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【アマチュア大喜利プレイヤー列伝特別編】Jナカノ-広島から全国へ-(著:将棋紳士)

はじめに

東西問わず活躍をしている大喜利プレイヤーに、インタビューをして、記事を執筆している男がいる。
そんな彼が、日本一とも言える規模の大喜利の団体戦で、自身の名前を冠したチームのリーダーとして優勝した。
彼以外が優勝した場合、彼がインタビューをするのだろうが、他でもない彼自身が優勝した時、誰がインタビューをするのだろうか。居ても立っても居られなくなった私は、すぐにDMを送っていた。
広島から全国へ、Jナカノ。彼の底知れぬ好奇心と熱意を紐解いていく。

2023年7月17日22時、インタビュー開始。

大喜利を始めたきっかけ

Jナカノは大喜利を始める前からゲーム雑誌やラジオへの投稿は行っており、その関係でフォローしていたゴハのツイートから、「芸人ではないけれども大喜利をしている人」が関西にいるということを認知していた。
大学を卒業する近辺で体調不良になり、内定を辞退してしまった関係で、刺激のない暇な日々を送っていた。その際に見かけたのが、大阪で行われるゴハ主催の「ホシノ企画」の告知ツイートであった。
2016年6月、Jナカノは初めての大喜利会に参加するために、バスで遠征したのであった。初体験の生大喜利であったが、手応えはあったと言う。

「最初のローテーションで、1問目はそこまで奮わなかったんですが、2問目の『恵比寿マスカッツの関西熟女版を考えてください』というお題で、『難波ビワ』と出してウケたことが印象に残っています。その後の企画大喜利でもいい感じにウケを取れて、すかいどんさんや貯蓄アンドザシティさんに褒めていただき、今後もやりたいと思いました。」

「広島から全国へ」

初回で大喜利に魅了されたJナカノは、遠征という物理的ハードルはありながらも、比較的すぐに2回目の生大喜利に参加する。2回目の参加は、福岡で2016年7月末に行われた「第3回 OOGP」という大会だった。関東のプレイヤーや関西のプレイヤーも多数参加する大規模な大会で、審査員がプレイヤーや観客に見えないように手元だけで加点審査をするという、独特なルールの待機である。

「予選1周目は1位だったんですが、予選2周目で追い抜かれて、6位まで決勝進出というルールの中、7位で脱落になってしまいました。その時に予選6位だったのが、本塁MAXさんだったんです。」

本塁MAXは「戦 -大喜利団体対抗戦-」では過去3回ともJナカノ率いる「ナカノAtoZ」チームとして参加している、広島を代表する大喜利プレイヤーである。JナカノとはこのOOGPをきっかけに知り合い、お互いに広島在住であるという話を交わしている。

その後、Skypeのチャット上で大喜利を行ったり、ネット大喜利に参加したりはしていたが、金銭面が安定するようになったことで、2018年から本格的に遠征をするようになる。
東北、東京など色々な所に遠征する中、福岡で開催された「大喜利魂」というイベントで、初めて「広島から全国へ」という自己紹介を行なった。これが現在にも繋がっていくことになる。

主催をするまで

「ナカノAtoZ」という団体として大喜利会を主催するようになったのは、2017年11月のこと、初生大喜利参加から1年と少しが経った頃のことである。「ナカノAtoZ」という屋号は、Skype大喜利で交流のあった隅に楽譜の発案である。

「名前が決まってから後付けで『AからZまで、いろんな大喜利をやる』という意味も掛けられるという話になり、『ナカノAtoZ』に正式決定したんですよ。」

第1回のナカノAtoZは、もちろん広島で行われた。参加者は10人程度ながら、広島の本塁MAX、関西のfrom yoh、東北のキミテルや福岡勢など、全国各地から集まっていたという。シンプルな車座に加え、持参したCDのジャケットで写真で一言を行う企画や、ビブリオバトルのように自分の回答をプレゼンする企画など、企画大喜利も行なった。
その後、2018年の「戦」にてナカノAtoZチームは初参加で本戦進出を果たす。そのままの勢いで2018年の夏には2回目の小規模な大喜利会を開催する。

