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【DESIGNER INTERVIEW: KIDILL 末安弘明】東京ファッションを牽引するデザイナーは、パンクでジェントルマン

昨年、『TOKYO FASHION AWARD 2022』(以下、TFA)を受賞し、2022年秋冬コレクションはパリで発表することを予定していた、キディル(KIDILL)デザイナーの末安さん。大変残念なことにパリにいくことは叶わず、東京で収録されたショーを、オンラインでパリメンズ公式スケジュールにて発表しました。その余韻がまだ残るタイミングで、TFA受賞について、ショーについて、そして「デザイナーがサポートを受ける」ことの意義について、お話を伺いました。

「TFAを受賞できて良かったのは『これから益々、いい服を作らないといけない』と思えたことです。」

ー末安さんは『Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門』(以下、プロ部門)に2017年に入賞して、サポート期間中の3年6シーズンを上手に活用し、ブランド力を大幅にアップさせました。今日は昨年10月にTFAに選ばれたお気持ちと併せて、「デザイナーがサポートを受ける」ということについて、率直な感想とご意見を伺えたらと思っています。

実は第1回目のTFAに応募して、その時は落ちたんです。応募していたんですよ、第1回目。

ー第1回目というと、2015年のことですね。

そうですね、キディルを立ち上げたのが、2014年だから、立上げから1年ぐらいで応募したんですけど。まだブランドの知名度も無いし、さらっと落ちました(笑)。

ーそれは、結果的に良かったんですよね? そして2021年にもう一度トライして、見事選ばれました。

6年後の今、やっと取れたな、取れるもんなんだなって思いました。取れて本当に良かった。TFAを受賞できて良かったのは「これから益々、いい服を作らないといけない」と思えたことです。受賞したことで注目もされるし、セールスも上げていかないといけない。いいプレッシャーをもらいました。自分は選ばれたんだという事実のおかげで、気持ちがダレないんですよね。それが1番じゃないかな。デザイナーって、1人でコツコツと孤独に作業している人が多いと思うから、そういう精神的な支えをもらうのは大きいですよ。特に海外で将来的に展示会をしてみたいと思ってる人は、絶対にTFAにチャレンジしていったほうがいいと思います。

ーTFAを受賞すると、パリでの合同展示会に出展できるんですよね。今回の2022秋冬コレクションはパリに行けませんでしたが、ショーは東京の鳩山会館で収録した映像を、パリの公式スケジュールにて発表しました。今回はアウトサイダーアートを代表する米国のアーティスト、ヘンリー・ダーガーとのコラボレーションでした。

キディルでは、毎シーズン、アーティストやミュージシャンといった、コラボレーターの相手と一緒にコレクションを作るということをしています。ブランドを始めた最初の3、4シーズンはイギリスのパンクバンドと組んで世界観を作っていたんですが、ここ最近は、現代アーティストの方と組んでいます。今回のヘンリー・ダーガーは、既に亡くなってはいますが、アウトサイダーアートの世界では、1,2を競うアーティストだと思います。世界中の美術館に作品が収蔵されていて、まだ誰ともコラボしていないから、絶対に実現したかった。10年以上前に、ラフォーレミュージアム原宿でも展覧会が行われていて、もちろん観ましたよ。今回のコラボではコピーライトについても、めっちゃ詳しくなりましたね(笑)。今までやってきたことの集大成的な感じです。

ーキディルが得意とするプリントやニットブランドのルルムウ(rurumu:)とのコラボニットに、ヘンリー・ダーガーが織り込まれつつ、キディルらしさに溢れた世界だと感じましたが、反響はいかがでしたか?

