合同リアルライブイベント「VARTISTs」が作る新しい音楽とイベントのカタチ


 2023年も下半期に入り、ところどころで寒さに震える声が聞こえてくる昨今。
心も体も冷えるような時には、音楽を聞いて温まるのも一興だろう。
そんな同年9月24日の東京都世⽥⾕区北沢のライブハウス「Live House Shimokitazawa Era(下北沢ERA)」はまだまだ残暑が残る時期の中で熱狂の渦の只中にあった。
VR対応SNSサービス「VRChat」を拠点とするアーティスト4グループによる、リアルライブイベント「VARTISTs」が行われていたのである。

下北沢ERAの様子

全くの素人が楽しむまでの階段

 私十五夜 龍雅も運営スタッフであるSUSABI氏からこのイベントの招待を受け参加した人間の一人だ。
とはいえこの段階では私もどういうイベントか想像がついておらず、二つ返事でOKし参加を快諾したのである。
しかしそれはそれ、現地に行かないとどういうイベントかは分からない。
そんなわけで同日、暑さも微妙に残る中で私はホイホイと下北沢ERAへと足を踏み入れたのであった。
なお今回の記事では文面がメチャクチャフランクになりますが、私事の記事なので格式張った書き方をしたりしなかったりラジバンダるかもしません。お見知り置きを。

 さてここで私の事をご存知ない方もいらっしゃるかもしれないので、普段聞く音楽とかその辺をつらつらと書いてみる事にする。
主に聞くのはゲーム音楽を中心にした、今でいうとインストゥルメンタルになるのだろうか。
そのあたりのワードには詳しくないので有識者の方は脳内補完をしていただけるとありがたい。
そういった楽曲をイヤフォンやヘッドホンで、部屋で静かに聞いたり場合によっては料理中に聞いたりしている人間である。
大学生の頃はアニソンとかをそこそこ聞いていた感じではあるが、今はほぼYOASOBIの祝福に代表される機動戦士ガンダム 水星の魔女の楽曲とかしかボーカル曲を聞いていない。

 ここまで読まれた読者の方はこう思われたのではないだろうか。
「コイツライブとか行ったりするん?外でこの手のイベントに参加した事ある?」と。
結論から言いましょう。

 初ライブイベントです。

 繰り返し言います、初ライブイベントです。
小規模劇団の公演は見た事がありますが、純粋な音楽イベントは初めてです。
その上で今回の音楽ジャンルの顔ぶれを見てみましょう。
インスト、Hiphop、ロック、若干テクノ寄り。
そして私の比較的得意ではないジャンルはラップとかその辺である。

 会場前で並びながらお腹が痛くなりそうだったのは言うまでもございませんでした。言い訳を付けて帰ろうかなっていうオタク特有のアレです。

盛り上がりまくるライブコンテンツと多様な楽曲

 さてそんなわけで物販スペースを見たりしながら会場入りすると、そこかしこに人の群れ。
まるで羊飼いに追い立てられた羊というにはあまりにも可愛げが無い存在たちがひしめき合うそれは、現代のサラダボウルどころか二郎系。
きっとここにいる人間で音楽談義をしたら、間違いなく腹を壊すレベルで濃い話が飛んできそうなほどである。

 そんな衆人ひしめき合う中で最初にパフォーマンスを行ったのは「StrollZ(ストロールズ)」である。
通常二人組であるこのバンドは今回特別に四名編成となっており、一夜限りの限定メンバーとあってか会場は最初からヒートアップ。

 この時点で未発表であった曲も含めて大盤振る舞いの演奏となり、開幕からここまでハイペースで盛り上がって良いのかという程に会場が温まった。
演奏される楽曲はいずれもサックスとピアノがメインではあるものの、その温度感は高低さまざま。
しっとりとした曲からハードに打ち付ける様な物までよりどりみどりの中身である。
変拍子も織り交ぜたメロディアスな曲の数々はしっかりと観客のハートを掴んでいった。

 ここで会場内の観客も一部入れ替わる形で二組目が登場。
CROWK(クローク)は二人組のVR Hiphop Unit。今回はVRChatを飛び出してのリアルライブであり、実際の所こうしたライブへの出演は悲願であったという。
彼らの得意とする楽曲であるHiphopやRapといったジャンルに対して、私が誤解していたと言わざるを得ない事をここに書いておく。

