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常磐線に幽閉されました

注意
若干下品な描写があります(トイレの話です)


【事案発生から脱出まで】

前置きとして

自分の所属している文芸部には、昔からの伝統として『文学旅行』なるものがある。

「詩人・文豪らのゆかりの地や資料館をめぐり自己の作品制作に活かそう」
というテーマを軸にして毎年異なる場所を訪れる、文芸部ならではのイベントだ。

今年は上野公園・根津近辺を散策してみようというテーマであったが、今回は年度末ということもあって顧問は不在が決定。
そうなると、リーダーがいない。リーダーがいないと、行程が組めない。

当然だが、茨城の片田舎の高校生に東京がわかるわけもない。自分もわからない。
だけど旅行慣れしている人間が最適だろう…と、いう話になったため、今回は自分が船頭となったのだった。

桜の名所ともあって人だかりである

朝から常磐線に揺られて上京。午前中は上野近辺の博物館をゆっくりと楽しんだ。
そこから上野界隈から根津、東大近辺をめぐり、その足で神田明神を参拝。
なお、自分がそこで買ったのは…

とてもありがたいお守りですね

平将門の力を借りた厄除けお守り。

今年はいい年にするぞ、と思って手に入れたお守りである。
これがあれば心なしか強くなれた気がする。そう思っていた。

いたのだが…

悲劇はこうして起こった

部員らを引き連れて行動すること半日。
楽しい一日を終えてようやく帰路につくことになった一行は、京浜東北線で秋葉原から上野へと移動。
最後の長旅、常磐線に乗ることとなった。茨城県民の動脈、二時間の道である。

「この列車は10両です」とのアナウンスが聞こえ、10両目乗車口で待つこと数分。
その青いヤツはやってきた。

常磐線どころか最近は東北本線でも見るようになったヤツ
土浦から先は基本五両に減りました。クソがよ

上野東京ライン・常磐快速線1187M列車、勝田行き。
品川から茨城県央の勝田までをロングランする普通列車である。

車両内には立ち客が数人。夕方の通勤ラッシュ前とはいえ、東京都心部から千葉県北部・茨城県全域にかけてをカバーする路線としては至極当然のことだった。
車端部にはトイレ、そして中距離電車特有のセミクロスシート。車内は普通よりかは少し窮屈にも感じた。

列車は信号開通と同時に上野を出る。15:51、定時。

ふと、自らの足に疲れを感じ、どこか座れるところはないかと探すがどこも埋まっている。
仕方がないため少しでも負担を軽くしようとドアに軽く寄りかかった途端、眠気が襲ってきた。気づけば日暮里を出る頃には夢の中である。

ただ、その快眠も長くは続かなかった。

唐突な便意である。

最初の難

千葉県と茨城県の県境を流れる利根川(別名坂東太郎)を越えようというとき、ふと便意を感じた自分はさっさとトイレへと駆け込んだ。

常磐線を走る車両のトイレは比較的広く、そして自動ドア。扉とは別にロックをかける機構もあるため、どちらもしっかりとかけた。
そういえば今日は一回も用を足していない。少し安心したからか、消化も進んでいたのだろう。

何事もなく用を済ませ、さっさと出てしまおうと思った私。

次の瞬間、信じられないものを見ることになるのである

現実は非情である

そこにあるはずの紙が、ないのである。

とはいえど、やはり利用者の多い路線。トイレットペーパーくらい予備で置いてあることがほとんどだ。

まぁ落ち着け。消耗品は当然交換ができる、そう思って棚を探した。
いつも予備が置いてある頭上のパイプ棚には、何もなかった。

三回ほどトイレ内を見回しても、何もない。替えのペーパーがない。

絶望である。

ただただ茫然と便座に座る自分。耳には利根川を渡る橋のジョイント音が響く。紙がないということは拭くことができない。
当たり前だ。紙がないんだもの。

取手に到着してもなお、解決策はなかった。部員を呼ぼうにも恥ずかしくて呼べない。
トイレットペーパーがないから助けてくれなんて、情けなさ過ぎて後輩に見せる顔がない。今日一日上げたはずの好感度は一気にがた落ちである。