ルルムウとのコラボレーションは欠かさず続いていて、世界観もクオリティーも格段に良くなってきたと感じます。特に今回はルルムウのデザイナーの佳苗ちゃんもヘンリー・ダーガーの大ファンということで、デザインに取り掛かる前からみんなテンションが高かったです。僕も佳苗ちゃんもヘンリー・ダーガーも精神的な繋がりを強く感じるし、それはきっとお客様へ伝染していくと信じてます。自分たちのマインドを服に込めているので、実際に着てみて体感してもらえたら嬉しいです。

ー末安さんみたいに、プロ部門からTFAへと続けてサポートを受けることができたら、それは本当に一番いい展開だと思うんです。プロ部門は、ブランドの状況に合った内容をデザイナーと事務局が一緒にディスカッションしながら組んでいきますよね。シーズンごとに達成したい目標を確認しあって、コレクションの発表が終わると、また事務局とデザイナーが向き合い、意見交換しながら次の目標設定をしたりして。デザイナーが定期的に事務局に来て、ある種の宣言をして帰る姿を見るのは、とても興味深かった。でも一番大切なことは、受賞するタイミングがブランド成長のタイミングと合っているかどうかだと感じていました。自身のブランドがどうあるべきかが、ある程度明解になったタイミングでサポートを受けることが、とても大切。そうでないと、サポート期間中ずっと、自分探しの旅に出ているようになってしまうので。

僕は、プロ部門を受賞したタイミングとブランドを強化するタイミングが、ばっちり合っていたと思います。始まりはプロ部門受賞ですよ。受賞するまで、いろんなことを悩んでいたから。そして今回のTFAの受賞で、安定どころじゃなくて、気持ちも成績も、色んなことが上がり続けています。とにかく、東京ベース東京発信で、世界に通用する強い服を作らないといけないという認識に、思考がはっきりと切り替わったので。もちろん売れることが一番大切なんですが、今はお金のことはあまり考えないようにしています。とにかく強靭で、他と被らない服を作らないといけないという意識しかないんです。そういう意識改革が済んでから、売上が一回も下がってないですからね。

ーここ数シーズンはデジタルでショーを発表していますが、やはりパリの公式スケジュールで発表すると、反響とか手ごたえとかが違いますか?

パリの公式スケジュールに入ったことで、各方面から、滅茶苦茶連絡が来るようになりましたね。パリコレに参加すると、存在を認識してくれる人が、こんなに沢山いるんだって驚きました。公式で参加する意味は絶対にあります。さらに、コロナのような状況になってしまっても、諦めずにショーを継続して行うと、海外の取引先は増えるんですよ。アジアも増えたし、サウジアラビアとか北欧のお店とかも、新規で取り扱いがスタートしています。コロナが影響して、やむなくデジタルでのショーを行っているわけですが、世界のバイヤー達は、その画面をしっかりと見て、ジャッジしてくれているんですよね。

ー公式に入るためには、それなりに厳しい審査もあるんですよね?

そうですね。面接もしました。「継続できるか?」ということを何回も聞かれましたね。途中でやめてしまうと、再度スケジュールに入るのはとても大変なことなので。だから、とにかく続けないといけないと思っています。

「東コレの公式スケジュールに出ることを選択すれば、メディアは必ず取材に来てくれるし、掲載してくださる。デジタルでの発表だとしても、世界中の人が『東京発信のブランド』として、見てくれるんですよね。」


ーパリが終わると、次は3月に、東京で凱旋ショーが行われます。東京のファッションウィークを盛り上げて欲しいです。服はもうすでにパリで見せているから、違う意味合いを持たせる必要がありますよね?たとえば、ファンサービスに徹底するとか、もっとイベントっぽくするとか...。もしかしたら、業界人というより、もっと広く一般の方に見てもらっても面白そうです。

ショーもムービーもどっちも見て頂いてるので非常に難しいですね。東京のショーに招待したジャーナリストの方々も、同じコレクションを2度見ることになってしまうので、東京でのやり方を模索しています。コロナの影響も残ってますし、一般のお客様に見てもらうには、かなり人数を制限しないといけない状況だと思うので。2回にわたってコレクション発表を行うのは、なかなか難しいです。

ーそういうご苦労もあるんですね。同時に次のコレクションにも取り掛かっているかと思いますが、次にチャレンジしたいことは何かありますか?

