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#SaveOurVoice - 代官山 Weekend Garage Tokyo(ライブダイニングカフェ)【前編】「最後はちゃんと音を鳴らして閉めたいなって」

Speaker : 稲垣 BEN 勉(代官山 Weekend Garage Tokyo)
Interview & Text : Nozomi Nobody
※このインタビューは2021年1月18日に収録したものです

Weekend Garage Tokyo
代官山の線路沿いにあったライブも出来るダイニングカフェ。六本木のARK HiLLS CAFEなど8つの飲食店(2020年Weekend Garage Tokyoを含む2店舗が閉店し、現在は6店舗)を経営するW’s Company系列店として2013年にオープン。天井が高く、広々とした店内でゆっくりと食事をしながら音楽を楽しめる場として多くのライブイベントを開催してきたが、新型コロナの影響を受け2020年12月29日をもって閉店。

“ライブハウスじゃない音楽の場所”が好きだったから、そういう場所を作りたいなって

ーーベンさんはWeekend Garage Tokyo(以下WGT)がスタートしたときからずっと働いてきたんですか?

そうだね、オープンが2013年の7月6日で、そのときから。元々ずっとミュージシャンで音楽制作の仕事を主にやってたんだけど、震災以降仕事がガクッと無くなっちゃって。それまでずっとフリーランスだったから、それを機にちゃんとどっかに所属して仕事しようと思って今の会社に入って。当時WGTはまだなくて、ARK HiLLS CAFEっていう店舗に入ってそこで少しずつライブをやるようになったんだけど、WGTのオープンが決まったときに企画会議に呼ばれて「ライブもやっていきたい」っていう話をされて。だから元々ライブハウス業界にいたわけではなくて、音楽業界の周辺にはいたけど箱の仕事はこの会社に入ってから見よう見真似で覚えたっていう感じだったね。

ーーそうなんだ。じゃあARK HiLLS CAFEにいたときはライブの仕事もやりつつ飲食の方の仕事もやって?

そうだね。両方とも兼務でやってて。だからPAも、レコーディングの方で知識はあったけどやっぱり別物だから自分で勉強して現場で覚えて。ブッキングし始めたときもまずは自分の知り合いのミュージシャンに声かけたり紹介してもらってやってて、だんだん色んな人が問い合わせしてくれるようになって今に至ってる感じかな。環境的にロックバンドとか大音量のものは難しいから、ああいう場所で合う音楽というか、元々ジャズ箱とか海外にあるようなバンドが演奏してるコーヒーハウスとか、外国映画やレコードのジャケットに出てくるような風景、そういう“ライブハウスじゃない音楽の場所”が好きだったから、そういう場所を作りたいなって気持ちでずっとやってた。それでだんだんいい形になってきたなと思ってたんだよね、この7年。

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2018年9月29日、WGTで行われたチャランガぽよぽよのライブ

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WGTでDJするベンさん。若い。

ーー去年はどうでした?3月でしたよね、わたしがライブさせてもらったの。

※2020年3月13日、WGTのライブに出演させてもらっていた。対バンはNabowaの山本啓さんとEmeraldの中野陽介さん。

そうだね。結局その日がコロナ前の最後のライブになったんだよね。2月くらいから急にニュースが飛び交い始めて日に日に大変なことになっていって「これはやばいな」とは思ってはいたんだけど、かと言ってどうしたらいいかもわからなくて、あとはもうキャンセルとかの対応に追われてたっていうのもあるし…

ーーそうだよね。組んではキャンセルして、組んではキャンセルしてって感じ?

