナウンスによって、『人身事故の影響で電車が止まった』という状況に気づかされた。

本を閉じ、車内から降り立つ人の波に混じり、あと一駅歩くこととなった。

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火曜日という週始め、憂鬱な人々の顔が、さらに曇りがかる。皆一斉にスマホを取り出し、おそらく勤め先であろう、それぞれの目的地へ電話をし始めた。

それは、ひとつの出来事が、いくつもの出来事の行方を変えていく瞬間だった。

私は、その光景を眺めると同時に、「死にたい」と思う命とそう思わせる社会の構造について考えるモードへと切り替わっていった。

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死にたい、そう思って飛び込む反対側には、悲しいかな、快晴が広がる景色がある。良い汗を流して、ランニングしている人がいる。優雅な音楽をバックに歩く人がいる。

なんて不条理な世界なんだ。

私は、トボトボ歩きながら、この光景、この状況を咀嚼する。

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いや、待てよ。
誰が、人身事故=自死と決めたんだ。
ふらっと、線路に入ってしまう状況は無限にある。
しかも完全に命が助からなかったわけではないかもしれない。生きたかった命かもしれない。わからない。

思考と感情がまたもやぐるぐるして、とてつもない遣る瀬無さを感じてしまった。

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計り知れない、知る由もない、尊い命。
空を見上げて、ただ祈ったのだ。顔も名もしらないあなたの命に想いを寄せて。