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『同志少女よ敵を撃て』/ 逢坂冬馬 | 狙撃兵になったロシアの少女

「お前は戦うのか、死ぬのか!」
「殺す!」
這いつくばったまま、セラフィマは答えた。
生まれて初めて口から出た言葉だった。
「ドイツ軍も、あんたも殺す!敵を皆殺しにして、敵を討つ!」

『同志少女よ敵を撃て』P39より

2022年本屋大賞受賞作。知ったきっかけは、バキ童ことぐんぴぃのnoteで、何年か前のベスト10に入ってたんで、なんとなく気になってた。戦争ものっぽいけど、本屋大賞受賞作だからあんまりシリアスな感じじゃないかと思ってたけど、思ったよりシリアスだった…

舞台はドイツと戦争中のロシア。家族や村を焼かれた女の子セラフィナが狙撃兵になる話。

ドイツ兵に村を襲われ、セラフィマは狙撃兵に母親を撃たれて殺される。その後やってきた味方のロシア兵の中に、後の狙撃の師匠になるイリーナがいる。
イリーナは、セラフィマの殺された母親の遺体に油をかけて燃やし、生きるか死ぬかを問う。もう死ぬ気なら母を燃やそうが、思い出の写真を捨てようが関係ないと。
母の仇のドイツ兵狙撃主と、自分の悲しみを利用して生かしたイリーナを殺すことを生き甲斐にして、セラフィナは狙撃兵になる…

そこからは狙撃兵としての基礎を学ぶべく、学校で同年代の女の子との学校生活が始まる。セラフィナと同じように辛い境遇の子が多いけど、楽しく過ごすシーンが続き、少し読んでていてほっこりする。

ただ、戦地に投入され始めると、途端に辛い描写が続く。特に可愛がっていた犬の辛いシーンから始まり、仲良くなった女の子達も死んでいく…日常の描写が幸せそうだった分、なんとなくそうなるだろうとわかっていても辛くなる。

ただ、読んでて面白かったのはまず狙撃についての話。戦争の話は映画だったり、小説だったりで読んだことはあったけど、狙撃兵の訓練だったり、精神性についてはまったく知らなかったんで、新しい知識としても、エンタメとしても楽しく読むことができた。

あとは女教官イリーナのプロ感。
女教官って、当時の時代生を考えると現実的じゃないかとも思ったけど、そもそも女狙撃主が実際にいたらしいし、描写もきっちりプロ感があって、安心して読めた。
よくよく考えると、女教官ものって狙撃だけじゃなく小説とかで読んだ記憶がない。
思い出したのはメタルギアソリッド3のザ・ボス。

かつての上官でいろいろ背負ってる感じとか、イリーナはけっこうこのイメージで読んでたかも。

途中、伝説の狙撃兵との会話や、死んだと思ってた幼馴染との再会をはさみつつ、後半になると主人公たちも技術的、精神的にも成長する。ただ、その分仲間の死も増えていく…

そしてラスボスともいえる母を狙撃した相手との戦い。読む手が止まらない面白さだけど、思ってたより多少呆気ないかも…と思っていたところで、タイトルを思いもよらぬ方法で回収する。
これはマジで驚かされた…この伏線回収を味わうためだけでも読む価値がある。

戦争の話ではある以上、手放しのハッピーエンドはありえないけど、最後は希望あるラストシーンで、大満足の読書体験になった。

エンタメとしての面白さとは別に、今のウクライナ、ロシア関係のニュースを踏まえて読むと、また違った読書体験になる。実際、本の中にウクライナ出身の女の子も登場する…
狙撃兵としての生き方、戦争の残酷さ、ロシアのことを知りたい人にオススメです!個人的に戦争ものの小説の中でも格段に読みやすいです!



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