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映画活動 略して"映活"始め/フランスと日本の考え方の違い〜接客編〜(5/20)

たいてい何かがしっくりこない時に考えられる主たる原因は、①ピアノを弾いていない ②音楽を作っていない のどちらかなのだが、①は楽器が一向に届かないから仕方がないし(なんとなく火曜日に当たり前の顔して届く予感がしている。デリバリーの約束は金曜日だったけど!)、②は実行している。それでも、出汁のないお味噌汁のような「可なのだが、何かがちょっと足りていない」感。生活に奥行きがない。これはなんなんだ。

私は、自分の肉体の中にネガティブな気持ちを溜め込むことが本当に苦手な性分なので、何でも良いから何かを捻り出して行動。その結果としての自分の反応を見て、ダメなら次の一手を考える。という具合に生きている。

暮らす家があって、食べるものがあり、仕事も一応しているにも関わらずごちゃごちゃと言ううるさいやつなので、それなりに我慢強く付き合って行かねばならない。

今月は半分以上経過してしまったため、来月から"月額制の映画館通いたい放題カード"を購入しようと思っていた。スカパーの野球セットと同じ要領だ。半月分が勿体無くて我慢。
でも、結局は大切なところをケチったツケがきたのだろう。まだまだ世武裕子のことをよくわかっとらん。あいつは基本ケチだが、映画やらコンサートみたいな自分が興味のある体験にはお金を惜しまないタチなんだ!

とは言え、国民総ケチだらけのフランスでは遠慮なくケチでいられるので、こなれ感を演出しながら映画館の窓口へ。

「ちょっといい?聞きたいんだけど、来月から"月額制映画館通いたい放題カード"に登録したくて、例えば今月は"平日だけカード"(随分金額が下がって19€/月)を今買って、来月から身分変更するのって可能?もしくはさ、"月額制映画館通いたい放題カード"を今日買ったとして、もう今日って20日だからその分安くしてくれない?」

日本であれば「何こいつ、厚かましいケチだな」と白い目で見られた挙句「申し訳ありませんが、月額は月初めからですので、お値引きは致しかねます。」と拒否されて終わるだろう。

だが、ここはフランス。余裕だ。

何せパン屋さんで何か買う時も、みんな平気で言う。「あ、それじゃなくて手前の一番デカいやつが良いんだけど」これもなかなか日本で言う人はいないだろう。少なくとも、私は日本では言わない。(フランスではガンガン言いますが)

映画館のお姉さんからの返事はもちろん....

「今日20日だし、勿論安くなって当たり前よ!えっと幾らくらいかな。13€くらいとか?どう?」

映画を一回観るのに、例えばMK2だと12€くらいなので、あと10日残っていて映画見放題13€なんて迷う事なく「YES!」である。

ここはクールに「13?悪くないよね。それでいこう!」と、気にしてないよ的な風を吹かせて応じ、カード入会の手続きがスタートした。

ここで第二関門。前のマダムがカードを作っている時に身分証の提出を求められていたのを見ていた私は、パスポートを持ち歩いていないことに気づいていた。でも帰るのは面倒くさい、12€で観るのは損した気分になって嫌だ(そもそも映画を観ようとしたキッカケを失念している本末転倒の状態)と、切り抜ける作戦を考えていた。

以前も、友人のカードを借りて使っていて(その友人の)生年月日を聞かれ、何年生まれか分からなかった事があった。「0637....あ、先に電話番号から言ってもいい?」「あ、もちろん、それも聞かないとだから」「0637....これが電話番号。で、誕生日は10月30日だよ!」「オッケー!本人確認取れたから入って良いよ!」とすり抜けに成功したのだった。誕生日のくだりは、いつも言ってる自分の誕生日です風に早口でサラッと差し込んだのだ。

こういう手をいくらでも使ってきた。(日本では、やってませんよ!)

とにかくフレンドリーに日常会話をしながら進めていくことが鍵になる。お姉さんに色々な情報を(小噺を挟みながら)伝えて行き、打ち解けてきた頃ついにきました「じゃあ、身分証見せてください」コーナー!

「パスポートは逆に危ないから持ち歩いてないんだよね。移民局とのやり取りのメール見る?こんな感じでやってて、まだ手続き中だから滞在許可証もメールベースでさ。6月3日に正式なの貰うから、あ、ほらここに書いてる感じで。それまではメール見せるしかないって感じでいつもやってる」

「あ、そうなのね。オッケーオッケー!ただの決まりだから、メール見たし大丈夫!」

いつもやってる?何を?最低な嘘つき野郎だな!と思ったみなさまにおかれましては、いや、そうじゃなくて(ある意味では、そうなのだが)、こちらではそうやって図太く生きていくのが当たり前、平和な自己主張はしてナンボ、会社や社会の決まりはあくまで会社や社会の決まりでしかない。

要するに、会社や社会がそう決めているけれども、私たち(市民)同士でクールに上手くやれば良くない?(もちろん何事も限度と節度はあるし、誰かが傷つけられる犯罪行為は断固反対だが)という具合。

色んなことがいい加減でイライラもするが、そこに助けられることだってある。
こういう市民同士のコミュニケーションを、私は共助的な良さだなと捉えている。

「身分証を忘れたから絶対にカードは作れません。(仮にあなたの住所が本物で、メールなんか見たら偽装なんかじゃないだろうと思っても)絶対にマイナンバーカードか免許証がないと作れない規則なので致しかねます。」は隅から隅まで"正論"だが、私たちは誰のために働いているのか、という意識がここフランスでは別の"正解"を作っているのだと思う。

日本は自分の勤めている会社のために働く人が多いけれど、フランスは自分たちのために働いている人が多い印象。「私たち」という主語を思い浮かべる時に、自分が何に属しているのか。
お金をくれる会社に属している意識の高い日本人は会社の規則の方を優先するし、会社からお金はもらってるが自分は自分であるという個の意識が強いフランス人は、会社のために働いているという意識が薄めなのだろう。

まさに、どちらの国も一長一短。違うから面白いんだよな。私たち、めちゃくちゃサバイブしてる。

そんなわけで、無事にゲットした"月額制映画館通いたい放題カード"の記念すべき第一作目は、濱口竜介監督の『悪は存在しない』。

これよ、これ。味噌汁は出汁がちゃんと効いていないとね。

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