そんなの嫌だ──と、頭を抱えていた自分に、救いの手が差し伸べられた。

ホルダーにかかっている芯を見ると、若干紙が残っていたのである。
これ幸い、蜘蛛の糸。今までにないほど天に感謝した。

あぁ、なんという幸せだろう。羞恥を感じることもなく、自分は地位を守り切った。これほど神に感謝したことはなかった。

ちなみに牛久大仏というクソデカ大仏は取手のちょっと先である。

このありがたい姿は関東平野のどこからでも見える説があるとか
参考…観光いばらきより

しかし、現実は非情であった

ただ、話はこれでは終わらない。絶望はすぐにまた襲ってきた。

まずはこれを見てほしい。

これはなんとか困難を乗り越え、トイレから出ようとする私の目に映っていたもの、そのものである。

この動画からわかることは

  • トイレの「開」ボタンを押してもドアが開かない

  • 鍵はドアロック、ドア本体の鍵どちらも「開錠」状態である

  • 何度押しても開かない

つまり、トイレのドアが開かないのである。

あぁ、なんということか。天は我を見放した。
一度救われたと思ってすがった蜘蛛の糸はぷっつりと切れてしまったのである。

これからどうなってしまうのだろう。頭の中に様々な想像が駆け巡る。
このまま群衆を運び続ける中距離電車の一つの歯車となり、幽閉されたまま品川と茨城を往復し続けることになるのか。
それとも勝田到着後に車庫入りし、数日後にミイラとなって発見されるか。

どちらにせよ、自分の命は危うい。

…とはいえ、自分も鉄道知識は若干持ち合わせているためなんとかはできる。

・トイレ内のSOSボタンを押す
・外の乗客に助けを求める
この二択である。

ただ、前者は一旦列車を止めることになりかねない。そうなれば、首都圏数万人の足に影響が出る。
上野東京ラインに直通している常磐線。もしも止まった場合は東海道線・高崎線・宇都宮線・湘南新宿ラインにも影響が及ぶ。
最近じゃ埼京線にまで及ぶこともあるらしい。そうなれば最近できた新横浜線まで止まる。新横浜線まで止まれば、あとは・・・である。
(そんなことはない、ただ数分延で走るくらいだろう)
(冗談なので本気にしなくてよろしい)

トイレの扉が開き、中からむさ苦しい男がピンピンした姿で出てきたら周囲はどう思うだろう。
この期に及んでもそんなことを心配していたので、前者は却下された。

では後者はどうか。
声を出して助けを求めても、ドアが開くかどうかはわからない。それに何かしらの叫び声をあげて中から助けを求める声がした場合、それこそ大事である。

で、出てくるのはむさ苦しい男である。どう思われるかわかったもんじゃない。却下である。

・・・人間は焦ると余計なことまで考えるらしい。

作者近影

で、結果的にはTwitterで自己の状況を報告し、何らかの解決方法を教えてもらおうと考えた私。
そういう事で、動画を撮影してTwitterに投稿した。
ツイッタラーの鑑か?

投稿したのだが…

最後の難

最後に訪れた悲劇。それは…

投稿した途端携帯の電源が、入らなくなった。

携帯電話が使えないということは、それ以上の情報発信どころか連絡すらできない。手詰まり、孤独。もう終わり。

そのため、TLにはしばらく先ほどの動画ツイートと『たすけて』という文字だけが二時間程度表示されたままになり、それ以降の情報が発信されなかったためフォロワーの方々にご心配をおかけしました。申し訳ございませんでした。