「その後2019年に、広島で大会をやることになったんですが、一風変わった要素を取り入れようと思い、煽りVを1人1人撮影するという大会を開きました。撮影のために大阪と東京に遠征し、全員分の煽りVを作成しました。」

2019年11月に行われた「ナカノAtoZ タイマンラッシュ」という大会である。参加者数は10人ほどであったが、1人1人に3分ほどの煽りVがあるというのも新しいが、タイマンの加点式というルールも新しい。ちなみに優勝はCRYである。
そして2020年〜2022年までは、コロナ禍の影響で生大喜利のイベントが少なくなっていた中、スプレッドシート大喜利での主催を行っていた。パソコンの画面を録画するソフトを導入し、動画に残るスプレッドシート大喜利の大会を主催したこともある。MCの人選にもこだわり、関東の羊狩りに依頼をした。

インタビューを始めるまで

大喜利の主催だけでも、新しいことに挑戦するという姿勢が一貫しているJナカノ。
大喜利プレイヤーへのインタビュー記事は、水道橋博士の「藝人春秋」というルポルタージュを参考にしている。プレイヤーの経歴や大喜利に対する考え方を掘り下げる、大喜利プレイヤー版の「藝人春秋」を作成しようと思ったのがきっかけだと言う。

「最初にインタビューをするのは誰だろうと考えた結果、大喜利を始めた当初からお世話になっていたゴハさんに取材することになりました。」

関西で様々な大喜利イベントを主催し、プレイヤーとしても活躍しているゴハにインタビューをし、2020年の4月に「アマチュア大喜利プレイヤー列伝」第1弾を公開した。記事は多くの反響を呼び、関東の人気プレイヤーに関する記事も書いてほしいという意見が多数寄せられた。

「ゴハさん本人からも面白かったと言ってもらって、これは続けていくべきだな、と思いました。」

コンテンツとしての成長

「アマチュア大喜利プレイヤー列伝」に対して、「オオギリ・レーダー」の系譜を継ぐコンテンツが新たに誕生した、という意見が寄せられることがあった。
「オオギリ・レーダー」は、関西で活動していた大喜利プレイヤーのあのころが執筆していた、インタビュー記事である。脳髄筋肉からは、「今後は(オオギリ・レーダーのように)アマチュア大喜利プレイヤー列伝で取材されることが目標になっていくんだろうな。」という嬉しい評価を受けた。

「ぼんやりとそうなればいいなあと思っていたら、本当にそうなってきて、当初思っていたよりも大きなコンテンツになっている感覚はあります。ただ、記事を書くことは楽しいので、今後も続けていきたいです。」

そうしてコンテンツとして成長していく過程で、Jナカノは「大喜利取材杯」という大会を思いつくに至る。

大喜利取材杯

大喜利取材杯は2023年6月24日に関東で行われた大喜利の大会である。全試合タイマン、1問3分、拍手投票にて勝敗を決定するシンプルなルールではあるが、優勝者にはJナカノが後日インタビューを行い、「アマチュア大喜利プレイヤー列伝」にて紹介される。実際に、ニセ関根潤三が優勝してインタビューを受けている。

「取材杯はそもそも、いろんな人がネタツイっぽく大会の案をツイートしていた時にツイートしたのがきっかけだったんですが、そういった大会を開催してしまうと、『Jナカノにインタビューされる』ということが更に神格化されるような気がして、当初は本当に実現させる気はなかったんです。」

しかし、ツイートしてから改めて考えると、大喜利取材杯を開くことのメリットも次第に見えてきた。

「今までのインタビューでは『自信のある回答』みたいなものを聞いてこなかったんですが、実際に大会を開くことで、そこの部分が書きやすくなると思ったんです。加えて、オーソドックスな『大会のルポ』を書いてみたくなったというのも、大喜利取材杯を開催するに至る大きな要因でした。」

