特別定額給付金・電子申請混乱は「データの上流下流を間違えた」仕様決定ミス

特別定額給付金の給付では、省力化のはずの電子申請で自治体が大混乱してる。それもパスワード忘れとかではなく、ちゃんと申請されたものの後処理について、だ。

特別定額給付金の電子申請については「マイナンバーカードの仕様がクソで普段使いパスワードが使えないから忘れた」とか多々問題はあるんだけど、その辺は除外して純粋なデータ処理として考えると、すごく基本的な事を間違ってしまったんだな、ということがみえてくる。

あ、僕はいまは秋葉原の電子機器屋のオヤジっていう立場がメインだけど、本職はビッグデータ処理とかで人に言えない仕事をいろいろやってたりします。

データ食わせる順番間違えたよね

「電子申請のほうが郵送より給付遅れるかも」って、うそーん、それお役所側の処理がおかしいんじゃないの?と一瞬思ったんだけど、そうじゃない。

これ「データ食わせる順番を間違えてる」に尽きる。

特別定額給付金申請の条件を考えてみると...
・「世帯⇔世帯主口座の紐づけ」が申請の主題
・世帯構成員が別世帯作るなどの偽装は防がねばならない
・住民基本台帳との照合は必須
というあたりが流れの基本。

それをいまの電子申請だと
1. 申請者である世帯主が口座情報と世帯構成員名を提示
2. 役所が住民基本台帳と突き合わせ
という流れにしてるわけなんだけど、これ間違いなんすよ。データの上流下流を間違えてる。

自治体は住民基本台帳のデジタルデータを保有しているので、電子申請する場合はまずその世帯情報を電子申請システムの「ぴったりサービス」に食わせるのが先。それに対して申請者が口座情報を紐づけるのが正解。この順番を間違えるから「突き合わせ」という消耗作業を強いられてしまう。

もちろん住民基本台帳のデータはそれなりに大事な個人情報なので扱いが難しいのはわかる。しかしマイナポータルって高度なセキュリティを付与した上で自分の所得申告状況まで見られるくらいのものなんだから、世帯構成員情報を先に揃えるくらいはできるよ。

あとから「そうできなかった言い訳」を並べるのだろうけど、まずは突き合わせ作業を強いた自治体職員さんに謝ろうよ。

郵送申請のほうがデータ処理の流れとして正解というギャグ

自治体が各自で行う郵送申請の場合は
1. 市区町村役場が住民基本台帳から世帯情報を印字し郵送
2. 申請者が口座情報を記入し返送
という流れ。「情報を紙に印刷し物理的に郵送し、さらに手書き返送を入力し~」という昭和な世界でとても非効率に思えるのだが、実はデータの上流下流という意味ではこれが正解なんすよ。

僕は、世の中は何が何でも電子申請になるべきだと思ってる。しかし電子化しただけでデータ処理を間違えてるというのは、パソコンを清書マシーンだと勘違いしてるだけの話で、本当に害悪なのです。

このシステムを作ったの誰?

マイナンバーカードがらみの仕組みを運用してるのは「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」という組織。

今回の「特別定額給付金」の電子申請で使ってるのは、この「ぴったりサービス」

構築を支えるのはNTT Data様

ということで、住民基本台帳含め構築・運用に携わってるJ-LISの立場として、まず住民基本台帳にある世帯情報を申請システムに食わせてから電子申請の受付スタート、ってしなかったのは盛大な落ち度。

世帯構成員の突き合わせは割と難しい作業

データ扱いにおける上流・下流をミスったから無益な突き合わせ作業が発生してしまったわけだが、この「申請者が入力した世帯構成員を住民基本台帳と照合する」という仕組みは実はそこそこ複雑。

システム開発やデータハンドリングを日頃行ってるとわかる話なのだが、仮に申請ミスがまったく存在しなくても割と甘くはみられないし、エラーではじくとしてもこの場合は割と仕様策定がややこしい。

今回の申請では家族の氏名欄に氏名を「姓[スペース]名」と入力するようになってたが、これはまず姓・名を別にすべきね。これでスペース忘れの目視確認がなくなるのに、そんなことすらしてない。

データを整えれば世帯構成員の照合自体は機械的にできるはずだが、これも名前をちゃんと書けない人はそこそこ発生する。

さらに今回は「一部が給付辞退するかもしれない」という仕様がある。なので書いてなかったら辞退とみなすというのもある。

話がややこしくなるのは申請者が「世帯」の概念を間違えて、同居だけど別世帯になってる親を混ぜて書いてしまった場合。世帯に存在しない人の名前を抽出し要確認として処理を後回しにするわけだが、それも結構膨大になってるらしい。

これらの突き合わせ作業はもちろん「申請間違いがあったとき問題になる」というものではあるが、「問題がなかったことを確認せねばならない」という手間が膨大になってしまい、電子化したのにちっとも効率化にならない、という事態を招いてしまった。

ちゃんと反省しよう&自治体は被害者

今回の特別定額給付金電子申請は、当初は口座情報が空でも送信ができてしまってて、指摘受けて言い訳しながらも後から必須項目に変更した。

こんなレベルで「データクレンジング」なんて意識全然なく、作業する自治体の立場からのシミュレーションもやってねえだろ、という状態。

ということで、本来はやらなくていいはずの突き合わせ作業を強いられてる自治体職員の皆さん、まずは給付に向けての作業をなんとかお願いした上で、この件はちゃんと追求しましょう。でないと変わらないから。

「何事も経験を通じて成長する」と考えたいところではあるが、電子申請の仕様策定を素人がやってるということなので、まず体制から壊さなきゃでしょう。

【追記 2020/05/19】高松市が電子申請の受付を中止へ

こんなシステムなのでなんとか対応をしたところで、郵送申請との重複チェックなんて考えるだけでも悪夢。そこで高松市が「5/22から郵送も始まるので、5/24をもって電子申請の受付をやめる」と発表。

もちろん不慣れなどの問題があっても電子申請に以降してもらいたいという気持ちはあるけど、今回の状況からするとこの対応もやむなしというか、当然の措置かと思う。

大金をかけて整備したマイナンバーカード・マイナポータルがこういうときに役に立たないばかりか、むしろ自治体の業務を邪魔している点については、今後ちゃんと責任追及と改善がなされることを望む。

一応問題点を分けておく。

1. マイナンバーカードの署名用電子証明書パスワードを忘れる事案続出
これはパスワードが「英大文字+数字」という謎の限定をされてるがために、特にITに慣れてる人が「いつものパスワード」を使えないという問題はある。

2. マイナポータルと住基ネットとの連携などに問題が多い
テキトーなフォームを作っただけで自治体側に面倒な作業を押し付けた。

3. 世帯の概念を間違えるなどの事例が多かった
これは申請する側の問題。なんせ今回の申請は自分の名前すら自動入力で、世帯主と家族氏名を書くだけでいい。確かに「世帯主名を書くのか?」というのはふと疑問には思うけど、よく見ればわかる話。
これはこれで、ちょっと悲しいというか、なんとも困った話ではある。ぶっちゃけ、この申請ができなかったら世の中のほとんどの仕事はできないのではとすら思うのだが。

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ということで、この件が「喉元過ぎれば熱さを忘れる」にならないことを願います。

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