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【DESIGNER INTERVIEW: MEGMIURA WARDROBE 三浦メグ】”コート”のブランドにリブランディング!

将来飛躍していく若手ファッションデザイナー達が金銭的なサポートを受けたとき、彼らはそのお金を必ず、チャレンジするための資金として使います。そして必要以上に恐がらず、トライ&エラーを繰り返しながら、ブランドの根幹となる自分らしさを発見し、成長していきます。今回インタビューしたのは、2016年度に「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」に入賞したウィメンズブランド、メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)デザイナーの三浦メグさんです。コロナ禍を経て、ブランドのリブランディングに成功した彼女が考える、新しいブランドの在り方を伺います。

「もうコンセプト作りから全部入れ替えて、新しくしなきゃダメだ、ならば全部捨てちゃえ!となって(笑)。それできっぱりと、”コート”1本に絞っちゃったんですよね。」

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―サポートが終了して約3年が経ちますね。サポート期間中の三浦さんは、迷いながらも貪欲にトライしている姿が印象的でした。そして、今年8月に開催された「Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 S/S」では、デジタルで新作を発表して、新たな方向性をお披露目しました。サポートしていた側からすると、とても嬉しい展開ですが、今日はそこまでの道のりというか、どういった経緯で新しい方向性に整えることができたのか?そのことを中心に伺いたいです。

まず結果として”コート”というアイテムに絞った、アウターブランドになりました。そうなった一番大きな原因は、コロナなんですよね。海外にも行きたかったし、いろんなことをしたかったけれど出来なかったから。ブランドとして、どういうふうにお客さんに対してアプローチしていけばいいか、といったところが考えにくく難しくなってしまった。正直、ブランドをやめようかとまで思いました。マーケットは冷えきっているし、小売り側としても新規ブランドを仕入れるのは厳しいでしょうし。消費者がブランドの雰囲気っていうものを味わうような、気持ちの余裕も無くなってしまったし。このインタビュー、ちょっと夢がないものになってしまうかも(笑)。

―いや、そういった経緯は誰もが通過していると思うので、ぜひ聞きたいです。

ウィメンズの服を作りたいからブランドを始めたんですけれど、もうそれすらやめようって思いました。もうコンセプト作りから全部入れ替えて、新しくしなきゃダメだ、ならば全部捨てちゃえ!となって(笑)。

でもリブランディングするからには、それなりのアプローチで説得力も必要だと思ったので、理詰めで考えていきました。まずはジェンダーにとらわれないとか。体型のことで言うと、ウエストとかバストといったサイズ変化の激しい部位を考えなくてもいいもの。そう考えたら、ボトム全般とワンピースといったアイテムが必然的に消えていきますよね。それで最終的に残ったのが”コート”というアイテムなんです。もともとジェンダーレスで着られるアイテムとしてコートは作られていて、ウチでは他のアイテムよりは売れていたというデータもありました。それできっぱりと、”コート”1本に絞っちゃったんです。

「結局、日本国内のセレクトショップの品揃えが、東コレとかパリコレのラインナップと全然違うっていうのは、やっぱりブランド側からのトータルコーディネートという提案自体が、消費者にとっては受け入れにくく、難しくなっているんじゃないかって思うんです。」

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2021年秋冬コレクションより

―そこまでそぎ落とすのは、なかなかに勇気がいることですよね。その考えを支える信念みたいなものがあったのですか?

今、洋服を売る場合、ECとかインスタグラムといったソーシャルメディアで訴求することがメインになっているじゃないですか。そう考えたらなおさら、強いメッセージと強いビジュアルがないとダメだなという思いが前提にありました。だからアイテムを一つに絞って、しっかりと訴求しようと思ったんです。「バーバリー」とか「マッキントッシュ」とか、コートをアイコンとしたブランドは海外にはありますけれど、国内では少ない。コートのデザイナーズブランドなんて圧倒的に少ない、これはいけるかもしれないと思って。やっぱり人のやってないことをやらなきゃいけないから。そういうコンセプトに対しての理由付けはもちろん必要だけれど、何より「これ着たいな」って思ってもらえるものを作るための環境を整備するとしたら、それは何か?と考えたら、自分にとっては”コート”というアイテムが一番良かった。それでリブランディングしたわけです。

