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メッセージ

このあいだの―、正確には6月5日の、尾崎亜美のコンサートは忘れられないものになった。

長年のファンでもない私が、わざわざ他の市まで高速を車で走って出かけたのか。今も不思議に思う。

私より四才年上の尾崎亜美。数日前から体調がどうにも悪く、声も出にくいようで、不調を押してのステージだった。

ゆっくり、じぶんのことばで、体調が悪いこと、そして、長らくお母さんの介護をしてきて、数年前、調べたら2019年らしいが、そのお母さんを見送ったあと、何も創作できなくなった時期があったことを、ぽつぽつと、でもつとめて明るく語りかけた。

そんな中、散歩中に急に浮かんだ曲、という前置きで歌い出されたのが、「メッセージ It’s always in me」。

私はぼろぼろ涙が出てしかたなかった。

尾崎亜美ほど才能豊かな人でも、そういうことがあるのか、と思った。

考えてみたら、私とわずか四才しか違わないのに、十代からオリジナルの曲を作ってきた人。いつ聞いても新鮮。さりげないメロディのようで、しっかり残る。おしゃれで、ポップで。しばらくするとまた聞きたくなる。

どんなに才能に恵まれた人でも、親の介護と向き合う時期がある。そして、必死で過ごす日々が突然終ると、何もできなくなる。

曲を聞いているうちに、気がついた。心の中のがらんとした穴に。

母が亡くなって六年以上の時が経ち、かなり前に、もう平気かな、なんて思っていたけど。じぶん自身がそのことに驚いていた。

「マイ・ピュア・レディ」と「春の予感 I’ve in mellow」くらいしか知らない私が、ふと行ってみたくなったコンサートで、こんな体験をするなんて。ほんとに、何かに導かれているような、不思議な休日の午後だった。

                       写真・文章©敷村良子

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