あくまで「優勝者はインタビューされる」というのが主な目的なので、ルールは前述の通りシンプルなものにした。タイマン3分拍手投票というルールは、EOTの本戦やMASTER=PIECE、答龍門でも使用されている、メジャーかつシンプルで、盛り上がりやすいルールでもある。
また、大喜利取材杯を実際に開催してみて見えてきたメリットもあったと言う。

「取材杯にエントリーしているということは、そのまま『インタビューされたい』という意思表示にもなるので、今後のインタビューの声かけをしやすくなったというのは大きな利点でした。」

主催としての考え

前述のとおり、変則的な大会の主催や記事の執筆など、今まで誰もやったことがないようなことに果敢にチャレンジしているJナカノ、その行動理念はどこにあるのだろうか。

「『大喜利という形を借りて、誰もやってないことで遊びたい』という思いは常にあります。」

地方で主催をしている以上、大喜利人口の問題で定員が埋まらないことや、少人数になってしまうことも度々起きている。大喜利はプレイヤーや観客がいないと成立のしない競技。一体どうやってモチベーションを保っているのだろうか。

「ヒガシノカさんの歓迎会など、少人数で現地のプレイヤーだけで回した会もあるんですが、自分は楽しかったので成功だと思っています。大阪や関東といった中心部で主催をする場合と地方で主催をする場合とでは、考え方が変わってくると思います。」

Jナカノは過去に、ゴハとすり身がやっているラジオ番組に「広島で大会を開いてほしいと言われるけど、定員が埋まらないなど厳しい面があると思います。今後どうしたらいいでしょうか。」という内容のメールを送ったことがある。
すり身は、「小さい会だと厳しいかもしれないので、大会ということにして『旅』とセットとして考えてもらうのがいいんじゃないか。」というアドバイスを送った上で、「福岡のわからないさんや北海道の及川広大さんは定期的に小さい会を開いているけど、あの人たちはすごい人なので、自分を比べる必要はない。」という言葉も添えている。Jナカノは、そこで考え方としてとても楽になったという。

「今は参加者として遠方の会に顔を出したり、インタビューをすることの方に興味が向いているので、主催は控えていますが、自分で会を主催する時はイベントとセットにするようにしています。せっかく戦を優勝したので、その記念でナカノAtoZとして大会を開いてもいいかなぁというのは考えています。」

はじめての「戦」

この記事の最初でも記述したが、Jナカノ率いる「ナカノAtoZ」は、2023年の「戦」を優勝している。しかし、ナカノAtoZは、2018年から戦に出場している。

「2017年の12月に関西で永久保存さん、木曜屋さん、脳髄筋肉さんとご飯に行った際に、戦に出るかどうか迷っているという話をしたところ、『会の宣伝にもなるから出た方がいい』と背中を押してもらって、広島チームでエントリーをすることを決めました。」

2018年のメンバーはJナカノと本塁MAX、そして福岡を中心に活動していた、piyoの3人であった。piyoは当時ナカノAtoZによく参加しており、Jナカノはその面白さを見込んで、チームに誘ったと言う。
2018年、ナカノAtoZは全体の3番目のブロック、「は」ブロックであった。同じブロックには虎猫や冬の鬼、鉛のような銀やCRY、生命の輝きといった、全国の錚々たる面々が名を連ねていた。

「2問目の『画像の50』で『片手に青汁を持って、もう片方の手でガッツポーズをしているおじさんの画像』が出たんですが、そこの1答目で即座に『私は飲まない』という回答を出して、かなりウケました。制限時間の後半でも『これを飲んでから痺れが止まらないけど、このポーズなら平気なんだ』という回答を出したんですが、それが今まで大喜利をしてきた中でも一番くらい大きくウケたんです。」

「戦」の予選は点取り合戦で、約100点保有していれば本戦に進出できる。獲得点数が多くなる親番で、ナカノAtoZは「一問一答の70」を選択。先の文章題でも25点を獲得していた本塁MAXを送り出した。