そもそもの話をしよう。今回の旅は携帯の地図も頼りにしながら行動していたため、当然ではあるがバッテリーを消費することは確実。

備えとしてモバイルバッテリーを用意した。もしも残量が減ったとしても、実質もう一回フル充電できる分はある。

しかし、ここで話をしなければならない。
そのモバイルバッテリーは若干バグり気味であった。

朝、表示を見たときは100パーセント。しかし、途中で見た時には…

無常

すっからかんである。

と、いうことで常磐線に乗るころには既に10パーセントを切っていたバッテリー。
追加もできないため、なんとか列車に乗るまでは極力節約した。

とはいえど、残り10パーセントあれば案外持つものである。実際のところ、トイレに入った直後には5パーセントは残っていた。

だが、どうやら私のiPhone7はもう虫の息だったらしい。
動画とツイートを送信した瞬間、その役目を終えたのであった。

脱出、そして生還

さて、当たり前の話をする。
今私がこうやって記事を書いているということは、トイレから脱出して執筆できる余裕があるということだ。

脱出には成功した。厳密には『なんとかした』のである。

ツイートを送信し、電源が入らなくなった後。
私はしばらくの放心状態を経て、再度ドアを開けようと試みた。

ボタンを押しても開かないなら、手動ならどうか。
そう思い、扉に手をかけたところゆっくりとその壁は動き始めた。

なんと扉は自動ではなく手動に切り替わっていたのだ。

三度の絶望を耐え、数分ぶりの生還である。
やった、命は助かった。そう叫びたくもなったがしょうもなさすぎるのでやめた。たかがトイレに命を奪われてどうする。

ちょうど列車は竜ケ崎駅に滑り込むところであった。
取手で乗客の大半が下りたのだろう、席は空いていた。

部員のもとへ戻り、その後は何事もなく、常磐線普通電車は無事に私を家へと送り届けてくれたのであった。

ちなみに家について携帯を見たとき、フォロワーからの『大丈夫ですか』の言葉で事態を把握した自分は慌ててTLを確認しました。
ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。生きてます。

携帯もなんとか生きています

では、なんでこういうことになったのか?

私が経験したこのトイレ幽閉事件。原因は何か。
端的に言おう。

「タイミングが悪すぎた」らしい。

トイレットペーパーが切れていたのも、まず運が悪かった。
おそらく想定よりも多くの方がトイレを利用したのだろう。そのせいで自分がハズレを引くことになってしまった。

そして、トイレのドアが開かなかった理由。
これも「本当にタイミングが悪かった」のである。

トイレのドアはなぜ開かなかったか?

ここからは独自の推察で話そう。
まず、私がトイレから出ようとした時間。その時列車は「取手ー藤代」駅間を走行中であった。

実際のダイアグラムと動画の投稿時刻を見ると、ちょうどその時間になるのがわかる。

動画投稿時刻は『16:37』だが、実際発生したのはもっと早い段階
※JR東日本のサイトより引用

さて、鉄道に詳しいフォロワーの諸氏ならお気づきであろう。
この区間は常磐線の難所『デッドセクション区間』がある。

デッドセクション - Wikipedia

ざっと説明しよう、電車が走る原動力には交流電化と直流電化が存在する。そのあたりは調べてくれれば理解できるだろうが、つまるところ『一緒に通電したら危ない』のである。

常磐線は交流と直流を使用する地域を跨いで路線が伸びているため、交流区間を走る車両は直流区間を走れない。逆もまた然りである。
そういうわけなので常磐線はどちらも走れる『交直流電車』が走っている。

しかし、ここで課題なのは『交流と直流が変化するところをどうやって走るのか?』という点になってくる。
電気方式が変わるため、機器の切り替えを行わなければならない。

そう、それを行うのが『デッドセクション区間』簡単に言えば『どっちの電気も通っていない区間』なのだ。

その区間を走っているときは、架線から電気を得ることができないので車両は電力を喪失する。
実際、かつての交直流電車は車内灯がすべて消えたりもした。

だが、現在常磐線を走っている車両は『バッテリーで』車内の蛍光灯を転倒させているため、デッドセクション区間でも何ら車内に異常はない。

だが、おそらく今回のケースを見るとデッドセクション区間ではトイレは使用できなくなるらしい。だから私は閉じ込められたのだ。

トイレットペーパーが切れていたのも、デッドセクション区間のせいで閉じ込められたのも、携帯の充電がなくなったのも。

そう。今日は運が悪かった。ただそれだけなんだ。
そう思うことにした。


だが、ちょっと気になること

・・・この記事を書いていて、ふと思ったことがある。

私は今日、平将門を祀る神田明神で厄除けのお守りを買った。
まさしく『平将門のご加護』があるお守りだ。

壮大な建築の神田明神

平将門は関東武士であり、茨城県にゆかりのある人物だ。
そして命を落としたのも現在の茨城県。

で、ここであることに気が付いた。


そういえば茨城県に入った途端、すべてのことが起こった気がする。

・・・口に出すべきではなかっただろうか。そんなことはないと思いたい。

だが、あまりにもタイミングと都合がよすぎる。
もしかすると、何かの因果があるのではないだろうか。なにか、背筋に冷たいものが走った。

あとがき

今回の記事は自分の整理の面も含めているため、乱筆乱文だったかもしれません。
こういうことがあったよ、という日記感覚で見てくださればと思います。

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