―確かに何かのパーツを買い足す感覚の、1アイテムだけのブランドっていうのもあっても良いですよね。

結局、日本国内のセレクトショップの品揃えが、東コレとかパリコレのラインナップと全然違うっていうのは、やっぱりブランド側からのトータルコーディネ―トという提案自体が、消費者にとっては受け入れにくく、難しくなっているんじゃないかって思うんです。ブランド側はいろんなムードを出したいし、1体の作品として作り上げたいという欲求はあると思うんですけど、受け手としては、それが意外にも新しくないという感覚。だとしたらブランドは、トータルスタイリングの中の、ひとつのパーツとしての役割を担ったほうが良いんじゃないかなと。そっちのほうが消費者にとっては、自分で好きに服を組み合わせることができるし、複数ブランドの相乗効果でコーディネートも自由に遊べて、面白そうな気がしてるんですよね。

―そういう発想ですか。

デザイナーのセンスとか世界観みたいなものって、すごい大事だとは思うんですけど。でも消費者にとっては、そんなにたくさんの種類はいらないんじゃないかなと。それは、ずっと昔から続く伝統的なファッションのあり方だとは思うんですよ。だからこそ今、作戦を変えてみたいし、別のやり方でできないかなと思ってます。そっちの方が、私自身が楽しんで経営もできそうだと思ったんですよね。

―劇的なブランドの変わり様に、今まで展示会に来てくれていたバイヤーやプレスといった人達の反応はどうでしたか?

今まさに店頭に出てる秋冬商品が方向転換した最初のシーズンの商品です。その商品ができた時、やっぱり個展だけでは不安なので、合同展示会の、PR.01トレードショーに出展したんですよ。その時の作戦は、用意したラック4本に、コートだけをずらっと並べて、少しだけ作ったインナーは、畳んでわざと見せないようにしました。そうしたら、予想を越えて、反応が良かったんです。新しい客層が「見えた!」って感じでした。

―展示会で新作を見てくれた人から、1番言われた言葉、形容詞は、どういうものでしたか?

熊本にある老舗のセレクトショップ「パーマネントモダン(PERMANENT MODERN)」のオーナー兼バイヤーの有田さんが展示会に来ていて、もう帰らなきゃいけない時間だったらしくて、私のブースの前を、小走りで通ったんです。その時、「これすごい興味ある!ちょっとまた東京に来た時に、また連絡します!」と言ってくださって。そんなこと言われたら嬉しいじゃないですか。それで、こちらから熊本に行ったんですよ。お店と、置かれている商品も見せていただいて。その時「メグのとこ、すごいインパクトあったよ。すごい良かったね。あれは衝撃的だったよ」って言ってくださったんですね。

―熊本から輩出されたファッション関係者の元をたどると、すべては有田さんに繋がるというくらいの有名人ですね。それは良かった。

そうなんです。他にも、渋谷「デスペラード(DESPERADO)」オーナーの泉さんとか、「ヴット(WUT)」のヤンさんといった方たちが、パッと見て、すぐに気に入って、買い付けてくださいました。

―やっぱり皆、強いものを求めていたんでしょうね。

そうかもしれないです。まあ、うちとしては全然強くないと思っていたんですけど(笑)。

「もともとボンディング素材が大好きだったんです。それで、サポート期間中にマッチングしていただいて出会った機屋さんと、いろんな実験を沢山しました。その実験結果すべてを大切に保存しておいたんです。」

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2021年秋冬コレクションより

―確かに、もともと三浦さんのモノづくりは、コンセプトがしっかりとあって、さらにプロダクトっぽさというか工業製品的な強いテイストがありましたね。コートにはボンディング加工の素材を使っていましたね。

チェックのボンディング素材と無地のボンディング素材で、型違いのデザインを8型、それぞれ各色サンプルを作って、それをこれでもかっていうくらい並べて存在感を出したんですよね。その作戦が効いたんだと思います。急いで沢山のブランドを見ないといけないバイヤーさんにとって、ハンガーにかかっているものを瞬時に理解させるのは、結構難しい。でもその時は、それが表現できたんだと思うんですよ。

―ボンディング素材は以前の商品にも見られましたが、オリジナルのものですか?