「『ツンデレっぽい漢字1文字を教えてください』という難しいお題だったんですが、他の人が色んなスタイルでウケていく中、本塁MAXさんが、ボードに書いた『池』の字をなぞりながら、『何よ、バカ、アンタなんか…』ってツンデレっぽいセリフを言っていくという荒技を披露したんです。」

本塁MAXのこの回答に、会場は大きくどよめいた。あまりのどよめきに、司会の橋本がもう1回同じ回答をやってみるように言ったところ、本塁MAXはまったく同じセリフでまったく同じ回答をし、アドリブで言っていたわけではない、という点に対しても笑いが起きた。この回答でナカノAtoZは70点も獲得。120点という大記録で本戦に進出した。

「戦」は予選と本戦でルールが大きく異なり、本戦では勝ち抜け式の戦いになる。ナカノAtoZの先鋒は、予選でも大活躍した本塁MAX。1勝できないのも当たり前の過酷なルールで、他チームの先鋒に勝利する活躍を見せた。次鋒のJナカノは敗退してしまったものの、副将のpiyoも1勝し、大将戦にもつれこんだ。大将戦ではJナカノが改めて出場したものの、「解の会」の店長に敗北。ナカノAtoZにとっての初めての「戦」は、本戦で敗退となった。敗退と言ってしまってはそれまでだが、初参加での本戦進出は快挙である。

「チームメイトも全員ウケて、脳髄筋肉さんにも『ナカノAtoZ、全員面白かった』と褒めていただいて、出場者アンケートのベスト団体の投票でも2位になって、相当な自信になりました。」

2023年の「戦」出場まで

2019年の「戦」も、ナカノAtoZは前年と同じメンバー3人で出場した。しかし、2019年はうまく噛み合わず、0点で予選敗退となった。「戦」という大会、もとい大喜利の恐ろしさである。

2020年も、年始の時点では「戦」が開催される予定であった。ナカノAtoZは前年までの3人に、当時広島に在住していた手汗を加え、4人で出場する予定であったが、感染症の影響で「戦」は中止。その後開催された「戦KOOT」は、感染症対策として関西の団体のみで開催されたため、本拠地を広島に置くナカノAtoZは参加ができなかった。

2023年になり、時勢が落ち着きはじめたことで、ようやく地域制限のない、2019年以前と同じ規模の「戦」が開催されることになった。ナカノAtoZは、2019年の「戦」に出場予定であったメンバーより、現在は生大喜利から離れているpiyoを除く3人チームでエントリーをする予定であった。しかし、ここで重大な問題が発覚する。「戦」は大喜利主催団体の対抗戦、運営が定めた期間中にイベントを開催していないと出場資格はない。

「期間中に大喜利会を開けていなかったのですが、『ナカノAtoZ』というサークル名で文学誌のフリマイベントに参加していて、インタビューの同人誌を販売していたんです。運営にそのことを活動として計上できるという確認も取れ、出場できるようになりました。」

インタビュー、記事の執筆、同人誌の製作といった一連の活動が、一つでも欠けていれば出場できなかったかもしれない。そういった経緯もあり、Jナカノは「戦2023」の優勝コメントで「インタビューしてきたこととかも無駄じゃなかった」と発言したのであった。

2023年「戦」の直前

こうして「戦」に参加できることが決まったナカノAtoZ。メンバーの手汗は、チーム結成から3年間で拠点を東京に移し、東京の数々の大喜利大会で実績を残してきた。その実力の高さから、Jナカノは「戦」数日前まで、「優勝してやるぞ!」という、かかる気持ちがあったと言う。しかし「戦」の前日になり、Jナカノは思い直した。

「『優勝も大事だけど、手汗さんと本塁MAXさんと3人で戦に出られるというだけでも恵まれているんだ、まずはウケることだけを考えよう』と、気持ちを改めました。」

事前の作戦会議で、どのジャンルのお題に誰が出るかという大まかな部分は決めていた。また「戦」には、同じプレイヤーが2問連続で出てはいけない、というルールがある。ナカノAtoZは親番が5番目に回ってくるという順番であったため、1〜3問目で1人1回ずつ出ることを前提として、4問目に出るメンバーを真剣に考えるという作戦を立てた。
加えて、チームメンバーについて問われる、いわゆるメタお題が出た場合に、Jナカノがインタビューしていることを武器にしてもいい、とも伝えていた。本番では緻密に練られた作戦が功を奏したわけだが、切り捨てた作戦もあると言う。