さすがにビジネスのことを考えてやらないといけないと、最近すごい思っています。たとえば、国内のブランドがユニクロ(UNIQLO)とコラボしたり、H&Mとコラボしていますよね。そういう一般のお客様も分かるような企業と一緒に取り組む姿勢も大切なことだなと感じています。しっかりと売上げを作っていって、コレクションを続けたい。売れなかったら結局ブランドは無くなってしまうから。

企業との出会いだけでなく、人との出会いもそうです。マインドは、いつでオープンという感じ(笑)。仕事を通していろんな人と出会うと「あ、この人と仕事をすることになるかもしれない」と感じる瞬間があるんです。そういう時は、とにかく自分から先に閉じたりしないようにしています。閉じたら、それでお終いだから。それが自然にやれるようになってきました。

ー末安さんは、実はスイーツ男子ですよね? お菓子屋さんとのコラボなんかいかがですか?

そこですか!それは新たな展開ですね(笑)。

ーすみません、冗談は半分として。人との出会いは本当に縁だと思います。昨年、機構主催のオンラインセミナーで、キディルの成功を支える強力なパートナーのセールス佐藤晃平さんと、ルルムウ東 佳苗さん、そして末安さんの3人にご登壇いただきました。3人のビジネスに対しての考えが静かに炸裂するような、説得力のあるセミナーで、セミナー終了後も聴いていた学生達が1人も帰らないで、3人とお話ししようと列を作っていたのが印象的でした。

相性のいいセールスと出会えることはデザイナーにとって、本当に大切なことですね。でも一般的に、セールスという仕事を知らない学生も多いと思うんですよ。ブランドのPRについては知ってるけれど、セールスはさらに裏方で目立たないから。でも実は、服を売るにはセールスっていう仕事があって、それは会社の場合もフリーランスの場合もあるけれど、そういう存在がいるっていうことからお話しをしました。服が好きだけれど、自分はデザイナー希望ではないとか、スタイリストもちょっと違うし、なんて悩んでいる人がいたら、一度セールスについて考えてもいいんじゃないかと思って。セールスという仕事には、売り先との取引をスムーズにするためのあらゆる仕事が含まれています。デザイナーにどんな段取りで仕事をしてもらおうかと考えることまで含まれているんですよね。海外との取引きは国内よりもスケジュールが早いですし、納期遅れなんて致命的なことになったら信用問題ですから。そういった仕事の多様さや面白さとかも伝えたかった。オンラインセミナーのYouTubeアーカイブを見てもらったら、佐藤さんの考えるセールスという仕事の一つ一つが理解できると思います。

ー確かに、最近いろんな方にお話しを伺うと「オンラインで世界と繋がった今、自分が越境したくなくても、海外はあちらから来る!」と、皆さんおっしゃいます。これからのブランドは、国内の各地方都市を耕してから、世界に羽ばたくという段取りでは無くて、最初から両方同時にやっていかないといけないということですよね?

もし国内を丁寧に耕していきたいと思ったら、自分から気になるショップに商品を見せに行った方が効率がいい。僕は今はもう、ショーを通して見てもらう土壌を整えてるから、その必要は無い訳です。東京で新作を発表しているデザイナーだって、東コレの公式スケジュールに出ることを選択すれば、メディアは必ず取材に来てくれるし、掲載してくださる。デジタルでの発表だとしても、世界中の人が「東京発信のブランド」として、見てくれるんですよね。見る土壌ときっかけを提示できるかできないか、その努力をするかしないかの違いは大きいです。それによって、たぶん売上げは、大きく変わると思います。    

ー日本には、良い産地もあり、魅力的なテキスタイルがあり、そして規模は大きくないけれど個性的で魅力的なブランドが、数多く存在するんですよね。そういう本当のところを知りたい人が国内だけでなく、海外にも沢山いるとしたら、同時に、そのフォーマットを整えてあげないといけないですね。特に海外に向けて言語の問題があるので。

いいものを作る人はいっぱいいるんですよ。でも、それを海外に伝える努力をしてないデザイナーが多いんです。海外を意識して行動するかしないかで、状況はだいぶ変わりますよね。東コレだって、利用の仕方というか、良いやり方があるんですよ、絶対。

仮にTFAを受賞した場合でも「受賞して海外で展示会を1週間やったけれど、バイヤーから何も買い付けてもらえませんでした」という結果に終わったとしたら、それは多分、伝える努力をしてないんですよ。ブランドのウェブサイトに、ただ英語ページを用意しただけではダメなんです。海外の展示会に出展するときに「いったい何をするか?」といったら、もう日本に居る段階から準備する必要がありますね。

