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構造をクリエイトする〜「分身ロボットカフェ」を体験して〜

吉藤オリィさんが開く分身ロボットカフェ『DAWN』に行ってきました。そこでは、さまざまな理由で外で働くことが難しい方たちが、遠隔操作で稼働する120cmのOriHime-Dを使って、コーヒーを運んだり、トークをしたり接客をします。

しずしずと歩くその姿には、気品すら感じてしまう。不思議な光景なはずなんだけれど、違和感はありませんでした。(なぜだろう。)

私たちのテーブルを担当してくださったのは、高野元さん。ALSにより寝たきりで、言葉も発することはできません。
そのため、眼球だけを動かして視線入力によりOriHime-Dを動かし、会話をします。

(↑元さんに、お菓子のサービスをいただく♪)

通常盤のOriHimeで、なぁさんとけんとくんもお話してくれました。私も沖縄にいる時は、OriHimeで打ち合わせをしています。でも、彼らの方がずっと操作が上手で、「まだまだだわ!」と思ったのでした。(熟達しようと思います。)

中には、「英語OK」のOriHime-Dもいて、オリンピックのボランティア不足問題もOriHimeで解決に向かう…?と、思ったりしました。自宅からでも、病院からでも、異国からでも。どこからでも参加できる五輪。私は見たいです。

私たちは、OriHimeの彼らにどんどん興味が湧き、いろいろ話をしてみたくなります。現段階では、ものめずらしさももちろんあるでしょう。…しかし、それだけではない。
私が感じたのは、想像力が刺激されることの心地よさでした。彼らの思いや表情をOriHimeを通して感じ取りたくなるのです。だから、私たちはそこで交わされるあらゆるコミュニケーションを丁寧に行うようになります。

分身ロボットカフェ。私たちはそこで近未来を見ているはずなのに、ものすごく”人間くささ”も感じ取ることができます。人間が持つやさしい想像力が、空間を超える潤滑剤となる。オリィさんは、テクノロジーで人間のための未来を創っている。そんなことを改めて感じたのでした。

現代美術家で、ひきこもりの方が生活する空間写真をアートとして表現している渡辺篤さんとオリィさんのことをお話した時のこと。(おふたりとも、ひきこもりの経験者という共通項があります。)こんなことをおっしゃっていました。
「オリィさんは、ロボットを作っているけれど、本当は人間が生きる構造をクリエイトしているんだよね」

私は以前オリィさんについて、”聞いている側をモチベートする不思議な力があると思う”と書いたことがあります。

たぶん、オリィさんが単にロボット開発の天才ならば、私たちは自分の心までもを掻き立てられることはないと思うんです。
今回のカフェを見て…。
彼がやっていることが「構造のクリエイト」であり、実際に社会が変わるのを目の当たりにできるから、私たちは彼の影響で自分の”生”をどう社会に生かすかまでも考えるようになるのだと思いました。

オリィさんのことばで、私がもっとも好きなもの。

「後悔よりも教訓を、同情よりも共感を、
苦しい話ではなく、希望を遺せ」

私はロボットも作れないし、天才でもありません。でもね、人間くさい、やさしい未来を、私も目指したくなるのです。

***

OriHime-Dの構想には、オリィさんの秘書をしていた番田雄太さんの存在があったそうです。彼は、4歳で交通事故にあい、人生の9割の時間を寝たきりで病院の中で過ごしました。
でも、「働きたい」「人とつながりたい」という意欲は失わなかった。だから、ロボットの開発をしているオリィさんに連絡を取り、OriHimeを使って秘書として働き始めたのです。

番田さんは、これから産まれてくる同じような状況の子どもたちに自分のような想いはさせたくないと、OriHimeの開発に参加していたのだそうです。
そして、自由に歩くことができ、体を動かして働くことができるOriHime-Dの開発は彼の希望でもありました。
残念ながら、番田さんはオリィさんとたくさんの人びとが創った分身ロボットカフェの場に立つことはできませんでした。
でも、彼が求めていたという「生きた証」は確実にここにあると感じました。
私は番田さんにお会いしたことがありませんし、オリィさんがいつもお話する番田さん像しか知りません。だから、たとえnoteであっても彼のことを想像で書くべきではないと思い、この記述を書いては消し、書いては消ししました。
でも、このプロジェクトには彼がいたことを、どうしても書きたくなってしまった。一ライターのひとりよがりです。関係者の方々、知ったようなことを書いたこと、ご容赦くださいね。

いつもありがとうございます!スキもコメントもとても励みになります。応援してくださったみなさんに、私の体験や思考から生まれた文章で恩返しをさせてください。