もともとボンディング素材が大好きだったんです。それで、プロ部門のサポート期間中も「産地コラボ」サポートでマッチングしていただいて出会った機屋さんと、いろんな実験を沢山しました。その実験結果すべてを大切に保存しておいたんです。

―プロ部門に応募したときの古い資料を紐解くと「クチュールの精神を、より人々のワードローブに」と宣言していました。その気持ちは今でもどこかにありますか?

あります。その思いは、今でも商品作りに込めていますね。むしろそれがなかったら、このコートは出来ていないというくらい。ボンディング素材が持っている機能性と、もともとのウィメンズのテーマにあった“クチュール”のデザイン要素を掛け合わせて提案しているんです。より研ぎ澄ましている。ボンディングはカジュアルとかハードな印象になりがちだし、重い印象になりがちなところを、断ち切り処理のデザインにしたり、すごい薄いフィルムを裏地として貼ることによって機能性がありながらクチュールを感じさせる特別感が表現できたと思います。

―ボタン周辺のデザインも、非常にグラフィカルですよね。

これも、今までいろんなことを試した中で得た、一つの結果なんです。集約されてるんですよ、今までのすべてが、この服たちに! だからウィメンズの「メグミウラ」をサポートしてもらっていなかったら、このコートは生まれて来なかったわけです。全てに対して、今までの経緯が全部抜き出せるんですよね。グラフィカルっていうのは、たぶん自分がそもそもそういうのが好きだからっていうのがあるかもしれないです。デザイナーって、絵がうまい人とかセンスがいい人とか、あるいはコンセプチュアルに物を見られる人とか、いろいろ特技があると思うんですが。私は絵が下手くそで全然ダメなんですよ!センスも尖がりすぎていてちょっと...という感じだし。そう考えると、残る強みは、グラフィックなのかもしれない。いろんなものをグラフィック的に考えていく力、あるかもしれないですね。そういう風にデザインしてるのかもしれない。

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2022年春夏コレクションより

―コートは、一度生み出されたものは、基本そのまま継続していくという考え方ですか?とは言っても、その時々でバージョンアップが必要だと思いますが。

「コートブランド。アイテムを1つに絞る」っていうふうに考えたときに、やっぱり定番っていうものは絶対に必要だと思いました。広がりを持たせてブランドを継続していこうと思ったら、やっぱ基礎は絶対に必要なので。メグミウラのコートと言えば「これ!」というものが、みんなの頭に浮かぶようにならなきゃいけないとも思っています。常に続いていく定番品っていうのがあって、そこにプラスアルファ、例えばテーマなりコラボなりを企画の一つとして足していく考え方は、良いかなと思っています。

―秋冬からスタートして、春夏になった時に、何か気づいたことはありますか?素材感なんかも違ってくると思うのですが。

ありました。すごくありました。正直、春物をデザインするかも迷ったんですよ。コートブランドということで、じゃあ春夏はスプリングコートか?いや春は結構短くて、スプリングコートを着ないよね?とか。

―勝手な妄想としては、限りなくワンピースに近いコートになるのかなと思っていました(笑)。

いや、私の世界観に“ワンピース”というアイテムが無いんですよね...。不得意なことをすると、また迷路に入りそうだったんで(笑)。だから、あえてコートにしました。何が気づきかって言うと、季節の気づきですね。前までは結構簡単に受け止めていたなと思います。春夏なら薄ければいいとか、逆に秋冬なら厚ければいいとか。それで、どうやって四季を素材に落とし込むかっていう点を非常に考えました。簡単に言うと、素材のバリエーションがもっとあって良いっていうのが、春夏を作ることで分かったんですね。

