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俺だってその気になりゃ炒飯くらい作れるし

そもそも野球部からしていけ好かないんだ。
野球部所属の友達は好きだったけど、なんつーか、"野球部"という概念がいけ好かないんだよ。


「どうして野球部だけ」って思う瞬間は学生時代腐るほどあった。

試合に出ればチア部及び吹部からの応援。県予選で勝ち進めば全校生徒からの応援。地方テレビによる中継及び取材。甲子園に出れば全国放送。

その他、LINEのホーム画面でクサいポエムを恥ずかしげもなく設定できるし、乃木坂だの欅坂だのを胸張って聴けるし、『君の名は』からRADWIMPS入るミーハー丸出しの動きが全然許されるし、足速いし。


俺は野球部の友達は確かに好きだった。けど、野球部のこういう特権が昔からいけ好かなったんだ。









当然翔平もいけ好かない。翔平は野球部概念の極致みたいな男だ。もし俺が花巻東高校で翔平のクラスメートだったなら、俺は翔平が大会で学校休んだ日しか息できてなかったに決まってる。

翔平と会ったことないけど、俺は間接的に彼に辛酸を舐めさせられ続けている。俺が翔平のことをファーストネームで呼ぶのは、せめてもの抵抗なんだ。


あれは高校時代の話。文化祭のスローガンが俺の考案したオリジナリティ溢れる案と、当時エンゼルスに移籍したてだった翔平の活躍をもじった案とで決選投票になって、結局俺が負けた高三の夏。

まぁ、高校の文化祭なんて、流行りに乗ってなんぼだ。青春なんだから。けど悔しかった。純然なキャッチコピーの技術でなく、ただただ流行に負けた事実が。その青春で殴ってくる感じも野球部っぽくて嫌だった。

去年のWBCの時もそう。身長も体重も資産も容姿もかすりもしてねーのに、親族が、女性が、メディアが、世間の全てが俺ら男と翔平をいちいち比べやがった。俺らだって必死に生きてんのに、男みんな翔平の下位互換みたいな扱いされてさ。いや、互換性あったらあったで翔平に失礼なんだけど。



そんなこんなで、ここ数年の翔平フィーバーが俺の目や耳に入る度に、学生時代のあれやこれやを思い出して俺は胸を痛めていた。今も痛め続けている。

翔平に特別恨みなんてないし、好きでも嫌いでもないけれど、心の中で翔平のマイナスな部分をイメージすることによって溜飲を下げていた。高三の夏からずっとそうして来たんだ。

例えばな、睡眠時間は10時間とか言ってるけど、土曜だけは次回のプリパラの展開が気になりすぎて毎週寝れてないとかさ。

あとは例えば、二刀流とか言ってるけど、美容院の腕通さないタイプのクロスをかけられる時に毎回腕を前に出しちゃって「あ、うち腕通さないんです、、、」ってスタイリストさんに言われて、死ぬほど気まずい空気を醸成したりね。

あとはなんだろうな、野球以外見えてなさすぎて、お土産のセンスが無さすぎるとか。横浜まで行っても、高島屋の八ツ橋買ってきそうな危うさがある。


これ以上は控えるけど、とにかく俺の手元には翔平の(想像上の)ウィークポイントがたくさんあるわけだ。これだけが俺の心の平静を保ってきた。




ところが翔平が犬(デコピンちゃん)を飼い始めたあたりから、風向きが変わり始める。

物を食べれば「もぐ谷かわいい」。笑顔を見せれば「天使の笑顔かわいい」。ピッチピチの短パンで現れても「小学生みたいでかわいい」。

心の中でどれだけ翔平のマイナスな部分を想像しても、心の中のもう1人の俺がそれを「ギャップ」として、かわいい価値をつけ始めた。

思えば次回のプリパラが気になって寝れないのも、腕通すタイプのクロスだと思ってつい腕あげちゃうのも、横浜まで行って高島屋の八ツ橋選んじゃうのも、よく考えたらかわいいじゃないか。炒飯も多分つくれないけど、あのガブリアスの図体で炒飯つくれなかったとしたらかわいすぎるだろ。炒飯つくっても褒められない俺と、炒飯をつくらないことが価値になる翔平。まぁあくまで俺のイメージの中の翔平だけど。


かくしてここ数ヶ月の俺は、脳内でも翔平に勝てずにいる。最近は結婚まで発表して、とうとう手がつけられない男になってしまった。

結婚相手が発表されるまでのわずかな期間、悔しかった俺は親族や友人に「大谷さん結婚発表したじゃん、あの相手、実はさ、、、いや!なんでもないマジで」みたいな感じで俺と翔平が添い遂げる未来をそっと醸し出しておいた。翔平のことだから相手は永久に発表しないと思ってたんだよ。明かされない限りは相手が俺って可能性は否定できないから。


そんなささやかなシュレディンガーウェディングも、翔平のささやかなストーリーズ投稿によって突如終わりを迎える。翔平、普通に発表したな、結婚相手。



相手が発表されるや否や、俺は彼女に勝てるポイントを血眼で探したけど、そんなものは結局ひとつも無かった。性差による絶対的なアドバンテージを利用して身長も比べてみたけど、ギリ負けてた。だめだろ、プロバスケ選手は。




翔平が結婚してからの俺は、彼のマイナスについて想像するのをやめた。何を考えてもギャップ萌えが発生してしまうし、ギャップ萌えが発生しないレベルのまずいウィークポイントをつくったとしても、妻帯者となった今では奥様がそれをカバーするだろうことが予測できてしまうからだ。

翔平がトマト死ぬほど嫌いだったとしても、トマトを美味しく食べられるような料理を奥様がつくったなら、ただの夫婦愛になる。"ただの"は失礼だな。


とにかくもうマイナスは探さない。今はプラスにならないことを必死に探しているんだ。
玄関で靴履くためにつけていたスマホのライトを、わざとつけっぱなしにして電車に乗りたい。翔平は俺の左隣に座っていて、翔平が降りる駅で俺もわざと一緒に降りる。で、ライトがつけっぱなしになってるの気づいてたのに指摘してくれなかったってことをここ50年くらい鉄板ネタにしたいよ。


それでも、それでも翔平はな、俺の左肩をポンと叩いてな、俺と目が合うや否や、自分のスマホのライトの部分をトントンって触りながらにやけそうなんだよな。

電車では決して声を出さないけど、ちょっと小馬鹿にしたように表情で指摘してくれるんだよ。で翔平が吉祥寺とかで降りるのに一緒についていって、「あ、ああありがとうございました」って言うんだけど俺の震えた声は人混みにかき消されて翔平には届かないんだよなぁ、、、。



これ以上書くと翔平のこと好きになっちゃいそうだからやめます。翔平くんのことなんてホントにいけ好かないんだからねっ。




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