「事前に『各チームで一番強くて、親番で出てきそうな人』を考えていて、このチームはこの人が親番で出てくるだろうから、この人が一番得意な画像を選ぶだろうな、というシミュレーションを考えていたんですが、直前になって『そこを考えすぎると破綻するかもしれない』と思い直して、自分の中でも考えを消して、チームメンバーにも一切話さずに挑みました。」

2023年「戦」の予選

2023年の「戦」、ナカノAtoZは大会最初のブロック、「い」ブロックであった。1問目の親番は大喜利ダックアウト、文章の30を選択して、文章で出場する予定だったJナカノがそのまま出場した。お題は「裏で賭博が行われている小学校の運動会の様子」。他の回答者がギャンブル寄りの要素を使った回答を凄まじいスピードで連発して消費していく。出遅れたと感じたJナカノは、力技の回答で繋ぎ、最後に「保護者が得点表の写真ばっかり撮っている」と回答して、大きなウケを獲得。ノルマを達成した。

その他にも、「回答した後に爆発音が流れる」という難しめのリズムお題で手汗がノルマを達成するなど、ナカノAtoZは着実にポイントを積み重ね、ブロック1位で親番を迎えた。得点に余裕があれば、逆転を狙う必要はない。ナカノAtoZはここで画像の30点を選択し、堅実に引き離す作戦を取った。

出場したのはリーダーのJナカノ、「クマが壁に向かって寄りかかっている」という画像に「すみません、壁の向こうにNintendo Switch投げちゃったんですけど」や「向こうに文房具コーナーあるって聞いたんですけど」と回答し、着実にウケた。ここでしっかりとノルマをクリアし、30点を獲得。一挙100点が入る可能性もある下剋上チャンスを、ナカノAtoZは暫定1位、95点で迎えることができた。

「暫定1位だったので、他のチームに獲られてもいい場面だったんですが、手汗さんには『どうせなら195点獲って予選通過しましょう』と声をかけて送り出しました。結果的には『解の会』の店長さんに獲られてしまったんですが…」

2023年の「戦」の本戦

前述の通り、「戦」は予選と本戦で大きくルールが異なる。本戦はチームメンバーそれぞれを先鋒、次鋒、副将、大将に割り当てて、勝ち残り戦を行う。ナカノAtoZのような3人チームは、誰か1人に2回出場してもらうことになる。言うまでもなく、誰に2回出てもらうかが、チーム全体の勝敗に関わる大きな要因となる。ナカノAtoZは、本戦は手汗、決勝はJナカノというように、誰が2回出るかを事前に決めていた。

「本戦は自分と本塁MAXさんは負けてしまったんですが、手汗さんがとにかく無茶苦茶にウケてくれたので助かりました。ファイナルエースさんと手汗さんがタイマンでめちゃくちゃな撃ち合いをしていた時は『これだけ盛り上がったのなら、これで負けても仕方ないな』とすら思いました。」

「戦2023」全体のベストバウトとも言うべき、ナカノAtoZの手汗と、金曜大喜利会のファイナルエースのタイマン。「予算が足りない花火大会」といった内容のお題であったが、お互いの回答に被せ合いをする試合展開が続いた。ファイナルエースの「マッ」という回答に手汗が「ムッ(怒り)」という回答で返し、ファイナルエースが「若者のすべて」に乗せるような回答をすれば、手汗が「予算の〜ピークが〜去った〜♫」と返すなど、全回答大ウケの、とてつもない撃ち合いだった。結果として手汗が勝利し、その勢いのままナカノAtoZは決勝進出を決めた。