そうだね。それでもブッキングしないわけにはいかないから一応色んなひとに連絡して「どうですかね」っていう話はするんだけど、アーティストさんも迷ってるから「この先組んでいいのかな」みたいな。でもその3月13日までのライブもキャンセルになったものは基本的にはなくて、なんとかやってたんだけど、ただ明らかにお客さんの数は減ってて…だからあのときはすごく焦ってはいたね。「どうしよう」って。

MUSERでの配信ライブのスタート

3月の後半でキャンセルになったイベントで、すぐ仕切り直して無観客配信をやりたいっていう話があって。無観客配信の話は聞いてはいたけど具体的にはよくわかってなくて、でも当日撮影チームが入って配信してるのを見て「あ、このやり方ならできるな」って思ったんだよね。ちょうどその前にMUSER(※)が配信を始めたっていう話を聞いてたから、詳しく聞いてみようと思ってすぐに連絡して、WGTで配信シリーズをやっていこうっていう話になって。ライブが出来ないならどうするかっていうことのを考えるとやっぱり無観客配信しかないなって。それで4月から一気に準備して、5月からスタートして、そのあと自粛明けしたら配信やりたいっていうアーティストが多くて、6月、7月、8月と配信ばっかりやってた。

※音楽ライブ・コンサートに特化した配信プラットフォーム。視聴者は“YELL”と呼ばれる投げ銭を送ることでアーティストを支援し、限定の特典などを受け取ることが出来る。https://muser.link/__b/

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ーーその間お店の飲食の営業はやってたんですか?

3月の後半から営業時間を短縮して、4月からは完全に営業を停止して。その時点ではまだ8店舗あったんだけど、緊急事態宣言が出たあとは全店舗完全に営業しないっていうことになって、飲食の会社だから在宅ワークって言ってもすることがないんだけど…。「会社は大丈夫なのか」っていう不安は会社内で蔓延してたよね。

ーーそうですよね。社員さんはどれくらいいるんですか?

アルバイト含めるともっといるけどアルバイトは全員雇い止めになったし、社員だけだとコロナ前は40人くらいいて、でもその時点で多分もう30人くらいだったんじゃないかな。そこからさらに減ってるからね、去年一年で。

ーーそっか。それは自主退職?

そうだね。辞めちゃった人もいる。単純に給料もすぐにカットされちゃったし、今もやっぱり売り上げ回復しないんだよね。それもあって僕もここで続けるのは難しいなって思って退職することになったんだけど、だから辞める人は辞めるし、耐える人は頑張って残ってっていう選択をしてるかな。WGT閉めて、今月もう一店舗閉めて、3月にももう一店舗閉めて、最終4店舗になってそれでなんとか乗り切るっていう話だから。

ーー半分だ。配信はやってみてどうでした?

5月からスタートして、5月は2本、6月に11本になって7月は20本になって、秋からはちょっと減らして月10本くらいにまた戻って。

ーーすごいですね。

今はだいぶ変わってきたと思うけどその頃って配信ができる箱も限られてたし、やっぱりコストの面はとても大きいから。今までアーティストと箱で収益を分け合ってたけど、そこに配信に対するコストが加わるわけだから、そこをどうカバーするかっていうのがすごく大きい課題だったと思う。MUSERでやろうと思ったのはMUSERは収益性が高かったから。過去の事例で、大きいツアーがキャンセルになったとき配信コストを差し引いてもアーティストの方に200万円は入ったっていう話を聞いて「すごいな」と思って、WGTの規模に当てはめて計算してみたときにもある程度利益が見込めるなって思ったんだよね。大体50人くらいの視聴があると、お店の方にもアーティストの方にもそれぞれ大体10万くらい支払えるの。

ーー50人でそれはすごいね。

それだったら成立するじゃん。もちろん毎回というわけではないんだけど。

ーーそれはチケット代プラス投げ銭ってこと?

そう。この投げ銭っていうのがクラウドファンディングに近いんだよね。特典をつけて、それが欲しいから投げ銭をするっていう。そうすると投げ銭だけでチケット代以上に支払う人もいるし。

ーーグッズとか?

