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ご機嫌なキッチンに彩られる生活 #いい時間とお酒

この文章は、KIRINとnoteで開催するコラボ特集の寄稿作品として、主催者の依頼により書いたものです。

最近、といってもこの数年くらいでだが、家のぬか床が美味しくなった。
これまで何度か味の方向性が変わってしまい、泣く泣くぬか床をまるごと新調することすらあったのに、今のぬか床は自分好みの味を長く保つことができている。数年前に買ったぬか床用の保存容器が、最高に自分好みで、それがきっかけになったことは間違いない。

キッチンに仲間入りしたその保存容器はぽってりとした茶色の陶器で、蓋はガラス製。中の状態が見やすく、陶器だから温度変化もしにくい。なにより、壺っぽい外見が好みで、キッチンのいちばん目立つところに置くようになった。

そうなると自然と「野菜を漬ける」「中の状態をチェックする」などの頻度が高くなり、味を補う昆布などの素材や、水っぽくしないために生ぬか・塩を足して調整する回数も増えた。結果、ぬか漬けはだんだんとより美味しくなり、家族や友人からも喜ばれ、それゆえにぬか床仕事への責任感と楽しさが増す、という良いサイクルが定着したのだと思う。

とはいえ、この記事で、大事に育てているマイぬか床のぬか漬けがお酒に合うんですよー、と言いたいわけではない。ぬか床仕事が楽しくなったように、お酒を飲むことについても、ちょっとしたきっかけや工夫を見つけては、以前よりも楽しめているなと思って、これを書いている。

若い頃から、料理を作ることと同じように、お酒を飲むことがとても好きで、家でも外でもお酒を楽しむ生活を送ってきた。
 
それが、5年前の健康診断にひっかかったことをきっかけに、週イチくらいに減らすこととなり、今でも飲む頻度、量ともに控えている。
 
当初は残念な気持ちもあったけれど、お酒との付き合いには十分に満足していると言えるくらいにはなった。気持ちよく、楽しんでお酒を飲めているように思う。

以前はさほど気にしていなかったのだが、今ではお酒の種類ごとにコレを使う、というくらい、お気に入りのグラスや酒器をそろえるようになった。理由は単純で、グラスや酒器が好みだと、お酒が何割か増しで美味しく感じられるから。

ビールを飲むときは、左藤吹きガラス工房の「居酒屋Z」というグラスが定番。年季のはいった居酒屋でよく見かける、メーカーロゴ入りの小ぶりなグラスほどのサイズで、フォルムも色合いも懐かしさを感じさせてくれる。割れてしまったときのためにもっと買いそろえたくて、なかなか販売されないのがもどかしいくらいだ。

他にも、熱燗にするときは、料理研究家になる前に働いていた日本料理屋で使っていたものと同じで、ずっと欲しかった九谷の窯元・須田菁華の徳利と猪口を使っている。お気に入りのこれらは、ながめるのも使うのも気分が良く、ゆったりとした贅沢な時間を感じさせてくれるから嬉しい。

それに、気に入った酒器だと、お酒を飲む前や飲んだ後ですら、器に気持ちが向いているから、「グラスを冷蔵庫で冷やしておこうかな」「次に使うときのために、丁寧に洗っておこう」と、お酒を美味しくいただくためのステップももれなく踏むことができるようになった。

お酒を飲む日の料理の話をすると、買い物から調理、盛り付けまで、自分でやることがほとんどだ。これも今のお酒を飲むペースになってから、変わってきたことのひとつ。

飲みたいお酒がはじめに決まっていることもあれば、買い物先で「つまみはこれだ!」と思って、それに合うお酒を選ぶこともある。やる気満々でつまみを作るから、たとえば唐揚げを揚げるなら、揚げたてをよく冷えたビールと共にいただけるよう、とにかく万全な準備をしておくし、どの料理のときでも好きな器に盛って、気分をあげるひと手間をかけるようにしている。

つまり、(料理好きの自分ならではかもしれないが)美味しいお酒を飲むという目指すべきところがあると、買い物から始まり、料理のあらゆる工程の楽しさを味わえるのだ。

出来立ての唐揚げを大皿に盛りつつも、「おすそわけ!」とか言いながら小皿にひとつずつ爪楊枝をさして家族に届けたりする(例外なく家族にとても喜ばれ、だいたいの場合おかわり要求もある…)

そんな風に機嫌よくキッチンに立つことは、料理を仕事にしている自分にとって、めちゃくちゃ大事な時間だと感じている。口にはしないが〔料理って楽しいな、自分のレシピってやっぱり美味しいな〕と、ちょっとお酒が入って気分がよくなり、たまにそんなことも思う。悩んだり、後ろ向きになっている自分のことを勇気づけることすらあるから、余計にやめれない(笑)

お酒を選ばず、おつまみとしてよく作るのが、油あげの煮物に薬味を合わせる「薬味まきまき」。冷凍ストックしておき、当日は薬味を用意するだけなので手軽さもある。

僕は外でお酒を飲むことがほとんどないので、ほぼ家飲みになるわけだけど、自分好みの料理、お酒、器を囲みながら、愛犬の頭を撫でたり、映画を見たりなんかもできて、これ以上にない贅沢な時間に感じている。

ぬか床を美味しく保つにしろ、自分に合った飲酒のペースを守ることにしろ、肝心なのは「継続すること」で、それが最も難しく、自分の苦手とするところでもある。だけれど、こんな風に自分の機嫌を取りつつ、楽しんで続けていくことで、何でもない毎日が豊かに彩られていく気がしている。

今週は何をつまみに飲もうかな、ぬか床にカブでも漬けて箸休めにするのもいいな。

KIRIN×note の特集ページ「#いい時間とお酒」はこちら。
https://note.com/topic/feature/p/collabslowdrink


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