2023年の「戦」の決勝

決勝戦の相手はMASTER =PIECE。30歳以上のみが出られる大会の強豪を集めたチームである。先鋒は本戦と変わらず本塁MAX。予選本戦と爆発を起こせていなかったが、ここで一気に調子を取り戻す。
MASTER =PIECEの先鋒は和壱郎。本戦では3連勝し、他のチームを全て大将まで引き摺り出すという大活躍。観客の中でも、「和壱郎さんがヤバい」というような空気が流れていた。ただ、Jナカノは本塁MAXが面白いことを誰よりも知っている。

「本塁MAXさんから『複雑なお題が得意』と聞いていたので、決勝のお題にうまくハマっていたというのはあると思います。」

決勝1問目は「犯罪率が100倍になった日本でのほのぼのニュース」というお題。本塁MAXは「本日の軽犯罪」という回答を出して大ウケ、そのまま絶好調の和壱郎を倒した。

続く2問目は「貧乏になっても意地でやっているスネ夫の自慢」というお題。本塁MAXは元々ドラえもんに詳しいため、原作の実際の自慢を引用するなど、リアリティのある回答を連発していた。「今度ラジオに出るんだ、パパがコミュニティFMのADと知り合いでね」という回答が特に爆発を起こし、MASTER =PIECE次鋒の元11才も倒した。

3問目は「カメラマンが寝そべって人を撮っている」というような画像お題。本塁MAXもある程度のウケは獲ったものの、MASTER =PIECE副将のたけのくちがそれを上回るウケを獲り勝利。本塁MAXは2勝という好成績を残し、次鋒のJナカノへとバトンを繋いだ。

4問目は「よく考えたら手抜きじゃないかと思う料理の名前」というお題。たけのくちが出した「冷やしトマト」という回答が今大会でも随一のウケ量で、Jナカノは敗退。副将同士の対決になり、戦局はイーブン。

5問目は「氷でできた会場のお笑いライブ」というお題。ナカノAtoZ副将の手汗は、平成後期のネタ番組を中心に、お笑いの知識に長けている。その知識を駆使してちょうど記憶の隅を突くような回答を連発し、たけのくちを倒した。

そして迎えた6問目。MASTER =PIECEは大将のいしだ、もう後がない。出題されたのはは「全てを知っている赤ちゃんが産まれてきた時の第一声」というようなお題。手汗の「おしっこで『understand』って書いてる」という回答がウケて、大将のいしだを撃破。ナカノAtoZの優勝を決めた。優勝した時の心境を、Jナカノはこう語る。

「優勝した瞬間はただただガッツポーズをするのみで、あまり実感が湧かなかったんですが、『広島から全国へ』を本当に実現できたような感じがして、感無量でした。生大喜利の優勝は個人戦や小さい大会を含めても初めてで、なおかつ今回はチームメンバー全員が活躍して優勝したというのもあって、とても嬉しかったです。手汗さんがめちゃくちゃ凄かったのは間違いないんですが、本塁MAXさんも決勝で活躍して、自分も予選で点を獲れていたので、とてもいいチームだったと思います。」

大喜利をする上で考えていること

Jナカノは「戦」の優勝コメントで、「今まで遠征してきて色々と大喜利してきたことも無駄じゃなかった」と語っているが、筆者はその言葉に大きく感銘を受けている。現在、大喜利界隈全体で新規プレイヤーの参入が増えている。会も大会も多く、歴が短くても結果を残しているプレイヤーも増えている一方で、結果を残せていないということに焦っている若手や中堅が増えているという側面もある。
Jナカノの優勝コメントからは、すぐに結果が出ずに焦らずとも、大喜利を「続けること」で、結果が伴ってくるというメッセージを受け取ることができる。他にも大切にしている心がけはあるのか、Jナカノに尋ねた。

「わりと『どんな回答も一定のトーンで出す』というのは心がけています。声色を変えたりするのが苦手なので、そこに考えを割かずに淡々と答えるようにしています。ルーティーンという面で言うと、好きなバンドのTシャツを着るというのも心掛けています。」