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2022年春夏コレクションより

「サポート期間中は、実力以上に持ち上げてもらったなっていう感じがありました。結局、サポートが終わったあとには、自力で花から種子にしないといけない。そこが、すごい大事だなと思っています。」


―海外にも売り込みたいですね。面白がってくれそうな気がします。

変な言い方ですが、リブランディング以前は毎回のコレクションが“賭け”みたいな感じでした。ずっと、競馬で当たらなそうな馬に賭けてるみたいな感じ(笑)。そのくらいの不安要素がいっぱいあったと思うんですけど。

プロ部門でサポートを受けていた期間を例えて言えば“花”みたいな感じですかね。種ができる前までの“花”の状態。サポートのときは花がすごく開いてて、いろんな挑戦ができて、いろんな人が見てくれて、いろんなことができたな、やらせてもらったなと思ってるんですよ。海外にチャレンジしたこともそうですし、いろんな展示会に出展できたこともそうだし、ショーをさせてもらったりとか。それは個人でブランドを立ち上げた人間からしたら、そう簡単には手が出せないチャレンジなんですよね。金銭的なこともあるし、時間的なことも、何も分かっていなかったから。その時の自分を、実力以上に持ち上げてもらったなっていう感じがありました。結局、サポートが終わったあとには、自力で花から種子にしないといけない。そこが、すごい大事だなと思っています。

―なるほど、サポ―ト期間が花で、これからが種や実がなるタイミングなんですね。2回目の春夏コレクションは「Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 S/S」のデジタル上で、新作を発表しましたね。

2021秋冬コレクションはデビューとなるコレクションだったので、まず7人のモデルを使って、しっかりとコンセプトが伝わるような写真に仕上げて、ルックブックを作りました。販促ツールとしてのルックブックを強化したわけです。でも、自分達がどう考えて作っているのかを、ルックだけで見せても分かりにくい。だから今回の2022春夏コレクションはコートを着たモデルを、しっかりと動かして見せたいなっていう希望がありました。さらにはジェンダーレス、エイジレス、ボディポジティブっていう3つのコンセプトを伝えたかった。

―デジタルのファッションショーを見た人からは、どのような反応がありましたか?

初参加の支援デザイナーはショーが発表された後、渋谷ヒカリエで、プレスの方たちを招いた取材が特別に組まれていたんですね。時間と場所を用意していただき、自分で内容構成を考えることができた。だから少しイベント性を持たせたいと思って、私はトークショーみたいな形にしたんです。やっぱり情報を発信してくださる人たちとは、直接話しをしたいじゃないですか。それに対してすごい反応があって(笑)。いろんなメディアが記事を書いて下さった。ありがたかったです。シトウレイさんは、ご自身のYouTubeにも上げてくれて。やって良かったなと思ってます。

―今年の3月に開催される、2022秋冬でも東コレに参加されるんですね?

はい。秋冬コレクションだから、コートブランドとしては絶対に出なければ! 次はもう、パッと見ただけで「これは、メグミウラだ!」って分かる感じにしたいですね。テーマに引っ張られすぎずに、お客さんに近い感覚でできたらいいと考えています。楽しみにしていてください。

三浦メグ Meg Miura
神奈川県横浜市出身。エスモードジャポン東京校卒業。在学中より、Linda Atelier にてインターン後、同社入社。株式会社STIL入社。YOICHINAGASAWAデザイナーアシスタント、数々の企業の企画業務に携わる。2008年に独立、フリーランスデザイナーとして各クライアントワークを行う。13年4月「MEGMIURA COUTURE」を立ち上げる。16年3月「MEGMIURA WARDROBE(メグミウラ ワードローブ)」を立ち上げる。2016年度 Tokyo 新人デザイナーファッション大賞プロ部門入賞。2021秋冬コレクションから、コートにアイテムを絞ったブランドにリブランディングした。


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