うん、グッズもあるし、その日の特典音源だったりとか、結構デジタルなもので用意することが多いかな。あとMUSERは撮影チームも含めてやってくれるから、もちろんそのコストは手数料に乗っかるんだけど、初期投資なしですぐ出来ちゃうっていうの大きくて。

ーーそこは大きいですよね。自前でやるとなると人も探さないといけないし。

そうそう、人件費もかかるし。スマホ一台でも配信しようと思えば出来るけど、お金取れるレベルの機材揃えようと思うと100万以上は確実にかかるから、場所によってはそれでも導入したところもあるけど果たしてそのコストが回収できるのかっていうこともあるし。

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「じゃぁあとはしっかり閉めよう」

それでもWGTも一度は自分たちで機材揃えようって助成金を申請して通ったり準備してたんだけど、会社の方から「ちょっと待って」って言われて。「なんでだろう」と思ってたら10月に入って「WGTを閉めるかもしれない」っていう話をされて。店舗ごとの売り上げを並べてみたら、WGTだけが圧倒的に赤字が大きかったんだよね。

ーーそれはやっぱりライブがなくなっちゃったから?

というよりもやっぱり普段の営業だね。基本的にWGTの売り上げを賄ってるのはウェディングとかのパーティーだから。あとはプロモーション系の撮影の話なんかもそのとき全部無くなっちゃってて。飲食の通常営業の売り上げって実はそんなに多くなくて、音楽のライブの売り上げもお店を維持するには難しい。だからどっちかっていうとそっちの売り上げでもってて、その中で赤字にならないように自分の仕事を進めてたところはあるんだよね。それまではそれで成り立ってたんだけど、その大きく支えるものがなくなっちゃったときに維持費だけがかかっちゃって。他店舗は大体デベロッパーのクライアントがいたから交渉して家賃を下げたり出来たけど、WGTは直営店で個人オーナーのビルだったから家賃が一切下がらなかった。

ーーあそこ家賃高そうですもんね。

うん。100万以上するから、配信だけだとやっぱり全てを賄えない。毎日やったらできるかもしれないけどそういう体制でもないし、そこまで持っていくのはなかなかちょっと難しいなって、少なくとも自分の人件費プラスαはなんとか稼ごうと思ってやってはいたけどね。そんなこんなで、要は出血の多いところを止めていかないと存続が難しいっていう会社としての判断があって。融資は受けたけど結局今も毎月赤字を垂れ流してるから、回復しない限りは融資を受けてもそれも無くなって倒産するだけだから。そうすると選択肢としてWGTを閉めることが最有力候補になっているっていう連絡を10月の頭に受けて、「そうか」と思って…だからその時期は精神的にもなかなか大変な時期だったかな。寝れない日とかよくあったし。

閉店が決まったのが10月末で、11月の半ばに閉店しますって公表して。その辺りから今の会社で続けていくのはもしかしたら難しいかもなって思いはじめて、外の仕事を探す活動は始めたんだけど、とは言えWGTが存続する可能性もゼロではなかったから例えばどこかがそのまま買い取ってくれたりとか、会社としても実際そういう話が動いたりもしてたし、もしそうなったらあわよくば自分もそっちに、とか。そんなことあるのかなとか思いながら…色々社内で話はしてたね、当時は。

そのときはWGTが年内に閉まるのであれば最後はちゃんと音を鳴らして閉めたいなって思って、お世話になってきた人たちに声をかけて、最後に一回やりたいって連絡くれた人たちの中からタイミングが合った人たちとスケジュールを組んで12月を終えたような感じかな。結果としてやっぱり縁のある人が多かったから「繋がってるなぁ」と思いながら。「縁なんだなぁ」って。それを感じて終えられて良かったけど。あまりにもバタバタしてたからあんまりしんみりしてる暇もなくて、たまに感情が溢れてくることもあったけど、割と淡々とこなしてたよね。不安もないわけではなかったけど、次の仕事の目処もなんとなく立ってはいたから「じゃぁあとはしっかり閉めよう」と思って、12月を過ごしてたかな。

▶︎後編につづく

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