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親の看取りで知らずに我慢していたこと②

この記事は自宅で行う親の看取りについて書いています。
40代女性からの相談で、前回はお母様の痛みについて書きました。今回はもう一つ我慢されていたことを書きます。

いつかうちの親も介護になるんだろうな、最期は家で過ごさせてあげたいな、と思う人が多いと思います。ですが介護保険を利用するのが初めての場合、よくわからないまま進んでいくことが少なくないようです。


1.体を動かせないストレス

相談者さんのお母様は入院前まで会社経営に携わっていましたが、急に起こった小脳の病気で寝たきりの状態で退院されました。我慢していた痛みは内服薬の調整でなんとか眠れる状態になり、ほぼ不眠のまま仕事に行っていたご家族もようやく睡眠時間を確保できるようになりました。

ですが日中、自分で体を動かせないのは相当つらい状況です。意識がしっかりされているだけに、そのストレスは強くなります。週1回訪問リハビリを受けており、わずかな時間でも動かしてもらえばラクになるようでした。

そしてお母様もご家族もリハビリの回数を増やしてほしいと希望されていました。行われているのは週1回でしたが毎日希望していました。動かせば血流が良くなり、身体的にも精神的にもほぐれます。夜間も眠りやすくなるため、ご家族からケアマネにお願いしたそうです。

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2.リハビリを増やしてもらえなかった

ところが訪問リハビリは一向に増えません。ケアマネからPT(理学療法士)が所属する訪問看護ステーションに伝えてもらっているはずなのに、なかなか来てもらえない。ご家族は理学療法士さんに直接伝えましたが増えなかったそうです。

しばらく経ってケアマネに、リハビリが増えないことを伝えたそうです。するとある日、「訪問看護ステーションを変えますか?」と尋ねられたそうです。PTさんが訪問看護ステーションから来ているので、その訪問看護ステーションを変えますか?ということでした。

ご家族は驚いて「訪問看護ステーションを変えていいんですか?」と聞き返したそうです。変えてはいけない…というか、思ってもなかったと仰っていました。変更してもいいということを知り、手続きをするとすぐに新しいPTさんが週5回来てくれるようになったとのことでした。

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3.訪問看護ステーションは変えていいの?

私たち看護師やケアマネが当たり前に知っていることを、ご家族や利用者さんが知らないことが多々あります。たぶんそれは大方のことを知らなくて、初めてのことなので知らなくて当然です。介護保険制度は刻々と変わっているため、専門家でもすべてを把握することは困難な状況です。

介護にはさまざまな職種が関わります。知っておくべきことは、それぞれ一つずつ“契約”によって行われるということ。私も企業内で訪問看護ステーションを立ち上げたことがありますが、利用者さんは居宅、訪問介護、訪問医療、福祉用具、そして訪問看護ステーションと何件も契約をしなければなりませんでした。

一つ一つ契約を行うことによって初めてサービスを受けることが可能になり、それはサービスを提供する側も同じです。自分の事業所を選んでいただいて契約を交わすことによって、初めて介護保険の点数請求が可能になります。利用者さんやご家族は商品を購入する消費者と同じであることを、忘れないでほしいです。

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4.公平なサービスが受けられない現状

私はこのことを後で伺ったので「前の訪看さんでPT(理学療法士)が来なかった理由は何だったんですか?」と相談者さんに聞きました。すると「前の訪問看護ステーションでは人が足りなくて、来れるPTさんがいなかったそうです。変更してよかったです」と仰っていました。

私がそのとき聞いていたら、もう少し早い対応ができたのにと思いました。とはいえ、相談者さんが自らケアマネに訴えたことは良かったと思います。前回の痛みのコントロールで(あ、言っていいんだ…)という感覚を得たことが功を奏したかもしれません。そう、言っていいんです。

こういうことが起こってしまう理由… それは“権威”です。病院や介護が経営であることが、さまざまな軋轢を起こしていると思います。私は医療や介護は政府管理の公共サービスにするべきものと思いますが、実際は企業と同じで、サービスを増やせば増やすほど経営利益となっていきます。だからこそ利用者さんや家族は、事業所を選ばねばなりません。そして不満があればNO!と言って構わないのです。

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5.寝たきりゼロの国スウェーデン

寝たきりゼロの国と言われる福祉国家、スウェーデンをご存じでしょうか。スウェーデンは日本に続く高齢者国ですが、寝たきりの高齢者がいないと言われていますが、その違いは何でしょうか。以下にご紹介するのは、私が5年ほど前にお話会でお伝えしていたときの情報です。

スウェーデンは国別幸福度ランキング第1位の国です。日本は21位でした。スウェーデンの平均寿命は81.7歳で、日本は83.1歳。日本の寝たきり高齢者は200万人とも300万人とも言われていますが、スウェーデンにはいません。そして現在、日本は65歳以上の高齢者と同居している割合が50%に達していますが、スウェーデンは4%です。

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しかしながら介護士の平均勤務時間は6~8時間です。また介護士は国家資格で国が管理しています。スウェーデンはそもそも、子育てのときから自立心を尊重する文化があるため、高齢者の一人暮らしであってもギリギリまで自宅で過ごしてもらうことが多く、町ぐるみで高齢者を見守る仕組がつくられています。

その代わり収入の35%を税金として支払います。そして日本のように自由に病院を受診することはできません。あなたはここの病院、あなたはこの先生にかかりなさいと指示されます。受診したくても受診が認められない場合もあります。そして自力で食べれなくなった人への胃ろうは虐待であるとし、食べれなくなったら自然に経過します。

またフィンランドも日本同様、65歳以上の高齢者が人口の1/4を占める高齢者国ですが、「子の親の扶養義務廃止」です。介護は国と自治体が行うため、親子が同居することがないそうです。よって介護のための離職や休暇もなく、子供の家庭や人生が犠牲にならないよう守られています。

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6.情報交換の機会があれば

日本は今後20年の間に、65歳以上の高齢者3000万人以上が介護や看取りになっていきます。3000万人といえば人口の1/3~1/4です。今からスウェーデンやフィンランドのような状態は望めないと思いますが、せめて情報を共有する機会があればと思います。

最近は自宅で介護している人が多くなり、親の看取りを考え始める人が増えています。「親の最期のこと考えるなぁ」「どうしたらいいんだろう?って思う」「何が必要なの?」「家で看取るってできるの?」という声をよく聞きます。

介護や看取りは経験した人にしかわからない困りごとや解決策があると思います。それを互いにシェアし合い、私たち看護師の考えも参考にしてもらえたら、最善の選択をしていけるんじゃないかなぁと思います。

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そして先日、3人の看護師で話していて「親の看取り意見交換会」をしようということになりました。興味ありますでしょうか?
一人は、がんの親を自宅で看取った看護師です。
もう一人は、親を施設から引き取って自宅で看取った看護師です。
そして私は、植物状態で3年生きてしまった叔父と、余命1ヶ月の告知を受けた父を看取った看護師です。

ある人の経験が、他の人の問題を解決するヒントになるかもしれません。また、ある人の言葉が、他の人の勇気になるかもしれません。親の介護や看取りに関わっている方々と、さまざまな意見交換ができたらいいなと思っています。


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