 というのも、流行りの曲として流れてくる物の大半でイメージされる物とは全く別の楽曲もあったからだ。確かに切り口鋭い言葉を並べ立てるラップもあるものの、中には非常にメロディに重きを置いたものも見られるからである。
こういったジャンルに対する一様なイメージを覆すかのようなノリの良い曲も合わせて、会場は更にハートを掴まれてそろそろ危ないんじゃないかというほどであった。

 入れ替わっての三組目は、VRChat内外で活動を行う四人組のブルースバンド「JOHNNY HENRY(ジョニーヘンリー)」だ。
VRChat内での生演奏コンテンツの先鋒として古くから活動してきている事もあり、その知名度も相まって会場からは更に大きな黄色い声援が飛ぶ。
ヴォーカルが熱唱しながらギターやドラム、ベースが張り合う形で盛り上げていく楽曲が多く、そういった意味では80年代のオールディーズと近しい物を覚える人もいるのかもしれない。

 これまで培ってきた歌唱と演奏の腕前が為せる技か、楽曲が終わってもすぐに次の曲へと切り替わり、トークパートの代わりに楽曲を叩きつけてくるというストロングスタイルで何曲も披露。
正直聞いている側が喉とか大丈夫なのか心配するレベルで畳み掛けてきても、なお曲を続けられるだけの地の体力は流石という他ないだろう。
そのメロディと歌声に魅了された参加者もノリノリで盛り上がり、会場はまたもやハートを掴まれて正直心停止する人が出かねない程の熱狂となった。

 最後はイベント主催者である3人組のVRバンド「PHAZE(フェイズ)」が登場。
なんとヴォーカルのビビ氏はこのイベントの為にドイツから来日を果たしたとの事である。
海外から来るにしてもリアルタイム配信などではなく「生歌を披露する」方向性になったのは、それだけこのイベントへの熱い思いがあったのだろう。

 ハウス調のダンスミュージックを中心に、こちらも多くの楽曲を披露。
普段はVRChat上とはいえ遠隔でしか聞けない歌声を生で聞けるとあって、会場の盛り上がりは最高潮に達した。
どの曲も参加者が乗りやすく、終始キツネサインが乱舞する怪しい儀式かと思われるほどであった。
全方位からハートを掴まれた結果として、息の根が止まってしまう可能性のある参加者も出る程にヒートアップした今回のライブイベントを盛大に締めくくってくれた。

 正直申し上げてものすごく楽しかったのである。

VRコンテンツがもたらす集客システムの変革

 さてここからは少々硬めの話に移る。
今回のイベントに関して、会場来訪時に既に160番程の参加者まで受付案内がされており、会場内でも観客の入れ替わりが複数回見られた。
総参加者はおそらく200名は下らない程といって良いだろう。
今回4組のバンドを招いた一夜限りのイベントであってもこれであり、各バンドの出すグッズも飛ぶように売れている。
これが何を指すかというと、音楽活動をはじめとしたアーティストやグループ、果ては企業等の潜在的な顧客がVRChat界隈に存在し得るという事になる。

 もちろん現在企業によっては積極的にVRChat上での自社ワールドを公開し、連日ユーザーが訪れたり企業側のイベントショールームとして利用したりする事例が存在する。
こういった方向性の取り組みに対して「実際に利益が出るのか」「プロモーションとして正解なのか」という目線で、ともすれば懐疑的なフィルターを通して物を語る人々は未だに存在する。

 しかし現に、今回のライブイベントはVRChatという距離を問わないリアルタイムコミュニケーションとは真逆の「一つ所にファンが集まるイベント」である。
それでいてこれだけの観客を動員するということは、それが一つのビジネスとして成り立つ可能性も意味している。
ただでさえ多くの人が入り交じるVRChat界隈である。そのリアルイベントがもたらす交流がどういった要素を発生させるのかは未知数と言っても良い。

 暑さの残る当日の下北沢の夜は、その熱波をリアルだけでなくVRChatにも改めて吹き付けていった。
今後も芸術分野以外にとどまらず、多くの界隈が相乗効果をもって広がって欲しいものである。

Wrote:十五夜 龍雅

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