ーデザイナーの中には、最初からセールスに頼りっきり、任せっきりという人もいます。そういう人に限って「頼んだけど、ダメなんですよね」と。じゃあセールスを委託する以前に「いったいどのショップに置かれたいの?」と聞くと言葉が出なかったり。売り上げを上げているデザイナーほど「あの店の、あのフロアの、あのエリアの、あのブランドの隣に並びたい!」といった、はっきりとしたビジョンと意志がある。自分がどこにいたいか分からなかったら、セールスの人はもっと分からないと思うんです。

でも、そう言ってしまう気持ちも少し分かるな(笑)。多分ブランドに、まだ柱が出来上がってないから、分からないんですよね。僕もブランドを始めた頃とか、前のブランドからキディルに変えた直後とかは、柱というか核になるものが無かったから、こういう店でやりたいとかは無かった。そんなこと、言えなかったというか。今は芯を持ってやってるんで、そういうのはなくなったんですけど。

ーブランドにとって柱ができるというのは、ある程度売上げが上がってきたとき、ブランドのコアとなるお客さんの顔が見えて来た時でしょうか? 確かに悩んでいるときは、どこをターゲットにしていけばいいか分からないかもしれないですね。それで安易に世の中で流行っているものに気持ちが行ってしまうとか。

僕もそこを通りましたね。キディルを始めたとき、世の中はノームコア全盛だったんですよ。雑誌を広げれば、もうとにかく無地のシンプルなアイテムでコーディネートがされている。人気のメンズ誌がノームコアの大特集を組んだり。あの時期は完全に何を作ればいいのか分からなかった。

「学生時代の作品は多少荒削りでもいいんですよ。でも、荒削りだけど人の心をドキッとさせるようなものって、絶対あるじゃないですか。」

ー最後にファッションの世界で生きていこうと考えている学生に向けて、何かアドバイスいただけたら。

ファッションデザイナーを目指すとかスタイリストやPRを目指すとか、何でもいいんですが、学生時代から「そういう仕事をしたい」って意識すると違うと思うんですよ。それぞれ何になりたいかで、するべきことは違ってくると思うけど。ファッションデザイナーになりたいという学生さんなら、ずっと安い服ばかりを見ていては、良い服は絶対に作れない。いい服を見て、もし買えるなら、ぜひ買って実際に着て見て欲しいです。そうしないと、いい服は絶対に作れないと思うんですよね。本物を知らないと、なんか薄っぺらくなってしまうから。軽いものばっかり見てない方がいいです。あとはアートも音楽もそうだけど、知識を入れとかないと作れないです。学生時代の作品は多少荒削りでもいいんですよ。でも、荒削りだけど人の心をドキッとさせるようなものって、絶対あるじゃないですか。

やっぱりその学生さん次第なんですけど、体感していかないと分からないですよ。年上の人からね、もっとこういうものを見なさい、モードは今こういうことになっているから、こういうことを勉強しなさいって言われたところで、自分が10代の頃もそうだったんですけど、見ようとも思わないし、分かんないんですよね。言われている意味は合ってるんですけど、時間が経たないと分からないことも多い。若い時って自分の視野しかないから。

でも、分からないなりに考え続けたり、見続けることが大切なんですよね。この人は東コレのオンスケジュールで、すごく評価されているとか。パリのコレクションを見て、なぜこのブランドはすごく売れているのかと考えたり。そこには、ちゃんと理由があるはずなんです。それを自分で探る勉強をしないと。ちゃんと意識して見ることが大切なんじゃないかと思います。

あと学生さんに言いたいのは、ファッションの世界で生きていこうと思うなら、何になるにしても、本当に英語が話せるようになったほうがいい。これからますます、必須ですよね。世界に越境しようと思ったら!

末安 弘明 Hiroaki Sueyasu
1976年福岡県生まれ。大村美容ファッション専門学校卒業。2002年に渡英。2014年、KIDILL(キディル)をスタート。「KIDILL」とは、カオスの中にある純粋性を意味した造語。自身が90年代に体験してきたロンドンパンク、ハードコアパンク、ポストパンク、グランジ、などのカルチャーを軸に、現代の新しい精神を持った不良達へ向けた服を制作。



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