最近の競技大喜利では、大きな動きを使ったり、声色を変えたり、長めのコント仕立てにしたりして回答をする、いわゆる「フィジカル回答」が増えてきている。その上でJナカノはフィジカルを考慮に入れないことで、回答の内容だけを集中して精査する、という手段を取っているのである。

「あと、2019年までは、自分の大喜利は『ちゃんとしてる、悪くない』という感じの出来だったんですが、それではたまに勝てても優勝はできない、という感じでした。それが、スプレッドシート大喜利をめちゃくちゃやるようになって、着々と力を付けられた感じがあります。2022年頃から生大喜利も再開しだしたんですが、スプシ以前よりもウケるようになって、結果もある程度伴ってくる状態になって、結果として戦の優勝に繋がったような感じですね。スプレッドシート大喜利に頻繁に参加することで、今まで『悪くない』だったのが『いい』も出せるようになってきて、着実に平均点が上がっていった感じですね。『いい時がある』というのは、心の支えにもなりますし。」

感染症の影響で「生大喜利の代替」として拡がっていったスプレッドシート大喜利は、図らずも、地方のプレイヤーが全国のプレイヤーと一緒に大喜利ができる、貴重な場になっていった。広島のJナカノも、その影響を受けたということだろう。
困難を前にして生まれた策が、新たな価値を創造していく、そういった奇跡が、大喜利においても起きていたのである。

好きな大喜利プレイヤー

全国各地を巡りながら、さまざまな大喜利を見てきたJナカノ。その中でも好きな大喜利プレイヤーを聞いてみた。

「まずは『欲しい能力』の話になるんですが、2点あります。1つ目はアオリーカさんの『よく通る声』。2つ目は橋本直也さんの『ふざけられる力』です。どちらも自分にない能力で、そのプレイヤーにとっての『色』になっているという点で、憧れますね。」

アオリーカは関東を中心に活躍している大喜利プレイヤー。大会でも上位に食い込むことが多く、YouTubeチャンネル「こんにちパンクール」のメンバーでもある。キャラを憑依された回答の精度の高さと発音の明瞭さは、アオリーカならではの魅力である。

橋本直也は関西を中心に活躍している大喜利プレイヤー。橋本インフィニティ直也の名義でも活動している。回答の馬鹿馬鹿しさと手数は突出しており、大会やミニトーナメントで頻繁に優勝している。また、最近ではYouTubeチャンネル「見つかれ大喜利の人」を運営し、自身も出演している。

「好きなプレイヤーとしては、最初に出た福岡の大会『OOGP』の優勝者である田んぼマンさんですね。ずっと強くて、わかりやすく馬鹿なことを言えて、自分のキャラクターや自分に求められていることがよく分かっているという点で、魅力的で味のあるプレイヤーだと思います。たまに正解みたいな回答を出すのもかっこいいですね。」

田んぼマンは関東を中心に活躍している大喜利プレイヤー。大会の好成績は挙げるとキリがない、言わずと知れた強豪。積極的に遠征も行い、関東以外の地方でも結果を残している。X(旧Twitter)が面白いことや、笑う死神としても有名。

「2人目に好きなプレイヤーは、第9回の大喜利鴨川杯で優勝されていた、鉛のような銀さんです。本当に『どうやったらそんなことが思いつくんだ』という回答を出すプレイヤーの代表格のような人物で、理屈抜きでとにかく笑わせられるというか、気がついたら笑ってしまっているというところが魅力的だと思います。鉛のような銀さんを見ていると、『面白いって無限大なんだな』と思わされますね。」

鉛のような銀は関東を中心に活躍している大喜利プレイヤー。数々の大会で結果を残しているが、何と言っても代表的な成績は、日本最大級の大会、大喜利天下一武道会の連覇である。2019年の第16回大会を優勝したことも凄まじいが、4年間でプレイヤーが増加した後の第17回大会も優勝している。界隈最高峰の強豪である。

「関西のプレイヤーだと、CRYさんですね。色んなルールに対応できて、加点ルールでは手数、印象ルールでは思い一発を出せるのが強いですね。キャラクターとかフィジカルで戦うタイプではないので『このお題どうするんだろう』と思う時もあるんですが、そんな場面でも、回答の内容の面白さで何度も何度も乗り越えている所が凄いですね。今回の戦でも、親番で一問一答の70を選択して、満票で105点を獲っていて、活躍が見れて良かったです。」

CRYは関西を中心に活躍している大喜利プレイヤー。「戦」ではBBガールズのまだまだGIRLでいいかしらチームで出場。様々なタイプの回答が並ぶ一問一答で、理論値の105点を獲得した。参加頻度は高くはないが、参加すると毎回強烈な印象を与え、好成績を残す魅力がある。

「最後、4人目に好きなプレイヤーは冬の鬼さんです。他の人が色んな球種を投げているとして、冬の鬼さんはとにかく速いストレートが持ち味のプレイヤーなんですが、直近の大喜利天下一武道会の予選で出た『アイドルオーディションに参加している何も分かっていない審査員が一言』みたいなお題で、『なに他人の曲歌ってるんですか』という回答を出していて、それを見た時に『自分のやりたいこと、やるべきことはこれだ!』と思いました。変なことをせずに誰も手を出していない要素を調理して、170キロの豪速球を投げる、理想だと思いましたね。」

冬の鬼は関東を中心に活躍している大喜利プレイヤー。手数と角度、要素の拾い方に定評があり、YouTubeチャンネル「大喜る人たち」や、ライブシーンでも人気を博している。大喜る人たちトーナメントvol.4では優勝しており、加点も印象も強い、究極のオールラウンダーとも言うべきプレイヤーである。

今後の展望

インタビューもいよいよ大詰め、最後に、Jナカノの今後の展望を聞いてみた。

「まず、大喜利のプレイヤーとしては『できるだけ長く続ける』が目標です。今後ずっと広島に住み続けるとしても続けていきたいです。他の地方勢に活躍を見せるという意味もありますが、単純にまだウケたいし、楽しいので続けたいです。また、チーム戦のタイトルを獲ったことで、個人戦のタイトルもより欲しくなったので、そこも目指していきたいです。」

プレイヤーとして、成績も評判もどんどん伸びてきているJナカノ。ただ、彼の活動はプレイヤーだけに収まらない。

「インタビューをするのももっと続けていきたいですね。反響も大きくなってきていますし、取材杯を通して、待ち望んでくれている人が多いというのも可視化されたので、続けていきたいです。加えて、同人誌ももっと作っていきたいですね。5年後10年後に見返した時に、大喜利を通して時勢などがわかるというのはかなり凄いことだと思うので、無理のない範囲ですが、どんどん紙面で残していきたいです。」

インターネット上に残しているだけでは、運営会社や仕様の変更で突然閲覧できなくなるリスクもある。紙面に残していれば、どこかでデータが残り続ける。アナログではあるが、最も確実な方法なのである。
ナカノAtoZの主催という面では、今後どうしていく予定なのだろうか。

「主催としてだと、途方もない夢なんですが、広島出身広島在住のメンバーだけで、もう一度戦を優勝したいですね。具体的に何をすればいいかは見えてないんですが、広島の大喜利シーンをどんどん盛り上げていければなと思っています。加えて他の地方も盛り上がれば嬉しいですね。ただ、来年の戦は今のところ『他の地方の大喜利会』に参加枠を譲ろうかな、と思っています。住んでる場所なんか関係ない、ということをもっと見せられたらな、と思います。」

全国各地で大喜利が盛り上がることが、Jナカノが目指す到達点。
ただし、大喜利は誰もが挑戦できる趣味ではあるが、勝負の側面もある。時には心が折れ、才能という言葉に打ちひしがれてしまうこともあるかもしれない。時には大喜利から離れたくなるかもしれないが、それでも大喜利は続いていく。
大喜利の悔しさは、大喜利でしか晴らせない。

「大喜利はずっとやっていれば、自分の取り組み方次第で『悪くない』が『いい『になっていくタイミングがあると思うので、続けてほしいですね。『続けていればいいことがあるよ』というのを伝えたいです。」

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